紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【AIR】翼人の物語を追う[前編]

2010-06-12 17:29:02 | ○○の物語を追う
夏も近づいてきたので、【AIR】について記事を書いてみる。

【AIR】は2000年にPCゲーム(18禁)として発売され、ヒットした
テキストアドベンチャーゲームである。
シナリオが感動に特化した、いわゆる"泣きゲー"として有名な作品である。
発売から5年後の2005年には、京都アニメーションによるTVアニメ化がなされ、
京都アニメーションの出世作としても知られる。

今回は、その【AIR】に登場する「翼人(よくじん)」を通して、
【AIR】の物語の全貌を見てゆきたい。
この「翼人」は、【AIR】の物語の中核をなす存在であり、当然のごとく
以下に掲載する記事は【AIR】の物語の核心にベタベタ触れまくっているので
【AIR】未プレイ、未見でネタバレが嫌な方はご注意願います。
また、解釈の難しい箇所も多々あり、今回の記事は多分に
紫の個人的見解が入っています。これが公式設定ではないので、
その点もご注意願えれば、と思います。


  翼人とは



翼人は、一言で言うと「星の観測者」である。
地球上の生命がまだ単細胞生物であった時代から存在し、
地球で起きたすべての事象を見聞きし、記憶する。
生命体としての能力も強く、背中の翼で空を飛ぶことはもちろん、
巨大な暴風や竜巻を起こすこともできた。
「翼人」は唯一無二の存在ではなく、種族として地球上に複数存在していた。

翼人たちが何のために地球上のすべての事象を記憶しているかは不明である。
地球上各地に存在する翼人たちは、地球上の生命誕生から気の遠く
なるような長い時間をかけて、その身に記憶を蓄積し続けた。
とはいえ、翼人は不死身というわけではないので、蓄積した記憶は
適宜、自らの子に託していたようである。

そんな翼人が【AIR】の物語に絡むのは、人類が誕生してからずいぶんと
年月の流れた、AD.995年(正暦5年)の日本の地からである。


  神奈備命

平安時代の日本では、翼人は「神々の遣い」とされ、信仰の対象となっていた。
しかし、翼人の強大な力は同時に畏怖の対象ともなり、
社殿に軟禁されている翼人もいれば、戦に利用される翼人もいた。

神奈備命(かんなびのみこと)も、社殿に祭り上げられ、
体よく軟禁されている翼人の一人であった。



神奈備命(※画像左端)は、社殿にて祭り上げられながらも、
周囲の人間が自分に恐れを抱く様に心を痛めてきた。
しかし、神奈に恐れを抱かず、むしろ親しみを込めて
接してくる珍しい人間たちがいた。
柳也(りゅうや)(※画像中央)と裏葉(うらは)(※画像右端)である。

柳也は神奈の社殿を警護する警備隊長で、裏葉は神奈の女官である。
二人とも持ち前の度量の深さと好奇心で、畏敬の対象のはずの神奈に、
「からかいがいのあるヤツ」として、日々たわむれるほどであった。

ある日、神奈は柳也に生き別れた母親の話をする。
もしできるなら、母に会いたいと。
折りしも、神奈備命を北の社殿に移すという計画が警護の者に
伝わっていたところであり、このままでは神奈と離れ離れになってしまうと
悟った柳也は、裏葉と結託し、神奈を社の外へと連れ出す。


  母を探す旅



一行は社殿を脱出し、「神奈の母親を探す」という目的のもと、
まるで家族のように旅をした。
幼い頃より母と生き別れ、周囲の人間から畏怖の目で見られていた
神奈にとって、この旅は非常に楽しいものであった。
いつしか三人は、本当の家族のようになっていた。

旅を始めてから一月あまりの時が流れた頃、神奈の母親とおぼしき
翼人の居場所が判明した。
紀州の霊山であった。
結界の張り巡らされた霊山の洞窟に、神奈の母親は囚われていた。
神奈の母は翼人の力を戦に利用されており、戦の際、敗戦者たちの呪詛を
一身に受けており、何人もその身に触れられない状態であった。
母は神奈に立ち去るように言うが、母に会いたい一心でここまで来た
神奈にとって、ここで母をあきらめられるわけはなかった。
一行は神奈の母を洞窟から連れ出し、霊山を降りようとする。
しかし。



