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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ドラゴン・コップス ―微笑走査線―

2014-12-01 20:45:43 | 映画(た)
評価点:25点/2013年/中国/98分

監督:ワン・ジーミン

高校生の文化祭よりひどい。

三人の男性が相次いで殺された。
しかもその死に様は異常な状態だった。
三人とも殺された寸前に微笑していたのだ。
香港警察の警部アンジェラ(ミシェル・チェン)は、プーアル(ウェン・ジャン)とフェイホン(ジェット・リー)の二人とともに、捜査し始める。
三人の男性に共通しているのは、以前売れない女優チンシュイ(リウ・シーシー)と交際していたということだった。
彼女を取り調べるが、犯人としては根拠に欠けていた。
そんな彼女を釈放すると、迎えにきたのは姉を名乗る、グラマラスな女性()だった。
そしてそんなストーリーの合間にも、ギャグが執拗に繰り返されるのだった……。

とりあえず何か借りようと思い、アクションを見たかったのでジェット・リーの新作をTSUTAYAでみつけ手に取った。
開始10分でプレイヤーの電源を切ろうと真剣に悩んだのは、何年ぶりだろうか。
なかなかない感情にさいなまれた。

こんな映画を観るのは、ジェット・リーの熱烈なファンか、私みたいな暇人か、もしくは香港映画のマニアくらいだろう。
ヤフーのレビューでも酷評されていたので、きっと間違いはあるまい。
私はむしろ、ジェット・リーのファンは見ない方がいいと思う。
非常に残念な彼の姿しか目の当たりにできないからだ。

私の高校はそれほど偏差値が高い学校ではなかったが、この映画よりももっとすばらしい劇を舞台上で演じていた。
この映画からは「かつてあった香港映画への憧れ」以外の感情を見出すことはできなかった。

だから敢えて言おう。
この苦しみを誰か、いっしょに味わってくれ(観てくれ)、と。

▼以下はネタバレあり▼

最近(っていってもここ10年くらいの話ね)はレビューサイトが増えてきたので、まず失敗するような映画を手に取ることはない。
手にとっても、それは「とんでもないから観てくれ」と頼まれて「覚悟」したうえで観ることがほとんどだ。
とにかく手にとってばんばん借りる、というのはちょっともうできない。
だからかもしれない。
ここまでひどい映画を観るのは久しぶりのような気がする。
いや、この感情をつらつら書いても十分原稿用紙5枚は越えそうな気がする。
だからといって、それを皆さんに読ませるのも気が引けるので、ここを読んでいる時点でもまだ映画を観ていない人は、どうかだまされたと思って(実際だまされて)見て欲しい。

香港映画に詳しくないので、どこが具体的にどうだという話はできない。
けれども、あきらかにこの監督・脚本はジャッキー映画で育った人たちだろう。
ジャッキーの「ポリス・ストーリー」や「プロジェクト」シリーズに影響を受けたであろうシークエンスがたくさんある。
その影響の受け方は、もはや「○クリ」ではないかと思わせるくらい、露骨なものだ。
香港の展望台から降りる巻き貝の道路を、車と自転車でチェイスしたり、ラストの一騎打ちでは祭りの櫓を舞台に闘わせたりする。
路線バスに頭から突っ込んだり、マンションにベランダから忍び込んだり。
どこかでみたことがあるようなシークエンスのオンパレードだ。

オマージュやパロディならそれで笑えるかもしれない。
けれども、その位置まで昇華されていない。
なにしろ、ドラマとしての骨があまりにもふざけているので、流れがないのだ。
誤解を恐れずに言うなら、「デオチ」なのだ。
だから、どの場面でも笑うことができない。

そしてストーリーをことごとく解体してしまうのが、メタフィクションのギャグが多用されるということだ。
ジェット・リーの作品名を出したり、香港映画の固有名詞を出したり、「この作品はそれらの影響をことごとく受けていますよ」ということを高らかに宣言してしまう。
そうなると、もはや「ここで笑って欲しい」という笑いの押しつけになってしまう。
いつドリフの笑い声が入るかもしれないとドキドキする始末だ。

流れを悪くするのはそれだけではない。
ときどき妄想を入れて流れをくじき、無理なコスプレで笑いを押しつける。
あり得ないところで事情聴取を行い、アクションもワイヤーアクションで不自然きわまりない。
笑いはギャップがあるからおもしろい。
まじめな流れに、笑いを持ち込むからおもしろい。
凶悪な悪に、笑いで立ち向かうからおもしろい。
常識をもつ人間がいなければ、笑いは生まれずに、ただ物語が崩壊していくだけだ。
ゲット・スマート」や「トロピック・サンダー」がおもしろいのは、そうしたまじめさどこかにあるからだ。

その中で、唯一まともなのが上司役の警部アンジェラ役のミシェル・チェンだ。
彼女がいなければ私は途中でブルーレイ・ディスクをとりだしていただろう。
彼女のプーアルに対する恋心をだけがまともで、感情移入する余地がある。
けれども、それも流れの悪さによって、ほとんどかすんでしまう。

香港映画がここまで落ちたか、というとるところのない駄作だ。


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