蛍のひとりごと

徒然に、心に浮かんでくる地唄のお話を、気ままに綴ってみるのも楽しそう、、、

菜の葉

2006年03月16日 | 地唄箏曲よもやま
三月のお花といえば一番は桃でしょうけれども、菜の花も同じくらい私は好きです。
桃色と黄色を花瓶に活けると、春めいた華やぎでウキウキするのは私だけでしょうか?




地唄の手ほどき曲に『菜の葉』という可愛らしい曲がございます。



     可愛いということは 誰が初めけん
     ほかの座敷もうわの空
     許さま参ると示す心のあどなさよ
     上々様の痴話文も 別に変わらぬ様参る

     思いまわせば勿体のうて
     言葉さげたら思ふこと
     菜の葉にとまれ 蝶の朝



菜の花というお名前の由来は「野菜(菜っ葉)の花」の意味からと伺いました。
でしたら、『菜の葉』は「お野菜の唄?」なんてことになってしまいそうですけれども・・・。




ところで、本年一月の歌舞伎座は、坂田籐十郎の襲名披露公演でございました。
ひょんなことから幸運にも、お友達がチケットをお世話して下さったので、
箏曲の『鶴寿千歳』や竹本の『万歳』なども聴かせて頂いて、
おかげさまで、うんと楽しんでまいりました。


藤十郎さんが天満屋お初を演じられました『曽根崎心中』は云うまでもなく素晴らしいものでございました。

   この世の名残 夜も名残・・・

あんな不条理な行き違いなど、今なら裁判でも起せましょうに、
来世は必ずこの世で結ばれますようにと心中するおふたりの可哀相なこと。




ところで・・・
第二場「天満屋」の幕が上がったところで、『菜の葉』がほんのひとふし唄われます。


    可愛いということは 誰が初めけん ほかの座敷もうわの空・・・


たったこれだけなのですけれども、これから始まる苦しい恋の道行の前の一休み。
まだあどけなく可愛らしいお座敷模様の華やぎが思わず心いっぱいに広がって、
ほんの少し、ほっとするのも趣深いものでございます。





    



菜の花が咲く頃に降り続く雨を「菜種梅雨(なたねづゆ)」とか申しますが、
今宵もシトシトよく降る雨でございます