折り悪く、翼人信仰をめぐっての戦によって霊山は兵に包囲されてしまう。
その中、神奈の母は飛来した矢を受けてしまった。
母は最期の力をふりしぼって、自身に宿った星の記憶を神奈に継承する。
星の事象を記憶し続けることが翼人の役割、さだめなのだ。
娘に看取られる中、母は静かに息を引き取った。

霊山の包囲が徐々に狭まる中、柳也、裏葉、神奈の三人はすでに
逃げ場がないことを悟る。
母から翼人の記憶と能力を受け継いだ神奈は、その能力を使い、
包囲の突破を試みる。
神奈の背羽が光を放ち、周囲に旋風が巻き起こった。



しかし、翼人の力を解放した神奈に対し、大勢の僧たちが一斉に呪詛をしかける。
すでに母が戦場で受けた呪詛も、母の手に触れることによって身に
移されていた神奈に、さらなる呪詛がふりかかることとなった。



僧たちの呪詛により、神奈は天空に封印されてしまう。
柳也と裏葉は、神奈が切り開いてくれた道を通り、
包囲を突破することができたが、神奈を失った喪失感は大きかった。


  神奈を救う方法を探す



やがて二人は、かつて翼人たちが暮らしていたことがある翼人信仰の
寺院へ辿り着く。
二人は、寺院の高僧・知徳(ちとく)の教えを請い、
空に封印された神奈を救う方法を模索することにした。
知徳の話によると、神奈はこの地に残された、
最後の翼人だろうということであった。

裏葉は知徳より「法術」と呼ばれる力を学んだ。
この「法術」が、神奈を救う唯一の手立てと信じて。
裏葉には法術の才覚があり、高度な術を次々と習得していった。

やがて、裏葉は法術により神奈にかけられた呪詛の正体を突き止める。
それは、神奈の心を責める呪詛であった。
神奈は空の上で、近しい者が神奈を残して死んでいく、という悪夢を
見続けているのだった。
この呪詛は年月の経過により朽ちる日が来るかもしれないが、
神奈の魂はやがて地上に降り、輪廻を繰り返すことになる。
しかし、人に翼人の魂を移す、ということは小さい器に大量の水を移すようなもの。
神奈の魂を受け継いだ者は、やがてその膨大な記憶量に押しつぶされ、
死にいたる。そして、神奈の魂は癒されることなく再び輪廻に戻る。
とのことであった。

柳也は霊山で受けた傷の治りが悪く、日に日に衰弱していった。
どうやら、神奈にかけられた呪詛は、神奈だけでなく、神奈と親しい者も
蝕む呪詛であるようだ。裏葉は法術で受け流すことができたが、
柳也はそうはいかなかった。
このままでは神奈を救う前に自分が死んでしまうと予感した柳也は、
神奈救済を自分の子孫にたくすことに決める。

柳也は裏葉と結ばれ、子をなした。
柳也は子孫たちに向けて翼人についてまとめた書「翼人伝」を編纂。
裏葉は自ら得た法術を子に託した。



結局、柳也と裏葉は神奈救済の方法を見つけることはできなかった。
神奈の魂は、やがて地上に降りて輪廻を始める。

柳也と裏葉。
その子孫たちの時を超えた長い旅路はここより始まる。
いつの時代か、きっと自分たちの子孫が神奈の魂を救う方法を
見つけ出してくれる。
そう信じて、柳也と裏葉の物語はこれにて終了する。

物語は、子へと受け継がれる。
あたかも、翼人の星の記憶が次代へ継がれるように。


 次回へ続く

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梶尾真治 氏のSF小説「おもいでエマノン」は、生命誕生から現在までの
すべての記憶を持つ少女・エマノンが主人公である。
もしかしたら、AIRの翼人の元ネタかもしれない。
興味のある人は是非読んでみてください。
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