ヘニング・マンケルの訃報を聞いたのは2015年の秋。
3年前のことだ。
そのあとに訳出された、スウェーデンの警察官、
クルト・ヴァランダー・シリーズの最新刊が
この『ピラミッド』
「ヴァランダー・シリーズが刊行される以前の
ヴァランダーのことが知りたい」
そういう読者の要望に応える形で
著者が編纂した短編集だそうだ。
といっても、この『ピラミッド』の刊行は1999年。
ずいぶん前の話。
日本にヘニング・マンケルが紹介される前に
すでに本国スウェーデンで出版されていたことになる。
(日本での刊行はずいぶん出遅れていたということ。
シリーズも終盤になって
海外の評判を聞いた出版社が翻訳出版に動いたということかなー)
最初にヘニング・マンケルの第1作『殺人者の顔』が
日本の書店の棚に並んだのは
2001年だ。
『殺人者の顔』のヴァランダーは42歳で、
妻のモナとの離婚が成立したばかりだった。
娘のリンダは自分から離れ、
父親とは、週に何回もだから、ずいぶん頻繁に会っている。
父親はヴァランダーが警官の職業についたことに
反感を抱いていることも、
同じモチーフのワンパターンな絵柄を書き続けている画家であることも
最初に語られる。
そして同じく冒頭の部分で、
23歳のまだ若い警官だったとき
ナイフで心臓のすぐそばまで深く切り付けられたことを
語っている。
『ピラミッド』は、まさに23歳のときに
ナイフで切り付けられた事件から語り起こし、
『殺人者の顔』の直前まで
ヴァランダーの時間軸の物語を
5つの短・中編で構成したもの。
ヘニング・マンケルが亡くなったいまとなっては、
読者にとってなつかしい、とても懐かしさを感じる
短編集だ。
そうか、そうだったかと、ときどき思いながら、
クルト・ヴァランダーの人生をたどる。
そういう興味深い読書の時間だった。
ヴァランダー・シリーズは
あと2冊、翻訳されずに残っている。
ノン・シリーズは数十冊もあるらしい。
これからもヘニング・マンケルの新訳が出るのを
楽しみに待っていたい。