きまぐれ日誌

みどり文庫

キリン・ワニ・カバ

2011-09-21 10:55:45 | みどり文庫

 

 広い草原の中を 悠然(ゆうぜん)と歩いているのは、キリンです。 

 キリンにも二種類あります。ケニア北部のは、アミメキリンといって、きれいな編み目模様。日本の動物園でおなじみのキリンです。尾の先には長い毛があり、頭のてっぺんには2本のツノ、額の上にも1本のツノが生えています。

しっぽの先には、筆のような毛が生えています。

 

 

 

   

 背の高さは世界一で オスは5.5メートル、メスは5メートル。首をのばして アカシアの木の新芽や若葉を食べます。アカシアの枝にはトゲがいっぱいありますが、長い舌をたくみに使って、葉っぱだけをそぎ取るように食べるのです。

 

 

サンブル国立保護区(ケニア)にて

  

 

 

ネッキング

寿命は20~28年。子どもから大人に成長する思春期 (13-16才)のオスは 首をからませて どっちが強いか競争します。発情期のメスがあらわれた時には真剣勝負ですが、ふだんは遊びのようなもの。

 

 

 もう一つは、ケニア南部やタンザニアにいるマサイキリン。模様が不定形で、ギザギザしています。森の中では迷彩効果があり、敵から身を守れます。             

                                                          マサイマラ国立保護区(ケニア)にて 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アミメキリンと、マサイキリンの中間に、ロスチャイルドキリン というのもいます。 これは別の地域にいるので会えませんでした。                                   

 ケニア・タンザニアの動物たちが生息している地域は、ほぼ赤道直下ですが、高地のため、さほど暑くはありません。しかし雨季(11月~4月)と乾季(5月~10月)があり、乾季になると、シマウマや ヌーのように地面の草を食べる草食動物は、緑の草を求めて、北へと大移動します。キリンは、草食動物ですが、木の上の葉っぱなので、移動する必要はありません。しかし、シマウマや ヌーがいなくなると、キリンも肉食動物の標的にされます。

 動物たちが いちばんおそわれやすいのは川です。川に水を飲みに行くときが、もっとも危険なのです。 川の中には恐ろしいワニがたくさんいます。川辺の茂みにもかくれています。

 

 雨がほとんど降らないこの時期、動物たちは、それでも水を飲みに行かねばなりません。 

 キリンは水を飲むとき、長い首を曲げます。それを狙っているのが、水の中から眼だけ出しているワニ。おお!かわいそうに!犠牲になったキリンがいました!ワニは首にかみつき、水の中に引きずり込んだのです。

 

 

キリンの死骸を争って、ワニたちのケンカが始まります。これは、強いワニが、横取りをしようとしたワニを追っぱらったところ。負けたワニは、すごすごと引き下がります。

 

 

 

 

 

 

  川にはカバもたくさんいます。カバは 群れをなして暮らす動物です。オス一ぴきに 10~20ひきのメスと子どもたちが一族です。50-100ぴきの群れも珍しくはありません。男の子は7~8才で群れから追い出され、独身同士で暮らしますが、子どものうちはお母さんに守られて過ごします。

 昼間の大半は、こうして水に体を浸して過ごします。薄い皮膚を太陽の光から守るためです。

 

 

 

そして、夜の間 岸に上がります。カバは、草食動物なので、草を食べるためですが、カバは、水の中でも、泳ぐのではなく 歩くのです。

カバの親は大きいので、ワニといえども とても歯がたちません。しかし、子どものワニは いい獲物(えもの)です。ねらわれるのは子どものカバ。お母さんカバは、身の守り方を教えます。カバの意思疎通(いしそつう)は鳴き声。ブーブー、シュウシュウといろんな鳴き方で、合図をします。

こうしてカバたちが陸を歩いているとき、お父さんは、一族を外敵から守ります。草を求めて延々と歩いていくと帰り道に迷うかもしれません。お父さんは、木や草におしっこをかけておいて、テリトリーを示し、ちゃんと道を教えるのです。

 ちなみにオスの体重は1500~3000kg、メスは1000~2000kg もあり、ゾウの次に重い動物です。ガバッと開いた大きな口と するどいキバは、ワニをもやっつけてしまいます。

  

 

ダチョウも 水を飲みに川に行きます。草原のダチョウにしか会えませんでしたが、危険な川辺でなくてよかったかもしれません。ダチョウはオスの方が美しいのです。 

  

             オスのダチョウ                           メスのダチョウ

 


  こうして動物の生活を見てみると、マーシャ・ブラウンの世界は、実態そのもので、まったく美化脚色されていないことがわかります。マーシャも1960年代に、この地を訪れ、つぶさに動物を観察しています。私がケニア・タンザニアに行くというと それはもう喜んで、旅で見たことを伝えてほしいと 言っていました。

