紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

思い出の一話~【ターンエーガンダム 43話「衝撃の黒歴史」】

2013-06-13 23:27:25 | 思い出の一話

印象に残ってる漫画やアニメの一話をピックアップして掘り下げる
「思い出の一話」のコーナーです。
今回は『∀(ターンエー)ガンダム』を取り上げます。

『機動戦士ガンダム』誕生20周年記念作品として
製作されたTVアニメシリーズであるこの作品。
主人公機であるガンダムがヒゲづらという
強烈なインパクトでもって、放映当時はガンダムファンの
相当な話題をさらいました。
が、この作品ガンダムの見た目のインパクトのみならず、
さまざまな部分で視聴者に驚きを与えた作品でした。

ガンダムとは思えないほど牧歌的な世界観で展開される物語。
尖ったデザインの個性的なキャラクターたち。
山を掘ったらザクやカプールなど旧作のモビルスーツが発掘される

などなど、
一話放映されるたびに驚きのない回がないんじゃないか
というほど、毎回印象深い話が続きました。

なかでも取り分け視聴者の度肝を抜いたであろう問題の回
第43話「衝撃の黒歴史」に注目してみましょう。


  本題に入る前に

さて、本題へと入る前に初代『機動戦士ガンダム』から始まり
『∀ガンダム』に至るガンダムシリーズの流れをざっと確認してみます。

 1979 機動戦士ガンダム [TVアニメ]

1979年、富野由悠季(喜幸)監督によって『機動戦士ガンダム』が世に出ます。
それまでのロボットアニメは主人公メカを正義の味方として扱い
地球を侵略にきた悪の異星人と戦うといった勧善懲悪モノがほとんどでした。
しかし、『ガンダム』ではロボットを「モビルスーツ」と呼ばれる
兵器として扱い、人間同士の戦争を描きました。

 1985 機動戦士Zガンダム [TVアニメ]
 1986 機動戦士ガンダムZZ [TVアニメ]
 1988 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア [劇場アニメ]
 1991 機動戦士ガンダムF91 [劇場アニメ]
 1993 機動戦士Vガンダム [TVアニメ]


以降のガンダムシリーズでもそれは一貫しており、
上記に挙げた富野監督によるガンダム作品はほとんど
宇宙に住む人々と地球に住む人々とのいざこざ
大枠の舞台としてあり、そのなかで人類の新しい進化の形である
「ニュータイプ」と呼ばれる主人公の少年が、戦争を通じて
さまざまなことを感じ取り成長していく物語構成となっています。

 1994 機動武闘伝Gガンダム [TVアニメ]
 1995 新機動戦記ガンダムW [TVアニメ]
 1996 機動新世紀ガンダムX [TVアニメ]

Vガンダム以降の上記3作品は、富野監督以外の人物が監督を務めた
テレビアニメシリーズでのガンダム作品となります。
それぞれの作品の特徴として、

「G」
世界各国を代表する格闘家達が操るガンダムを用いた
格闘技大会「ガンダムファイト」で争うという異色作

「W」
5機のガンダムと5人の美少年を主人公に据えた
女性人気を確立したガンダム作品

「X」
荒廃した地球を舞台にしたガンダム作品。
「ニュータイプ」など富野監督のガンダム作品を
意識した要素を取り入れている。


という特徴があり、3作品とも従来の富野監督のガンダムとは
雰囲気が大きく異なっています。(特にG)
また、富野監督のガンダム作品が「宇宙世紀」という
時間軸を用いた世界観的に連続していた作品だったのに対して、
上記3作品の世界観はそれぞれ独立しており、
宇宙世紀のガンダム世界に対するパラレルワールド的な
印象も受けます。

そして、今回の記事で語る『∀ガンダム』は
こうしたガンダムシリーズの流れのなかで放映開始した
ガンダム作品となります。

 1999 ∀ガンダム [TVアニメ]

