くまのお気楽日記

好きな漫画や映画の話を主にその日あった事や感じた事等をお気楽に書いていきたいと思います。宜しくお願いします。

「へうげもの」

2007-08-30 22:23:24 | マンガ好き
みなさん、こんにちは。
今日ご紹介したいのは、ちょっと変わった視点から、古田織部という武将であり、「織部焼き」の創始者ともなった数奇者である男を主人公に、戦国時代を描いた漫画
「へうげもの」(山田芳裕著)です。

「へうげ」とは、ひょうげ【剽軽】ふざけおどけること(広辞苑より)だそうなのですが、この漫画の全体に流れる空気も「へうげ」ています。

物語は有名な「松永久秀の爆死」(織田信長に反逆し籠城するが包囲され、所有する名器「平蜘蛛茶釜」を差し出せば命を助ける、との信長からの申し出を蹴って、茶釜に爆薬を仕込んで自爆した)から始まるのですが、史実の裏を、例えば光秀の信長暗殺の背後には、秀吉←千利休の「美」に対する業に基づいた野心があった…などとする美学(価値観)の衝突、という点から描いていて、独創的且つ説得力があって非常に面白いです。

こんな風に描くと、ちょっと堅いイメージが湧くかも知れませんが、主人公古田が、武将としてよりも天下一の数奇者にならんと邁進する様子が、心打たれる茶器などを見ては、「はにゃあ」だの「ミグッ」だのといったわけのわからない擬音語を発したり、光秀を打つ秀吉の討伐軍の旗を「信の字をハートマークで囲ったもの」に描いてみたり、と、とてもコミカルに描かれていて、思わずブホッと笑ってしまう可笑しさもあります。

また「美」とか「侘び寂び」、といったことに主眼を置いて描かれている漫画だけに、端々にまで細かい心配りがされているようで、各章のタイトルも、古今東西和洋折衷の名曲がもじられていて、それを見るだけでも楽しかったりします。

元々この漫画は、家の旦那さんが買ってきた本で、くまの守備範囲ではなかったんですが、ドキドキハラハラするような面白さではなく、じわっと笑わせてくれるような、ちょっと独特の雰囲気を持った漫画だと思います。

只今5巻まで出版されていて、週刊モーニングにて連載中、のようです。


それでは。

「皇国の守護者」

2007-08-24 11:06:10 | マンガ好き
みなさん、こんにちは。

昨日久しぶりに本屋さんに行って、つい買う予定のない本を衝動買いしてしまいました。
「皇国の守護者」伊藤悠著
です。
同名の原作(佐藤大輔著)も、まだ完結していないようなんですが、漫画版のほうは今1~4巻まで出ていまして、アマゾンの書評などを見ると結構評価が高く、文化庁メディア芸術祭推奨作品にも選ばれているそうです。

架空の世界の戦記もの、なんですが、
神代の昔、人と龍の間に結ばれたとする<大協約(グラン・コード)>が世界秩序の根幹を成す<大協約>世界。
大陸より侵略を迫る超大国<帝国>は洋上に存在する新興国<皇国>の最北端・北領に、宣戦布告もなく突如来襲し、侵攻を開始した。
守原大将指揮の下、北領鎮台三万の軍勢は、帝国が誇る戦姫・ユーリアが率いる侵攻部隊を迎え撃つが、撃破され、後方待機していた主人公・新城直衛属する新造部隊、剣虎兵(サーベルタイガース)は、逸早く退避した守原や味方の残存主力部隊の北領からの撤退を支援する為の時間稼ぎ、捨て駒となるよう任を下される…
といったはじまりのストーリーです。

時代背景や人種や軍服、持っている火器銃器などが、帝国側はヨーロッパ風、皇国側は日露戦争~くらいの時代の日本風であるので、読む人によっては、戦争賛美的な部分があるのではないか?と思われる作品かも知れませんが、ヒロイズム…というよりは寧ろ、主人公・新城直衛の、自分の偽善や弱さを嫌悪しつつも常に現実を受け止めて、戦争という地獄を、少しでも「ましな」地獄にするために、時に非情に徹してでも、時に狂気の手を借りてでも、常に諦めずに向き合っていく…という姿に、リアルを感じさせられます。

4巻にしてまだまだ物語は序盤のようで、今後どのような展開になっていくのかは分かりませんが、絵も躍動感に溢れて、微妙な表情の描き分けなども巧いですし、もう少し読み続けてみたいな、と思える作品です。


それでは。

「ポスト・ヒューマン誕生」

2007-08-21 17:48:31 | 本好き
みなさん、こんにちは。
またもポピュラーサイエンス本なんですが、今迄読んだ中で、一番吃驚するようなことが書いてありましたので、ちょっとご紹介を。

「ポスト・ヒューマン誕生~コンピュータが人類の知性を超えるとき~」(レイ・カーツワイル著)です。

著者は有名な発明家であり、思想家、未来学者でもあるそうなんですが、あとがきに「~こう書くと、カーツワイル氏をマッド・サイエンティストのように思われる方もいるかも知れない~」などという但書が出てくるくらい、内容はぶっ飛んでいます。

簡単に言うと、漫画「攻殻機動隊」のような世界が間近に迫っている…という内容で、その未来予測に至った、過去のデータや現在の状況を詳しく書いている部分は、専門的な用語や数字が多く、くまにはさっぱり分からなかったんですが、要するにどのような経緯でその未来図に行き当たるのかと言うと、次のような流れのようです。

・過去、宇宙が誕生し、原子が生まれ、惑星に生命が誕生し、人類が進化してきた…生物の進化と同様、人間のテクノロジーは加速度的に進化している。
指数関数的(定数を掛けることで繰り返し拡大する)進化が爆発的にはじまるポイントを「特異点」と呼ぶ。

・現在、遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学など、新しく生まれたテクノロジーも、指数関数的に成長している。
まず遺伝学の発展によって、様々な遺伝的な疾患や、自分自身の細胞を再生させたりDNAのエラーをなくしたりすることで老化が克服され、またクローニング技術により、動物のいない畜産場で肉などのたんぱく質源が生産出来るようになり、飢餓も克服されるだろう。

・ナノテクノロジー革命は、人間の体と脳と、我々が相互作用している世界を分子レベルで再設計・再構築できるようになるだろう。
エネルギーの効率化分散化が図られ、環境は改善され、浄化にも一役買うだろう。
また医療分野にも大きく貢献し、例えば赤血球の代わりにナノロボットを血中に入れることによって、何時間も息を止めていられるようになるなど、人体のサイボーグ化も進むだろう。

・様々なテクノロジーの進化によって、人間の脳のしくみは高い解像度で解明され(リバースエンジニアリングされ)、人間の脳の並列処理能力とコンピュータの高速で一瞬にしてデータを共有できる能力が融合し、新しい知性が生み出されるだろう(強いAI)。

