遅すぎたお見舞い

2013-06-29 23:44:53 | 日記

 

 

  

  こんにちは

  今日はわたしの反省の記です。

 

  実は4、5日前に、静岡県御殿場市の病院に友人のお母さまのお見舞いに行って

  きたのですけど・・

  御殿場は、富士山の裾野に広がっている高原の市街地です。

  あいにく、梅雨の曇り空でしたので、晴れて世界遺産になった富士山も一体どこに

  おわしますのか、はっきりしません。

  せめて裾野の美しい稜線でも見えれば分かったのでしょうけど、富士山って完全

  に姿を隠してしまったら、消えるのです。

 

    
                                            御殿場市内

 

                                      

  友人のお母さまに最後にお会いしてから、ずいぶん長い歳月が経っていました。

  病室に入りますと、両鼻にチューブを通して眠っていらっしゃいます。

  ふくよかな人だったのに、骨と皮だけになられて、まるで別人のようでした。

  看護士さんの呼びかけで、誰かがお見舞いに来たというのは理解なさったのです

  が、目を瞑ったまま、「恐れ入ります。ありがとう存じます。御足労をおかけいたしま

  して。ありがとう存じます」とかすれた小声で何度も繰り返されるばかりです。

 

  この丁重なご挨拶ぶりでは、わたしが来たことはお分かりになっていないのは明白。

  これ以上声をお掛けするのは痛々しくて、傍らの椅子に座り、お顔を黙って見守る

  しかありませんでした。

 

  ひと目お会いして、もう一度お礼が言いたかった。 

  お見舞いが遅すぎたのです。

  お会いする、ということは、わたしのことを認知してもらってはじめて叶うこと。

  これではお会いできずにただ拝見して帰っただけのこと。

 

  学生時代、地下鉄神楽坂駅の近くにある友人のお宅によくサークルの仲間とお

  邪魔したものでした。 

  母屋で何度も夕飯をご馳走になったり。

  今にして思いますと、ご家族に加えて4、5人分の夕飯を作るのも大変だったこと

  でしょうに。 

 

  気さくにさらっとお世話して、お世話したことは捨てる、お世話になったことは覚え

  いる、と決めていらっしゃるようでした。

  その、交際の極意には教えられることが多かったのです。

  わたしだけはご縁が深くて、人生の転換期につまづいていたとき、この母上が

  何故か傍にいらして相談に乗り、適切な人脈を紹介してくださって、そのお陰で

  スムーズな方向へ進むことができたということもありました。

 

  あの時、この時、あの人、この人・・いろんな思い出が連鎖的に、無声映画を見てい

  るように頭の中をよぎってゆきます。

  これではまるで、おばさまにはお会いできなくて、昔の自分に会って帰るようなもの。

 

  お見舞いに持参した明るい花束を花瓶に活けました。

 

  見ますと、おばさまは点滴の針の入った手を胸元で拝むように合わせておられ、そ

  の目尻には涙が滲んでいます。 

  わたしと分かってくださって、ありがとうね・・と仰っているのかと一瞬の期待。

  でも、違うかもしれない。

 

  思わず、「お世話になりました」と言ってしまい、しまった・・とまた後悔。

  これが最後のお別れ、という気持が見え見えの言葉ではありませんか。

  ある意味残酷なその言葉を打ち消すために再び、「早くお元気になられてください」

  と何度もつけ加えてしまいました。

  とても虚しいことを言っている自分をにがにがしく思いながら。

  このかたなら、こんなヘマなことはなさらないでしょうに。

 

  おいとまを告げて病室を出るとき、まだ何か仰っているので、戻って耳を澄ませま

  すと、「恐れ入ります。ありがとう存じます。御足労をおかけいたしまして。ありがとう

  存じます・・」と念仏のように、そつなくくり返していらっしゃるのでした。

 

  夜に友人に電話をして訊きますと、もう半ば意識がぼやけていて、子供が来たこと

  だけはかろうじて分かるくらいの認知度なのだそうです。

  やはり、お会いすることはできていなかったのでした。

  もう二か月早く、友人に電話してお母さまの容態を聞いていれば・・

 

  「まあ、まあ、お懐かしい!あれからどうなさっていたの、今日はゆっくりしていかれ

  るんでしょう?」

  賑やかでお喋り好きなお声が、きっとそう話しかけてきたでしょうに。

  結局わたしは自己満足のためにお見舞いに行ったようなものなのか。

  お見舞いにならないお見舞い・・なのでした。

  

                                         

                             

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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