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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ボーイズ・ドント・クライ(V)

2008-06-20 23:41:56 | 映画(は)
評価点:76点/1999年/アメリカ

1999年度のアカデミー賞主演女優賞をとった秀作。

ヒラリー・スワンク扮するティーナ・ブランドンは、性同一性障害。
つまり女性の肉体に男性の精神が宿っている。
そのことで多くの悩みを持ち、日常からの脱出を夢見ていた。
非行を繰り返す日々で裁判所から出廷命令が下る。
そんなある日、バーで出会ったキャンディスという女性を助けようとしたことから、「彼」は生まれ育った街を出た。
キャンディスの仲間にいたラナという女性に惚れ、ラナもまた、ブランドンと名乗る「彼」に好意を持つようになった。
しかし、スピード違反で新聞に載ると、ティーナというファースト・ネームが仲間内にばれてしまう。

映画のエンターテイメント性は薄い。時折退屈な時間もあるだろう。
しかし、心の根幹を揺さぶられるような、考えさせられるいい映画だ。

▼以下はネタバレあり▼

ティーナというキャラクターが、(内面は)男であるのに女の肉体を持っているという
非常に難しい役柄でありながら、スワンクは見事に演じきっている。
また彼の行動動機もわかりやすく、それでいて重さをもつ。

自分が女という身体を持っていることを、自分の街の人間は知っている。
しかし、彼は男としてのアイデンティティーを持っているがゆえに男として認めてくれないことに苛立ちを隠せない。
たとえばそれが、非行であったり、女性に恋心を持つことであったりする。
必要以上に強がって見せるのはそのためだ。
そこで全然知らない街に逃げ込むことで、自分の矛盾も知らない人たちは、彼を「彼」として呼称する。
しかしラナとの関係が深くなればなるほど、その関係性が脆いものであることに気づかされる。
でも彼にとって自分を男だと認め、愛してくれるラナとの関係を断ち切ることができない……。

その葛藤がとてもよく描かれている。映画としての完成度も高い。
たとえば、スピード違反で切符を切られる場面。
ティーナが女であることが警察にばれるという次の展開をみせる場面でもあるし、これはジョンという人物がキレやすいという性格を現す場面でもある。
この伏線により、結末へと収束されていく。
だから、結末に対して「理不尽だ」とか「可哀想過ぎる」などというありきたりな感情以上に、何かもっと深い疑問のようなものを観ている側に投げかける。

それでもまだ煮詰められたと思う面もある。
これは非常に難しいことなのだが、ティーナに感情移入しにくいということだ。
性同一性障害という人間に対して、観ている側はやはりどうしても引っかかってしまう。
それが異化させる効果を担っているわけだが、冒頭の場面ではあまりに唐突すぎて、自己放棄しているようにさえ見える。
だから物語終盤にいたるまで、ずっと異化体験してしまう。
そのために大変なことが起こっているのにもかかわらず、どこかで冷めた目でみてしまった。
最初にナレーションなどで彼女の置かれた立場を、明確にするなりして欲しかった気がする。
しかしそれが逆に「あなたたちは彼をどうみますか」というナイフを突きつけられたに等しい命題を与えられていることも確かなのだが。

時々展開が前後されてあって戸惑うが、あれはいい手法だと思う。
なにぶん、展開が遅いもので、ダレてきやすい映画なので、ある程度変化がないとつらいというのが、正直なところ。
エンターテイメント性の薄い映画とはこういう意味だ。

アカデミー賞をとったヒラリー・スワンクの演技はすばらしい。
こういう映画に対してこうした大きい賞を与えるアカデミー賞は、
日本でも見習うところがある。
日本のアカデミーは、正直発表されなくてもわかる。
話題になったか、売れたか、の二つが基準だから。
アカデミー賞も、かなり好き嫌いがあるようだけれどね。

(2002/12/23執筆)

こういった種類の映画は、観るものに感動を与えるだけでなく、観るものを育てる。
間違いなくこの映画で性同一性障害について考えさせられた人間が数多くいたはずだ。
当事者たちは、この映画の描かれ方についてどう思うのかわからない。
実はかなり歪曲された栄がかれ方をしているのかもしれない。
けれども、社会的に、大きな問題となっている昨今、この映画を契機にますます人々はこの問題について考えさえられることになるだろう。
日本の「わけのわからない名前の病気をモティーフにしないと泣けない病」よりはもっと社会的な視座を持っている気がしてならない。

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