・人々の脳がバックアップされネットにアップロードされることで、人々はヴァーチャルリアリティと現実の世界を自由に行き来し、好きな時に好きなような肉体を手に入れることが出来るようになり(現実世界ではナノテクノロジーによって)、また、生物的な知能と非生物的な知能の融合によって広げられた心は、他人の感覚や感情、記憶を好きな時に共有し、好きな時に独立することも出来るようになるだろう。

・新たに生み出された「超知性」は、やがて宇宙全体に広がり、ついにはワームホールを通って新しい宇宙に旅立つ(または宇宙を創造する)だろう。

細かい点を上げるとまだまだ吃驚するようなことが書かれているんですが、大まかには以上のようなところです。

先ほど「攻殻機動隊」の例を出しましたが、このような未来図は、今までにも映画や小説の中でも沢山描かれてきました。
しかしくまが驚くのは、著者がこの「特異点」となるポイントを2045年という大変身近な時代に置いたところです。
つまり健康に留意して不慮の災難にもあわなければ、この本を読んでいる多くの人が、この現状から見れば劇的な変化を、目の当たりにするだろうと言うのです。

ここで二つほど単純な疑問が湧きます。
「強いAIは人類を滅ぼそうとはしないのか?」
「非生物的な知性と融合しアップロードされた意識は果たして本当に自分なのか?」

まず、この新しいテクノロジーが発展することによる危険に関しての著者の答えは、大まかに言うと、
「的確な規制は勿論必要であるが、ただ全面的に規制するだけでは、寧ろ望まない形で溢れ出すだろう。そのテクノロジーが生み出すメリットとデメリットのバランスにおいても、最も効果的だと考えられるのは、盲目的な規制によりがんじがらめにされない防御技術の開発であろう」
と言うもので、強いAIの危険性については、
「本質的に、強いAIからの完全な防御は不可能だろう。強いAIに人類に友好的な価値観を織り込むために、市場にその進歩の各ステップを承認させることが最適であろう」
と述べています。

また「意識」の問題については、大まかに言うと、
「日々細胞が新しく生まれ変わるように、我々はいわばひとつの「パターン」である。「意識」は主観的なものであるため、客観的にその存在を特定できない。進化は、神のような極地に達することはできないとしても、神の概念に向かって厳然と進んでいるのだ」
と述べています。

この本の中では、「宇宙に今存在する知的生命」についても語られていまして、著者は「我々人類が少なくとも最も進化しているだろう」というような考えであるようなのですが、ここでその結論の一つの裏付けとして、「宇宙に存在した我々以外の知的生命は、それが可能なところまで進化すると、新しい宇宙に旅立つのではないか」といった説が紹介されています。
ところでそこに、「宇宙全体にまで広がるくらい発達した知性は、新しい宇宙を生み出す」という考えもあわせると、もしかしたら今私たちが棲んでいる世界も、既に「大いなる知性」によって満たされているのかも知れない…などと言う妄想が浮かびます。

また著者は「死」について、「素晴らしい「知性」が失われるという、嘆くべきことだ」と述べているのですが、ここに超自然的な考えを持ち込むのもどうかと思いますが、くまの頭に、今までに知った「ホログラフィック宇宙」や「宇宙コンピュータ」の概念にあわせて、昔子供の頃母の本(エドガー・ケイシーの本でした)で読んだ「アカシックレコード」という概念が浮かんできます。
「アカシックレコード」とは、宇宙の過去、現在、未来に起こる全ての事象が記録されたポイントのことで、ここで、宇宙に広がり新しくワームホールを通って並行宇宙に旅立ったり出来るような知性にとっては、過去、現在、未来に存在する全ての知性を復活させることも可能ではないか?という妄想がまたも膨らみます。
(今、この記事を書くにあたって、ネットで色々調べてたんですが、上のくまの妄想に近い概念をもう一つ発見しました。フランク・ティプラーという物理学者が考える「オメガ・ポイント」という概念(元々はピエール・テイヤール・ド・シャルダンという思想家の概念であるそうですが)です。)

くまはあんまり詳しくは知りませんが、古今東西、様々な神話や宗教や、哲学者、科学者が語ってきたことって、同じ真理の断片をそれぞれに語っているのかも知れません。
いずれにせよ、この本の著者の予言が的中するとするならば、その真理を垣間見ることが出来る時も近いということで…しかしその時の「自分」のあまりにも今の「自分」からかけ離れた在りようは、言うなれば今までに感じてきた「死」と同義なのかも知れませんが…。
恐いような興味深いような…くまの場合、お気楽なので興味深いがやや勝ちますが。
「電脳の世界へダイブ!」です。


それでは。




「はみだしっ子」

2007-08-13 02:47:58 | マンガ好き
みなさん、こんにちは。
今日は、先日から夜さんにお借りしている漫画のなかから「はみだしっ子」の感想を書きたいと思います。
(夜さん、貴重な本を長い間貸して頂いてて、ありがとうございます!

この漫画は'75~'76年頃から描かれたかなり古い漫画で、未だにこの漫画がとても好きだと仰る方も多いくらい有名な作品のようなんですが、くまが中学生の頃に部活の先輩に、この本の存在を教えてもらった時には、絵柄があまり好みでなかったので、そのまま気になりつつも読んでいませんでした。
それで今回、夜さんにお借りすることになって初めて読んだのですが、沢山の方がファンだということが納得できるような、凄い本でした。

「虐待や無関心や束縛といった、親からの愛情を受けることが出来ず、家出をした少年4人が出会い、4人を一緒に愛してくれる誰かを探して旅にでる…」
といった始まりの物語なんですが、そこに流れているテーマはもの凄く深いです。
多分くまには殆どの部分読み取れていないんでしょうけれども、それでも感じ取れたことの一つは、「分かり合う」ことへの希求…でしょうか。

とにかく登場人物の少年達が皆、純粋で、妥協を知らず、繊細で、自分の心に正直で…大人になるとある程度、知り合えた全ての人と分かりあうことは出来ないと悟るというか、良い意味でいうと「受け入れる」、悪い意味でいうと「諦める」、ようになると思うんですが、彼らはそのことに抵抗し、傷つき、悩みます。

これを中学生の、思春期の頃に読んでいたら、自分がどう感じたのか、とも想像してみるんですが、今となっては、場合によっては懸命に分かって貰おう、分かろうとする行為そのものが、思った以上にどちらかあるいは両方の負担になることもある、ということが見えてしまうので、彼らの姿勢に全面的に賛同は出来なくなった自分がいます。

しかし、ひとまずその時の自分や相手を「受け入れる」ということと、完全に努力をやめて「諦める」ということは、同じではない、ということを、彼らの言葉や行動を読むことで、思い出させられます。

人間が「ひとり」だということ。
そのことの切なさや、だからこそ他人と分かり合える、という喜びと。
そういったことを深く考えさせてくれる、名作でした。

改めまして、夜さん、名作を(他にも沢山)貸して下さって、ありがとうございました!


