secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

シックス・デイ(V)

2009-02-17 17:03:11 | 映画(さ)
評価点:56点/2000年/アメリカ

監督:ロジャー・スポッティスウッド

二流の近未来アクション。

近未来のアメリカ。クローン技術の発達によって、様々な実験が繰り返されていた。
人間もその対象となったが、実験に失敗、以降「シックス・デイ法」が制定され、
クローン人間の開発・実験が禁止されるようになった。
そんなある日、アダム(アーノルド・シュワルツェネガー)は、仕事を終えて帰ってくると、自身の誕生日を家族と祝うもう一人の自分がいた。
混乱しているところに、謎の男女が現れ、彼らがアダムの命を狙っていることを知る。

シュワちゃんの近未来を舞台にしたアクション映画。
クローン技術の進歩は、近年ますます注目されて、羊や猫などのクローンをはじめとして、様々な方面で話題に上がっている。
そんな人々の不安と期待とを具現化したかのような映画である。

だが、シュワちゃん主演ということもあり、それほど重たいメッセージはなく、単純にアクション映画として観ることができる。
逆に、メッセージ性の強い映画としては、
論理性や説得力、サスペンス性に欠ける映画となっていて、「主演、シュワルツェネガー」というセールス・ポイントを声高にアピールしないとツライ映画になっている。
平たく言えば、やはり二流の映画なのである。
だが、シュワちゃんのこの手の映画を観ると、妙に安心してしまうのも事実である。
 
▼以下はネタバレあり▼

この映画にメッセージ性を敢えて重視して観るとすれば、観客への「問い」の変化である。
こういった近未来の技術をモティーフ(題材)にした映画は、おうおうにして、観客にこう問い掛ける。
「あなたならどうするか」
その問いが、真相がわかる前と、わかった後では変化しているのである。
それがこの映画のサスペンスとしての面白さである。

家に帰ってくると突然もう一人の自分が家族と笑っている。
この時点で、アダムに感情移入している観客は、次の問いを突きつけられる。
「ある日突然自分のクローンを発見したら、どうするか」
話が多少ややこしいので、このとき家の外から、それを見つけたアダム(シュワ)を、「アダムA」。
家の中で家族と戯れるアダムを「アダムB」と呼んでおこう。

当然、アダムAは、自分のクローンを見つけてパニックに陥る。
その戸惑いを持ったまま、アダムAは謎の男女に追われることになる。
これが事件の発端となる出来事である。

ネタバレを前提としているので、真相を先に書いておこう。
その真相はこうだった。
アダムが仕事で客として乗せるはずだった男が、反クローン団体に暗殺されてしまう。
暗殺をなかったことにするため、その社長(名前は忘れた)のクローンを作成。
アダムも殺されてしまったと思った会社は、アダムもクローンを作成。
しかし、実際にはアダムの名前で客を乗せた同僚が、殺されていた。
つまり、アダムを「作りすぎた」のである。
そのアダムが、実はアダムA(観客が感情移入していたほうのアダム)だったのだ。

この真相がラスト近くで明かされたとき、観客への問いが変化する。
すなわち
「自分のクローンがいたらどうするか」という問いが、「自分が誰かのクローンだったらどうするか」という問いに変化するのだ。
クローンを語るとき、ほとんどの人の前提は「自分のクローンなんて嫌だ」と発想するだろう。
つまり、自分はオリジナルであり、これから造られるのが「クローン」だと考えるのである。
この発想を転回させるのが、この映画の真相だったということだ。

自分のクローンがいるということは、それだけでアイデンティティの崩壊を意味する。
双子以上に似ている誰かが、もう一人いることは、ただでさえ自分らしさを探している現代人にとって、恐怖そのものだ。
だが、この映画の問いは逆だ。
自分が誰かのクローンだったと知ったとき、それでもアイデンティティが見出せるか。
この問いは、非常に重たいものだろう。

しかも、問いが変化することで、その重さはもっと観客に迫ってくることになる。
今まで信じていた生き方は、もうすでに自分のオリジナルがやっているのだ。
自分のオリジナルが選ばなかった道を、探し続けなければならなのだ。
それは究極のアイデンティティの崩壊と追求を意味する。
この二流映画が問い掛けている問題は、ある種、クローン問題の本質を問うているとも言える。

