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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

お金は人のためならず

2021-03-22 10:43:11 | 不定期コラム
「情けは人のためならず」ということわざを人に示すと、「人のためにならないから情けは掛けるべきではない」という解釈になるらしい。
ここに、好意を人に与えることで自分に害が起こりうるという現代的な世相を反映しているように私は考えている。
無味乾燥な、個人主義が貫徹されたということを裏打ちしているとも言える。

私はアドラーに触発されたこともあり、このことわざの持つ奥深さを常日頃から痛感している。
「人への好意は自分に返ってくるのだ」という世界観は、少なくとも自分は実践したいと思っているし、子ども達にも教えていこうと思っている。
もちろん、課題の分離という考え方とともに。

それはともかく、この考え方はお金に関しても言えることではないか、と最近思うようになった。
私は投資家ではないので、だからクラウドファンディングをしろとか、寄付が重要だなんてあやしい詐欺師めいたことを言うつもりはない。
(もちろん、クラウドファンディングが詐欺師とは思っていないが)
私の周りを見渡してみると、お金の羽振りが良い人の特徴は、人のためにお金を使っている、ということだ。

自分のためにお金を使う人と、人のためにお金を使う人で、金銭的な違いがあるのではないかということだ。
(こう書くと、ますます陰陽師的なうさんくささがそこはかとなく漂ってくることは私も自認しているが)

自分のためにお金を使うとは、自分が欲しいものを買う、自分が楽しむためにお金を使うということだ。
その行為の善悪を言いたいのではない。
自分のために全くお金を使わない人はいない。
自分ために使うと言うことは、その使い方は自己完結的で、他へ波及することがない。
まさに【消費】するのみだ。
お金が物へと変換され、楽しい時間へと変換される。

一方、人のために使うとはどういうことか。
わかりやすいのは我が子にする教育だろうか。
だが、それだけではない。
プレゼントをする行為や、人にご飯をおごってやること、もう少し広く言えばクラウドファンディングなどの投資も人のために使っていると言える。
そういう自分だけに収まらないお金の使い方は、他の人に波及することになる。
結果その使った先の人は行為だけではなく好意も受け取ってくれる。
それが回り回って自分に返ってくる、ということだ。
推しに投資する、ということも実はそれに近いかもしれない。

けれども、私はこの線引きで重要なのは、根っこにあるのが「自分のため」ではないという点だと思う。
自分のために我が子を教育すると、それは「なぜ自分の思い通りの大人にならないのだ」という見返りへの期待や権利(相手への義務)へと繋がっていく。
それは人のためにではなく、自分のために「自分が満足するためのお金」になる。
そういう考え方のお金は、結局好きな服を買ったり、趣味のプラモデルを買ったりするのと変わらない。

考え方を変えれば、好きな服を買うのも、「誰かのために」なることであればそれは人のために使うお金だと言える。
例えば仕事着を、自分の好みではなく相手(顧客や会社)のために買うのだとすれば、それは人のためのお金になる。
だから重要なことは、お金を使うときに、これは誰のために使っているのか、という点を意識することだと思う。

著名人が寄付を公表することの意義はこういうところにあるのだ、とも言える。
お金があるから寄付するのではない。
寄付すること、他人のためにお金を使うことが、回り回って自分に戻ってくるということを意識しているからだろう。
それは単純に考えれば好感度が上がる、ということかもしれない。
だが、それだけではあるまい。
あらゆる人や団体とのパイプにも寄付を公表することはつながっていく。
もちろん、それを端的に指摘することはできないのだが。

なぜ好意やお金は回り回って自分のところに戻ってくるのか。
それは、そういうものだからそうだ、としか言いようがない。
あるいは、それははやくそれに気づいた人だけが理解できる感覚、ということかもしれない。

世の中には事後的にしか理解できないものがたくさんある。
前もって理解できることの方が実は少ない。

また、こういうメリットもあるだろう。
人のためにお金を使うことが日常になっている人は、お金がなくても困らない、ということだ。
(もちろん、明日生きるためのお金がないのはちょっと別問題だが)
自分のためにお金を使おうとすれば、無限に必要になる。
人と比べれば何を持っていない、あれもほしいとなる。
けれども、他人のために使おうとすれば、おのずと「ない」ことへの欠乏感は和らぐ。

お金はやはり他人のためにつかうものだ、と考えておくほうが精神衛生上もよいのかもしれない。

ああそうそう。
こういうことを書いたからって私にお金をくれても、私は自分のためにしか使わないので、送ってこなくて大丈夫ですよ。

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