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土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

制約理論と他の理論との関係

2019-08-15 15:38:00 | 人生経営
 制約理論(TOC:Theory of Constraints)は、イスラエル人物理学者のエリヤフ・ゴールドラットが1984年に『ザ・ゴール』で理論体系を示したもので、SCM(サプライチェーン・マネジメント)で用いられる理論の1つである。SCMを最適化する手法とされ、全体としてキャッシュフローを生み出すことを目的に、ボトルネックとなる工程に注目しスループットを最大化するための考え方である。

 ボトルネック (bottleneck:瓶の首)とは、システム設計上の制約の概念で、『隘路』とも言われる。80-20の法則などが示すように、物事がスムーズに進行しない場合、遅延の原因は全体から見れば小さな部分が要因となり、他所をいくら向上させても状況改善が認められない場合が多い。このような部分を、ボトルネックという。 瓶のサイズがどれほど大きくても、中身の流出量・速度(スループット)は、狭まった首のみに制約を受けることからきている。

 ところで、リービッヒの最小律というのがある。植物の生長速度や収量は、必要とされる栄養素のうち、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されるとする説で、ドイツの化学者・ユーストゥス・フォン・リービッヒが提唱したものである。リービッヒは、1803年5月12日生まれで1873年4月18日に没している。1948年生まれのゴールドラットよりも150年も前の人である。

 リービッヒは、植物は窒素・リン酸・カリウムの3要素が必須であるとし、生長の度合いは3要素の中でもっともあたえられる量の少ない養分によってのみ影響され、その他2要素がいくら多くても生長への影響はないと主張した。後に養分以外の水・日光・大気などの条件が追加された。現在では、それぞれの要素・要因が互いに補い合う場合があり、最小律は必ずしも定まるものではない、とされている。

 組織では、単純に制約を特定できるかというと難しく、誰かが肩代わりをしている場合があり、なかなかに示唆的でもある。それはともかく、リービッヒの最小律は、制約理論の基となった考え方であろう。

 リービッヒの最小律を分かりやすく説明するものとして、「ドベネックの桶」が知られている。 植物の成長を桶の中に張られる水の量とすると、桶を作っているそれぞれの一枚の板を、養分や要因と見立てる。これによると、たとえある一枚の板が長くとも、一番短い部分から水は溢れ出し、結局水嵩は一番短い板の高さまでにしかならない。制約理論では、一番短い板を、一番弱い鎖だとして説明している。

 ある建設会社の社長さんに、制約理論から生まれたCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の説明の際、制約理論を鎖の比喩で説明していたところ「うちは、社員を鎖のような物としては考えていませんので」と、顰蹙をかってしまった。この時、恐らくリービッヒの最小律で説明していたら、受け入れられたのかも知れない。女性の社長さんなので、鎖と言ったことの本質を論理的にとらまえるのではなく、感情面で捉えられて反応したのであろう。説明するこちらの読みが浅かったと言える。

 たまたま、ネット検索で見つけたのだが、『知的財産創造のコミュニケーニケーションサイト」の、因果関係モデル「TOC思考プロセスとは」によると、「TOCによれば、次のように「人間が変化に対して抵抗する6つの段階」があるという。
(1) 問題そのものに対して同意しない
(2) 解決の方向性に同意しない
(3) 解決策が問題を解決することに同意しない
(4) 解決策を実行すると新たな問題が発生する
(5) 解決策実行前の障害を克服できない
(6) 未知の問題や障害に対する不安と恐れ
TOCは、これらの6つの抵抗の階層を克服してゆくためには、次の状態を順番に作っていけばよいという。
(1)問題について合意する
(2)解決の方向に合意する
(3)解決策が問題を解決することに合意する
(4)解決策の実行後に問題が起こらないことに合意する
(5)解決策実行前の障害を克服できることに合意する
(6)解決策の実行に合意する
 実はこの思考プロセスがI-TRIZの基本的な思考プロセスと同じなのだ。I-TRIZの基本的な思考プロセスは、IWB(Innovation WorkBench®)という革新的な問題解決のためのソフトウェアに組み込まれている「アイディエーション・プロセス」というものだ
 アイディエーション・プロセスは、
(1)問題の情報把握
(2)プロブレム・フォーミュレーションとブレーン・ストーミング
(3)方策案のまとめ
(4)結果の評価
(5)実行計画の策定
 といった項目からなっている』、と紹介されている。
https://www.chizaisouzou.com/メニュー/因果関係モデル/toc思考プロセスとは/
 
 以上のように、制約理論は、リービッヒの最小律やI-TRIZなどを借用しているのではないかと思われる。

 制約理論ではキャッシュフローを産み出すことを基本的な考え方としており、そのために以下の3条件が必要と定義している。
1 全体的なスループットを増大させる。
2 全体的な運転資本を低減する。
3 全体的な経費を低減する。
(この1、2、3の順番が大事で、利益を出すためによくやられている3の経費を低減するところから入ってはいけないと、ゴールドラットは警告している)
 これらを最適に実現するために、以下のステップを繰り返す。
1. 制約条件を特定する。
2. その制約条件を徹底活用する。
3. ほかの全プロセスをその制約条件プロセスに従わせる。
4. 制約条件のスループットを底上げする。
 そして、現状分析ツリーや、対立解消図、前提条件ツリー、移行ツリー、未来実現ツリーなどの、問題解決ツリーを提示したところが、TOC(制約理論)の新しさなのであろう。とは言え、対立解消図は弁証法の拡張であり、前提条件ツリーはトヨタの「なぜなぜ」の変形ではないかと思われる。

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