それでは。


「無面目・太公望伝」

2007-08-10 01:00:00 | マンガ好き
みなさん、こんにちは。

今日は久々に漫画のレヴューを書こうと思うのですが、無謀にも選んだのが、
「無面目・太公望伝」(諸星大二郎)です。

諸星さんがお好きな方ならきっとご存知でしょうけれども、一応簡単に内容をご説明しますと、無面目が、
「"無面目"という仇名の"混沌"という、天地開闢の前から思索にふけるといわれる顔のない神に、二人の神仙が「大極はどこから生じたのか」という問いを問う為、戯れに顔を描いたところ、その為に瞑想のみが存在の形だった神が変質してしまい、外界に興味を持ち人間界へと下り、感情や欲といったものを覚え、次第に人間そのものになっていってしまう…」
といった内容で、中国の漢の武帝の時代に起こった「巫蠱の獄」
(老いにより感情的に不安定になり、迷信深くなった武帝は、神仙思想に傾倒するとともに誰かに呪わているという強迫観念をつのらせ、江充を信任してその探索を命じる。江充は当時皇太子であった戻太子に恨みを買っていたため、武帝死後に戻太子に誅殺される事を恐れ、武帝を呪い殺そうとしているという疑惑を戻太子に被せて殺そうとした。進退窮まった太子は兵を上げて江充を殺すが、武帝の放った追っ手に追われ、自殺したとも、彼等に殺害されたとも言われる)~ウィキペディア調べ
という事件をベースに物語が進められていきます。

くまが面白かったのは、まず、顔を描かれたことによってその顔にそぐうべく、内面である本質も変わっていく…といった、「病は気から」の逆というか、笑顔が免疫を上げるといった話のような、外面(肉体)と内面(精神)の世界の相互に作用があることを示すようなエピソードから、物語が始まるところです。
後書きによるとこのエピソードは、「荘子」の一寓話、「混沌、七孔に死す」
(南海の帝と北海の帝は、渾沌の恩に報いるため、渾沌の顔に七孔をあけたところ、渾沌は死んでしまったという(内篇、応帝王篇、第七)。この寓話は、人為によって無為自然が破壊されてしまうことを説いている)~ウィキペディア調べ
をベースにした、ということです。

また神が次第に人間になっていく過程で、人間の業というか、本質のようなものも描かれているように感じられて、
最後の南極老人のセリフ
「混沌は顔を持った時に既に死んでおった」
からは、以前テレビで観た、細胞の、一倍体(無性生殖)から二倍体(有性生殖)に変わるところに生まれる「死の遺伝子」(外的要因によらない自死)、の話が思い出され、自己完結した「無」の状態と、他者と相互作用する「有」の状態を、反復しつつレベルを移行するイメージが湧いてきたりして、とても興味深く面白かったです。

もう一作の、太公望伝は、
「古代中国(周)の文王に「これこそ大公の望んでいた人だ」といわしめたことから、(太公望)という名で知られるようになった、歴史にも伝説にも、登場した時から老人であった人物の若き日を、様々な伝説…「天を射る」
(武乙は、無道であった。例えば、「天神」と名を付けた手作り人形を作り、その人形と博打をして、その人形が負けると罵った。また、その傍ら天に向かって矢を放つということもした。最期は、武乙は黄河と渭水の間の土地で狩猟をしているときに雷に打たれて手の施しようも無いまま即死したとされている)~ウィキペディア調べ
や「酒池肉林」
(酒をもって池と為し、肉を縣けて林と為し、男女をして倮ならしめ、あいその間に逐わしめ、長夜の飲をなす。百姓怨望して諸侯畔く者有り、是において紂すなわち刑辟を重くし、炮烙の刑有り)~ウィキペディア調べ
などにからめて描き、奴隷として囚われた他民族の青年が、竜を釣るという不思議な体験を経て、もう一度その境地にたどり着こうと放浪し、ついには梵我一如の悟りを得る…」
といった内容で、ある意味前述の「無面目」と逆の行程を辿る物語と言えます。

くまが面白かったのは、やはり最後の「神からの自由」という悟りを得るシーンです。
知識として言葉で「梵我一如」といったことを理解するのとは違い、感覚でそれを実感する…ってことが、そこにいる自分が自分でなくなるようで、全く想像つかなくて、(いや、つくはずもありませんが…)興味が湧きます。
ある意味、人は毎日時々刻々生まれ変わっているように思いますので、もしかしたらその境地に近づいていけるものなのかも知れませんが、あまりにふりはばが大きすぎて、「人」っていうカテゴリーでは括れなくなるような…そんな気もします。

こうして文章にしてご紹介すると、面白さが伝えきれていない感じがしますが、文庫化されてもいるようなので、是非機会が御座いましたら、ご一読をお奨めし致します。


それでは。



「パラレルワールド1」

2007-08-09 01:00:01 | 本好き
みなさん、こんにちは。

最近「π(パイ)」という、ピタゴラスの黄金比やダビンチの作品にも描かれる黄金螺旋、カバラ数秘術のなかに、万物の(神の)法則を見出し、自らが狂気に向かう恐怖と闘いながら、それを求めようとする数学者の話…」といった内容の映画を観たんですが、この時ちょうど今回ご紹介する本の冒頭部分を読みまして、そのなかに、チェスタトン「正統とは何か」の、
「詩人はただ天空を頭に入れようとする。ところが論理家は自分の頭の中に天空を入れようとする。張り裂けるのが頭のほうであることは言うまでもない」
という言葉が紹介されていて、
何だか自分の脳みそには難しすぎる本ばっかり読んで、知恵熱でちゃわないかな~…なんて少々心配になったりもしたんですが、どうもここのところこういう本がマイブームになっちゃってまして、やっぱり面白かったのでちょっとご紹介を。

「パラレルワールド~11次元の宇宙から超空間へ」(ミチオ・カク著)です。
以前「エレガントな宇宙」(ブライアン・グリーン著)という本をご紹介しましたが、この本もベースになる考えは同じく「超ひも理論」及び「M理論」です。

くまの印象としましては、「エレガントな宇宙」よりももう少し専門的な部分まで書いているようで、故に少々難しさが増した印象もあるのですが、「スタートレック」や「マトリックス」「ターミネーター」等の有名なドラマや映画、「タウ・ゼロ」や「永劫」といったSF小説、詩人や哲学者などの格言や、果ては宗教の話まで、例えが多岐にわたりまた機知に富んでいて面白く、読ませ方がとても上手いです。

