村上春樹の『1Q84』を軽く揶揄し、伊井直行の『ポケットの中のレワニワ』を推奨する小文。
以下は、そこからの引用の引用。
「思わせぶりばかりで、最後まで読んでもスッキリしない。
『1Q84』で疲れた気分をある意味では浄化してくれるような読後感があった。
在日ベトナム難民の女性と付き合う日本人の派遣社員の物語である。
二人が出会ったのは小学校、大人になってから再会し、好意を抱き合っているのだがなかなか結ばれない。
このあたりが『1Q84』のストーリーと重なっている偶然も興味深い。
在日外国人、派遣社員、引きこもり、による今日の下流問題が浮かび上がる。
レワニワなるベトナム生まれの怪物が登場する超自然的展開も『1Q84』といい勝負だ。
作品の完成度では勝るとも劣らぬ『レワニワ』にもっと光を、 と声を大にして言いたい (サーチライト)」
はははっ。「思わせぶり」という表現に、サーチライト氏の困惑がよくわかります。
『1Q84』の終わり方が中途半端と感じた人は多いと思う。
結局、引き金を引いたのか引かなかったのか。
ええっ?
(私は引かなかったに一票。)
そのフラストレーションは、続編を読まなければすっきりしない。
もし、これで終わりだとしたら、村上春樹の力量もこれまでかっ、と腹立ち紛れに本を投げたくなる。
物語世界を立ち上げておいて、収束する責任はあなたまかせ。
そりゃ、才能の限界かといわれても仕方がない、と憤りを感じた読者も多いはずと、私は見込んでいます。
しかし、『1Q84』の続編が出るのですよ。
現在執筆中だとか。
村上春樹氏によると、
「B00K1、2を書き上げたときは、これで完全に終わりと思っていたんです。
バッハの平均律をフォーマットにしたのは、もともと2巻で完結と考え、そうしたわけです。
でもしばらくして、やっぱり3を書いてみたいという気持ちになってきた。
これから物事はどのように進んでいくのだろうと。
時期的にはなるべく早く、来年初夏を目安に出すことを考えています(毎日新聞9月17日)」
完結と考えたところ、作家の傲慢さがちょっとにおうように気がするけれども、違う、誠実に物語をつづっていった結果、終わりと思っていたのが、始まりだった。
そういうことなのだと思います。
1、2は序章に過ぎなかった。
なんてことも…。
『BOOK3』だけでは終わらず『4』まで行く気もするのですが…。
さて、『レワニワ』ですが、実際、物語を構成する要素が、『1Q84』と『レワニワ』は、よく似ています。
サーチライト氏があげた以外にも、主人公の男にセックスのためのガールフレンドがいること。
そのガールフレンドが死んでしまうこと。
主人公の男が、フリーター、あるいはフリーターに近いこと。
「女の子が手を握る」ことにこめられた意味。
要素は似ているけれど、似ているのはそこまで。
物語世界は、まるで異質です。
『レワニワ』は面白いし、たしかに読後の清清しさもあるけれど、『1Q84』と比較されたら、かえって迷惑かもしれません。
どちらも今年の5月に刊行されています。
『レワニワ』と『1Q84』の間に共通点を見出したのはサーチライト氏だけなのでしょうか。
『レワニワ』講談社の編集者は、『1Q84』新潮社を読んで、「ちょっと似てないか、ええっ?」と驚いたのでしょうか?
興味深い。
私自身は、この二冊を何の前知識もなく読んだとして、共通点が多いと思ったかどうか疑問。
別の物語として、それぞれに読んだのではないかと思います。
そして、村上春樹の本は投げたくなり、『レワニワ』のほうは、やがて、かすかな温もりを残して、記憶の引き出しの奥深くにしまいこんでしまったのではないでしょうか。
それにしても、『1Q84』に続編が出るというのは、嬉しいですねぇ。
つづきがどうなるのか、絶対に知りたい。
村上春樹の本当の力量が、それでわかると思います。
こうして考えてみると、読者って、相当に厳しいですね。
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