井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

映画の中の核ロジック

2016年10月10日 | 日記

「相棒」ファンである私が、三田佳子さんのディナーショーで
水谷豊さんにお会いして(私にしてみれば杉下右京)にハグしてもらい
ミーハー的に
舞い上がった話は書いたことがありますが、
テレビでその「相棒」劇場版をやっていたので、見ました。

自衛隊を辞め、自分たちだけの国防軍を離れ小島で作り、
訓練しながら、その一方で細菌兵器を作っている・・・・という
スケールの大きい話を書かれる輿水泰弘さんならではの
脚本で、おそらくこの方、政治的スタンスと知識をかなり
明確に持たれている方かと想像します。

お会いしたことはなく、ただ私がテレ朝に昔、連ドラを書いた時、
病み上がりだった私の代わりに1話分、私が合間に休養出来るよう、
製作者側がピンチヒッターとして立ててくれた、その程度の
ご縁なので、ご本人の思想は作品からだけでは解りません。

映画のラストに、水谷さん演じる杉下右京と、自衛隊から落馬事故で
外れ、自ら民間国防軍を組織した男との対論が興味深いものでした。

人類が持ってはならないものとして、細菌兵器があると突っ込む
右京の相棒(成宮さん)に対して男は、「細菌兵器と核と、どう違う」と
切り返します。「核が最大の防御なんだ」と、もっともな論理であり、これに対抗する論理というものはなかなかありません。
私がセリフで切り返そうとするなら、こう書くかもしれません。

「(右京で)あなたのおっしゃるとおりですよ。核は人類が持った巨大なジレンマであり、核を持った国が持たぬ国に対して持つなというのも、矛盾です。おまけに北朝鮮という、国際的ルールを無視する国まで核を保持してしまいました。だからこそ・・・・そこに細菌兵器を持ち込むと、世界の頭の上で揺れるダモクレスの剣は余計、危うく人類の頭上で揺れ始めます。そこに加担せずという選択が、人類最大の良心ではないでしょうか」

ダモクレスの剣をまず、セリフでさり気なく説明しなければならぬし、実際はこういうセリフでは成立せず、もうちょっと脚本家として腕が要るところですが、レーゼドラマ(対話劇)としては、緊張感のあるシーンになり得るところです。

上のセリフに対して、男側からの反駁が当然あるわけですが、割愛します。
お断りしておきますが、上記は輿水脚本を逸脱して私の意見で書いたセリフです。

輿水脚本では、男と右京との核を巡る対論は比較的短く切り上げていて、それは大娯楽という路線を守った結果でしょうが、私はアクションシーンを削っても、もっと突っ込んで真剣に渡り合いたい部分でした。

大ラスの右京と、成宮くんのセリフも、私ならもっと悩みたいところです。
核という閉塞状況への出口はきっとあるという成宮くんに対して右京は
「あるといいですね」と、“悲観的希望”を述べて映画は終わるのですが、
これが映画全体の結論としてはいささか、食い足りない印象でした。
と言って、核論を大ラスで延々とやってもいられぬので、工夫が必要なのでしょう。

核保持が最大の核抑止力になる、というテーゼに対して、
対等に渡り合えるテーゼはあるでしょうか?

映画批評というよりは、映画に託していささか記した、本日は私の核論未満でした。

 

誤変換その他文章の瑕疵は後ほど、推敲致します。

 


3 コメント

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刑事ドラマ・今昔 (総太郎)
2016-10-10 13:17:11
先生、皆様方、こんにちは。
先生が「相棒」を執筆して下さったら、間違いなく素晴らしい作品が完成すると思います!
個人的にも先生の発想・プロットには賛同致しますし、後は全体的な構成や視聴者側を惹き付ける犯人側の反論想定・キャラクター造りでしょうか・・。

