シリア南部ダラアの民間人の命が危険に晒されている。
約10日前から、政府軍側がダラアの反体制派(自由シリア軍)支配地域の東側に激しい攻勢をかけ、砲撃や空爆、地上攻撃を行っているのだ。政府軍の同盟勢力であるイランの部隊やヒズボラ等はもちろん、ロシア軍も激しい空爆を行って加勢している。
ダラアの位置を示す地図。ヨルダンと接している。
国連の26日の発表によると、ダラアに住む約75万人の生命が危険に晒され、約4万5千人がヨルダン国境に向かって避難した。避難民の数は刻一刻と増えていることだろう。シリアのNGO「Assistance Cordination Unit](ACU)の29日付け発表によると、今回の攻撃による死者は100人を超え、10万人以上が他地域(主にヨルダンとの国境地帯)に避難、6つの病院が業務を停止している。23日、地元の評議会はダラア県東部を「被災地」とみなすと発表した。
シリア人の友人の家族も今ダラアから避難しているそうだ。その友人自身はご主人や子供(+猫たち)とともにサウジに住んでいるのだが、実家はダラアで、そこに家族が残っていたという。どんなにか心配なことだろう。
攻撃されている地域は、2017年7月にロシア・米国・ヨルダンが合意した「緊張緩和地帯」に含まれ、長期的に平穏を保っていたが、シリア政府側がこれを破った形になる。アメリカは軍事介入しないと宣言しており、ヨルダンは「これ以上難民は受け入れられない」として国境閉鎖を継続している。
反体制派は応戦しているが、軍事力が全然違うので、勝てるわけはない。2015年9月にロシアがシリアに軍事介入して、政府軍を支援するために空爆を開始し、2016年12月にはアレッポ東部が陥落。この時点で反体制派側の敗北は、ほぼ確実になったのだと思う。
ロシア軍がダラアを激しく空爆して、民間人の死傷者や大量の避難民が出ている中、同国で開催中のFIFAワールドカップで世界は盛り上がっている。日本の盛り上がりようは皆さんよくご存じだろう。スポーツは政治と無関係という意見もあるだろうが、政治的に利用されている面も否定できないだろう。シリアで住宅地や病院、学校等への空爆を続けているロシアのイメージがアップし、経済効果が生まれるのを目の当たりにするのは耐え難いので、私はW杯をボイコットしている(と言っても、そもそもうちにはテレビがないんだが)。一般の人々がW杯を楽しむのになんの異存もないが、シリア情勢を気にかけている人々、特に支援活動に携わる人たちは、この問題について一考してみてほしいと思う。アメリカがシリア政府軍の軍事空港を空爆したら声をそろえて一斉に非難するわりに、ロシアの国防相が「ロシア軍はシリアで兵器の実験をしている」と自慢気に言っても(参照)、誰も気にしていないようだが・・・
ヨルダンの活動家たちは、SNS上で「 #OpenTheBorders」(#افتحوا_الحدود)というハッシュタグを使って、シリアから避難する人々を受け入れるよう政府に呼びかけているが、ヨルダン政府はこれ以上受け入れるのは無理だとする姿勢を崩さないだろう。しかし、シリア人の活動家もFBで書いていたが、ヨルダンにいるシリア難民はヨルダン政府からお金をもらっているわけではないし、学校に行っていない子供も多いし、電気・水道・教育等のインフラ施設に関しても、様々な国から多額の支援金をもらってきたはずなのだが、それはどのように使われているのだろう・・・ヨルダンでもトルコと同様、世論は大量の難民流入に反発する方向にあるので、それも考慮されているのかもしれないが。
避難民が増えて自国に難民として流入することを懸念するヨルダンが仲介して、29日の午前零時から12時間の一時停戦が成立し、その後12時間延長されたとアルジャジーラで報道されていた。一時停戦は包括的停戦への布石であり、この間に政府側と反体制派側がヨルダンやロシアの仲介で協議して、停戦条件に関して合意を目指すことになる。東ゴータと同じ流れになるのは目に見えており、ロシア側が提示した条件の大半を反体制派側が受け入れざるを得なくなるだろう。注文を付けられる立場ではないし、合意できずに戦闘が再開したら、激しい攻撃に晒されてさらに大きな犠牲を払うことになるからだ。東ゴータの時は、交渉が進められている最中にドゥーマで化学兵器攻撃が起こり、結果として反体制派のイスラム軍は相手側の停戦条件を受け入ることとなった。今回、あの悲劇が繰り返されないことを願う。
W杯ロシア大会ボイコットのキャンペーンより
シリアのNGO、ACUの報告
<参考記事>
(アラビア語)
(英語)
これも英語。上にある地図の引用元
TRTWorldのダラア情勢に関するニュース映像
ちなみに、私はW杯以外でもロシアをボイコットしているが、イクラやキャビアなどを自分で買って食べたりしないので(お金がないから)、ウオッカを買うときにロシア製品を買わない程度のボイコットしかできていない・・・まあ自己満足なのだ。
(終わり)