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美加レディースクリニック いちご通信

クリニック情報を発信していきます。

不育症とプロテインS欠乏症

2017-10-16 17:38:09 | 培養室通信

こんにちは、培養部門です。

本日は不育症とプロテインS欠乏症についてお話します。

妊娠はするけれど流産・死産・新生児死亡を繰り返してしまい、結果的に子供を持てない場合を、「不育症」といいます。不育症はいろいろな原因で起こりますが、そのリスク因子のひとつに、「プロテインS欠乏症」があります。

プロテインSとは血液中にあるタンパク質のひとつで、血液凝固を防ぐ役割があります。

プロテインSを作る遺伝子に異常があると、プロテインSが減少し、血液凝固が起こりやすくなります。すると血栓、塞栓ができやすくなります。

まだ確実な科学的根拠があるという段階には至っていませんが、厚生労働省研究班の調査によると、不育症患者ではプロテインS欠乏症が7.4%と日本人の平均値より高率にみられたと報告されており、不育症とプロテインS欠乏症との関連性が示唆されています。

 

プロテインS欠乏症を調べる検査として、プロテインS活性の測定があります。当院でも以前から行っていますが、今回新しい検査法が開発されたので、さっぽろ不育症・着床障害コンソーシアムでの勉強会に参加させていただきました。

新検査法では、従来法より精度の高い結果が得られるとのことで、この検査法を用いた調査や研究により、不育症とプロテインS欠乏症に関して新たな知見が生まれるかもしれません。今後も引き続き注目し、不育症に悩む患者様の検査・治療に役立てていきたいと考えています。

「不育症」とは・・・美加レディースクリニック【不育症外来】

 


ワークショップ参加報告(H27年3月)

2015-04-03 18:54:23 | 培養室通信

「欧州PGD/PGSワークショップ:新世代のARTに向けて」

講師: Tracey Griffiths (イギリス、オックスフォードファティリティユニット、シニア臨床科学者)

 

先日、大阪にてPGD・PGSに関するワークショップが開かれ、当院の培養士が参加いたしました。イギリスから講師の方をお招きし、最新の技術と知識に接する機会が得られました。

PGDとは着床前遺伝子診断、PGSとは着床前遺伝子スクリーニングのことです。どちらも体外受精によって得られた卵子、胚について、胚移植前にその遺伝子に異常がないかどうかを調べる検査になります。日本では現在、着床前遺伝子診断のみ施行が認められています。

PGD、PGSともに、検査のためには調べたい胚から直接、細胞を採取する必要があります。そして検査をして異常がなければ、その胚はお母さんのお腹に戻されて赤ちゃんへと育つ可能性があります。そのため細胞を採取する際は、その後の胚発育に影響を及ぼすことがないよう細心の注意を払う必要があります。一般的には、培養士が細胞を採取する作業を担うことが多く、その技術や知識の研鑽はとても重要です。

今回は、採取法の利点と問題点、具体的な手技のポイントや、採取が高難度の場合の対処法などについて、画像・ビデオにてわかりやすく解説いただき、その後は実際に顕微鏡を用いて実践的操作・実技指導を受けることができました。

海外のエキスパートから技術を学ぶことのできる貴重な機会となりました。今後も培養部門のさらなる技術研鑽に取り組んでいきたいと思います。


ART生涯研修コースに参加して

2015-03-18 15:29:54 | 培養室通信

3月7日~8日にかけて日本受精着床学会によるART生涯研修コースが東京で開催されました。最新のARTに関する知識や培養技術の向上のため、当院の培養士1名が参加いたしました。

一日目は顕微授精(ICSI)の実技研修が行われました。全国的に活躍されている胚培養士の方々のレクチャーを受けながら、顕微鏡を用いて顕微授精の技術を実践的に学ぶことができました。顕微授精は非常に繊細な技術が求められますが、ARTにおいてもっとも重要な治療法のひとつであり、その技術は常に安定、迅速、正確なものでなければなりません。今回の研修ではそのような顕微授精を成功させるための方法やポイントを多く学ぶことができ、また他院の培養士さんの技術や工夫を直接教えていただけた、とても貴重な機会となりました。

二日目には「ARTによる生殖能力再生をめざして―配偶子の準備から移植までのトータルコーディネート―」というテーマのもと、講義が行われました。

不妊治療に関する最先端のトピックや、色々な症例に対しどのような治療や工夫をすればいいのかといった臨床のお話など、ふつうの教科書では知り得ない幅広い知識を新たに勉強することができました。胚培養に関してのお話では、卵子や胚の質の改善のために行っている工夫を知ることができ、また、タイムラプスでの観察から新たな発見があったことも驚きでした。

