外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

シリアからトルコへ移住したときの日記2(完結)

2010-02-23 22:21:16 | トルコ
1月25日
朝6時半起床。バス会社のセルヴィスに乗ってオトガルまで行き、そこで大型バスに乗り換えてブルサへ出発。ニリュフィル社のバスはキャーミルコチュ社に輪をかけてゴージャスだった。前の座席の背面にスクリーンがあって、テレビを見たりゲームをしたり出来るようになってるんですのよ。本当に飛行機みたい。飲み物と一緒にサービスされたお菓子も、社名入りの小袋に入ってたオーガニックのパウンドケーキだし。もちろん車掌は蝶ネクタイをしているし。イズミルのオトガル自体も飛行場みたいに大きくてきれいだった。
窓の外は美しい雪景色。30分遅れて出発したのに、しかも雪の中を走ったのに、バスは予定どおり1時にブルサに着いた。すごいです。


家を貸してくれる予定のトルコ人家族の長女、アメリカから一時帰国しているマルヤムがオトガルまで迎えに来てくれた。マルヤムは(アメリカ帰りだけあって)英語が上手で、親切な女の子である。彼女はスカーフで髪を隠している。この一家は敬虔なムスリムなのだ。この家族とはダマスカスで知り合った。彼らは今ダマスカスに住んでいるのだが、ブルサに自分達のアパートがあってずっと空いているから、よかったらそこに住まないか、という提案を受けたのだ。もちろん家賃を払うのだけど。

市バスに乗って街の中心地へ行き、雑居ビルの最上階のカフェ・レストランでランチをご馳走になる。マルヤムに勧められて食べた、ピデリ・キョフテがとてもおいしかった。トマトソースで煮たキョフテ(ミートボール)がピデ(ナンみたいな形の平たいパン)に乗っている。窓からは雪景色のブルサの街が見渡せた。このお店、こげ茶色の木のテーブルと椅子がいっぱい並んでて、大勢の若者たちがおしゃべりながら飲食してて、流行の音楽がかかってて、制服を着たウエイターたちは男前で、なんだか日本のお店みたいだった。

食事が済んだ後さらにバスに乗り、ようやくアパートにたどり着いた。アパートは短い坂の上にあった。マルヤムの家族の持ち物がいっぱい残されていて、トイレとか台所とか、ちょっと混乱してるけど、広くて綺麗で静かなアパートであった。窓が多くて採光が良いし。これでテレビがあったらよかったのだが。マルヤムによると、この家にはテレビが存在したことがないらしい。どうも変わった家族であるようだ。とにかく、ここに住むことに決めた、とマルヤムに告げる。

マルヤムが友達の結婚式の準備の手伝いに出かけているあいだ昼寝した。起きたら夜の7時だった。何時間寝たのかわからないが、相当ぐっすり寝たらしく頭がぼんやりしていた。バスの中でもずっと寝ていたのに、移動や寒さで体力が消耗したのね。お腹がすいたのでポテトチップスを食べながら、昨日のワインの余り(ペットボトルに詰め替えて持参した)を飲む。そのうちマルヤムが戻ってきたので、彼女が買って来てくれたパンを一緒に食べ、チャイを入れてもらって飲む。彼女は今夜ここに泊まるらしい、っていうか私は彼女と一緒に住むのか?それとも今夜だけ泊まるのか?なぞだらけである。

1月26日
11時過ぎにマルヤムに連れられて、ブランチを食べに行く。建物の2階にある、バイキング形式の朝食を提供するお店である。たいした物はないが(パン、チーズ、蜂蜜、トマト、キュウリ、卵など)、景色と雰囲気が良い。その後トメルに連れて行ってもらう。受付の人はトルコ語しか話さないので、マルヤムが英語に通訳してくれた。実力判定テストを受け、登録してお金を払う。1ヶ月コース340ドルというのは、すごく高いと思うがしょうがない。テストはすごくむつかしかった。その場で結果がでて、中級1のクラスに入れられることになった。2月8日のコース開始まで、まだ日にちがあるから、それまで会話の練習をしておくように言い渡される。トメルを出てバスで家に帰る。いつのまにか夕方になっていた。それにしても寒い。そこらじゅう雪が積もってるし、風が冷たくて、手にあかぎれができそうである。マルヤムは私をアパートまで送ってから、自分の住んでいるところ(親戚の家)に帰っていった。やはり私と一緒に住むわけではないようなので、ほっとする。