また後半まで読み進んでいくと、上記のフィクションを超えるような、現実の物理法則を元に仮定した奇想天外な未来(例えばビッグフリーズという「宇宙の死」から逃れる為に、全人類の情報を原子サイズのナノロボットに搭載し、ワームホールを抜け新しい並行宇宙へ旅する…!などといったこと)も紹介され、SF好きな方なら興奮間違いなしの内容!とお奨めできます。

以下のくまの「興奮ポイント」は、また長くなっちゃいましたので、どうぞ読み飛ばしてやっておくんなせい。



「回転するブラックホール」(カー・ブラックホール)を使ってワームホールを通り、並行宇宙に行けるか?…通路の安定性がはっきり分からない。

各タイムマシンの検証
ファン・ストックム(無限に長い亜光速以上で回転する筒のそばを回る)…無限に長い物体を作ることなど物理的に不可能。
クルト・ゲーデル(宇宙が回転しているとしてその周りを回る)…宇宙は回転しておらず、膨脹している。
リチャード・ゴッド(衝突しかけている二本の「宇宙ひも」の周りを回る)…莫大なエネルギーが必要。
キップ・ソーン(量子の泡からワームホールを取り出し、反重力を持つ「負の物質」またはカシミール効果などによる「負のエネルギー」で広げて安定させる)…負の物質は未発見、負のエネルギーは希少で生み出すのが難しい。

タイムパラドックスの解決策の検証
「パラドックスが起きないように行動することを余儀なくされる」(自己無矛盾説)…自由意志を持たない無生物が起こすパラドクスや「バタフライ効果」の問題。
「可能性のある全ての量子論的な世界がある」(多世界理論)…「猫が生きていると同時に死んでいるという状態」(シュレディンガーの猫)の問題。

シュレディンガーの猫の問題について、二つの答えを検討する。
「観測と言うプロセスが電子の最終的な状態を決定する」(観測問題)という、
コペンハーゲン解釈…これには存在を確定する意識を持つ観測者もまた観測されねばならない(ウィグナーの友人)という新たな問題が起きる。
これに答える「干渉性の消失」とは、現実世界では、物体は環境と相互作用し、波動関数が攪乱されるため、同期しなくなって分離する、という考えであるが、自然は収縮する状態をどう選択するのか、という更なる疑問が生じる。
そこで選択するのではなく、
エヴェレットの解釈…と呼ばれる、「どの量子的な転機においても宇宙は分かれ、果てしなく分岐し続ける」(多世界理論)が生まれた。
そのような並行世界は、ラジオをつけると一度に一つの周波数の電波しか聞こえないように、干渉性の消失によって、通常相互作用できなくなるのだと考えられる。
(この「シュレディンガーの猫」の問題に対し、ホイーラーは別の説明「ビットからイット」を考えた。つまり宇宙の情報が観測された時に宇宙の物質が出現した(参加型宇宙)という見方である。)

量子コンピューターの可能性…大量の原子を干渉状態で振動させるために、途方も無くクリーンな条件が必要。

量子テレポーテーションの可能性…EPRパラドックス(アインシュタイン、ポドルスキー、ローゼンの提案した実験。パラドックスとは、元々は不確定性原理が破れること、また量子力学が非局所的であることを明らかにし、量子論の誤りを立証しようとして考案された実験だが、情報が光よりも早く伝わるように見えることに対する特殊相対性理論にも反するように見えるというところから、そう呼ばれる)
という、
例えば相関のある二個の電子が爆発により反対方向に何光年も飛んでいったとして、相関関係にあるスピンの向きが、片方が分かることによって即座に分かる(強制される)現象(ある意味宇宙の全ての物質はビックバンという一度の爆発で生まれたのだから、我々の体の原子は宇宙の反対側にある原子となんらかの量子的ネットワークのなかで結びついている、と言える)
を利用することが考えられているが、…測定するスピンがランダムに決まることから意味のある情報を伝えることが出来ないということや、量子コンピューターの問題と同じ、対象となる物体が干渉性をもつために環境からクリーンでなくてはならないこと、また人間をテレポートするには莫大な情報量の問題が生じる。

量子力学を単独の光子ではなく宇宙全体に当てはめよう(宇宙の波動関数)という考え(ホーキング)。

重力が他の力よりずっと弱いと言う理由として、M理論から、
仮に宇宙が5次元世界に浮かぶ3ブレンだとして、3ブレンの面の振動が原子に相当する。
振動は3ブレン上の現象なので、第5の次元へ漂い出ることはない。
我々は5次元に浮かんでいるが、体が3ブレンの面に貼りついているから第5の次元へは入れないのだ。
しかし重力は空間の曲率にあたるため、5次元空間全体に行きわたり、結果重力は弱まる。
という考えがある。
しかしこの場合、重力は弱まりすぎてしまうので、第5の次元は我々の宇宙のすぐ上に1ミリメートルの距離で浮かんでいるのかも知れないという考えもある。

こうした考えから、超空間の湾曲によって生じる重力は並行宇宙の間を飛び越えて別の宇宙を引きつけている、つまりダークマターは並行宇宙の存在による可能性が出てくる。

ビッグバンはひとつの宇宙が芽吹いたのではなく、二つの並行ブレン宇宙が衝突した結果起きたのかも知れない。(ビッグスプラット)
衝突の反動で二つの宇宙は分かれ離れるにつれ急激に冷え、密度が千兆立方光年に電子1個という事実上空っぽの空間になり、それでも重力は二枚の膜を引き付けつづけ、やがて再び衝突を起こし、また最初からサイクルが繰り返される。

近年、衛星WMAPで明らかになった宇宙像によれば、謎めいた反重力(ダークエネルギー)が宇宙の膨脹を加速しているらしい。
ダークエネルギーの量の尺度となる宇宙定数を「Λ」(ラムダ)とあらわし、宇宙に存在する物質の平均密度を示すパラメータを「Ω」(オメガ)とするとき、Λ=0として、Ωがある値より大きいと宇宙は終末に「ビッグクランチ」を向かえ、小さければ「ビッグフリーズ」に至り、等しければ宇宙は平坦になる。
「Λ」はこれまで0と考えられてきたが、WMAPで得られたデータでは、「ビッグフリーズ」が支持されるようである。

しかし「ビッグクランチ」にしろ「ビッグフリーズ」にしろ、まるで世界各地の神話に既に描かれているような、凍てつく寒さや破滅的な高温という天変地異や宇宙の死までもを、知的生命はその創意工夫の力によって生き残れるのだろうか?
ビッグフリーズが起こると仮定して考える。

