サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『秘密の花園』──淋しいメアリ・レノックス

子供向けの本でも何でも、淋しい子どもはたくさん出てきます。
むしろ、淋しいから主人公に選ばれる確立が高いのです。
しかし、その淋しさは第三者の視点で語られこそすれ、
本人自らが「自分は淋しいんだ」と認識し、口にするのは、実は珍しいことだと思います。

ところが、こともあろうに、親から愛された記憶もなく、感動や情緒が育っていなくて、愛嬌もへったくれもないメアリ・レノックスが、庭園の駒鳥に向かってこう話しかけます。
「あたしも淋しいのよ」
「あんたはあたしとともだちになってくれる?」

はっと胸をつかれ、ほんとに可哀想にと思わされました。

メアリにしてみれば、はじめて心が深く動いたのです。
親の死に際してすら、涙を流すこともなかったのに。
というのも、メアリの知らない間に両親ともなくなり、葬られてしまったせいでもあります。

このメアリが淋しいと言うからには、ほんとに淋しいんだなーと思うのです。
親もなく、誰からも愛された記憶がなく、愛した記憶もなく、だけどひとりぼっちはきっと淋しいでしょう。

それに、人間だれだって淋しいんだよなーとも思いました。
自分の意識の世界の中からしか、人々や事物、世界と触れ合うことのできない人間は、意識という壁の中に閉じ込められているようなものです。
誰だって、孤独です。本当に孤独な存在なんです。

ところで、それでも友達や親や愛するものがいれば、人間は孤独から救われもする。
しかし、メアリのように誰もいないと、その寂しさは闇のように底なしかも知れません。

そう思って、身につまされてしまったのです。

それはちょうとサン・テグジュベリの『星の王子様』のキツネのシーンを読んだときと同じような、身につまされ方でした。

ねえ、『星の王子様』にはキツネが出てくるでしょ。
そして、王子様が「淋しいから遊ぼう」と誘うと、キツネは、
「きみとは遊べない。なついてないから」と答えるじゃないですか。

「『なつく』ってどういうこと?」と王子さまが質問すると、キツネはこう答えます。

「それはね、『絆を結ぶ』ということだよ……」
「きみはまだ、ぼくにとっては、ほかの十万の男の子となにも変わらない男の子だ。
だからぼくは、べつにきみがいなくてもいい。
きみも、べつにぼくがいなくてもいい。
きみにとってもぼくは、ほかの十万のキツネとなんの変わりもない。でも、もしきみがぼくをなつかせたら、ぼくらは互いに、なくてはならない存在になる。
きみはぼくにとって、世界で一人だけの人になる。
ぼくもきみにとって、世界で一匹だけのキツネになる……」

「ぼくの暮らしは単調だ。
ぼくがニワトリを追いかけ、そのぼくを人間が追いかける。
ニワトリはどれもみんな同じようだし、人間もみんな同じようだ。
だからぼくは、ちょっとうんざりしている。
でも、もしきみがぼくをなかつかせてくれたら、ぼくの暮らしは急に陽がさしたようになる。
ぼくは、ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる。
ほかの足音なら、ぼくは地面にもぐってかくれる。
でもきみの足音は、音楽みたいに、ぼくを巣の外へいざなうんだ。
それに、ほら! むこうに麦畑が見えるだろう?
ぼくはパンを食べない。
だから小麦には何の用もない。
麦畑を見ても、心に浮かぶものもない。
それはさびしいことだ!
でもきみは、金色の髪をしている。
そのきみがぼくをなつかせてくれたら、すてきだろうなあ!
金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。
麦畑をわたっていく風の音まで好きになる……」

キツネはふと黙ると、王子様を長いこと見つめてから、こう言うのです。
「おねがい……なつかせて!」

そして、
「なつかせたもの、絆を結んだものしか、ほんとうに知ることはできないよ」
とも言います。
「きみも友だちがほしいなら、ぼくをなつかせて!」

このキツネの言葉がいちいち切なくて、涙が出るのです。
それは、サラだけじゃあないですよ。きっとあなただって。

メアリ・レノックスもきっと、このキツネと同じように淋しいし、キツネが王子様に言ったのと同じ気持ちで駒鳥に「お友達になって」と頼んだと思うのです。

わざわざメアリ・レノックスが頼むなんて、よっぽどのことです。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「『秘密の花園』&バーネット」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事