サラ☆の物語な毎日とハル文庫

江國香織の『デューク』

 

うちの猫が年のせいか

弱弱してきた気がすると言ったら

友人が教えてくれた短編。

「ペットを亡くした人が読んだら

きっと号泣するのよ」

 

毛皮を纏った大事な友を見送った経験はまだないけど

興味深いので、早速読んだ。

 

心に残る、忘れられない、いい短編だった。

 

タイトルは「デューク」

書き出しはこうだ。

 

歩きながら、私は涙がとまらなかった。二十一にもなった女が、びょおびょお泣きながら歩いているのだから、他の人たちがいぶかしげに私を見たのも、無理のないことだった。それでも私は泣きやむことができなかった。

デュークが死んだ。

私のデュークが死んでしまった。

私は悲しみでいっぱいだった。

デュークは、グレーの目をしたクリーム色のムク毛の犬で、プーリー種という牧羊犬だった。わが家にやってきた時には、まだ生まれたばかりの赤んぼうで、廊下を走ると手足がすべってぺたんとひらき、すーっとお腹ですべってしまった。それがかわいくて、名前を呼んでは何度も廊下を走らせた。(そのかっこうがモップに似ていると言って、みんなで笑った。)たまご料理と、アイスクリームと、梨が大好物だった。五月生まれのせいか、デュークは初夏がよく似合った。新緑のころに散歩につれていくと、匂やかな風に、毛をそよがせて目をほそめる。すぐにすねるたちで、すねた横顔はジェームス・ディーンに似ていた。音楽が好きで、私がピアノをひくと、いつもうずくまって聴いていた。そうしてデュークはとても、キスがうまかった。

死因は老衰で、私がアルバイトから帰ると、まだかすかにあたたかかった。ひざに頭をのせてなでているうちに、いつのまにか固くなって、つめたくなってしまった。デュークが死んだ。………

 

12月の街。クリスマスソング。

そういう背景の中で起った、泣きじゃくる女の子の短い物語。

 

心を持っていかれるとはこういうことかも。

短編の力ってすごい。

 

『つめたいよるに』という江國香織の短編集(新潮文庫)の冒頭に

掲載されている。

もし今すぐに読みたくなったなら、ここをのぞいてみて。

https://www.dclog.jp/en/3555881/429298508

 

どうやら、2001年のセンター試験で国語の問題として出題されたようで

ブログの主は高校生で、過去問を解いていて、この短編と出会ったようだ。

 

ちょっと考えたんだけど

この短編を設問としてセンター試験で出すのはどうだろう?

会場で読んだ高校生たちの中には感受性豊かな子もいるだろう。

泣いちゃったらどうするんだ。

問題を解かないといけないのに、その緊張感が妙にズレて

解答が間に合わなくなったり、しなかったのかな。

 

それに、こんな上質の短編を、設問で解剖してしまうのは

残念な気がする。

読書の出会いはいろいろだから、それもまたいい

のかもしれないけど

わたしは、いいとは思えない。

 

って、余計な話でした。

とにかくいい短編です。

 

江國香織については、

日本の小説はあまり積極的には読まないので読んだことなかったけど

300万部をこえたというベストセラー

『冷静と情熱のあいだROSSO』が一世を風靡。

直木賞受賞作家。

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