観測可能な宇宙に莫大な数の星々があることから、天文学者は他の惑星系にも知的生命が生まれる可能性を支持している。
だかどんな知的生命も、様々な「宇宙の試練」に出くわす羽目になる。
多くはその生命自身を原因とする「環境問題」「惑星の温暖化」「核兵器」などだ。
また恐ろしい自然災害に直面し、破局を迎える場合もあるだろう。

この先数万年という時間尺度で考えれば、間氷期が終わり再び氷河期が訪れるかも知れない。
地質学者は、地球の自転のわずかな変動の影響が積もり積もって、ジェット気流が極地の氷冠から低緯度地方へ下り、地球は氷雪に覆われると考えている。
そうなったら我々は、暖をとるのに地下へもぐらなければならないだろう。

数千年から数百万年という時間尺度になると、隕石や彗星の衝突に備えなければならない。
過去の衝突の頻度から考えると、今後50年以内に世界的な被害をもたらす小惑星の衝突が起きる確率は十万分の一になる。
数百万年では、その確率はほぼ100%になるだろう。

数十億年の時間的尺度では、太陽が地球を呑み込んでしまう事態を心配しなければならない。
生物は、灼熱の太陽から必死に逃げようとし、短期間のうちに地球上の進化の流れを逆行し、海へ戻って行くだろう。
そしてついには海そのものが沸騰し、我々の知る生命は存在できなくなる。
およそ50億年以内に、太陽は赤色巨星に変貌し、水星と金星は呑み込まれ、地球の山々はドロドロに溶け、あとは燃えかすとなって太陽の周りを回り続ける。
こうなる前に人類は、巨大な宇宙の箱舟で他の惑星へ移住しているかも知れないが、高度なテクノロジーで地球を太陽からもっと遠い軌道に動かせるはずだ、という考えもある。
手だての例を挙げれば、小惑星帯から身長に小惑星の軌道をそらし、次々と地球の周りを通過させる、というスイングバイ効果によって、地球は後押しを受け、太陽から遠のく、というものがある。
しかしこの太陽も、赤色巨星として7億年ほどヘリウムを燃やし続けた後、重力で押しつぶされて白色矮星になり、やがて冷え、最後には真っ暗になり、空虚な宇宙空間を核の燃えかすとして漂うことになる。

さらに時が進むと、宇宙の星々のエネルギーは使い果たされ、たとえ地球がまだ無傷でいたとしても、地表は一面の氷となり、知的生命は新たなすみかを探さねばならなくなる。
巨星に比べて赤色矮星は何兆年も燃え続ける。
だから地球を赤色矮星の公転軌道へ移すということも考えられる。
地球から最も近い赤色矮星は、プロキシマ・ケンタウリで、わずか4.3光年の距離にある。
しかしいつかは赤色矮星さえも最後を迎える。

そしてブラックホールがゆっくりエネルギーを蒸発させるのが、唯一のエネルギー源となる世界が訪れる。
寿命に近づいたブラックホールは、ゆっくりと放射を漏らした後で、突然爆発する。
しかし知的生命が、蒸発するブラックホールの発するかすかな熱を囲んで集まり、完全に蒸発するまでわずかなぬくもりを得るということも考えられるだろう。

ついにはあらゆる熱源が使い果たされた暗黒時代に入る。
宇宙はゆっくりと究極の熱的死へ向かい、温度は絶対零度に近づく。
原子はほとんど動きを止め、ときおり陽子までもが崩壊し、宇宙には、電子と陽電子が追いかけあうように回る、ポジトロニウムという新種の「原子」が散在するようになるかも知れない。
この新種の原子が、暗黒時代の知的生命を作り上げる新たな構成要素になりうるのではないかと考えた物理学者もいる。
しかし暗黒時代のポジトロニウムの原子は、現在の観測可能な宇宙より何百倍も大きいと考えられる。
あまりにも大きい為、かかわる化学反応は長大な時間を要し、我々の知るどんな反応とも全く違うものになるだろう。

このような暗黒時代の宇宙を知的生命が生き延びる可能性について、議論は二つの問題に集中している。
ひとつは「温度が絶対零度に近い状態で、知的生命は必要な機械を動かせるのか」という問題だ。
熱力学の法則によれば、エネルギーは高温から低温へ流れるので、このエネルギーの動きを機械的な仕事に利用できる。
しかし暗黒時代の宇宙では、どこの温度も同じだ。
ふたつめは「知的生命は情報をやりとりできるのか」だ。
情報理論では、送受可能な情報の最小単位は温度に比例する。
温度が絶対零度に近づくと、情報の処理能力も酷く低下するのだ。
物理学者のフリーマン・ダイソンらは、この点を改めて検討した。

宇宙全体の温度が下がり出すと、初めに生命は遺伝子操作によって体温を下げようとするだろう。
こうして減りゆくエネルギーを効率的に利用できるようになる。
だがいずれは、体温が水の凝固点に達し、この時点で知的生命は血と肉でできたもろい体を捨て去り、ロボットの体を受け入れなければならない。
しかし機械も情報理論と熱力学の法則にはしたがわざるをえないので、やがてはロボットでも生命の維持は困難になる。
そこでロボットの体を捨てただの意識になったとしても、まだ情報処理の問題に直面する。
生き残るすべは「ゆっくり」考えることになる。
ダイソンは、情報処理にかける時間を増やし、さらにはエネルギーを維持すべく休眠状態に入って、永久に考える事が出来るだろうと言っている。
思考して情報を処理するのに必要な物理的時間が数百億年いなっても、知的生命自身にとっての「主観時間」は変わらない。と言うのだ。
知的生命がゆっくり考えるようになったら、宇宙規模の量子的な遷移(ベビーユニバースの誕生や別の量子的な宇宙への移行など)を目撃するかも知れない。

しかし宇宙の膨脹が加速していると言う最近の発見を元に、物理学者はダイソンの結論を見直し改めて議論を行い、「知的生命は加速膨脹する宇宙で滅びざるをえない」という結論に達した。
ダイソンは当初の考察で、2.7Kという宇宙マイクロ波背景放射の温度は永久に下がり続けるはずなので、知的生命はこのわずかな温度差から有用な仕事を取り出せると考えていた。
ところがクラウスとスタークマンは、宇宙定数があると、温度は永久に下がるわけではなく、最後に下限(ギボンス-ホーキング温度、約10-29K)に達し、全宇宙が一様な温度に達するため、どんな情報処理もできなくなる、と指摘した。

1980年代、液体中のブラウン運動などといったある種の量子論的な系が、どんなに低い環境温度でも働くコンピュータの基礎になりうることが明らかになった。これはダイソンにとって朗報だったが、その系には「環境と平衡を保たなければならない」「情報を捨ててはならない」という条件があった。
加速膨脹する宇宙では、変化があまりに急激で、系は平衡状態に到達できない。
また情報を捨てないという条件は、知的生命が何も忘れてはならないことを意味する。
結局、知的生命は、古い記憶を捨てられないまま、その記憶を繰り返し追体験する羽目になるのかも知れない。
「永遠の存在は牢獄であって、創造性と探求の地平線が何処までも広がっていくことではない。それは解脱の境地かも知れないが、果たして生きていると言えるのだろうか」とクラウスとスタークマンは問いかける。

ここで別の方策を検討する。
物理法則は、我々が並行宇宙へ脱出できるようになっているのだろうか?