本作品では、富野監督がVガンダム以来5年ぶりに
ガンダム作品の監督を務めます。

今作では地球に住む人々と、月に住むムーンレィスと
呼ばれる人々との対立を描いており、
対立構造はいままでの富野ガンダムに似ています。
しかし、決定的に違うのは物語の雰囲気で、
今までの富野ガンダムの物語の雰囲気は殺伐としており、
全作品とも登場人物に死者が多く出ました。
特に『V』の死者数はすさまじく、登場した主要人物は
敵味方陣営あわせて大半が死亡しています。

対して、今作『∀』は戦争を題材としながらも
どこか牧歌的な雰囲気のなかで物語が展開されます。
死者数も他作品と比べて少なく、登場人物が
多く死亡する作風から「皆殺しの富野」と俗称される
こともあった富野監督の作品とは一線を画した内容でした。

『∀』の世界では地球人の文明レベルは19世紀の産業革命レベルに
とどまり、兵器もプロペラ機や戦車など、とてもでは
ありませんがモビルスーツを用いてどうこうという
レベルではありませんでした。
対して、ムーンレィスは高度な技術力を誇り、
軍隊にはモビルスーツを兵器として配備しています。

主人公・ロラン=セアックはムーンレィスでありながら
∀ガンダムを操り地球側に立って戦っています。
物語は、地球側に立ちながらも月と地球双方の争いを
収めようとするロランや、
月側の女王として地球帰還作戦を実行したが、地球の先住民と
争うつもりはまったくなく、軍部の暴走をおさえきれない
ディアナ=ソレル
地球側・イングレッサ領の領主であり、表向きは月と地球の
和平のために動きながら、内に大きな野望を秘める
グエン=サード=ラインフォード
など、さまざまな人物の視点を通して描かれます。

物語前半は地球を舞台にして、地球人とムーンレィスとの
戦いを中心に描かれましたが、
後半になるとムーンレィス側の内部事情も怪しくなり、
女王の家系であるソレル家を守護する役のはずの
武門・ギンガナム家が、冬の宮殿と呼ばれる施設を管理する
メンテナー家と共謀して月の支配権を得るべく反乱を始めます。

第43話は、ロランたち地球側の人々がディアナ=ソレルを伴って
月に訪れ、ギンガナム艦隊と対峙するところから始まります。

では、以下に第43話を見てみましょう。


  『∀ガンダム』 第43話「衝撃の黒歴史」みどころ




冒頭、∀ガンダムを操るロラン=セアックは、
ギンガナム艦隊の御大将・ギム=ギンガナムと対峙します。




ギム=ギンガナムは月のマウンテンサイクルから発掘された
ターンXという機体を操っていました。

このターンXは前話より登場したターンAのライバル機体です。
∀ガンダムと同じくアメリカの工業デザイナー・シド=ミード氏の
デザインで、左右非対称のシルエットと胸のX字の傷が特徴です。

『Gガンダム』のシャイニングガンダムの必殺技である
「シャイニングフィンガー」を使用したり、
全身がバラバラになって、ファンネルのようなオールレンジ攻撃が
可能だったりと、この先登場するたびに絶大なインパクトを
視聴者に与えることとなる機体です。
搭乗者のギム=ギンガナムの強烈な印象も伴って、
そのインパクトの相乗効果たるや、筆舌に尽くしがたいものがあります。

この話ではまだ顔見せ程度ですが、
「∀の監視役」
「かつてターンXは∀を倒しそこなった」
「胸の傷は∀につけられた」

など、意味深なキーワードがちらちらと聞こえます。






お互いそっくりの容姿を持つ月の女王・ディアナ=ソレル
地球人の令嬢・キエル=ハイム
実は入れ替わっていた時期があったということが
主要登場人物に知らされた回でもありました。

この二人、ディアナのほんの遊び心でお互いの衣装をチェンジ
したのですが、その後のゴタゴタで入れ替わったままの
状態でお互い離れ離れになってしまい、そのまま立場が
入れ替わってしまったのでした。
入れ替わった時期はなんと第10話
主人公・ロランは早い段階からディアナとキエルが入れ替わった
ことを知らされていましたが、その他の人物が
入れ替わりをネタばらしされたのが、この第43話というのだから
驚きです。
このときの各々のリアクションはちょっとした見どころです。






