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サラ☆の物語な毎日とハル文庫

フランスの田園小説『愛の妖精』

コッス村のバルボおやじは、村でも羽振りのいい農園主。すでに3人子どもがいましたが、まだまだ養える余裕があるということなのか、いちどきに二人の可愛い男の子をもうけました。
二つっ子はお互いへの愛情が強すぎて育ちにくいと、周りはずいぶんと気を遣いますが、どっちにしろ二人は、とても仲の良い二子として成長していったのです。
兄はシルヴィネ、弟はランドリ。

さて、こんな調子で、田園の日向の匂いがたちこめそうな、のどかな雰囲気の中で、物語は始まります。

二子が14歳になったころ、弟のランドリは、隣村であるブリッシュ村のカイヨおやじの農園に、牛飼いの奉公に出ることになりました。
仲のいい二子にも変化のときが訪れたのです。

そして登場するのが、流行おくれのむさくるしい格好をして、色が黒いためにコオロギというあだ名で呼ばれている、男の子みたいな少女ファデットです。
自然の療法で村人や動物の病気を治す術を、おばあさんから仕込まれ、また、天賦の才もあって、傍目には魔法のように見えなくもない力をもっている少女。
野に生える花や草木の、薬草としての効き目を良く知っています。

さて物語は、最初はファデットをむしろ嫌っていたランドリが、いかにしてファデットに恋するようになったか。
シルヴィネがいかに嫉妬に取り込まれるか。
ファデットが、“みにくいアヒルの子”から、いかに村いちばんの聡明で美しい女性に変身していくかが、決め細やかな筆致で描かれています。

ランドリは、ファデットに二度も困っているところを助けてもらい、聖アンドッシュのお祭りの日に、ブワレという踊りを7回踊る約束をさせられます。
そして、祭りの日。
ランドリ、シルヴィネ、ランドリがほのかな思いを寄せているマドロン、ファデット、そして村の青年たちが登場し、いまにも聞こえてきそうな祭りの音楽やにぎやかさの中で、物語はスピード感をもって展開していくのです。

《地割れ》《丸石の浅瀬》《荷車道》《うさぎの十字架》《あしっぱら》《くだもの畑》《ジャコの塔》《石切り場》と、村の人が言い習わしている場所の名前がいろいろ出てきて、ついつい田園風景の中に自分がいるような気分に。

物語の世界にどっぷり浸かって、一気に読み進み、後にはすがすがしい読後感。
読めばきっと好きになるに違いない!
ずっと大切にしていきたくなる、きらきらした物語です。

(『愛の妖精』ジョルジュ・サンド作 1848年刊行の作品。中公文庫・岩波文庫で読むことができます。)

コメント一覧

サラ
そういう話も…
>リリーさん



ファデットはジョルジュ・サンドの少女時代の自伝的な投影だと言う人もいるようです。

でも、わたしは少し違うと思います。ジョルジュ・サンドは貴族の出身なので、村の娘として描かれているファデットとは、ずいぶん境遇が違うと思うからです。

ただ自由な気持ちのもちぬしという部分で共通するのだと思うのですが。
りりー
「impromptu」

(ジョルジュサンドとショパンの話し)

最初の方に、サンドの少女時代の様子が出てきますが、ファデットを記述したような感じですね。
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