宇宙を飛び出そうとする場合、技術者にとっては、そのように困難な芸当をやってのける機械を建造できるだけの資源があるか、というのが大問題になる。
ところが物理学者にとっては、物理法則は、そもそもそうした機械が存在できるようになっているのか、ということが大問題になるのだ。
我々は十分に進歩した文明なら、物理法則に従って別の宇宙に逃げ出せることを明らかにしたいのである。

我々の時代から数千年ないし数百万年先のテクノロジーを把握する為に、ときに物理学者は、エネルギーの消費量や熱力学の法則によって文明を分類することがある。
タイプⅠ文明は、惑星規模のエネルギーを利用している文明を指す。
惑星に降り注ぐ太陽エネルギーの総量(1016ワット)が利用でき、天候をコントロールしたり、海上に都市を建設したり出来るかもしれない。
タイプⅡ文明は、一個の恒星エネルギー(およそ1026ワット)を利用している。
おそらく太陽フレアをコントロールしたり、他の恒星の核反応に火をつけたりできるだろう。
タイプⅢ文明は、所属する銀河の大部分に入植し、百億個の恒星エネルギー(およそ1036ワット)を利用できる。

これらの文明に到達するのにかかる時間を、文明のエネルギー出力が年に2~3%増加するとして見積もる。(経済規模が大きいほどエネルギー需要は多くなるが、多くの国で国内総生産(GDP)の成長率は1~2%なので、仮にこう仮定する)
この割合で考えると、現在の我々の文明がタイプⅠになるのに百~二百年ほどかかると計算できる。
タイプⅡにはおよそ千~五千年ほどで、タイプⅢだと十万~百万年だ。
もっと細かく分類すると、我々の文明は現在0.7文明、ということになる。

文明がタイプⅠに到達しても、すぐには他の星々へ向かいそうにない。
宇宙旅行や宇宙植民地にかかる費用が、そこから得られる経済的利益に比べて莫大であることや、危険性の問題もあるからだ。
しかし数世紀という期間では、火星のテラフォーミングが行なわれるなど、宇宙植民地が進むかも知れない。
時間的制約の少ない長距離の惑星間飛行ミッションについては、ソーラー・エンジンやイオン・エンジンが開発される可能性がある。
そのようなエンジンで動く乗り物は、惑星間を結ぶ「高速道路網」を整備するのにはうってつけかも知れない。
やがて近隣の恒星に探査機を送り込むため、新しい推進方式が考え出される。
一つの可能性としては、核融合ラムジェットだ。
このエンジンを搭載したロケットは、恒星間空間の水素をかき集めて核融合する。

タイプⅡ文明は「スター・トレック」の惑星連邦からワープドライブの技術をなくしたようなものかも知れない。
ダイソンは、タイプⅡ文明では太陽エネルギーをことごとく利用する為に、太陽光を吸収する巨大な球が太陽のまわりに作られるのではないかと考えた。
この球が温められたときの特徴的な赤外線放射を観測し、こうした文明を見つけようとする試みも行なわれたが、検出できてなかった。(しかし天の川銀河は直径が十万光年もあることを忘れてはいけない)
タイプⅡ文明は、自らの恒星系の惑星に植民地を建設したうえで、恒星間旅行にも着手するだろう。
莫大な資源を利用できるタイプⅡ文明なら、物質/反物質駆動のように全く新しい推進方式を編み出し、亜光速での飛行が可能になっているかも知れない。
彗星や小惑星については軌道をそらすことができ、氷河時代も天候のパターンを変えて回避でき、近隣での超新星爆発がもたらす脅威からも、故郷の惑星を捨てて安全な場所に移る、あるいは爆発前の死にかけた星の核融合エンジンに手を加える、ことで免れられる。

タイプⅢに達する頃には、空間や時間が不安定になるほどの莫大なエネルギーが利用できるようになっているだろう。
イアン・クロフォードは、タイプⅢについて、「植民地の平均的な間隔を十光年、宇宙船の速度を光速の10%、入植した文明が新たに別の植民地を建設するまでの期間を四百年とすれば、植民の最前線は年間0.02光年の平均速度で広がることになる。我々の銀河は直径十万光年なので、全体が植民地化されるまでにおよそ五百万年。これは銀河の年齢の0.05%にすぎない」と述べている。
これまで我々の銀河の中で、タイプⅢからの電波を見つけようと多くの領域が調べ上げられたが、あいにくその帯域で1018~1030ワットのエネルギーを放射する文明からの電波とおぼしきものは見つかっていない。
それでもタイプ0.8~1.1や、2.5以上の文明の存在の可能性は排除できないし、また別の通信方式(電波でなくレーザーなど)の可能性、電波としても探している周波数でないことも考えられる。シグナルを沢山の周波数に分散し、受信側で再構成するようになっているかもしれない。
タイプⅢ文明の切実な問題となるのは、銀河全体を結ぶ通信システムの確立だろう。
これはワームホールを通るなどの超光速テクノロジーをものにできるかどうかにかかっている。

仮にタイプⅣ文明が存在するとしたら、そのエネルギー源に銀河系外のものも含まれる可能性があり、例えば宇宙全体の物質/エネルギーの73%を占めるダークエネルギーが考えられる。
広く薄く広がっているダークエネルギーを集めることは難しいが、物理法則の必然として、銀河のエネルギーを使い果たしたタイプⅢはダークエネルギーを利用してタイプⅣに移行しようとするだろう。

文明の分類は、新たなテクノロジーをもとに、さらに洗練させることが出来る。
先進文明が急速に進歩するにつれ、大量に発生する廃熱が惑星の気温を危険なほど上昇させ、気候上の問題を引き起こす恐れがある。
タイプⅠ文明が進歩し続けると、自らの廃熱に溺れるか、情報の処理を合理化することになるだろう。
こうした合理化の効果を理解する為に、人間の脳を考えてみよう。
人間の脳は、およそ千億個(観測可能な宇宙に存在する銀河の数と同程度)のニューロンで構成されながら、ほとんど熱を生み出さない。
脳はきわめて効率的な神経ネットワークをもつ学習マシンであり、記憶と思考のパターンがCPUに集中しておらず、脳全体に分散されている。
脳は非常に早く計算しているわけでもない。
電気的なメッセージは、本質的に、化学的にニューロンを伝わっていくからだ。
しかし並列処理ができ、新しいタスクを驚異的に早く覚えられる脳の能力は、この遅さを補って余りあるのである。