ディアナ親衛隊・ハリー=オード大尉の無双アクションも
見どころのひとつ。
3機のマヒロー相手にハリーの駆るスモーがバッタバッタの
大立ち回りを演じます。
アクの強い外見のキャラが目立つ本作で、ハリー大尉はまれなイケメンです。
(ちょっとディアナ様LOVE過ぎますが)

「ディアナ様の尻と言ったか?…おのれぇ!」

というちょっとズレたキレ方をしてみせたのもこの回でした。






・・・が、なんといってもこの回最大の見どころはこれです。
冬の宮殿に逃げ込んだアグリッパ=メンテナー
彼はギム=ギンガナムと共謀して月の支配権を握ろうとしていました。
彼の逃げ込んだ冬の宮殿という施設は、「黒歴史」と呼ばれる
封印された古代史を管理する施設でした。

この冬の宮殿にて、ディアナ=ソレルは黒歴史の記録の封印を解き、
地球人やムーンレィスたち全員に公開します。
その記録映像は、地球人やムーンレィスたちにとっても、
そして我々視聴者にとっても非常に衝撃的なものでした。



なんと、古代史だという黒歴史の映像には、
初代ガンダムがザクと戦っている姿が映っているではありませんか!

初代ガンダムだけではありません。
ZガンダムやZZガンダムの姿も見られます。
『∀ガンダム』は、宇宙世紀の時代よりも
気の遠くなるほど遥か未来のお話だったのです。



そして、さらに衝撃的な映像が。
宇宙世紀ではない、パラレルな世界を舞台にした
今ではアナザーガンダムと呼ばれる、富野監督以外の
ガンダム作品に登場した機体も映像の中にありました。

つまり、この『∀ガンダム』第43話にて、
すべてのガンダム作品は実は同じ時間軸で展開されていた物語だった
ということが明らかになったのです。
すべてのガンダム作品は、この『∀ガンダム』につながっていたのです。




ディアナが公開した黒歴史の映像は、驚きの結末をもって締めくくられます。
そこには、「月光蝶システム」によって
地球文明を滅ぼす∀ガンダムの姿がありました。

文明の発展によって最終戦争まで行き着いた歴史は
∀ガンダムの散布したナノマシンによって解体・リセットされ、
黒歴史として葬り去られました。

やがて、リセットされた地球は少しずつ復興しましたが、
そこにかつての文明の姿はなく、せいぜい19世紀の
産業革命時程度のレベルに留まっていたのでした。

『∀ガンダム』の世界観は、そうした文明リセット後の
世界だったわけです。


これにて、第43話は終了となります。

この話は本当に衝撃的でした。
当時はまだ『G』『W』『X』の三作品は
監督が富野由悠季でなく、舞台が宇宙世紀でないことからも、
あまりガンダム作品とは認められていないような風潮が
あったと思います。
それが、富野監督自らが同一時間軸の物語であると解釈した
ように取れる、この『∀ガンダム』第43話は、
間違いなくガンダム作品史上最重要なエピソードであると
言えるでしょう。

なお、『∀』以降に放送された『SEED』や『SEED DESTINY』
『00』や『AGE』なども同一時間軸に含まれるのか?
という疑問が持ち上がりますが、
『∀』以降に放送された作品であっても、『∀』につながる
というのが現在の定説であるように思います。

また、現在でもネットなどでよく使用される「黒歴史」という言葉
封印された忌まわしい歴史という意味で初めて実体をともなった
エピソードということも非常に重要なポイントです。

サブタイトルの「衝撃の黒歴史」とはよく言ったものです。
まさに、衝撃的な一話でした・・・。

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9 コメント

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Unknown (16)
2013-06-24 21:36:33
補足すると、Gガンダムは当時の特番で富野さんは、まったく新しいガンダムをやりたかった、と言っていたと思います。Gガンダムのガンダムらしくなさは意図的なものでしょう


