みなさん、こんにちは。
最近「π(パイ)」という、ピタゴラスの黄金比やダビンチの作品にも描かれる黄金螺旋、カバラ数秘術のなかに、万物の(神の)法則を見出し、自らが狂気に向かう恐怖と闘いながら、それを求めようとする数学者の話…」といった内容の映画を観たんですが、この時ちょうど今回ご紹介する本の冒頭部分を読みまして、そのなかに、チェスタトン「正統とは何か」の、
「詩人はただ天空を頭に入れようとする。ところが論理家は自分の頭の中に天空を入れようとする。張り裂けるのが頭のほうであることは言うまでもない」
という言葉が紹介されていて、
何だか自分の脳みそには難しすぎる本ばっかり読んで、知恵熱でちゃわないかな~…なんて少々心配になったりもしたんですが
、どうもここのところこういう本がマイブームになっちゃってまして、やっぱり面白かったのでちょっとご紹介を。
「パラレルワールド~11次元の宇宙から超空間へ」(ミチオ・カク著)です。
以前「エレガントな宇宙」(ブライアン・グリーン著)という本をご紹介しましたが、この本もベースになる考えは同じく「超ひも理論」及び「M理論」です。
くまの印象としましては、「エレガントな宇宙」よりももう少し専門的な部分まで書いているようで、故に少々難しさが増した印象もあるのですが、「スタートレック」や「マトリックス」「ターミネーター」等の有名なドラマや映画、「タウ・ゼロ」や「永劫」といったSF小説、詩人や哲学者などの格言や、果ては宗教の話まで、例えが多岐にわたりまた機知に富んでいて面白く、読ませ方がとても上手いです。
また後半まで読み進んでいくと、上記のフィクションを超えるような、現実の物理法則を元に仮定した奇想天外な未来(例えばビッグフリーズという「宇宙の死」から逃れる為に、全人類の情報を原子サイズのナノロボットに搭載し、ワームホールを抜け新しい並行宇宙へ旅する…!などといったこと)も紹介され、SF好きな方なら興奮間違いなしの内容!とお奨めできます。
以下のくまの「興奮ポイント」は、また長くなっちゃいましたので、どうぞ読み飛ばしてやっておくんなせい。
「回転するブラックホール」(カー・ブラックホール)を使ってワームホールを通り、並行宇宙に行けるか?…通路の安定性がはっきり分からない。
各タイムマシンの検証
ファン・ストックム(無限に長い亜光速以上で回転する筒のそばを回る)…無限に長い物体を作ることなど物理的に不可能。
クルト・ゲーデル(宇宙が回転しているとしてその周りを回る)…宇宙は回転しておらず、膨脹している。
リチャード・ゴッド(衝突しかけている二本の「宇宙ひも」の周りを回る)…莫大なエネルギーが必要。
キップ・ソーン(量子の泡からワームホールを取り出し、反重力を持つ「負の物質」またはカシミール効果などによる「負のエネルギー」で広げて安定させる)…負の物質は未発見、負のエネルギーは希少で生み出すのが難しい。
タイムパラドックスの解決策の検証
「パラドックスが起きないように行動することを余儀なくされる」(自己無矛盾説)…自由意志を持たない無生物が起こすパラドクスや「バタフライ効果」の問題。
「可能性のある全ての量子論的な世界がある」(多世界理論)…「猫が生きていると同時に死んでいるという状態」(シュレディンガーの猫)の問題。
シュレディンガーの猫の問題について、二つの答えを検討する。
「観測と言うプロセスが電子の最終的な状態を決定する」(観測問題)という、
コペンハーゲン解釈…これには存在を確定する意識を持つ観測者もまた観測されねばならない(ウィグナーの友人)という新たな問題が起きる。
これに答える「干渉性の消失」とは、現実世界では、物体は環境と相互作用し、波動関数が攪乱されるため、同期しなくなって分離する、という考えであるが、自然は収縮する状態をどう選択するのか、という更なる疑問が生じる。
そこで選択するのではなく、
エヴェレットの解釈…と呼ばれる、「どの量子的な転機においても宇宙は分かれ、果てしなく分岐し続ける」(多世界理論)が生まれた。