だが、この映画がそれほど重たいメッセージ性を持ちながらも、それでもどうしても「軽い」のは、細部の設定や論理に首を傾げたくなるシーンが多いからだ。

例えば、主人公に立ちはだかる「敵」の希薄さだ。
社長はともかくとして、二人のエージェント(殺し屋)があまりに弱い。
クローンとして何度もよみがえってくるという恐怖を演出するために、何度も死ぬことになる。
単なるヘリコプターの操縦士(シュワ)に、何度も殺されてしまう。
確かに、ついさっき殺した男が、再び目の前に現れるととても怖い。
しかし、それだけだ。
何度もよみがえらせるという殺し屋なら、もっと強い人間にしておけよ、とどうしても思ってしまう。
ボブ・サップのような屈強そうな男を殺し屋にするならともかく、画面に出て来た瞬間に、首の骨を折られるような男を、クローンで大量に作る必要があるのだろうか。
それじゃあ、普通の人のほうがよっぽど使えるよ。

だが、ボブ・サップではどうしても駄目な理由があった。
それは、クローンのシステムである。
この映画でのクローンは、殺し屋のようにすぐに「出来上がらなければならない」。
人間の成長のように、20年もかかっていては映画にならないのだ。
そこで、考え出したのが、人間のモデルがあり、そこに記憶データを刷り込むという方法である。
マネキンのような肉体部に、それまでの記憶を焼き付けることによって、記憶をとどめたままのクローンを作り出す。
だから、ボブ・サップでは駄目なのだ。

ボブ・サップの体型にあう「マネキン」はないのだ。
このあたりにこの映画の限界性がある。
よって黒人のマネキンもない。
太りすぎ、瘠せすぎ、極端に背が低い人も、高い人も、ぜ~んぶクローンにできない。
だから、一般的な映画俳優のような体型の、ほっそりとした素人殺し屋しか雇うことができなかったのである。
どんな人種差別なんだよ、というツッコミを入れたくなるのは無理もない。
「すぐによみがえる」という設定は、この映画にはなくてはならなかった。
よって、このような無理が生じてしまったのだ。

また、「記憶」の記録についても、無理やりな印象がある。
社長を罠にかけるために、二人乗っているはずのヘリコプターに、一人しか乗っていないように見せかけるシーンがある。
この罠の前提では、「記憶」の記録は、視覚と聴覚による情報のみを記録するというものだ。
思考内容や、嗅覚・触覚などは記録されない。
もし思考内容まで記録されてしまうと、「罠」にならなかったはずだ。
しかし、当然ながら、それは不自然だ。
この辺りの設定の荒さも目立ってしまう。

そうした設定の不自然さに加えて、ラストの落ちだ。
ラスト、クローンだったアダムAは、新たな自分の行き方を探すために、船で旅に出る。
オリジナルのもとを、さわやかに去っていくのだ。
この安易で、すばらしく中身のない決意は、ハッピー・エンドであるがゆえに、観客が得られる浄化作用は全くない。
大きな問題に触れたのに、わけのわからない明るさで吹きとばされて、物語はいよいよメッセージ性の薄い映画になってしまうのだ。
「読後感」があまりに何も残らないのは、この能天気な終わり方のせいだろう。

<以下は「アイ,ロボット」のネタバレもあります>
この映画を観ていて、ふと思ったことがある。
この映画の結構(プロット)が、「アイ,ロボット」に酷似しているのである。
アイ,ロボット」も、近未来が舞台の映画であり、こちらはタイトル通りロボットがモティーフとなっている。
次に、似ている点を挙げてみよう。

まず、主人公の設定。
シュワのアダムと、ウィル・スミスのスプーナーは、ともに新技術を嫌っている。
アダムはリペットというペットのクローンを敬遠している。
スプーナーは、ロボットを嫌い、新作のNS5についても疑いを持っている。

また、新技術の設定も酷似している。
「シックス・デイ」では、リペットの会社が新技術として人のクローンを極秘裏に開発していた。
アイ,ロボット」では、大手のロボット会社がNS5という知恵をもつロボットの開発に成功する。

結果として双方とも開発に失敗、「技術」の怖さをメッセージとして含む。

同じ近未来を舞台にした作品で、しかも来るべき新しい技術についての作品であるため、結構が似たのかもしれない。
しかし、僕が思うに、間違いなくこの「シックス・デイ」のほうが、アイザック・アシモフ原作の「我はロボット」に影響されて脚本を書いてしまったのだろう。

映画として発表されたのは「アイ,ロボット」が後だったので、パクったように見えてしまうが、原作は「アイ,ロボット」のほうがはるかに先だ。

それを裏付ける理由として、物語全体の謎の巧みさが示している。
アイ,ロボット」と「シックス・デイ」、明らかに脚本の出来が違う。
(原作をどの程度とどめているかはわからないけどね)
所詮、二番煎じは二番煎じ。
二流は二流なのでした。

(2005/3/13執筆)

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