きまぐれ日誌

みどり文庫

ライオン

2011-09-19 12:03:48 | みどり文庫

  東アフリカの中央部、ケニア・タンザニアには 野生動物の保護区や国立公園がたくさんあります。私たちは、動物園の「おり」の中で飼われている動物を見ることはできますが、大自然の中で生きている動物たちを見る機会は、映像でしかありません。

腹がへったら 獲物(えもの)をおそって食うしかない野生動物の戦いの日々。食うか食われるかの弱肉強食の世界では 敵から身を守るため ほとんどの動物は 群れをなして暮らしています。この夏、サバンナの草原で見た動物たちの生命の日々をご紹介しましょう。

 昔々から今にいたるまで、動物たちの暮らしは まったく変わっていません。 ライオンのオスは、自分のテリトリー(なわばり)を作ります。オス1ぴきに、メス2~6ひき(多くて12ひき)とその子どもたちが、一つの家族です。子どもを育てるのはお母さんライオン。姉妹はずっと親といっしょに暮らせますが、兄弟は2才で追い出されます。近親相姦 (同じ血の一族が子孫をつくること) をさけるためです。メスはオスより体が一回り小さく、おっぱいが2つあります。

                                                    メスのライオンと子どもたち

         

 

                                                                                                         8ヶ月くらいの子ども

 、兄弟姉妹は、幼いころ じゃれあって楽しく暮らします。 しかし、2才になったオスは、群れから追い出され、兄弟や従弟(いとこ)といっしょに、2~4ひきの小さな群れを作って自立します。放浪の生活をしながら、狩りの練習をし、強くたくましいオス・ライオンになるため、自分をきたえます。

 ライオンは、オスとメスの区別がはっきりしています。オスはたてがみがあり、おちんちんが見えます。しかし、オスのたてがみが生えだすのは、1才半頃からで、少しずつ伸びていきます。ふわふわとした柔らかい たてがみ があるのは、2才~4才のオスです。6才になると、もう一人前の大人。立派な たてがみ をなびかせ、他の群れをおそって 自分のテリトリーをきずきます。                 

          3びきの若いオス   

  

                                 たてがみの生えかけた2~4才のオス 

  

                                        6才の大人になったオス

     

                                   

   獲物 (えもの) をとるのは おもにメスの役目。ねらっているのは「ヌー」の一群で、間に川があり、水を飲みにくるところをおそおうとしているのです。ときには メス1ぴきだけで つかまえることもできますが、敵も用心しているので、そう やさしいことではありません。ここでは とうとう ヌーたちに逃げられてしまいました。

  

 

                             ヌーの一群

     

  人間は このようなサファリカーに乗り 天井から頭を突き出して 双眼鏡で動物を観察します。車の外に出ると、たちまちライオンに食われてしまいますからね。ガイドの間で情報が飛びかい、こっちに動物がいるというと、こぞって移動。草原の中を動き回る動物に出会えるか、狩りの現場を見られるかは、すべて運次第!狩りのことを、「ゲーム」というので、草原の中を車で走り回ることを 「ゲーム・ドライブ」といいます。               

 違う場所で、1ぴきのメス・ライオンが狩りに成功したという知らせが入りました。ヌーをおそったメスは茂みに引きずり込んだ後、水を飲みに行きました。それから、ゆっくりとごちそうにありつくのです。一人でガツガツ食べ始めました。よほど腹ペコだったのでしょう。

 

  ヌーは、ウシ科の草食動物で、ライオンに ねらわれやすい動物の一つです。ですから、ヌーの子どもは産まれて5分で立ち、15分で歩くそうです。ライオンは小さな動物より大きい獲物をねらうのですが、バッファロー、サイ、カバ、キリンは大きすぎるので、めったに相手にしません。

  ライオンにとっての敵は、侵略してくる他のオス・ライオン。オスは自分のテリトリーに入り込んでくる他のオスがいると、戦って追い出さなければなりません。メスと子どもを守るためです。もし負けると、出ていくしかありません。戦いに勝ったオス・ライオンは、古い群れの子どもライオンを殺し、メスライオンは、新しいオス・ライオンの子どもを産むために、すぐに発情期を迎えます。          

