マグリットの空と雲

旅,空,猫,馬,Champagne&美酒,美食,art,色,海&船…時にsurrealな、好きなもの写真雑記帳。

道端でカラスを拾いました。

2008-07-18 | Something/いろいろ
はじめは、ゴミ袋かと思った。
前を走る車が、少しだけ進路を右に膨らませて通った後に、路肩にバサバサと転がる黒い陰。

ん?ビニールじゃない、傘かな?
・・・カラスだ!

大井埠頭・湾岸道路をサイクリング中のことである。
やっぱ、新幹線ってカッコイイなぁ!と暢気にJRの車庫脇を、気持ちよく走っていたわたしの前方に見えた黒い陰が、怪我を負ったカラスだと気づくのに数秒と掛からなかった。

自転車を止めたわたしに気づいてびっくりしたのか、円な眼でこちらを見つめ、くちばしを大きく、カァカァ叫んでいる姿が痛ましい。
両翼を広げて必死にもがくものの、足を引きずっていて飛ぶことができないようだ。

かわいそう……でも、どうしたらよいのだろう……
とりあえず、車道から避難させなくては!

しかし、わたしに驚き、さらにスピードを落とさず通り過ぎる自動車に驚き、アスファルトの上をクルクルと逃げ回るカラスをどうして落ち着かせようか。
まず、車道側にしゃがんでブロックし、少しでも路肩の方に寄せることにしよう。
「怖くない、怖くないよ」と呪文のようにつぶやきながら、両手を広げて促すうちに、ほんの気持ちだが、落ち着いてきたように見えた。
おどおどした眼は変わりないが、ほんの少しだけわたしの存在に慣れたのか、羽をそっと撫でてみても暴れなくなったのだ。

今だ!噛まれようが、今しかない!
恐る恐る両手で掬うように、傷ついたカラスをそっと包んだ。
胴の羽は想像以上に柔らかく、見た目よりずっと小さな体が羽の下で震えている。
もう全く暴れる気配もなく、わたしの手の中に収まっている。
元気そうだし、痛がらないところをみると、内臓に損傷はないのかもしれない。

さて、どうしよう。
脇に逃がすにも生け垣が拒んでいるし、来た道を戻ろうにも一方通行なのだ。

仕方なく、左の掌にカラスを乗せ、胸に抱きかかえるようにして持ち、右手は自転車の軸を支えながら転がせて、今はとにかく前に進むしかない。

歩くごとに、キョロキョロ辺りを見回すカラス。
掌にその体温と鼓動が伝わってくる。コロンとした頭に大きく円な眼と、これまた大きなくちばしで、こちらに顔を見上げては何か訴えるように鳴いてみたり、噛みつこうとしてみたり、カワイイやつだ。ハシブトカラスだよな、きっと。

カァカァ、頭上を飛ぶカラスの鳴き声にも呼応している。

え、もしかしてわたし、仲間のカラスに襲撃されちゃう?
野良猫の場合、人が触ってしまうと親に見捨てられてしまうという。
ヒナではなさそうだけど……、翼は立派そうに見えたけれど、よく見れば、まだこどものようだし。
「違うって、わたしは助けてあげたいだけなのよぉ。だってこの子、飛べないのだから。ねぇ?」いくら賢いカラスでも、「敵じゃない」と伝えて通じるものなのか。
でも、怖いんだろうなぁ、このコ。果たして、これでよいのかな。

助けようと思うのも、なす術もなく放置するのも、どっちにしても、ヒトのエゴでしかない。だったら、できるところまでとことんつき合おうではないか。

ただ前に進むしかなかったうちはそれでよかった。
しかし、しばらく歩き、やっと交差点が見えてきて、いよいよ不安になってきた。
……はて、どこに向かったらよいのか。
この子を連れて自転車には乗れないしなぁ、でも、懐いたら肩とかに乗っちゃったりするのかしら、いやだ、魔女っぽい?……
ちょっとは育てる気になって、想像をふくらませている自分がいた。

しかし、左手に黒い塊を抱えて、ブツブツ呟きながら車道を歩く女、端から見れば、変人でしかないだろう。ふだん人目をあまり気にしないタイプだが、さすがにふと己を客観視して苦笑した。

急ぐ旅でなし、ひとまず、信号を待ちながら考えよう。

交差点で止まって、『←入り口まで300mの看板』に気がついた。
あ、そうか。もう目の前は野鳥公園なんだ!

午後6時、祝日だから開園していたと思うが、もう事務所は閉まっている時間だ。
まだ、職員の人がいればよいけれど…どうかな?
もしいなくても、公園なら車に轢かれる心配はなさそうだし…門だけでも開いていればよいな……

自転車を脇に止め、カラスを両手で抱えなおして、祈るような気持ちで入り口へと足早に向かった。
『都立東京港野鳥公園入り口』の文字、脇の門がまだ開いていた!

もう人影はない園地に入り、途方に暮れながら辺りを見回していると、閉ざされた柵の向こうから作業服を着た人がやって来た。

こちらの職員の方ですか?
よかった、実は怪我したカラスの子を拾ってしまったもので……
ちょっと見てもらえますか?


「え、カラス?…あぁ、ハシブトカラスだね、まだ若そうだ。
まだくちばしもちいさいな。巣立ってまもなくといったところかな。口開けた時、中ピンクだったでしょう?ほら、このくちばしの角もちょっとピンク色になっているでしょう、これ、ヒナの名残ね。」

向こう側の高速脇の道で見つけたんですけど。結構交通量があるのに、車道で翼を広げて飛べずにバタバタしていたので思わず保護したんです。でもどうしてよいか判らなくて、ここへ来てみたのですけど。。預かってもらえますか?

「あぁ、ここなら安全だし、様子を見てみましょう。何かに驚いたのかな。カラスはね、ビックリすると足が立たなくなることがあるのですよ。」

え?怪我じゃなくて腰抜かしているだけってことですか?
轢かれそうだったので助けたのですけど、足を引きずってバタバタ暴れていたので、翼か足が折れているのかと思いました。

「まぁ、落ち着いて飛べそうなら還すしね。しばらく様子を見てみますよ。え?JR
の車庫の横で拾ったって?結構歩いて来たんだねぇ」

えぇ、安全な場所もなくて、途方に暮れましたけど。でもよかった。早く元気になるとよいのですが。よろしくお願いします!

◇ ◇ ◇

さすが、野鳥公園だ。
ちゃんとカラスの生態も知っていて、害鳥扱いせず愛おしんでくれて、ほんとうによかった。

こうして、思わぬ拾い物に戸惑い、ホッとして、晴れ晴れしたカラスの救出劇であったが、ついさっきまで、熱いくらいだった左手が自由になった帰り道、ちょっと寂しく感じたのだった。

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画像は、めったにない出会いの記念に一枚。
野鳥公園の方に引き渡したあとのハシブトカラスちゃん。

都立東京港野鳥公園

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