  

うまれた時から おかあさんのそばを はなれたことのない ヒッポ。川には、シマウマも バッファローも かんむりづるも 水を飲みにきています。まさにアフリカの川辺の光景そのもの。

昼間はウトウトと寝て過ごし、夜になると草地へ行くという描写も事実。カバの合図は鳴き声。お母さんは、ヒッポに危険を知らせることばを教えます。

ところがある日、みんなが昼寝をしているとき、一人で水の上にあがっていったヒッポは・・・・・・

マーシャ=ブラウンさく うちだりさこ やく 偕成社

1969年 (邦訳出版 1984年)

 

 ダチョウもワニに食われそうになります。これは アフリカの昔話の語り手から聞いた話に 絵をつけたもの。

 

なぜなぜ話ですが、動物絵本を版画で描いてきたマーシャが、水彩画で表現した作品。水を飲もうと首を曲げたダチョウがワニに頭をくわえられ、ひっぱるたびに グイグイと首が伸びていくさまは、スリルとユーモアに満ちています。

ここにも、クーズー、ウミワシ、ヒヒ、ゾウが登場して、同じ大地で暮らしている動物たちが見られます。

                                      「ダチョウのくびはなぜながい?」 アフリカのむかしばなし                                 

                                      ヴァーナ・アーダマ文・マーシャブラウン絵 松岡享子訳                        

                                       1995年(邦訳出版1996年)冨山房

 

 

 

 

 


ライオン

2011-09-19 12:03:48 | みどり文庫

  東アフリカの中央部、ケニア・タンザニアには 野生動物の保護区や国立公園がたくさんあります。私たちは、動物園の「おり」の中で飼われている動物を見ることはできますが、大自然の中で生きている動物たちを見る機会は、映像でしかありません。

腹がへったら 獲物(えもの)をおそって食うしかない野生動物の戦いの日々。食うか食われるかの弱肉強食の世界では 敵から身を守るため ほとんどの動物は 群れをなして暮らしています。この夏、サバンナの草原で見た動物たちの生命の日々をご紹介しましょう。

 昔々から今にいたるまで、動物たちの暮らしは まったく変わっていません。 ライオンのオスは、自分のテリトリー(なわばり)を作ります。オス1ぴきに、メス2~6ひき(多くて12ひき)とその子どもたちが、一つの家族です。子どもを育てるのはお母さんライオン。姉妹はずっと親といっしょに暮らせますが、兄弟は2才で追い出されます。近親相姦 (同じ血の一族が子孫をつくること) をさけるためです。メスはオスより体が一回り小さく、おっぱいが2つあります。

                                                    メスのライオンと子どもたち

         

 

                                                                                                         8ヶ月くらいの子ども

 、兄弟姉妹は、幼いころ じゃれあって楽しく暮らします。 しかし、2才になったオスは、群れから追い出され、兄弟や従弟(いとこ)といっしょに、2~4ひきの小さな群れを作って自立します。放浪の生活をしながら、狩りの練習をし、強くたくましいオス・ライオンになるため、自分をきたえます。

 ライオンは、オスとメスの区別がはっきりしています。オスはたてがみがあり、おちんちんが見えます。しかし、オスのたてがみが生えだすのは、1才半頃からで、少しずつ伸びていきます。ふわふわとした柔らかい たてがみ があるのは、2才~4才のオスです。6才になると、もう一人前の大人。立派な たてがみ をなびかせ、他の群れをおそって 自分のテリトリーをきずきます。                 

          3びきの若いオス   

  

                                 たてがみの生えかけた2~4才のオス 

  

                                        6才の大人になったオス

     

                                   

   獲物 (えもの) をとるのは おもにメスの役目。ねらっているのは「ヌー」の一群で、間に川があり、水を飲みにくるところをおそおうとしているのです。ときには メス1ぴきだけで つかまえることもできますが、敵も用心しているので、そう やさしいことではありません。ここでは とうとう ヌーたちに逃げられてしまいました。

  

 

                             ヌーの一群

     

  人間は このようなサファリカーに乗り 天井から頭を突き出して 双眼鏡で動物を観察します。車の外に出ると、たちまちライオンに食われてしまいますからね。ガイドの間で情報が飛びかい、こっちに動物がいるというと、こぞって移動。草原の中を動き回る動物に出会えるか、狩りの現場を見られるかは、すべて運次第!狩りのことを、「ゲーム」というので、草原の中を車で走り回ることを 「ゲーム・ドライブ」といいます。               

