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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

崖っぷちの男

2012-07-17 23:21:40 | 映画(か)
評価点:74点/2012年/アメリカ/102分

監督:アスガー・レス

アメリカの縮図をにおわせながらも、ハートフルなスパイ・サスペンス。

ニック・キャシディ(サム・ワーシントン)は、ホテルの一室を予約し、軽く食事をとったあと、いきなり窓から外に出た。
周りは通りからその様子を見上げ、大騒ぎになった。
自殺志願者に見えた彼は、警察に「リディア・マーサー刑事(エリザベス・バンクス)を交渉人として要求する」と言い放つ。
彼女は少し前、警察官を端の上で説得しようとして失敗した、話題の人だった。
呼ばれた彼女は、彼が何かほかにたくらんでいるのではないかと不審に思い始める。

アバター」の大ヒットで一躍スターになったサム・ワーシントの新作。
ジャンルが難しいが、サスペンス要素の強いクライム・ムービーである。
どんな内容なのかあまりよく分からずにとりあえず時間が合ったので見ることにした。
これはネタバレされてしまうとほとんど面白みがなくなってしまう映画なので、それはよかったと思う。
これを見た後に予告編を見たが、やはり見せすぎだ。
なぜ男は崖っぷちに立っているのか。
男は何者なのか。

予告編を見てしまったあなたは、これ以上過度に期待しても何もないかもしれない。
出来としては「それなり」なので、これを見に行くくらいなら「バットマン」シリーズのリヴァイバル上映を見たほうがいいかもしれない。
僕としては嫌いじゃない作品だ。

▼以下はネタバレあり▼

ビルの窓の外、というのはアメリカの象徴的な場所なのかもしれない。
特に、現在不況にあえぐアメリカにとって、そこは「最後の賭け」にはふさわしいと言える。

アメリカ人がどれくらい自殺しているか、具体的には知らない。
だが、何か主張して死ぬのなら、ピストル自殺ではない。
やはり飛び降り自殺である。
なぜなら、マスコミに注目される可能性が高く、社会は黙殺することができなくなるからだ。
そして、そこから落ちる場所は、まさに「谷底」である。
民衆がたむろするその場所は、どん底であり、人としての「死」そのものなのだ。
この映画ではそれをよく顕すように、民衆が叫ぶ。
「俺たちは権力者に搾取されてきたんだ!」
「民主主義なんてこの国にはない!」
お金持ちを恨む、その強い感情は日本の貧困層が抱くそれ以上に強く、ゆるぎないものだ。
彼らは直観している。
自分たちの極貧生活は、自分たち弱者を食い物にする一部の金持ちによってもたらされたものだ、ということを。

だから、ニックが窓の外に立ったとき、自分もそこに立っているのだという錯覚を民衆たちは起こす。
彼らが(全然理由を分からずに)ニックに共感できるのはそのためだ。
もちろん、僕たちが共感できるのも、そのためだ。
僕たちは、彼の行動の理由を少しずつ悟りながらも、「自分も彼と同じように崖っぷちの生活をしている」ということを意識させられずにはいられない。
シチュエーションは非常に面白い。

この映画の場面は大きく二つに分けられる。
一つは窓の外、崖っぷちに立つニック。
そして毛一つは、彼の真意であるダイヤ泥棒の場面である。

ダイヤを警備するバイトをした元警官のニックは、自分がはめられたことを知りながら刑務所に行くことになる。
自分の無実を証明するためには、自分がダイヤを盗んだのではない、ダイヤはまだデヴィッド・イングランダーの手元にあるのだということを証明することしかない。
そこで、イングランダーのビルに潜入し、ダイヤを盗もうとするのである。

このパートが実に甘い。
どうやってその計画を立てられたのか、弟のジョーイは何者なのか、よくわからない。
どたばたしている様子を見ている限り、彼がそんな堅強なビルの金庫を開けられるとは思えない。
刑務所にいた二年、そして脱獄した後の一月で、そんなことができるだろうか。

また、警察が来るタイミングや警察の確認経路までを緻密に計画に練りこんでいる。
けれども、それがあまりにスムーズなのでちょっと説得力がない。
いくらなんでもそりゃ無茶だろう、という印象を受けてしまう。
けれども、この映画がそれほど腹が立たないのは、潜入する二人がキュートだからだ。
ムダにナイスバディの弟の恋人にしても、弟にしても、愛くるしいキャラクターなので、なぜか許せてしまう。
そのバランスは絶妙だ。

迫真の嘘の演出をする、必死の兄に対して、もっとキケンな場所にいる二人のギャップは面白い。

そこに彩りを添えて強烈な個性を見せるのが、大富豪のエド・ハリスである。
彼の徹底ぶりによって映画全体が締まっている。
登場シーンや時間はそれほど多くないが、悪役として印象に残る。
熟練の技といえる。

また、この「家族」が正しいと思えるのも、エド・ハリスが不況にあえぐアメリカのすべての元凶を代表するかのように見えるからだろう。
ただただビルの崖にたたずむだけの、つまらない映画をきちんと物語に仕立て上げたのはそうした記号性をしっかりと理解していたからだろう。

そしてさらに象徴的なのはラストだ。
崖っぷちの男はついに命がけで崖から飛び降りる。
文字通り決死の覚悟というわけだ。
飛び降りて騒然となっているのに、その当事者が人ごみから抜け出せるのはどういうことなのか、きちんと説明してほしい気もするが、もはやそんな細かいことは誰も気にしない。

メディア、経済の二極化、家族などなどさまざまなアメリカの縮図を見せてもらった、そんな映画だ。

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2 コメント

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役柄 (iina)
2012-07-23 09:50:18
結果、面白かったら、細かいことは抜きにして楽しむに限ります。
その主人公を演じるサム・ワーシントンは、好い役を当てていますね。「バットマン」と「ターミネーター4」の主役クリスチャン・ベールを喰ってしまう役柄でした。というより存在感の薄いバットマンとジョン・コナー役に問題があるのかも知れません。
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アバターからの脱却 (menfith)
2012-07-23 23:36:43
管理人のmenfithです。
バットマンに向けて「ビギンズ」と「ダークナイト」のリバイバルにいきました。
特に「ダークナイト」はレイトショーにもかかわらず結構人が入っていてびっくりしました。
「ライジング」公開日に見に行けるかな…。

>iinaさん
サム・ワーシントンは、「アバター」の一発屋ではなかったようですね。
これからの活躍にも期待です。

僕は、「アベンジャーズ」にも出演しているジェレミー・レナーにも期待しています。
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