美加レディースクリニック
佐藤 弘子 海鋒 亜梨紗 齋藤 依子 金谷 美加
佐藤 弘子 海鋒 亜梨紗 齋藤 依子 金谷 美加
【目的】体外受精・胚移植における妊娠率向上のための手段として子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)などがあるが、2011年には胚移植前にhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を子宮内に注入することで、着床率および臨床的妊娠率が向上したとの報告があった。hCG子宮内注入法とは、本来着床した胚から分泌されるシグナルであるhCGを、胚移植前に子宮腔内に入れることによって子宮内膜を着床に適した状態へと促し、臨床的妊娠率の向上をはかるという、近年新たに試みられている手法のひとつである。そこで、今回当院にてhCG子宮内注入法による臨床的妊娠率について、後方視的調査を行った。
【対象及び方法】2011年1月から2014年6月までに当院で施行した新鮮胚移植89周期(37.3±4.3歳)及びホルモン補充周期の凍結融解胚移植82周期(38.2±4.2歳)を対象にした。胚移植当日、移植約10分前にhCG500単位(40μl)を胚移植用カテーテルを用いて子宮内に注入後、胚移植を行った。hCG注入後に胚移植を施行した周期をhCG注入(+)群(新鮮胚移植42周期、37.7±4.0歳、凍結融解胚移植45周期、37.2±4.1歳)とし、子宮内注入を行わずに胚移植を施行した周期をhCG注入(-)群(新鮮胚移植47周期、36.9±4.7歳、凍結融解胚移植37周期、39.4±4.2歳)として、臨床的妊娠率を比較した。
【結果】新鮮胚移植を行ったhCG注入(+)群とhCG注入(-)群の臨床的妊娠率はそれぞれ19.1%(9/47)と23.8%(10/42)、であり、凍結融解胚移植を行ったhCG注入(+)群とhCG注入(-)群の臨床的妊娠率はそれぞれ18.9%(7/37)と28.9%(13/45)であった。いずれも統計学的有意差は認められなかったものの、hCG注入(+)群の方が臨床的妊娠率がやや増加する傾向がみられた。さらに、妊娠例におけるhCG注入(+)群の割合を調べたところ、新鮮胚移植では35歳以上の妊娠例のうちの60%がhCG注入(+)群であり、凍結融解胚移植では35歳以上の妊娠例のうちの72.7%がhCG注入(+)群であった。
【考察】今回の検討では、hCG子宮内注入法は臨床的妊娠率向上に有意差はみられなかったが、ホルモン補充周期の凍結融解胚移植にあける35歳以上の症例では、hCG子宮内注入が妊娠率向上に寄与する可能性が考えられる。また、胚移植直前に胚移植用カテーテルを子宮内に挿入して移植部位を確認することにより、その後の胚移植がより円滑に遂行できるという利点がある。今後、症例数を増やして継続的に解析を行うと共に、他の手法との組み合わせによる相乗効果についても検討が必要と思われる。