そのような並行世界は、ラジオをつけると一度に一つの周波数の電波しか聞こえないように、干渉性の消失によって、通常相互作用できなくなるのだと考えられる。
(この「シュレディンガーの猫」の問題に対し、ホイーラーは別の説明「ビットからイット」を考えた。つまり宇宙の情報が観測された時に宇宙の物質が出現した(参加型宇宙)という見方である。)
量子コンピューターの可能性…大量の原子を干渉状態で振動させるために、途方も無くクリーンな条件が必要。
量子テレポーテーションの可能性…EPRパラドックス(アインシュタイン、ポドルスキー、ローゼンの提案した実験。パラドックスとは、元々は不確定性原理が破れること、また量子力学が非局所的であることを明らかにし、量子論の誤りを立証しようとして考案された実験だが、情報が光よりも早く伝わるように見えることに対する特殊相対性理論にも反するように見えるというところから、そう呼ばれる)
という、
例えば相関のある二個の電子が爆発により反対方向に何光年も飛んでいったとして、相関関係にあるスピンの向きが、片方が分かることによって即座に分かる(強制される)現象(ある意味宇宙の全ての物質はビックバンという一度の爆発で生まれたのだから、我々の体の原子は宇宙の反対側にある原子となんらかの量子的ネットワークのなかで結びついている、と言える)
を利用することが考えられているが、…測定するスピンがランダムに決まることから意味のある情報を伝えることが出来ないということや、量子コンピューターの問題と同じ、対象となる物体が干渉性をもつために環境からクリーンでなくてはならないこと、また人間をテレポートするには莫大な情報量の問題が生じる。
量子力学を単独の光子ではなく宇宙全体に当てはめよう(宇宙の波動関数)という考え(ホーキング)。
重力が他の力よりずっと弱いと言う理由として、M理論から、
仮に宇宙が5次元世界に浮かぶ3ブレンだとして、3ブレンの面の振動が原子に相当する。
振動は3ブレン上の現象なので、第5の次元へ漂い出ることはない。
我々は5次元に浮かんでいるが、体が3ブレンの面に貼りついているから第5の次元へは入れないのだ。
しかし重力は空間の曲率にあたるため、5次元空間全体に行きわたり、結果重力は弱まる。
という考えがある。
しかしこの場合、重力は弱まりすぎてしまうので、第5の次元は我々の宇宙のすぐ上に1ミリメートルの距離で浮かんでいるのかも知れないという考えもある。
こうした考えから、超空間の湾曲によって生じる重力は並行宇宙の間を飛び越えて別の宇宙を引きつけている、つまりダークマターは並行宇宙の存在による可能性が出てくる。
ビッグバンはひとつの宇宙が芽吹いたのではなく、二つの並行ブレン宇宙が衝突した結果起きたのかも知れない。(ビッグスプラット)
衝突の反動で二つの宇宙は分かれ離れるにつれ急激に冷え、密度が千兆立方光年に電子1個という事実上空っぽの空間になり、それでも重力は二枚の膜を引き付けつづけ、やがて再び衝突を起こし、また最初からサイクルが繰り返される。
近年、衛星WMAPで明らかになった宇宙像によれば、謎めいた反重力(ダークエネルギー)が宇宙の膨脹を加速しているらしい。
ダークエネルギーの量の尺度となる宇宙定数を「Λ」(ラムダ)とあらわし、宇宙に存在する物質の平均密度を示すパラメータを「Ω」(オメガ)とするとき、Λ=0として、Ωがある値より大きいと宇宙は終末に「ビッグクランチ」を向かえ、小さければ「ビッグフリーズ」に至り、等しければ宇宙は平坦になる。
「Λ」はこれまで0と考えられてきたが、WMAPで得られたデータでは、「ビッグフリーズ」が支持されるようである。
しかし「ビッグクランチ」にしろ「ビッグフリーズ」にしろ、まるで世界各地の神話に既に描かれているような、凍てつく寒さや破滅的な高温という天変地異や宇宙の死までもを、知的生命はその創意工夫の力によって生き残れるのだろうか?