次世代のコンピュータとして、DNA分子をつかったものや、分子トランジスタ、原始的な量子コンピュータも開発されている。
ナノテクノロジーの進歩を考えると、いずれ先進文明は、その存在を脅かす廃熱を大量に生み出すのではなく、はるかに効率よく情報を処理する手段を見つけるだろう。

カール・セーガンは、先進文明をそのもてる情報量によって格付けする手法も導入した。
例えばタイプAは106ビットの情報を処理する文明であり、文字はないが話し言葉はある原始的な文明に相当する。
セーガンは現代の我々がもつ情報量を、世界中の全ての図書館にある本の数と一冊あたりのページ数を推定した上で、およそ1013ビットと見積もった。
これに写真も含めると、情報量は1015ビットと考えられ、タイプH文明に位置づけられる。
また、銀河規模のタイプⅢは、惑星一個あたりの情報量に、銀河全体での生命を育める惑星の数を掛けた値、タイプQと推定し、そして観測可能な宇宙の大部分にあたる十億個の銀河の情報量を利用できる文明を、タイプZと判定している。

ワームホールを通って旅しようとする文明は、空間の曲率や量子ゆらぎを把握し、計算しなければならない。
このようなエネルギーと情報量をもつ文明は、最低でもタイプⅢQあたりかもしれない。
では、先進文明は、死にかけた宇宙からどのようにして脱出しようとするだろうか?
2へ続く

「パラレルワールド2」

2007-08-09 01:00:00 | 本好き
1より続き
ステップ1 万物理論を打ち立て検証する
万物理論や量子重力理論が明らかになり、超大型加速器と重力波検出器でその理論の正しさが確かめられれば、アインシュタインの方程式とワームホールについて、いくつか基本的な疑問に答えが出せるようになる。
一、ワームホールは安定なのか?
カー・ブラックホールを通り抜けようとする場合、自分自身の存在がブラックホールを攪乱するという問題が生じる。
しかしこの安定性の計算は、量子論的な補正によって一変してしまう可能性があるので、補正を考慮してやり直す必要がある。
二、発散の問題はあるか?
二つの時間を結ぶワームホールを通過する場合、ワームホールの入り口付近の放射は無限に増大する可能性があり、そうなると破滅を招く。
これは放射がワームホールを通過して時間を戻り、そのあと再びワームホールに入ることがあるからだ。
このプロセスが無限に繰り返されると、放射が無限に増大する。
だが、多世界理論が成り立ち、放射がワームホールを通過するたびに宇宙が分岐するのなら、放射は無限に増大せず、問題は解決できる。
この厄介な問題を片付けるのに、万物理論が必要になる。
三、大量の負のエネルギーは見つかるのか?
負のエネルギーは、ワームホールを広げて安定させられる重要な材料で、存在は既に知られているが、あくまでごくわずかだ。
果たして十分な量を見つけられるのか?
これらの疑問の答えがわかれば、先進文明は、宇宙から脱出する方法を真剣に考えるようになるだろう。
方法の選択肢はいくつかある。

ステップ2 自然に存在するワームホールやホワイトホールを見つける
ワームホールや次元の入口や宇宙ひもは、ビッグバンの瞬間のエネルギーによって、自然にできたかもしれない。
さらに負の物質が自然に存在する可能性もあり、これは脱出しようとする時に役立つだろう。
またホワイトホール(時間が反転している為、物体はブラックホールに呑み込まれるのと逆でホワイトホールから飛び出す)が、宇宙空間に設置する次世代の検出器で発見される可能性もある。

ステップ3 ブラックホールに探査機を送り込む
議論の為に、ブラックホールを通り抜けることができるとすると、片道切符の旅で非常に危険なことから、まず探査機を送り込もうとするだろう。
また事象の地平線に突入すると探査機の時間が止まって見える、という問題には、探査機は地平線からある程度離れたところでデータを送信する必要がある。

ステップ4 ゆっくりとブラックホールを作る
ブラックホールの特性が探査機で明らかにされたら、次はゆっくりとブラックホールを作る実験に進むかも知れない。
例えば中性子星を集め、その集団を渦巻状に回らせ、速度や半径を調節することで、専心文明はカー・ブラックホールを望みどおりにゆっくりと作ることができるかもしれない。

ステップ5 ベビーユニバースを作る
ここまではブラックホールの通り抜けが可能と仮定した。
では不可能と仮定してみると、今度はベビーユニバースを作ることを試すことになるかもしれない。
グースは、インフレーション理論(宇宙はド・ジッター型の加速する膨脹ではじまるとする理論)は偽りの真空(最低エネルギーではない真空状態。本来的に不安定で、もっと低いエネルギーを持つ真の真空へ必然的に移行する)の生成に基づいている為、人為的に偽りの真空を生み出し、実験室でベビーユニバースを作ることが可能なのではないかと考えた。
宇宙の物質/エネルギーの量が莫大でも、重力に由来する負のエネルギーもそれに匹敵するくらいあることから、正味の物質/エネルギーの総量は、たかだか30gほどかもしれない。
ただ、ベビーユニバースを作るには数十グラムの物質を偽りの真空に押し込むだけでいいが、途方も無く小さなサイズに圧縮しなければならない。
ベビーユニバースを作るもう一つの手だてとして、小さな空間領域の温度を1029Kまで上げてから急激に冷やし、時空が不安定になるところから、小さな泡宇宙が沢山できはじめ、偽りの真空を生み出す、というものもある。
しかしベビーユニバースが形成され始めるところは、我々の宇宙の中でなく特異点の向うで膨脹する為見えない。
このベビーユニバースは、それ自体の反重力によってインフレーションを起こし、我々の宇宙から「芽吹いて」分かれる可能性を持っている。
となると、生じるところは見えないはずだが、ワームホールがへその緒のように我々とベビーユニバースを結び付けてくれるだろう。
とはいえ高温にして宇宙を作る際には、莫大なホーキング放射を生み出す危険もあるし、新たに生まれた宇宙がつぶれてブラックホールになる危険もある。
これを理論上回避する為には、やはり負のエネルギーを得る必要がある。

ステップ6 巨大な粒子加速器を建造する
プランクエネルギーを調べるには、恒星系規模の粒子加速器が必要になる。
例えば、宇宙空間の真空度を利用し、小惑星帯のなかの円形の経路に沿って素粒子を走らせる粒子加速器が考えられる。
こうした粒子加速器を作るにあたっては、途方もない技術的問題のほかに、粒子ビームのエネルギーが2.7Kの背景放射を生み出している光子と衝突しエネルギーを奪われ、宇宙空間で到達可能なエネルギーには上限があるかもしれない、という問題がある。
もしそのとおりなら真空管の中にビームを閉じ込めることも考えられるが、遠い未来においては、宇宙背景放射が弱まりすぎて問題にならなくなっている可能性もある。

