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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 19 >

2013-03-30 08:37:14 | 『日常』



それから、フルカと再開するまでの半年で3隻の船が完成した。
今は人員も増え、作業にも慣れて、あと半年以内には8隻すべてが完成する予定であった。

ファロウとそれを見上げながら、カズールは

「容れ物はできたので、次は人々ですね。」と言うと、ファロウは
「それはわしら儀礼神官のネットワークでやって行こう。」と言って
「技術神官だけに仕事奪われては、わしらの出番が無いからな。」
と付け加えて笑った。
人と技術のすべてを管理しているのがこのファロウで、船を作る部分を管理しているのが、トエウセン。そして、人のほうを管理しているのがカズールという感じになっていて。
そこから、様々な人々のネットワークが出来上がっている。

カズールは、政治犯の収容所でもネットワークを作り上げ。辺境の地域は元儀礼神官達のネットワークで、「終末論」が語られるようになってきた。
「大陸はもう寿命が来ている。この国から出て、新しい土地で新しい生活を始める事も流れではないのか?」という感じの内容で。

最初、誰もそれを信じなかった。
粒子技術についての明るい展望が見えているのに、なぜこの国を出る必要があるのか。
という感じで。

しかし、フラワーズ事件についても真相が語られるようになってくると、一部の人々は真実の話を知りたいと思い、カズール達の元にやってくるようになってきた。

カズールや儀礼神官達は、それぞれで地下のトンネルを活用して、
様々な町に現れて「国を出て新しい土地で生活する事も可能」という事を人々に伝え歩いていた。
それに反応したのはごく一部の人々であったが。

シェズにもそういう動きがある事が耳に入ってきていた。
しかし、それほど組織的な力もなさそうなので、最初はその動きを無視していたのだったが。

しかし、国中に小さな小さな疑惑の種がまかれている間はそうでもなかったが、それが目に見えるように育ってくるとどうしてもその元をつぶす必要がでてきて。
「政治犯カズール」の逮捕状が出るようになってしまった。

アレスはそれを聞いて驚き、そして怒りを覚えた
「カズールは、何を考えているんだ。国を捨てて逃亡することが、それが最良の選択なのか?国をより良くしようという意識は無いのか。」
と。
アレスは粒子技術が、もう少しで動く手ごたえを感じていた。
あとすこしで、理想の社会に近づく事が可能となる。
なのに、なぜ今になってカズールはあのような動きをする。

とはいえ、カズール達の動きは小さなものであったので、まだまだ国勢を覆すほどはなかったが、目につくようにはなっていた。




そして、フラワーズ達の事件があってから一年以上が経ち。
粒子の動きも完全に把握でき、それを一定のパターンで操れるようになってきて。
ついに、アレス達の作りあげた、新しい粒子技術が世の中に公開される日が近づいてきた。



新しい世界の始まりであり、そして、それは終わりを意味する出来事でもあった。



その頃、カズールは軍に追われ、あらゆるところで警戒されていた。
現れる度に軍が駈けつけるが、そこではいつの間にか姿を消して。
そして翌日には他の町に現れて、また国からの脱出を説く活動をしている。
それに賛同する人々はごく少数であったが、その話を聞く人はそれ以上存在していて。
粒子技術に対しての不信感を持たせるのには十分な動きであった。

カズールがあらゆる町にいきなり出没しているので、影武者説や幽霊説まで出るようになってきていた。

軍の諜報部によると、行動、姿など確認される限りでは、すべて同一人物であることが証明されている。
ただ、その出現するパターンが把握できていない。

アレスはその報告を読んで、目の前にいる秘書のロールンに資料を投げ渡した。
ここはアレスの家。
ロールンはアレスの家にも出入りするようになり、二人は共に時間を過ごすことが多くなってきていた。

フェールとカズールの代わりをロールンに映し出しているだけではないのか。
とアレスは思う事もあったが。今の自分を支えてくれる、1つの杖を失いたくも無かったのだ。
関係はより親密なものになり。
ロールンは公私ともにアレスのパートナーとなりつつあった。