 違う場所で、1ぴきのメス・ライオンが狩りに成功したという知らせが入りました。ヌーをおそったメスは茂みに引きずり込んだ後、水を飲みに行きました。それから、ゆっくりとごちそうにありつくのです。一人でガツガツ食べ始めました。よほど腹ペコだったのでしょう。

 

  ヌーは、ウシ科の草食動物で、ライオンに ねらわれやすい動物の一つです。ですから、ヌーの子どもは産まれて5分で立ち、15分で歩くそうです。ライオンは小さな動物より大きい獲物をねらうのですが、バッファロー、サイ、カバ、キリンは大きすぎるので、めったに相手にしません。

  ライオンにとっての敵は、侵略してくる他のオス・ライオン。オスは自分のテリトリーに入り込んでくる他のオスがいると、戦って追い出さなければなりません。メスと子どもを守るためです。もし負けると、出ていくしかありません。戦いに勝ったオス・ライオンは、古い群れの子どもライオンを殺し、メスライオンは、新しいオス・ライオンの子どもを産むために、すぐに発情期を迎えます。          

 発情期をむかえたオスとメスは 群れから離れて 川のほとりに数日こもり、20~30分おきに交尾をくり返します。メスは1回に2~4匹の子どもを産みます。

                                                                                                             

  メスの寿命は約15~20年ですが、オスは12年。年老いたライオンや病気のライオンは仲間に殺されて、ハイエナ、チーター、ジャッカルなどの餌食 (えじき)になります。まさに すさまじい野生動物の世界!

 ライオンは、一日のうち、16~20時間 寝て過ごします。

   

寝ているライオンの写真を撮ることは簡単ですが、起きているライオンはめずらしく、狩りをするライオンを見るには、何時間もはりついていなければなりません。

                

                                                木の上で寝ているメス・ライオン

 


動物を主人公にした絵本がたくさんありますが、動物の生態から かけ離れたものを見受けます。例えば・・・・

 

「らいおん はしった」 工藤直子さく 中谷千代子え 福音館書店

  この絵本は、一人ぼっちのライオンと、孤独なシマウマが友だちになる話ですが、まず、ライオンもシマウマも群れをなして生きる動物で、一ぴきだけで暮らすことは きわめて まれです。その上、シマウマはライオンの一番の餌食(えじき)です。ライオンがシマウマを目の前にして、おそいかかろうとしないなんて あり得ないことです。

作者は、そもそも 相いれないもの同士でも、お互いに心を分かちあえば 友だちになれると 言いたいのでしょうが、動物の生態をまったく無視したもので、習性を間違えて教える絵本です。

  これが、著名な作家・画家・出版社によるものと思うと、日本の絵本事情はなんと貧しいことか!と思わざるを得ません。                                                                         ライオンが主人公ではありませんが、おおかみとヤギ をモデルにした同様の絵本もあります。

 「あらしのよるに」   きむらゆういち/さく  あべ弘士/え 講談社 シリーズ絵本

  敵対する動物をひとところに置き、食うか食われるかを匂わせながら、ハラハラドキドキさせることだけが ねらいのようです。動物の習性を誤って伝えるばかりか、あり得ない共存を描いた作り話です。こうした作品がブームを呼んでいること自体が、情けないことです。

 

 それに比べ、動物の生態をよく研究し、忠実な物語と、美しい絵で作られた絵本があります。

 「はじめてのかり」 吉田遠志 絵と文<絵本 アフリカの動物たち◆第1集 ライオンのかぞく> リブリオ出版

「おかあさんライオンたちは きもちよさそうに ひるねです。 きのう とった おおきなシマウマのごちそうで おなかが いっぱいだからです。」

  こう始まる物語は、3びきの若いライオンが初めての狩りに出かける話です。姉さんライオンと妹ライオンと、弟ライオンの三びきはヌーをおそいますが、失敗!まさに現実そのものです。しかも油絵の絵がすばらしい! チーターやヌー、インパラのはねて逃げる様子は、スピード感あふれる見事なタッチで描かれています。かくもアフリカの動物に愛着を持ち、卓越した筆で忠実に、動物の暮らしを再現した画家が、日本にいるでしょうか?(表紙絵の 弟ライオンのたてがみがちょっと長いのが気になりますが・・・・)

作者の吉田遠志氏は、動物をありのままに描いた作家で、 「アフリカの動物絵本シリーズ」は全17巻に及びます。

①ライオンのかぞく 全7巻                                                                                ②ゾウのかぞく    全5巻                                                                                              ③草原のなかま    全5巻

  動物の絵本や、文学作品は、動物のことをよく知っている作家によって描かれていることが大切です。生態の細部まで踏み込み、擬人化することなく、動物の暮らしを素直に描けば、そのまま面白い物語となるはずです。               

 シートン動物記も、すぐれた動物物語。ぜひ読んでほしい作品です。