ステップ7 爆縮機構を生み出す
粒子加速器以外にレーザーと爆縮機構に基づく装置も考えられる。
様々な恒星系の沢山の小惑星や衛星にレーザーの放列を作る、といったものだ。
理論上、レーザーに込められるエネルギーの量に限界はないが、製作の問題として材料の安定性がある。

ステップ8 ワープドライブ・マシンを作る
ここまで述べた装置の製作に欠かせない条件として、恒星間の長大な距離を移動するワープドライブ・マシンがある。
ミゲル・アルクビエレが提唱したものに、前方の空間を縮めながら後方の空間を伸ばして移動する、というものがある。
空間そのものは光よりも早く広がれる(縮めれる)のだ。
アルクビエレは、これが物理法則の範囲に収まることを明らかにしたが、この宇宙船を動かすには、負のエネルギー(伸ばすため)と正のエネルギー(縮めるため)が大量に必要になる。
アレン・E・エヴェレットは、そうした宇宙船が二隻あれば、ワープドライブを続けて作動させることでタイムトラベルが可能だとも訴えている。

ステップ9 スクイズド状態による負のエネルギーを利用する
強力なレーザーのパルスが特殊な光学材料に当たることで生まれる、正負の光子のペアは、真空に存在する量子ゆらぎの増幅と抑制を交互に行い、正負両方のエネルギー・パルスを生み出す。
このふたつのエネルギー・パルスの合計は常に正のエネルギーになるので、既知の物理法則を破らない。
しかし負のエネルギーのパルスが強いほどその持続時間は短くなることや、例えば正負のエネルギーを分別する為にレーザー光を箱の中に照射し、負のエネルギーのパルスが入ったらすぐにシャッターを閉じるようにした時の、シャッターを閉じる行為そのものが、箱の中に正のエネルギーのパルスを発生させる、という問題がある。

ステップ10 量子論的な遷移を待つ
前述の「ゆっくり」考える知的生命の長大な時間があれば、ワームホールが現れたり量子論的な遷移が起きたりするのを待つだけで、別の宇宙に逃げ出せるかも知れない。
しかしその量子論的な遷移はいつ起きるか全く予想が付かないという問題がある。

ステップ11 最後の望み
安定なワームホールのサイズが、せいぜい顕微鏡レベルから素粒子レベルだとしよう。
それからワームホールを通過する時に、人体には耐えられない負荷がかかるとする。
そうするとただひとつの選択肢は、ワームホールの向こうで文明が再現できるだけの情報を、新しい宇宙に注ぎ込む、ということだけになるだろう。
超先進ナノテクノロジーで重要な特性をすべて「種子」にコピーし、それをワームホールに送り込むのだ。

先進文明の人々は、自らの肉体的存在を、時間をさかのぼったり別の宇宙へ脱出したりする困難な旅を生き抜ける存在に変える決断をし、炭素をシリコンに置き換え、意識を純粋な情報に還元するだろう。
高度な遺伝子工学やナノテクノロジーやロボット工学を利用して、意識を機械に融合できるようになっているかもしれない。
ワームホールのなかでは潮汐力や放射が猛烈になりそうなので、未来の文明は、向こう側の宇宙で全人類を再生できるだけの情報や、再生するのに必要な燃料やシールドや養分を、最小限にして運ばなければならないだろう。

そのように情報を送る目的は、ワームホールの向うで非常に小さなナノロボットを作り、文明を再生するのに適した環境を見つけることだ。
ナノロボットは原子サイズで作られるため、わけなく光速まで達し、また搭載されているのはほとんど情報のみなので、生命維持装置などの面倒なハードウェアも不要となる。

新天地となる惑星を見つけたナノロボットは、その惑星にある原料を使って大きな工場を建て、自らのレプリカを沢山作って大規模なクローン製造所にする。
この製造所で、必要な配列のDNAを作製して細胞に注入すると、有機体が再生し、その脳にもとの人間の記憶と人格を納め、ついには全人類をよみがえらせるようなプロセスが開始する。

ある意味でこのプロセスは、DNAを「卵細胞」に注入するのに似ている。
これと同様、「宇宙の卵」にも、先進文明の再生に必要な全情報が詰まっており、再生の為の資源(減量、溶媒、金属など)は向こうの宇宙で見つけることになる。
タイプⅢQのような文明ならば、このようなことが可能であると考えられる。



最後に著者は、全宇宙を調和のとれた秩序ある形で記述できる方程式があるとすれば、それは何らかの設計の存在を示唆すると思うが、その設計が人間に個人的な意味を与えてくれるとは思わない。人生の真の意味は、自分自身の意味を生み出すことにある。と述べています。

くまも思春期の頃、人間の存在意義を考えて、その矮小さに少しブルーになったりしたこともあったんですが、その時「こんな生きてることに意味を求めるような事考えてるのって人間だけだよな~…よくよく考えたら意味なんてないのかも…むしろ意味がないからこそ自分で意味を作り出せる自由があるってことで、実は楽しいことなのかもな~」って思いなおして、それからはお気楽さにさらに拍車がかかった考え方をするようになった、ってことがありまして、この著者の言葉にはもっと深い意味が込められているようですが、何だか似たようなことを考えているな~と、嬉しくなってしまいました。

また著者は考える人生の意味として、仕事や愛といった社会や他人との結びつきを大切にし、運命によって一人一人違う能力に恵まれても、望んだイメージと違う運命を呪うのでなく、あるがままの自分を受け入れ、どんな夢も自分の能力の中で実現しようとし、自分が登場した時よりも良い状態の世界を残そうとする、ということだとも述べています。

そして今現在が、様々な発見が相次ぐ、タイプⅠ文明の実現に向けて高く舞い上がるか、混沌と汚染と戦争の淵に沈むのかの決断を迫られる、人類史上最も刺激的で重要な時代である、と延べ、その大きな喜びと責任を訴えかけています。

あ、それからちょっとしたトリビアも書かれていて、面白かったのが、
オルバースのパラドックス
「輝く天体の宇宙分布が無限遠まで一様で、平均高度も場所によらないと仮定すると空は無限に明るく光輝くはず」
を歴史上初めて解決したのが、物理学者でもないアメリカの怪奇小説家エドガー・アラン・ポーで、「ユリイカ」という散文調の哲学的な詩の中に書かれているそうで、またポーは、ビッグバン理論の元となる、創成時の「超原子」というアイデアを提案した最初の人物、であるそうです。


それでは。