ロールンはお茶を入れながら、アレスのほうった資料を見る。
そこには詳細な観察記録と、カズールの危険性についての詳しい報告が書かれていた。
シェズがロールンを通じてアレスにわたしたものであったのだが。
アレスは
「カズールは一体何をしたいのだ。」
と天井を見てつぶやく。
元技術神官達の幾人かが、不審な動きをしているのも確認されている。
諜報員が調べても、その動きははっきりとしない。忽然と消えるかのように姿が消えている。家族すらもその動きを把握していない様子であった。捜索願いが出されている人間も複数いるくらいだ。
長いあいだ行方不明になっている大勢の人物。
そのリストも資料に付けられていたが、昔は遺跡発掘の名人と言われていたトエウセン、労働者階級ながら、高い技術力を持っていたハルツ。他にも儀礼神官ファロウなど。
アレスも知っている名前がいくつも並んでいる。
他にも数百名。労働者階級側でも、消息不明になる人々が増えていて。
大体何かの技術的なことをやっていた人々が主だった。
家族ごといなくなるケースも多々ある。
労働者階級には戸籍のないものもいるので、この何倍もの人間が何かを動かしている可能性がある、と報告書には書いてある。

これだけの人間が消息不明になっている事も謎だが。
技術者が多いというのが気になる。何か反社会的な行動を画策していなければいいのだが。
アレスはそんな心配をしていた。

このまま軍に捕まって、収容所の農園に送られてしまっては何もできないだろう。
あれだけの才能と能力を持っていのだから。これからの粒子技術についても発展させられそうなのに。

いっそ、全員が自分のところに戻ってきてくれればどうにでもできるのだが。

と考えていると、

ロールンはお茶を手渡しながら、
「今はそれほど影響力もないので、シェズ議長もそのまま放置しているみたいです。」
そして、
「シェズ議長が言ってました。もしも、今後稼働実験でまた前回のような失敗が起こったら、カズール達一派に責任を取ってもらおう。という事を。だから、たぶんカズールさん達は粒子実験が失敗しない限りは積極的に捕まらないという事のようです。」

それは、アレスが失敗すれば、その責任を取ってカズール達が処罰されると言う事か。
以前の反政府勢力は、まったく粒子の暴走と関係なかったのに、全員が処刑されている。

この国では、いつの頃からか死刑がとり行われるようになっていた。
粒子を稼働させることで失敗して、カズール達が捕まった場合。それはカズールの死を意味する。

ということは、今回の実験を失敗するわけにはいかないということか。
そうすると、次はカズールを永遠に失う事になってしまうのか。

手に取ったロールンの入れたお茶を飲むと、あの頃の3人の姿が蘇ってきた。

アレスは目を閉じて、しばらくその思い出に浸っていた。
暖かい日差しの降り注ぐ中で交わされる、何気ない会話と笑い声。


もう、あの頃には戻れないか・・・。





・・・・・・・・・・・・・・

シェズは翌日、ロールンを呼び出していた。
「どうだい?アレスは。」
ロールンは昨日のやり取りを入れた録音装置を取り出し、
「どうやら、カズール達についての情報は、本当に何も持っていないようです。」
「そうか、アレスはカズール達とつながってはいないのだな。」
少しシェズがホッとする感じがあった。人前で虚勢をはっていても、一人の人間であることには変わりない。
特に、トップに立つと周囲はすべて敵になってしまう。
アレスも、今は順調に仕事をしてくれているが、いつ自分を裏切るか分からない。
その不安感があって、シェズはロールンをアレスに付けていた。
そして、常にその動きを監視しているのであった。

ロールンによる報告には、アレスがシェズに対して反逆するようなそぶりはまったく無いので、シェズはこのまま、さらにアレスを利用して粒子技術を稼働させようと思っていた。
そして、「友人が人質になっているようなものだから。さらに頑張ってくれるだろう。」とロールンに言う。
今回失敗したらカズール達が捕まってしまう。と言う事をロールンに言わせたのは、それを聞いてアレスがさらに真剣に取り組んでくれるであろう、という事も考えての事であった。
そして、実際にアレスはそれを考えていた。
ただ、本当にカズール達の行動パターンが読めないので。そこを早く押さえて拠点を調べておく必要があったが。それが一向に進まない。

まあ、いい。どちらにしろ、失敗しなければ良いだけの話だ。
「今後も、我々がカズールをいつでも捕まえられるようになっている、という情報をアレスに送り込んでおいてほしい。」
とシェズはロールンに言った。まだアレスにプレッシャーを与えて、そして粒子技術の完成度を上げようという魂胆であった。

ロールンは部屋を出て、深いため息をついた。
自分は何をしているのだろう。

アレスと恋人のようになってしまっているが。
その心には死にわかれた恋人の姿がそこにあり。
友人からも離れて、孤独に世界を変えるために動いているアレス。
そして、もともと人を信じられないような生き方をして、孤独を自分で作り出しているシェズ。