培養士としてより良い卵や胚を育て、患者様が無事赤ちゃんを授かることができるように、今回の研修で学んだ知識や技術を活かして業務に励んでいきたいと思います。


胚移植前の子宮内膜刺激法の違いは臨床的妊娠率に影響するか(抄録)

2015-03-06 18:23:44 | 培養室通信

平成27年2月14日(土)、第57回北海道生殖医学会 総会・学術講演会において下記の発表を致しました。

 

[胚移植前の子宮内膜刺激法の違いは臨床的妊娠率に影響するか]

                美加レディースクリニック

          佐藤 弘子、海鋒 亜梨紗、金谷 美加

【目的】

当院にて簡易的SEET法およびhCG子宮内注入法を施行し、臨床的妊娠率について比較検討を行った。

【対象及び方法】

2011年1月から2014年12月までに当院で行ったホルモン補充周期の凍結融解胚盤胞移植128周期(37.1±4.1歳)を対象にした。胚移植の2日前に未使用の培養液を子宮内注入することを簡易的SEET法と定義し、胚移植当日にhCG500単位を子宮内注入することをhCG子宮内注入法と定義した。簡易的SEET法のみ施行した群(A群)、hCG子宮内注入法のみ施行した群(B群)、簡易的SEET法およびhCG子宮内注入法を施行した群(C群)とし、臨床的妊娠率を比較した。

【結果】

各群の臨床的妊娠率はそれぞれA群42.6%、B群45.5%、C群52.1%であり各群間での統計学的有意差は認められなかった。

【考察】

今回のデータでは子宮内膜刺激法の違いが臨床的妊娠率に影響を及ぼすという仮説は判断保留となった。今後症例数を増加してのさらなる検討が必要と思われる。

                                 以上                                                                     


岡山大学生殖補助医療技術教育研究センター公開講座 受講報告(H26.8-9月)

2014-10-21 11:42:26 | 培養室通信

現在、岡山大学生殖補助医療技術教育研究センターでは、「胚培養士のためのキャリアアップ双方向講座」という公開講座が開講されています。この講座はH26年8月から11月まで、月2回ずつの全8回構成となっており、胚培養士の生涯学習を目的として基礎、臨床、管理、学術の観点から各分野の講師の方々のお話を聴くことができます。当院培養士も受講中であり、現在第1回~第4回が終了したところです。仕事の都合で残念ながら第3回は出席できなかったのですが、8月、9月分の受講報告をさせていただきます。

・第1回「生殖補助医療のガイドラインと倫理問題」 
  岡山大学ARTセンター副センター長、同大学大学院保健学研究科教授 中塚 幹也先生
・第2回「着床前診断と染色体・遺伝子の基礎知識」 
  臨床細胞遺伝学認定士・指導士、認定遺伝カウンセラー 笠島 道子先生
・第3回「配偶子形成と受精・胚発生の基礎メカニズム」 
  岡山大学ARTセンター教授、同大学大学院環境生命科学研究科教授 舟橋 弘晃先生
・第4回「卵子のクオリティーを高める卵巣刺激法」 
  ウィメンズクリニック神野 院長 神野 正雄先生

第1回では、生殖補助医療に関するホットトピックスやニュースで取り上げられた話題などに触れつつ、最新のガイドラインについて勉強しました。また、生殖医療に関する意識調査から作成された統計学的資料に目を通し、世代や立場、時代背景などによって刻々と変化する生殖医療の国内外の状況について学ぶ機会となりました。
第2回では、着床前診断の現状と実際について、解析法や、承認されている着床前診断対象例の中で多くを占める染色体構造異常について詳しく学びました。また、日本では現在、導入の是非が検討中である着床前スクリーニングに関する最新の文献にもあたり、年齢別異常染色体数の推移など興味深い情報が得られました。
第4回では、患者様ひとりひとりに合った適切な卵巣刺激を行うことで、質のいい卵子を得るための方法について学びました。インスリン抵抗性症候群は、細胞にとって不要な物質である終末糖化産物を体内に蓄積させ、卵巣機能障害をひきおこす一因となる可能性があることなどを勉強し、質のいい卵子のために健康的な生活習慣がいかに大切かということを知りました。

今後もひきつづき勉強していきたいと思います。