ビッグフリーズが起こると仮定して考える。
観測可能な宇宙に莫大な数の星々があることから、天文学者は他の惑星系にも知的生命が生まれる可能性を支持している。
だかどんな知的生命も、様々な「宇宙の試練」に出くわす羽目になる。
多くはその生命自身を原因とする「環境問題」「惑星の温暖化」「核兵器」などだ。
また恐ろしい自然災害に直面し、破局を迎える場合もあるだろう。
この先数万年という時間尺度で考えれば、間氷期が終わり再び氷河期が訪れるかも知れない。
地質学者は、地球の自転のわずかな変動の影響が積もり積もって、ジェット気流が極地の氷冠から低緯度地方へ下り、地球は氷雪に覆われると考えている。
そうなったら我々は、暖をとるのに地下へもぐらなければならないだろう。
数千年から数百万年という時間尺度になると、隕石や彗星の衝突に備えなければならない。
過去の衝突の頻度から考えると、今後50年以内に世界的な被害をもたらす小惑星の衝突が起きる確率は十万分の一になる。
数百万年では、その確率はほぼ100%になるだろう。
数十億年の時間的尺度では、太陽が地球を呑み込んでしまう事態を心配しなければならない。
生物は、灼熱の太陽から必死に逃げようとし、短期間のうちに地球上の進化の流れを逆行し、海へ戻って行くだろう。
そしてついには海そのものが沸騰し、我々の知る生命は存在できなくなる。
およそ50億年以内に、太陽は赤色巨星に変貌し、水星と金星は呑み込まれ、地球の山々はドロドロに溶け、あとは燃えかすとなって太陽の周りを回り続ける。
こうなる前に人類は、巨大な宇宙の箱舟で他の惑星へ移住しているかも知れないが、高度なテクノロジーで地球を太陽からもっと遠い軌道に動かせるはずだ、という考えもある。
手だての例を挙げれば、小惑星帯から身長に小惑星の軌道をそらし、次々と地球の周りを通過させる、というスイングバイ効果によって、地球は後押しを受け、太陽から遠のく、というものがある。
しかしこの太陽も、赤色巨星として7億年ほどヘリウムを燃やし続けた後、重力で押しつぶされて白色矮星になり、やがて冷え、最後には真っ暗になり、空虚な宇宙空間を核の燃えかすとして漂うことになる。
さらに時が進むと、宇宙の星々のエネルギーは使い果たされ、たとえ地球がまだ無傷でいたとしても、地表は一面の氷となり、知的生命は新たなすみかを探さねばならなくなる。
巨星に比べて赤色矮星は何兆年も燃え続ける。
だから地球を赤色矮星の公転軌道へ移すということも考えられる。
地球から最も近い赤色矮星は、プロキシマ・ケンタウリで、わずか4.3光年の距離にある。
しかしいつかは赤色矮星さえも最後を迎える。
そしてブラックホールがゆっくりエネルギーを蒸発させるのが、唯一のエネルギー源となる世界が訪れる。
寿命に近づいたブラックホールは、ゆっくりと放射を漏らした後で、突然爆発する。
しかし知的生命が、蒸発するブラックホールの発するかすかな熱を囲んで集まり、完全に蒸発するまでわずかなぬくもりを得るということも考えられるだろう。
ついにはあらゆる熱源が使い果たされた暗黒時代に入る。
宇宙はゆっくりと究極の熱的死へ向かい、温度は絶対零度に近づく。
原子はほとんど動きを止め、ときおり陽子までもが崩壊し、宇宙には、電子と陽電子が追いかけあうように回る、ポジトロニウムという新種の「原子」が散在するようになるかも知れない。
この新種の原子が、暗黒時代の知的生命を作り上げる新たな構成要素になりうるのではないかと考えた物理学者もいる。
しかし暗黒時代のポジトロニウムの原子は、現在の観測可能な宇宙より何百倍も大きいと考えられる。