二人は似ているところもある。そして、互いにそれを感じているところもある。
ロールンは、その二人の関係を結びつけておく1つの紐の役割を持っていた。
アレスがシェズを利用し、シェズもアレスを利用する。
その間にあるのは利害関係であり、信頼ではない。
しかし、信頼のような利害関係を保持できれば、互いは関係を良好に保てる。
そして、その関係が、二人には重要である事。

それをロールンは理解していた、
最初、シェズにこの仕事を言われた時は、余り乗り気では無かったが。
今では互いの間をつなぐ紐としての役割を、重要なものと感じるようになっていた。
この国を変えるためには、この二人の関係を壊させてはいけない。

なので、報告に関しても、そしてアレスに伝える事も、
その中で判断して行っていた。

粒子技術を復活させるために。
そして、自分のような女性を作らないために。

ロールンは、フェールと同じように、容姿の良さで労働者階級から支配者階級に買われ、そして買った本人達の気分で取り扱われ。
結果自分を買った人物の死により、やっと自由になった。

そして、今のような地位に上がる事もできた。

粒子技術の復活により、世界を変える。
それは、ロールンの夢でもあった。
だからアレスとシェズの関係を保っておきたいのだった。

自分の夢をかけられる人に出会えたのは、幸福なのではないだろうか。
窓の外には無数の街の灯りが見えている。運河のむこうにある労働者階級の地域にある無秩序な灯りを見て、
ロールンは今の自分にできる精一杯を行うことを決意した。

まだ、自分にはできることがあるから。




・・・・・・・・・・・・・・

「移住に賛同しそうな人間は、何人くらい集まりそうだ?」
地下の船の格納庫でファロウを中心に、主要なメンバーが集まって会議を開いている。
といっても、作業場の片隅に箱を並べただけの簡単なテーブルに、床に座っているという、労働者階級なみのやり方で。
この格納庫での作業では、労働者階級も支配者階級も無く。皆同じように働き、同じように意見を交わしていた。
なので、この会議の時も、自分で飲むお茶は自分で入れて用意していた。

カズールが資料を配って説明する。

あらゆる町と地域に出向いて話をして。
それで反応がありそうなのはごく一部であって。
人口の、5%くらいが興味を持っている感じではあるという事であった。
興味をもっていても、実際に行動するのはその半分くらいだろう。ということで。

「となると、船は最低5隻、できれば8隻は欲しいな。」
「あの箱舟級で8隻か?」
とハルツ。
「箱舟級を作るには時間が不足しそうだ。あの余っている宇宙船に動力だけくっつけてとりあえず水に浮かぶ船にしてしまえばいいだろう。」
とトエウセンが言うと
「動力をくっつけるだけでも一苦労だ。あの形で海に浮かべたら、そのまま方向が取れずにくるくる回ってしまうだけだ。」
とハルツが反論。
結局、とりあえず人が乗れれば良いだろう、ということで、緊急用の脱出船として、宇宙船の中身を抜いて移動用の「カプセル」として使えばもっと多くの人を乗せられるだろう。という話にもなっていた。
箱舟級の船にロープで引かせていけばいいのではないか?とかでは、それようのひっぱるボートを作ればいいのではないか。などいろいとろ意見が出されていた。

予定の収容人数は3000人。しかし、できれば当日の飛び込みも含めて10000人は乗れる計算で組んでいきたい。
という感じで、会議は終了。そして皆は現場に戻った。
作業員はすべてバンダナを身につけ、船の設計図は情報粒子から読みとる。
ならば、会議も情報粒子を使えばいいのだが。これは書き込みと読みとり、の双方の能力が必要になるので、ここはまだできていない。

今復活させようとしている粒子技術も、どちらかというと「読みとる」側の内容が多く、書き込むにはまだ至っていないような雰囲気である。
それが完成したら、たぶん実際に動き始めるのだろうが。

しかし、粒子に書きこむ情報を皆が共有したとき、そこに何が起こるのだろうか。

個人の心の中が具現化して、前回の事故は起こったのならば。
個人の情報が全員で共有したときに、それが具現化した場合にどうなるのか。

それが心配であった。
個人の心の中に抑え込まれている段階では外に影響はないが。それが形として姿を現した場合。
果たしてどうなるのか。

その時のために、船には粒子を排除する仕組みも入っていて。
その日、何かが起こったときにはすぐにすべてを動かせる状態にしておく必要がある。

それを考えると、作業をモット早く進めて、もっと多くの人々に脱出という選択肢と、粒子についての話をしていかねばならない。

カズールはそれを強く思っていた。










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