子供向けの本でも何でも、淋しい子どもはたくさん出てきます。
むしろ、淋しいから主人公に選ばれる確立が高いのです。
しかし、その淋しさは第三者の視点で語られこそすれ、
本人自らが「自分は淋しいんだ」と認識し、口にするのは、実は珍しいことだと思います。
ところが、こともあろうに、親から愛された記憶もなく、感動や情緒が育っていなくて、愛嬌もへったくれもないメアリ・レノックスが、庭園の駒鳥に向かってこう話しかけます。
「あたしも淋しいのよ」
「あんたはあたしとともだちになってくれる?」
はっと胸をつかれ、ほんとに可哀想にと思わされました。
メアリにしてみれば、はじめて心が深く動いたのです。
親の死に際してすら、涙を流すこともなかったのに。
というのも、メアリの知らない間に両親ともなくなり、葬られてしまったせいでもあります。
このメアリが淋しいと言うからには、ほんとに淋しいんだなーと思うのです。
親もなく、誰からも愛された記憶がなく、愛した記憶もなく、だけどひとりぼっちはきっと淋しいでしょう。
それに、人間だれだって淋しいんだよなーとも思いました。
自分の意識の世界の中からしか、人々や事物、世界と触れ合うことのできない人間は、意識という壁の中に閉じ込められているようなものです。
誰だって、孤独です。本当に孤独な存在なんです。
ところで、それでも友達や親や愛するものがいれば、人間は孤独から救われもする。
しかし、メアリのように誰もいないと、その寂しさは闇のように底なしかも知れません。
そう思って、身につまされてしまったのです。
それはちょうとサン・テグジュベリの『星の王子様』のキツネのシーンを読んだときと同じような、身につまされ方でした。
ねえ、『星の王子様』にはキツネが出てくるでしょ。
そして、王子様が「淋しいから遊ぼう」と誘うと、キツネは、
「きみとは遊べない。なついてないから」と答えるじゃないですか。
「『なつく』ってどういうこと?」と王子さまが質問すると、キツネはこう答えます。
「それはね、『絆を結ぶ』ということだよ……」
「きみはまだ、ぼくにとっては、ほかの十万の男の子となにも変わらない男の子だ。
だからぼくは、べつにきみがいなくてもいい。
きみも、べつにぼくがいなくてもいい。
きみにとってもぼくは、ほかの十万のキツネとなんの変わりもない。でも、もしきみがぼくをなつかせたら、ぼくらは互いに、なくてはならない存在になる。
きみはぼくにとって、世界で一人だけの人になる。
ぼくもきみにとって、世界で一匹だけのキツネになる……」
「ぼくの暮らしは単調だ。
ぼくがニワトリを追いかけ、そのぼくを人間が追いかける。
ニワトリはどれもみんな同じようだし、人間もみんな同じようだ。
だからぼくは、ちょっとうんざりしている。
でも、もしきみがぼくをなかつかせてくれたら、ぼくの暮らしは急に陽がさしたようになる。
ぼくは、ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる。
ほかの足音なら、ぼくは地面にもぐってかくれる。
でもきみの足音は、音楽みたいに、ぼくを巣の外へいざなうんだ。
それに、ほら! むこうに麦畑が見えるだろう?
ぼくはパンを食べない。
だから小麦には何の用もない。
麦畑を見ても、心に浮かぶものもない。
それはさびしいことだ!
でもきみは、金色の髪をしている。
そのきみがぼくをなつかせてくれたら、すてきだろうなあ!
金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。
麦畑をわたっていく風の音まで好きになる……」
キツネはふと黙ると、王子様を長いこと見つめてから、こう言うのです。
「おねがい……なつかせて!」
そして、
「なつかせたもの、絆を結んだものしか、ほんとうに知ることはできないよ」
とも言います。
「きみも友だちがほしいなら、ぼくをなつかせて!」
このキツネの言葉がいちいち切なくて、涙が出るのです。
それは、サラだけじゃあないですよ。きっとあなただって。
メアリ・レノックスもきっと、このキツネと同じように淋しいし、キツネが王子様に言ったのと同じ気持ちで駒鳥に「お友達になって」と頼んだと思うのです。
わざわざメアリ・レノックスが頼むなんて、よっぽどのことです。
最近の「『秘密の花園』&バーネット」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- ジブリノート(2)
- ハル文庫(100)
- 三津田さん(42)
- ロビンソン・クルーソー新聞(28)
- ミステリー(49)
- 物語の缶詰め(88)
- 鈴木ショウの物語眼鏡(21)
- 『赤毛のアン』のキーワードBOOK(10)
- 上橋菜穂子の世界(16)
- 森について(5)
- よかったら暇つぶしに(5)
- 星の王子さま&サン=テグジュペリ(8)
- 物語とは?──物語論(20)
- キャロル・オコンネル(8)
- MOSHIMO(5)
- 『秘密の花園』&バーネット(9)
- サラモード(189)
- メアリー・ポピンズの神話(12)
- ムーミン(8)
- クリスマス・ブック(13)
- 芝居は楽しい(27)
- 最近みた映画・ドラマ(27)
- 宝島(6)
- 猫の話(31)
- 赤毛のアンへの誘い(48)
- 年中行事 by井垣利英年中行事学(27)
- アーサー・ランサム(21)
- 小澤俊夫 昔話へのご招待(3)
- 若草物語☆オルコット(8)
バックナンバー
人気記事