あまりにも大きい為、かかわる化学反応は長大な時間を要し、我々の知るどんな反応とも全く違うものになるだろう。
このような暗黒時代の宇宙を知的生命が生き延びる可能性について、議論は二つの問題に集中している。
ひとつは「温度が絶対零度に近い状態で、知的生命は必要な機械を動かせるのか」という問題だ。
熱力学の法則によれば、エネルギーは高温から低温へ流れるので、このエネルギーの動きを機械的な仕事に利用できる。
しかし暗黒時代の宇宙では、どこの温度も同じだ。
ふたつめは「知的生命は情報をやりとりできるのか」だ。
情報理論では、送受可能な情報の最小単位は温度に比例する。
温度が絶対零度に近づくと、情報の処理能力も酷く低下するのだ。
物理学者のフリーマン・ダイソンらは、この点を改めて検討した。
宇宙全体の温度が下がり出すと、初めに生命は遺伝子操作によって体温を下げようとするだろう。
こうして減りゆくエネルギーを効率的に利用できるようになる。
だがいずれは、体温が水の凝固点に達し、この時点で知的生命は血と肉でできたもろい体を捨て去り、ロボットの体を受け入れなければならない。
しかし機械も情報理論と熱力学の法則にはしたがわざるをえないので、やがてはロボットでも生命の維持は困難になる。
そこでロボットの体を捨てただの意識になったとしても、まだ情報処理の問題に直面する。
生き残るすべは「ゆっくり」考えることになる。
ダイソンは、情報処理にかける時間を増やし、さらにはエネルギーを維持すべく休眠状態に入って、永久に考える事が出来るだろうと言っている。
思考して情報を処理するのに必要な物理的時間が数百億年いなっても、知的生命自身にとっての「主観時間」は変わらない。と言うのだ。
知的生命がゆっくり考えるようになったら、宇宙規模の量子的な遷移(ベビーユニバースの誕生や別の量子的な宇宙への移行など)を目撃するかも知れない。
しかし宇宙の膨脹が加速していると言う最近の発見を元に、物理学者はダイソンの結論を見直し改めて議論を行い、「知的生命は加速膨脹する宇宙で滅びざるをえない」という結論に達した。
ダイソンは当初の考察で、2.7Kという宇宙マイクロ波背景放射の温度は永久に下がり続けるはずなので、知的生命はこのわずかな温度差から有用な仕事を取り出せると考えていた。
ところがクラウスとスタークマンは、宇宙定数があると、温度は永久に下がるわけではなく、最後に下限(ギボンス-ホーキング温度、約10-29K)に達し、全宇宙が一様な温度に達するため、どんな情報処理もできなくなる、と指摘した。
1980年代、液体中のブラウン運動などといったある種の量子論的な系が、どんなに低い環境温度でも働くコンピュータの基礎になりうることが明らかになった。これはダイソンにとって朗報だったが、その系には「環境と平衡を保たなければならない」「情報を捨ててはならない」という条件があった。
加速膨脹する宇宙では、変化があまりに急激で、系は平衡状態に到達できない。
また情報を捨てないという条件は、知的生命が何も忘れてはならないことを意味する。
結局、知的生命は、古い記憶を捨てられないまま、その記憶を繰り返し追体験する羽目になるのかも知れない。
「永遠の存在は牢獄であって、創造性と探求の地平線が何処までも広がっていくことではない。それは解脱の境地かも知れないが、果たして生きていると言えるのだろうか」とクラウスとスタークマンは問いかける。
ここで別の方策を検討する。
物理法則は、我々が並行宇宙へ脱出できるようになっているのだろうか?