昼寝から目覚めたら、外は真っ暗だった。再び外出して、昼間目に入った、近所の(徒歩10分くらい)インターネット屋さんに行った。ここでは日本語が読めるのだが、書けない。そのあとスーパーで、オリーヴオイル、トマト、赤唐辛子、マッシュルームなど、パスタを作るための材料を買う。文房具屋でペンやノートも買う。何もかも高くて、いちいちびっくりしてしまう。家に帰ってトマトとマッシュルームのスパゲッティを作る。我ながら美味しくできた。でも食べるときにテレビが無いのはやはりつまらない、というか時間を持て余す感じ。トルコのテレビでもいいから見たい。


1月26日
9時半に起床。10時半から2時ごろまでかかって家の掃除をする。トイレやシャワー室を少々片付け、冷蔵庫にこびりついた汚れを取り、古いタマネギを捨て、引き出しの整理などして自分のものを入れるスペースを確保する。やれやれ、タマネギくらい処理しておいてほしかった。疲れたけれどさっぱりし、一応自分の家らしくなった。掃除の後、昼寝をせずに出かけることにした。冬は日の入りが早いので、うっかりすると何もしないうちに夜になってしまうのだ。

昨日マルヤムに教えてもらった道をもう一度たどって、トメルに行くのが本日の野望である。家からトメルまでの道順を頭に入れたいので。今日も道端の雪は溶けていなく、すべりやすいので、気をつけてゆっくり歩く。途中野菜の市場を見かけ、心惹かれるが、もうすぐ旅行に出るつもりなので今野菜を買うわけに行かない。
トメルに向かうつもりが、方向音痴なので道を間違え、全然方角の違うスタジアムのほうまで行ってしまった。今日はブルサのサッカーチームであるBURSASPOR(ブルサスポル)の試合があったらしく、緑色の服やマフラーを身につけた若者が周辺にたむろしていた。このチームのユニフォームは緑色なのだ。緑はブルサの街のイメージカラーである。彼らの様子からすると、試合に勝ったようだ。みんな嬉しそうだった。
引き返して道を変え、寒い中ずいぶん歩いた末にやっとトメルにたどり着くが、今日は別に用事があるわけでないので、また来た道をたどって家の方に向かう。雪がちらほら降り出し、本当に寒くて凍えそうだったが、どの喫茶店に入ろうか迷って上手くタイミングが見計らえず、延々と歩き続けた。しまいにアキレス腱と腰が痛くなってきたので、ようやく喫茶店に入ってチャイを飲んで休憩し、その後バスに乗ってアパートに帰りついた。

熱いコーヒーを入れて飲み、台所で座ってしばらくぼうっとする。寒さと疲れで体力が消耗している。家の静けさが身体に染み入るようだった。不規則な睡眠のせいか、ぼんやりしてトルコ語が全然頭に入らないが、それでも無理に辞書を引きながら新聞を読んで勉強していると、突然電気が消えた。ドアを開けてアパートの廊下に出てみたら、ここも真っ暗である。窓の外を眺めると、向かいの家々の明かりも消えている。うちのアパートだけの停電ではないらしい。電気がないとすることがないし、暖房が止まるので寒くなる。しょうがないのでベッドに入って考え事をした。疲れているせいか、すごく暗い気分になり、自分のやっていることは間違いだらけだ、と思う。イズミルにとどまるべきだったのではないか、とか、そもそもトルコに来たこと自体が間違いである、とか。

