サラ☆の物語な毎日とハル文庫

メアリー・ポピンズ「時間と場所のなかに落ちてきた神話」←「鈴木ショウの物語眼鏡」

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  「時間と場所のなかに落ちてきた神話」
   メアリー・ポピンズ

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先月、片付けコンサルタントの近藤麻里恵さんがタイム誌の
「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたというニュースが飛び込んできた。
オバマ大統領、ドイツのメンケル首相、中国の習近平主席といった世界の政治家たちと
肩を並べて選ばれたのは、日本からは作家の村上春樹と近藤麻里恵さんの2人だけ。
「おやっ、阿倍首相は?」って、残念ながら日本の政界、経済界の人たちは、
世界に影響を与える活躍には至っていないということだろう。

で、30歳の片付け専門の女子が、世界に影響を与える?
たしかに彼女の書いた『人生がときめく片付けの魔法』はアマゾンの全米1位となり、
アメリカでも60万部以上が売れ、“こんまりメソッド”といって、さんざんもてはやされている、らしい。

そんな近藤麻里恵さんを、タイム誌への推薦文を書いた女優のジェイミー・リー・カーティスは
“Marie・Popions”と称している。
「メアリー・ポピンズ?」

ここでやっと本題に入るのだけど。
「メアリー・ポピンズ」と言うだけで、「なるほど、なるほど」とイメージが広がるほどにアメリカでは、
メアリー・ポピンズは認知度が高いというわけだ。
そりゃ、大方はジュリー・アンドリュースが主演したディズニーのミュージカル映画に負うところが
大きいかもしれない。
それでも「メアリー・ポピンズ」は確かに現代進行形で認知されているらしい。
2013年には名作映画「メリー・ポピンズ」(64年公開)の製作50周年ということで、
メリー・ポピンズの映画誕生秘話が映画化されたくらいだ。
ウォルト・ディズニー役にトム・ハンクス、
作者のP・L・トラヴァースの役にはエマ・トンプソンという豪華な配役だった。

さて、日本ではどうかというと、若い子に「メアリー・ポピンズ」と言っても、
映画のDVDを親から見せてもらった経験のある子どもたちを除いては、
「なに、それ?」と斜め見されるのがオチではないだろうか。

ハル文庫でも、積極的に読ませようと苦労している本の一つになっているらしい。

しかしこの本は、短編集だし、
指輪物語のように異世界で展開される壮大な物語ではないにも関わらず、
心躍るユニークなファンタジーである。
なにしろ、物語の舞台はロンドンのど真ん中なのだ。
ハロッズとは書いてないが百貨店も出てくるし、ケンジントン・パークとも
ハイドパークとも書いてはないが、人々が集う大きな公園も出てくる。
ロンドン動物園も出てくる。

シティの中で展開される妖精物語。
しかも、魔法がチラ見される。

ハリー・ポッターの舞台もはじまりはロンドンだった。
ハリー・ポッターの場合、ロンドン動物園の蛇がハリーと言葉を交わしたあと、
逃げ出すというシーンがある。
キングスクロス駅の9と4分の3番線から、魔法の学校に行くホグワーツ特急が出発する。
舞台はロンドンでも、そこは異世界への入り口。

メアリー・ポピンズの場合は、あくまでも舞台はこの現実世界。
魔法は向こうからやってくる。
……………………………………………………………………
メアリー・ポピンズは世界一有名なナニー(乳母)
……………………………………………………………………
イギリスには、1930年代当時、ナニー(乳母)という独特の制度があったのだが(別記☆参照)、
そのナニーの募集をみてやってきたのがメアリーポピンズだった。
風に運ばれるようにして登場したメアリー・ポピンズは、バンクス家のナニーとなり、
子ども部屋をてきぱきと気持ちよくきりもりする。
その登場の様子の不思議さからも察せられるように、ちょっとなぞめいた人物である。

やってきて早々、階段の手すりを下から上に滑って登ったり、
親には気づかれない魔法を子どもたちに惜しげもなくみせてくれる。
「なんだっていうんだ、今度の乳母は!!」

それからは驚きの連続。
「こんなナンセンスなことが本当なのか??」

でも、物語の中では、2人の子どもジェインとマイケルにとって、紛れもない現実なのだ。

イギリスの作家である著者のパメラ・リンドン・トラヴァースは、
「時間と場所のなかに落ちてきた神話」であるメアリー・ポピンズについて、こんなふうに話している。

★「メアリーポピンズは、妖精物語と同じ世界から出現したのだ…。」
「妖精物語について、長年考えをめぐらしているうちに、…私はこう考えるようになりました。
真の妖精物語は、神話から直接生まれ出たものだ、ということ、
それらは神話を小規模に再肯定すること、
あるいは地方の人々の素朴な心にかなうように変えられた神話なのだ、ということです。」

★「もちろん皆さんはこうおたずねになるでしょう
──本当に人々はいつでもそうだずねています。神話を発明したのはだれなのか、と。
そして神話は真実なのだとあなたは考えるのか? 
真実ですって?
真実とは何でしょうか?
私に関する限り、神話のなかのできごとが、実際に起ころうと起こるまいと、
そんなことはまったくどうでもいいのです。
起こらないからといって神話の真実性がそれだけ弱まるわけではありません。
というのは、何らかのかたちで、それらは常に起こりつつあるからです。
新聞をひろげさえすれば、そのなかには神話がひしめいているのが発見できるでしょう。
人生そのものが、絶えず神話を再生産しているのです」
(『オンリー・コネクト2 児童文学評論選』岩波書店)