宇宙を飛び出そうとする場合、技術者にとっては、そのように困難な芸当をやってのける機械を建造できるだけの資源があるか、というのが大問題になる。
ところが物理学者にとっては、物理法則は、そもそもそうした機械が存在できるようになっているのか、ということが大問題になるのだ。
我々は十分に進歩した文明なら、物理法則に従って別の宇宙に逃げ出せることを明らかにしたいのである。
我々の時代から数千年ないし数百万年先のテクノロジーを把握する為に、ときに物理学者は、エネルギーの消費量や熱力学の法則によって文明を分類することがある。
タイプⅠ文明は、惑星規模のエネルギーを利用している文明を指す。
惑星に降り注ぐ太陽エネルギーの総量(1016ワット)が利用でき、天候をコントロールしたり、海上に都市を建設したり出来るかもしれない。
タイプⅡ文明は、一個の恒星エネルギー(およそ1026ワット)を利用している。
おそらく太陽フレアをコントロールしたり、他の恒星の核反応に火をつけたりできるだろう。
タイプⅢ文明は、所属する銀河の大部分に入植し、百億個の恒星エネルギー(およそ1036ワット)を利用できる。
これらの文明に到達するのにかかる時間を、文明のエネルギー出力が年に2~3%増加するとして見積もる。(経済規模が大きいほどエネルギー需要は多くなるが、多くの国で国内総生産(GDP)の成長率は1~2%なので、仮にこう仮定する)
この割合で考えると、現在の我々の文明がタイプⅠになるのに百~二百年ほどかかると計算できる。
タイプⅡにはおよそ千~五千年ほどで、タイプⅢだと十万~百万年だ。
もっと細かく分類すると、我々の文明は現在0.7文明、ということになる。
文明がタイプⅠに到達しても、すぐには他の星々へ向かいそうにない。
宇宙旅行や宇宙植民地にかかる費用が、そこから得られる経済的利益に比べて莫大であることや、危険性の問題もあるからだ。
しかし数世紀という期間では、火星のテラフォーミングが行なわれるなど、宇宙植民地が進むかも知れない。
時間的制約の少ない長距離の惑星間飛行ミッションについては、ソーラー・エンジンやイオン・エンジンが開発される可能性がある。
そのようなエンジンで動く乗り物は、惑星間を結ぶ「高速道路網」を整備するのにはうってつけかも知れない。
やがて近隣の恒星に探査機を送り込むため、新しい推進方式が考え出される。
一つの可能性としては、核融合ラムジェットだ。
このエンジンを搭載したロケットは、恒星間空間の水素をかき集めて核融合する。
タイプⅡ文明は「スター・トレック」の惑星連邦からワープドライブの技術をなくしたようなものかも知れない。
ダイソンは、タイプⅡ文明では太陽エネルギーをことごとく利用する為に、太陽光を吸収する巨大な球が太陽のまわりに作られるのではないかと考えた。
この球が温められたときの特徴的な赤外線放射を観測し、こうした文明を見つけようとする試みも行なわれたが、検出できてなかった。(しかし天の川銀河は直径が十万光年もあることを忘れてはいけない)
タイプⅡ文明は、自らの恒星系の惑星に植民地を建設したうえで、恒星間旅行にも着手するだろう。
莫大な資源を利用できるタイプⅡ文明なら、物質/反物質駆動のように全く新しい推進方式を編み出し、亜光速での飛行が可能になっているかも知れない。
彗星や小惑星については軌道をそらすことができ、氷河時代も天候のパターンを変えて回避でき、近隣での超新星爆発がもたらす脅威からも、故郷の惑星を捨てて安全な場所に移る、あるいは爆発前の死にかけた星の核融合エンジンに手を加える、ことで免れられる。
タイプⅢに達する頃には、空間や時間が不安定になるほどの莫大なエネルギーが利用できるようになっているだろう。