30分ほどして電気が復活したので、シャワーを浴びた。熱いシャワーのお陰で少し元気になった。昨日と同様マッシュルームとトマトのパスタを作り、ビールを飲む。ビールはイスタンブル産、「マルマラ・ゴールド」である。エフェス系列の会社で製造しているらしい。エフェスと同じく飲みやすい味である。食べ終わってから新聞の続きを読んだ。

「BURUSA・HAKIMIYET(ブルサ・ハーキミイェット、‘ブルサの統治’という意味だと思う)」という地方新聞によると、寒さ対策のため、ブルサ市の動物園では、動物達のためにカロリフェル(セントラル・ヒーティングのこと)を入れているらしい。しかし、猿たちが暖房に寄っていって暖を取るのを尻目に、熱い地方出身であるラクダは平然と外を歩き回っているそうである。ラクダって偉大な動物である。この動物園には一度行ってみたいが、雪が溶けないうちは無理である。それにしてもこの新聞、重要なニュースがなにも載っていないのがすごい。三面記事と三面記事と三面記事と芸能ニュースとサッカーくらいしかない。トルコにはこういう新聞が非常に多く、紙の無駄遣いもいいところだと思う。「ZAMAN(ザマン=時間)」、「TARAF(タラフ=側面)」、「CUMHURIYET(ジュムフリイェット=共和国)」などの真面目な新聞もあるが、売店のスタンドで目に付くのは三面記事新聞ばかりである。テレビといい新聞といい、トルコという国はこれで大丈夫なのか、と少し心配になってしまう。

1月27日
今朝も9時半に目を覚ました。窓の外を見ると、夕べ降った雪のせいで、ますます雪国らしい風情である。しかも太陽が出ていなくて、風景に靄がかかっている。これでは出かける気にならないので、ベッドの中にとどまり、読みかけの、三島由紀夫の「金閣寺」の続きを読む。不思議な小説だった。主人公の思考回路が変だし、ものすごく暗いけど、確かにこれは優れた小説だと思う。読み終わったので、次の本に取り掛かる。「DEMISFYING SYRIA(=シリアの謎を解く)」という英語の本で、一見不可解なシリアの外交政策の謎を様々な角度から分析して解き明かす、という意欲的な内容である。ベイルートに旅行したときに買った。こんな本、もちろんシリアではお目にかかれない。

読書に疲れてまた昼寝をしてしまったが、そのあと心を入れかえて散歩に出かけた。まだ夕方までは間がある。意外にも雪は大方溶けていて、寒さも昨日より随分ましだった。バスに乗ってアタトゥルク通りにでて、適当なところで降りて歩いていたら、複数の市場が集まった場所に遭遇した。服市場、青果市場、タオル市場、それに魚市場まであった。市場は人が大勢いて活気があり、見てるだけで楽しい。歩き回って疲れたので、目の前に止まっていたドルムシュ(乗り合いタクシー)に乗ってみた。トルコに来てから初めてドルムシュに乗ったのでちょっと嬉しい。私はさまざまな公共交通機関を試すのが好きなのである。このドルムシュはタクシーと同じ車体だけど、行き先を書いた札が上にのせてある。適当なところでドルムシュを降り、家の方角をめざしてまた歩く。少しずつ地理勘が働くようになった。お腹がすいたので、途中でラフマージュン(トマト風味のミートソースをかけて焼いた、薄いピザのようなもの、レタスの千切りを載せて巻いてくれる)を買って、歩きながら食べる。焼きたてで香ばしい。

家に帰ってシャワーを浴び、トマトとマッシュルームのスパゲッティを作って食べた。これで三日間同じメニューを食べ続けている。ちょっと飽きたけど、旅行前なので我慢。明日から8泊9日で黒海沿岸地方への旅に出る。あまり寒くないといいけれど。トラブゾンまで行くので、移動に時間がかかって疲れそうだが、楽しみである。長距離バスを乗り継いでのトルコ一人旅って、昔からやってみたかったけど、勇気がなくて今まで出来なかったのだ。今は体力はあんまりないけど、怖いものがなくなっている。どこにでもいけそうな気がする。

コメント
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