ターンエーは牧歌的な雰囲気だからこそ、テテスやギャバンが脱落したのはインパクトがありました。

文字通り人間模様、群像劇主体の回帰的な作品だから人物に触れて書いても面白かったかもしれませんね。
返信する
Unknown ()
2013-07-17 03:53:21
>人間模様、群像劇主体

これは大いに同意です。
ターンエーの人物はひとりひとりしっかりした物語を
持っていて面白いんですよねぇ。
個人的に一番気になってるのが
"泣き虫"ポゥ少尉です。

最後なんでシドじいさんと一緒に山師やってたんだろ…
返信する
Unknown (加法定理)
2013-08-24 14:56:05
 wとかも含まれる言ってもwのEWで最後に「ガンダムが現れることは二度となかった。」的なこと言ってたような…。そんなこと言っといてwもターンエーの世界に含まれる言うのは強引だと思うなぁ。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-01-23 16:15:31
>wもターンエーの世界に含まれる言うのは強引だと思うなぁ。

作中でコレン・ナンダーが過去の記憶をフラッシュバックしてウィングガンダムゼロの顔が一瞬出てくる演出がある事から、Wも歴史の一つとして扱われていると見るべきだろう。
ただしこれは当事のアニメーターが「何でもいいからここにガンダムの顔を入れよう」とした為に描いたらしいのだが・・・
「∀」という記号の意味は「全ての~」という意味であり、つまりこの作品の存在が「全ての(そしてこれからの)ガンダム作品を肯定する」という富野監督の意思表示である事が解る。
ちなみに∀「すべて」で変換できる

そしてこれは個人的な解釈だけど、「人類も作品も一つになったんだから、ガンダムファン同士でくだらない喧嘩をするのは辞めろ」という意味も込められていると自分は思ってたり。
返信する
Unknown (名無し )
2014-09-26 16:26:07
含むのやめてほしい
返信する
うんうん (ガンオタ)
2014-10-22 16:56:38
>wとかも含まれる言ってもwの・・・(略)
>含むのやめてほしい
認めたくない事、残してはいけない事を黒歴史としてるんだよねぇ。ってな感じでw
UC直撃世代としてはGもWもXもガンダムとしては認めたくない>宇宙世紀じゃないなら別のアニメでやれよぉって思ってたが、∀で少しアナザー色眼鏡も薄くなってその後のSEEDやOOもすんなり受け入れられたな。
返信する
raozat (raozat)
2024-04-26 22:50:22
Ah, reminiscing about the memorable episodes of Gundam always brings a rush of emotions. Take, for instance, the iconic series "∀ Gundam". Despite its unconventional setting and character designs, it left an indelible mark on fans' hearts. Each episode was like a journey into a whimsical yet profound world, where the clash of civilizations unfolded amidst stunning visuals and gripping storytelling. And episode 43, "The Shocking Dark History", stands out as a pinnacle of intrigue and revelation. It's moments like these that remind us why we fell in love with anime in the first place – for the thrill of discovery and the depth of emotion.
返信する
sanhangsale (sanhangsale)
2024-04-26 22:50:42
When discussing the Gundam series, it's impossible to overlook the intricate narrative threads that weave through each installment. "∀ Gundam" is no exception, with its blend of political intrigue, philosophical exploration, and epic battles. Episode 43, in particular, delves deep into the internal conflicts of the Moonrace and the Earthlings, offering a nuanced portrayal of power struggles and moral ambiguity. From the enigmatic characters to the thought-provoking themes, every moment is a testament to the complexity and depth of the Gundam universe.
返信する
rankingpark (rankingpark)
2024-04-26 22:51:02
As a die-hard Gundam fan, "∀ Gundam" holds a special place in my heart for its rich character development and intricate plot twists. Episode 43, aptly titled "The Shocking Dark History", is a prime example of the series' ability to captivate audiences with its gripping storytelling and compelling characters. Whether it's the clash of ideologies or the revelation of hidden truths, each moment is filled with emotion and suspense. It's these dramatic moments that keep us on the edge of our seats and craving for more, making "∀ Gundam" a timeless classic in the world of anime.
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