こんなシーンがある。

メアリー・ポピンズの誕生日と満月が重なった日のことだ。
こどもたちはメアリー・ポピンズに伴われて、夜の動物園に出かけた。
(夜に親に内緒で外出するなんて、なんとワクワク魅力的な……)
そこでは誕生祝いの“くさり輪おどり”が行われ、ライオンとトリが、
トラとウサギが手をとりあって踊っていた。
ジェインは(ライオンがトリを見れば、必ず食べてしまうし、トラがウサギに会えば、
やはり食べてしまうに決まっているのに、どうして、みんなが仲良く踊っているのかしら)と疑問に思う。
それに対して、メアリー・ポピンズのいとこ(!)である動物の王、キング・コブラはこう答える。 

★コブラは、ものをいうたびに、細くて、先のわかれた恐ろしい舌を、
チョロチョロ、出したりいれたりしながら、話をつづけました。
「たべることも、たべられることも、けっきょくは、おなじであるかもしれない。
わたくしの分別では、そのように思われるのです。
 いいですか、わたくしどもは、ジャングルで、あなたがたは、町で、できていてもですよ。
おなじ物質が、わたくしどもを、つくりあげているのです
──頭のうえの木も、足のしたの石も、トリも、けものも、星も、
わたくしたちは、みんな、かわらないのです。すべて、おなじところにむかって、動いているのです。
 お子さんよ、わたくしのことを忘れてしまうことがあっても、このことだけは、覚えていてください。」
(『風にのってきたメアリー・ポピンズ』P.L.トラヴァース著・林容吉訳・岩波書店)
(コブラは「宇宙にあるものはすべて、同じように価値がある。星も木も動物も…、
そして、あなたも、わたしも。すべては、同じところに向かって動いているのだ」
と伝えているのだと思う。)

ナンセンスな物語の集まり。
だけど、神秘的で、含蓄があり、けっこう説得力もある。
読むほうは、納得させられたり、本当だったらいいよなと、うっとりさせられたり。
こういう物語はめったなことでは出会えない。
だから、大人の事情はどこかに仕舞い込み、無心になって読んでみるといいんじゃないかなと思う。
神話と妖精の世界を身近に感じられる。
あるいは、自分の身辺を見回して、どこにも物語の要素が無く、
魔法も神話も嘘っぱちだと感じるだろうか?
物語への感度を試されるファンタジーだ。

【見つけたこと】自分の現実生活にファンタジーの出現を実感できるか?
もし少しでも感じられるとすれば、自分自身の物語はもう始まっている。

☆ナニー(乳母)について
平凡社新書『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(新井潤美著)より。
「イギリスのナニーの黄金時代は19世紀半ばごろから、第二次世界大戦の始まるころだった。
ただし、『ナニー』という呼び名そのものが一般的になったのは、1920年代だと言われている
(それまでは『ナース』[乳母]と呼ばれていた)。
イギリスでは子ども部屋のことをnurseryと呼ぶが、
それは家の中で1つの独立した空間であり、ナニーがその支配者であった。
子どもは生まれたころからナニーの手に渡され、
食事からトイレの躾まですべてがナニーの手に任される。
ナニーは子どもたちと一緒に子ども部屋で寝て、朝起きると子どもたちの洗顔を手伝い、
服を着せ、朝食をとらせ、その後、一日中彼らにつきそう。
それもたんに使用人としてついているのではなく、テーブル・マナー、口のきき方、
身のこなし、部屋のあとかたづけなど、彼らの躾のすべてを行う。
つまり彼女たちは完全に両親の代わりとなるのである。」

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レディバードが言ったこと
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僕は、つい心に浮かんだままを言葉にした。
「すごくない? メアリー・ポピンズって、動物の王様、キングコブラのいとこなんだって。
すべての星の王である太陽ともすごく親しそうだしね。
メアリー・ポピンズの夜の外出日のために、星たちがサーカスを開くっていうんだから、すごくない? 
妖精の中でも、ものすごい実力者だね。」

「あのねぇ」とレディバードはドンと足を踏み鳴らしてこう言った。
(いけない、また機嫌を損ねちゃったのかな…)

「まちがっちゃいけないわ。物語のシマに身分の上下なんてないのよ。
王は王、家来は家来だけど、みんなそういう役割を担っているというだけ。
実際に、存在そのものに上下があるってわけじゃないの。
人間の目からすれば、スゴイと思っちゃうんでしょ。
でもね、メアリー・ポピンズはそういう役割の妖精ってこと。
私よりもスゴイってことはないのよ」
そう言うと、レディバードはニッと笑って僕にウィンクをした。
気取り屋のレディバードが、なんとまあ、めずらしい。

つまりレディバードが言いたいのは、上下とか、大小とか、価値をランク付けせずに、
そのまま受け入れる頭というか感性が必要ってことかな…?
僕はフムフムとうなづいた。

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