secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ホステージ(V)

2009-08-16 10:05:22 | 映画(は)
評価点:47点/2005年/アメリカ

監督:フローラン・シリ

全体的に説得力に欠ける。

ジェフ・タリー(ブルース・ウィリス)は一年前立てこもり犯の交渉人だったが、失敗し、以後は田舎町の保安官をしていた。
その街で、ケリー兄弟がある邸宅を襲撃、立てこもった。
現場に駆けつけたジェフは、現場を州警察に譲るが、別の組織から妻子を誘拐され、指揮権を取り戻すように要求される。
人質の子供から連絡をもらったジェフは、妻子を救うために事件を解決しようとするが……。

人質をとって、事件が起こるといういわゆる密室サスペンス。
閉鎖性が好きな僕にとっては、公開当初から気になっていた作品である。
また、単なる人質事件ではないことも、おもしろさを生んでいる。
プロットが二重三重に重なっており、立てこもってしまった家の謎の真相も、解決と同時に気になるように描かれている。

しかも、あの「ダイハード」のブルース・ウィリス。
これでは期待が高まるばかりである。
それでも僕の点数はこれ。
何が悪かったのか、実際に観てみて欲しい。
 
▼以下はネタバレあり▼

映画を見ながら思っていたのは、まるで「24」みたいだな、ということだ。

ざっくり言うと、たんなる立てこもり事件が複雑化し、三者がそれぞれの思惑に従って動くという三つどもえの展開となる。
複雑な人質事件という意味では、最近の映画だと「インサイドマン」に似ているのかもしれない。
ともかく、事件が複雑化することで、様々な謎がうまれ、解決の方法とともに真相究明でも観客を引っ張る形になっている。

そのコンセプトというか、大枠は面白いものの、全体的にそのアイデアを生かし切れなかった印象がぬぐえない。

主人公であるジェフ・タリーの内面は、非常に丁寧に描かれる。
交渉人であった彼は、立てこもり犯を自殺させてしまったことを期に、田舎での保安官の道を選ぶ。
そこなら、重大な事件が起こらないという目測があったからである。
しかし、そこで凶悪な立てこもり事件が起こる。
まさに、彼にとっては悪夢の再来であり、過去との対峙を迫られる事件になるのだ。

これだけならシンプルで良かったのに、何ものかが妻子を誘拐するあたりから、ちょっと無茶な展開なっていく。
何ものかが分からない状況で、ついさっき電話していた妻子が、次のシーンでは車に乗せられて誘拐されてしまうのだ。
さすがにこれはないだろう。
時間的に不自然なのだ。
それでもジャック・バウアーを知っている僕にはまだついていけた。
問題は、その事件と前に起こした失敗との符号が不明確な点だ。
あれだけ印象的に失敗談を見せておきながら、結局妻子が誘拐されたから事件解決を迫られる、という展開は、どこかチグハグだ。

「スズメバチ」も三者が建物に取り残されるという展開だったが、それに比べて遥かに不自然な展開である。
もう少し丁寧に、しっかりとその状況を作り出して欲しかった。

このあたりから不自然な無理やりな展開が続いてしまう。
子供が換気口を行ったり来たりする、立てこもり犯が精神異常者だった、セキュリティシステムが異常なほど充実している、人質が死んだと報道させる、闇の組織がFBIを動かす、などなど、ちょっと通常では考えられないことが連発して展開される。
しかも、そのどれもが映画として重要な要素でありながら、その伏線もほとんどない。
状況が唐突に変化し、流れていく。
不自然きわまりない展開だから、どうしても違和感が生まれるし、なにより危険な状況であっても感情移入できない。

冒頭で主人公のトラウマをあれだけ丁寧に描いておきながら、その他の重要な要素についてはほとんど何も説明がない。
さらには、そのトラウマだってあまり機能的な意味を、映画で発揮しない。
そのため、物語が進んでいこうとする方向性が、全く読めず、何をどのように楽しむ映画なのかさえ不透明になり、不信感が募る。

その危機感の見せ方もまずかった。
状況が絶体絶命というような描き方ではなく、キャラ押しなのである。
キャラクターが怖いから、怖い、という種類の展開なのだ。
例えば異常犯罪者だったマース。
確かに彼は異常なところを序盤も見せていたものの、彼の設定が甘いために、後半になって急に壊れたキャラになる。
そのうえ、彼のやることなすことが異常なために恐怖感を出す、という手法に終止するようになると、もう人質になっていることが怖いのではなく、彼自身の行動が怖いだけになる。

いきなり共犯を殺したり、人質の女の子に異常な執着を示したり、もはやついていけない。
彼に関する伏線(設定)はあるものの、観客が要求しているのは、そのような種類の恐怖や危機感ではないだろう。
家を燃やす理由も、彼にしか分からないようになっている。

功労賞を上げたくなる男の子についても同じ。
あれだけ頭のいい子どもだというのが、事件が始まってから明らかにされるため
都合が良すぎると感じてしまう。

人質の父親も同じ。
ラストでジェフ・タリーの救出に手をかしてくれるが、それまでの心理の描き方が甘いため、ラストの行動が意味不明になっている。
おそらくジェフに協力するためにわざともめるような会話をしたのだろうが、子供と抱き合うだけのシーンでは彼にそんな度胸があったのか、と疑わざるを得ない。

そもそも、裏社会で口座をもらおうとしていた連中は、FBIを動かせる力があるならば、すぐに動けば良かったのに、とさえ思う。
大がかりに誘拐まで働いて、存在の発覚を恐れなかったのが不思議だ。
ラストはあんなところで待ち伏せして、リスクの高い取引をする意味がない。

何より痛いのは、主人公の冒頭のトラウマに対する解答が結局得られないということだ。
なぜなら、立てこもり犯が全員死んでしまうからだ。
それでは全く問題解決になっていないし、冒頭のトラウマは彼にずっとつきまとうことになるだろう。
彼は家族を救うことができたとしても、事件解決は明らかに失敗している。
立てこもり犯の解決は、説得によって人質を確保するだけではなく、犯人の身柄確保も優先されるべきだからだ。

つまるところ、すべては、キャラクターによって恐怖感を出したり、危機が回避されたりするという展開なのだ。
それでは三つどもえという面白い設定を活かせていない。
状況による恐怖感や危機感、緊張感を演出してこそ、はじめてこの三つどもえのおもしろさを引き出せたのではないだろうか。

演出も過剰すぎる。
家を炎に包んだり、血をことさら過剰に見せたりすることで、恐怖感をあおるのは、ホラー映画だけで十分だ。

全体的に子どもだまし、大味な印象の映画だ。
もっと緻密に、もっと丁寧に描けば、きっと面白い映画になっていただろう。
残念な映画である。

(2006/12/31執筆)

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