イアン・クロフォードは、タイプⅢについて、「植民地の平均的な間隔を十光年、宇宙船の速度を光速の10%、入植した文明が新たに別の植民地を建設するまでの期間を四百年とすれば、植民の最前線は年間0.02光年の平均速度で広がることになる。我々の銀河は直径十万光年なので、全体が植民地化されるまでにおよそ五百万年。これは銀河の年齢の0.05%にすぎない」と述べている。
これまで我々の銀河の中で、タイプⅢからの電波を見つけようと多くの領域が調べ上げられたが、あいにくその帯域で1018~1030ワットのエネルギーを放射する文明からの電波とおぼしきものは見つかっていない。
それでもタイプ0.8~1.1や、2.5以上の文明の存在の可能性は排除できないし、また別の通信方式(電波でなくレーザーなど)の可能性、電波としても探している周波数でないことも考えられる。シグナルを沢山の周波数に分散し、受信側で再構成するようになっているかもしれない。
タイプⅢ文明の切実な問題となるのは、銀河全体を結ぶ通信システムの確立だろう。
これはワームホールを通るなどの超光速テクノロジーをものにできるかどうかにかかっている。
仮にタイプⅣ文明が存在するとしたら、そのエネルギー源に銀河系外のものも含まれる可能性があり、例えば宇宙全体の物質/エネルギーの73%を占めるダークエネルギーが考えられる。
広く薄く広がっているダークエネルギーを集めることは難しいが、物理法則の必然として、銀河のエネルギーを使い果たしたタイプⅢはダークエネルギーを利用してタイプⅣに移行しようとするだろう。
文明の分類は、新たなテクノロジーをもとに、さらに洗練させることが出来る。
先進文明が急速に進歩するにつれ、大量に発生する廃熱が惑星の気温を危険なほど上昇させ、気候上の問題を引き起こす恐れがある。
タイプⅠ文明が進歩し続けると、自らの廃熱に溺れるか、情報の処理を合理化することになるだろう。
こうした合理化の効果を理解する為に、人間の脳を考えてみよう。
人間の脳は、およそ千億個(観測可能な宇宙に存在する銀河の数と同程度)のニューロンで構成されながら、ほとんど熱を生み出さない。
脳はきわめて効率的な神経ネットワークをもつ学習マシンであり、記憶と思考のパターンがCPUに集中しておらず、脳全体に分散されている。
脳は非常に早く計算しているわけでもない。
電気的なメッセージは、本質的に、化学的にニューロンを伝わっていくからだ。
しかし並列処理ができ、新しいタスクを驚異的に早く覚えられる脳の能力は、この遅さを補って余りあるのである。
次世代のコンピュータとして、DNA分子をつかったものや、分子トランジスタ、原始的な量子コンピュータも開発されている。
ナノテクノロジーの進歩を考えると、いずれ先進文明は、その存在を脅かす廃熱を大量に生み出すのではなく、はるかに効率よく情報を処理する手段を見つけるだろう。
カール・セーガンは、先進文明をそのもてる情報量によって格付けする手法も導入した。
例えばタイプAは106ビットの情報を処理する文明であり、文字はないが話し言葉はある原始的な文明に相当する。
セーガンは現代の我々がもつ情報量を、世界中の全ての図書館にある本の数と一冊あたりのページ数を推定した上で、およそ1013ビットと見積もった。
これに写真も含めると、情報量は1015ビットと考えられ、タイプH文明に位置づけられる。
また、銀河規模のタイプⅢは、惑星一個あたりの情報量に、銀河全体での生命を育める惑星の数を掛けた値、タイプQと推定し、そして観測可能な宇宙の大部分にあたる十億個の銀河の情報量を利用できる文明を、タイプZと判定している。
ワームホールを通って旅しようとする文明は、空間の曲率や量子ゆらぎを把握し、計算しなければならない。
このようなエネルギーと情報量をもつ文明は、最低でもタイプⅢQあたりかもしれない。
では、先進文明は、死にかけた宇宙からどのようにして脱出しようとするだろうか?
2へ続く