アンドリュー・ワイエスの「遠雷」

2015-09-15 23:32:54 | 絵画

 

  こんにちは

 

  最近、ある一つの絵のことで、ショックを受けまして。

  今日は、そのお話をしたいと思います。

 

  アンドリュー・ワイエスという評価の高いアメリカの現代画家の絵なのですけど。

  日本の中学校の美術の教科書にも載っていますし、日本では人気の高い画家ですので、ご存知の

  かたも多いことと思います。

  わたしは過去に、ワイエスのその絵を東京のどこかの美術館で見て、とても感動したのです。

 

  その絵というのは、何も無い草原に犬が一匹寝そべっていて、耳だけが、何かの物音を聞きつけたよ

  うにピンと立っている。「遠雷」という題がついていました。

  犬は、どこか遠くの空で鳴っている雷の音に耳をそばだて、神経を張っていることが分かりました。

  絵に描けるはずもない「音」が犬を通してこうやって描けていることに感心し、そして、こんな草原の中

  で子供の頃自分も遠雷を聞いたことがあったような、その時、犬もいたような懐かしい気さえしました。

  そのうち突然空が暗くなり、雨が降りだしたりして。

 

  とは言っても、その「遠雷」には牧歌的とか抒情的とかいった作者のベタベタした思い入れは何ひとつ

  感じられず、その風景を淡々とただ写実している、という感じがとても良かった。

  長い歳月の間にも時折、あれはいい絵だったな・・と思い出したりしていました。

 

  先日ふと思い出し、ネットであの絵が見れるかもしれないと検索して、びっくり仰天しました。

  なんと、わたしの記憶とはまるで違う絵が出ているではありませんか。

  Yahoo画像から、その絵を引用させて頂きます。↓

                                      

                  
                                   「遠雷」  テンペラ画

  ↑まず驚いたのが絵のサイズです。わたしの記憶では、横の方が長い普通の長方形でした。

  こんなに縦長い絵だったっけ・・?絵の左右を切り取ってネットに出したんじゃないのかしら。

  あちこちのサイトで丁寧に調べましたけど、やはり原画はこの縦に細長い絵でした。

 

  わたしが見た作品にはこんな女の人なんか寝ころんでいなかったハズ。

  でもよく見ますと、この女性が何も気づかず寝入っているからこそ、犬だけが遠雷に気づいていること

  が対比して強く描けているのですから、きっとこの女性は存在していたのでしょう。

  犬の耳もピンと立ってなんかいなくて、ねているではありませんか。(笑)

  なんということ・・狐に抓まれたような気分、とはこのことです。

 

  ワイエスの作品に、他に「遠雷」という絵はありませんでしたので、確かにこれが「遠雷」なのです。

  するとわたしは、ずいぶんいい加減な記憶を長年持ち続けて感動していたことになります。

  何故・・?

 

  落ち着いてよく考えてみますと、その絵を見た瞬間、わたしには敏感な犬の耳が捉えた遠雷と草原と

  それしか記憶に残らなかったのかもしれません。 

  それほどに、その時のわたしにとってはそれがインパクトの強いものだったのでしょう。

  「見る」ということが、どれほど主観的なものなのかを思い知らされました。

  そして「記憶」というものもあまり信用しないほうがいい、と悟ったのです。

  自分の中で勝手に、草原に犬一匹の絵に描き変えていったものと思われます。(笑)

 

  引用した↑上の画像は、レプリカをカメラに撮ってさらにパソコンを通していますので、原画の色彩は

  残念ながらこの通りではないことをお断りしておかなくてはなりません。

 

  ところで、ワイエスは、アメリカの国民的画家と言われるほどにアメリカで人気のある画家なのですけど、

  その次に人気があるのは、日本だそうです。

  日本人が好きなタイプの絵かもしれない、となんとなく頷けました。

 

  オランダのフェルメールの「真珠の首飾りの少女」(あの青いターバンを巻いてきりっとこちらを見ている

  少女像)も特に日本人にはたいへん人気が高いそうですので、多少ストイックな感じのする写実的な絵

  が日本人の大勢の好みなのでしょう。国民性に近いかもしれません。

 

  ちなみに、日本の旅行業界で海外旅行で行きたい所のアンケートを取ったところ、一位がペルーにある

  マチュピチュ、二位は忘れましたけど、何か似たような感じのところでした、三位はモン・サン・ミシェルだ

  ったそうです。

  やはり、学びがあるような神秘的なストイックな場所が好きなのでしょうね。歓楽的な場所ではなく。

 

  そのアンドリュー・ワイエスの作品の画像を幾つかYahoo画像から引用して↓下に載せました。

  色彩については、そんなわけで多少違っていることと思います。

  ワイエス(1917年生まれ)は、心身ともに虚弱であったため学校教育を受けず家庭教師から読み書き

  を習いました。絵の師は著名な挿絵画家だった彼の父親でした。ワイエスは生まれた地に自宅を持ち、

  生涯その地と別荘のあるメーン州クッシングの二つの場所以外には旅行もせず、身の回りの風景や

  人々を絵に描いて過ごしました。そして、6年前の2009年1月に92歳でこの世を去っています。

                                                                        

                   
                                       粉ひき小屋

 

           
                                              粉ひき小屋

 

                  
                                               裸足

 

            
                                                1946年の冬

 

                 
                                                海からの風

 

               
                                          クリスティーナの世界                                           
                                                                                                                                    

  ワイエスの出世作となったのは、↑上の、ポリオで生涯歩けない女性が、這って外出し家に戻る姿を描

  いた「クリスティーナの世界」でした。

  まだ30代の若い時の作品ですので、彼の絵の師匠である挿絵画家だった父親の影響が強く残って

  いるようで、とくにこの女性の姿が、絵画というより物語の挿絵を見ているようです。

 

                  
                                               編んだ髪             

  「編んだ髪」の、ヘルガという女性を15年にわたって描き続けたヘルガシリーズ(240点の作品)には

  もはや父親の影響は排除されていて、ヘルガシリーズの美術展も見に行きましたけど、深い沈黙や深

  い呼吸を感じて強く印象に残った作品群でした。

  

                            
                             晩年のアンドリュー・ワイエス

 

 

                                    

  

  

 

    
 


                          

 


最新の画像もっと見る