 発情期をむかえたオスとメスは 群れから離れて 川のほとりに数日こもり、20~30分おきに交尾をくり返します。メスは1回に2~4匹の子どもを産みます。

                                                                                                             

  メスの寿命は約15~20年ですが、オスは12年。年老いたライオンや病気のライオンは仲間に殺されて、ハイエナ、チーター、ジャッカルなどの餌食 (えじき)になります。まさに すさまじい野生動物の世界!

 ライオンは、一日のうち、16~20時間 寝て過ごします。

   

寝ているライオンの写真を撮ることは簡単ですが、起きているライオンはめずらしく、狩りをするライオンを見るには、何時間もはりついていなければなりません。

                

                                                木の上で寝ているメス・ライオン

 


動物を主人公にした絵本がたくさんありますが、動物の生態から かけ離れたものを見受けます。例えば・・・・

 

「らいおん はしった」 工藤直子さく 中谷千代子え 福音館書店

  この絵本は、一人ぼっちのライオンと、孤独なシマウマが友だちになる話ですが、まず、ライオンもシマウマも群れをなして生きる動物で、一ぴきだけで暮らすことは きわめて まれです。その上、シマウマはライオンの一番の餌食(えじき)です。ライオンがシマウマを目の前にして、おそいかかろうとしないなんて あり得ないことです。

作者は、そもそも 相いれないもの同士でも、お互いに心を分かちあえば 友だちになれると 言いたいのでしょうが、動物の生態をまったく無視したもので、習性を間違えて教える絵本です。

  これが、著名な作家・画家・出版社によるものと思うと、日本の絵本事情はなんと貧しいことか!と思わざるを得ません。                                                                         ライオンが主人公ではありませんが、おおかみとヤギ をモデルにした同様の絵本もあります。

 「あらしのよるに」   きむらゆういち/さく  あべ弘士/え 講談社 シリーズ絵本

  敵対する動物をひとところに置き、食うか食われるかを匂わせながら、ハラハラドキドキさせることだけが ねらいのようです。動物の習性を誤って伝えるばかりか、あり得ない共存を描いた作り話です。こうした作品がブームを呼んでいること自体が、情けないことです。

 

 それに比べ、動物の生態をよく研究し、忠実な物語と、美しい絵で作られた絵本があります。

 「はじめてのかり」 吉田遠志 絵と文<絵本 アフリカの動物たち◆第1集 ライオンのかぞく> リブリオ出版

「おかあさんライオンたちは きもちよさそうに ひるねです。 きのう とった おおきなシマウマのごちそうで おなかが いっぱいだからです。」

  こう始まる物語は、3びきの若いライオンが初めての狩りに出かける話です。姉さんライオンと妹ライオンと、弟ライオンの三びきはヌーをおそいますが、失敗!まさに現実そのものです。しかも油絵の絵がすばらしい! チーターやヌー、インパラのはねて逃げる様子は、スピード感あふれる見事なタッチで描かれています。かくもアフリカの動物に愛着を持ち、卓越した筆で忠実に、動物の暮らしを再現した画家が、日本にいるでしょうか?(表紙絵の 弟ライオンのたてがみがちょっと長いのが気になりますが・・・・)

作者の吉田遠志氏は、動物をありのままに描いた作家で、 「アフリカの動物絵本シリーズ」は全17巻に及びます。

①ライオンのかぞく 全7巻                                                                                ②ゾウのかぞく    全5巻                                                                                              ③草原のなかま    全5巻

  動物の絵本や、文学作品は、動物のことをよく知っている作家によって描かれていることが大切です。生態の細部まで踏み込み、擬人化することなく、動物の暮らしを素直に描けば、そのまま面白い物語となるはずです。               

 シートン動物記も、すぐれた動物物語。ぜひ読んでほしい作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 


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