「相棒」は熱心で詳しい程のファンではありませんが、輿水さん始め、毎回スタッフの方々の御苦労が忍ばれます。

基本的にこういったジャンルの作品では、井沢先生のように社会的な見識や洞察力があり、
人間を深く描く事が出来る方でなければ成り立たないですね・・。

小生、特に昭和の名作が好きですが
TBSなら「七人の刑事」の早坂暁先生・佐々木守先生ら
「Gメン75」の高久進先生、
日本テレビ「太陽にほえろ!」鎌田敏夫先生・市川森一先生
「大都会」倉本聰先生、
テレビ朝日系なら「非情のライセンス」の橋本忍・橋本綾先生親子、
「特別機動捜査隊」「特捜最前線」の横山保朗先生、長坂秀佳先生らの作品には特に深い感銘を受けましたが、
どうしても、リベラル思想が根底・基本的にある為、良くも悪くも大半が国家・警察権力イコール悪の図式になりがち・・。

「シン・ゴジラ」を拝見して思い出しましたが、
娯楽アクションの代表的なテレビ朝日&石原プロの「西部警察」は、第一話がクーデター・戒厳令をテーマにしたポリティカルフィクション。
右翼フィクサー・伊藤雄之助さんが米軍の戦車をジャックさせ、都内でパニック状態を引き起こし、自衛隊の出動・クーデターを目論むものの、石原裕次郎さんら捜査当局に見破られ、警察力だけで、立ち向かうリベラル思想の内容でした。
故・永原秀一先生のシナリオでしたが、
劇中、裕次郎さんが「犯罪者を取り締まるのは自衛隊じゃなく、我々警察だからな!」旨の台詞が印象的。

一番思いきった作品だな・・と衝撃を受けたのは
鶴田浩二さん主演のフジテレビ「大空港」で最終回の劇中、罪を犯しながら頑なに沈黙を守る戦友の安井昌二さんを鶴田さんが靖国神社に連行!
「この社を見ろ!この奥に眠っている多くの仲間達に、お前はまだ唾を吐くつもりか?」と涙ながらに訴え、安井さんの心を開かせる展開でした。
故・村尾昭先生のシナリオでしたが、昭和50年代当時で、靖国神社を真正面からゴールデンタイムの(月曜9時枠)ドラマで肯定的に描いたフジテレビの英断には頭が下がりました。
 
良くも悪くも、視聴者も製作陣の方々も現在以上に社会と向き合い、真剣に挑戦的なドラマ造りをなさっていた昭和の時代を思い出します。

井沢先生が「相棒」に参加して下さったら、安易なヒューマニズムを越えた鋭い展開・傑作に期待出来るのですが、現在のテレビ・映画界の方々がどれだけの志をお持ちなのか・・難しい所ですね。
とりとめのない思い出・雑感失礼致しました。
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核兵器のない国の交渉力 (武蔵の国の人)
2016-10-10 22:40:15
先生 こんばんわ。

核は最強兵器、最大の防御と言われています。

日本の最強兵器は今は日本円ではないかと密かに思ったりします。

堺屋太一さんが現役の官僚時代に書いた「油断」という小説がありますが、中東戦争で石油が止められたらというシュミレーションした物語です。

日本に石油が入らなければ、流通が止まり、都市部で食料が入らなくなり飢餓状態になってしまう、東日本大震災での都市の混乱を見れば一目瞭然です。

例えばですが、最強の日本円を使って、石油市場の原油価格を1バーレル数百ドルにして、それを半年続けたらどうなるでしょうか?中国の石油備蓄量は、記憶が正しければ一週間程度、日本は半年です。

日本は戦わずして、中国を混乱させ、餓死者すら出るでしょう。こういう事を政治カードにして相手国と交渉する。

核兵器を持たない日本の取れる手段かなと個人的に思いますが、如何でしょうか。

PS. アーモンドは活性酸素を無害化するそうで、アンチエイジングにいいそうです。僕もたまにですが、アーモンドチョコを食べております。
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Unknown (toko)
2016-10-11 06:54:50
休日だったので、たまたま「相棒」見ていました。

あくまで個人的な印象ですが。
全体的に、「元自衛隊の民兵」と「自衛隊」について、「武器を持たせたらテロ組織化する、危険な存在」として悪意を持って描かれている、と感じました。
国防を叫ぶその裏には危険が潜んでいると、視聴者に刷り込みたいかのようでした。
現実には、元自衛隊の方々が、拉致被害者の救出に向けて力を尽くして下さっていたりするのに・・・

民兵のリーダーが「核がよくて細菌兵器がなぜいけない」「(アメリカは)守ってくれない」などと言うところは正論でしたが、結局は右京さんが優等生的コメントで締め、「やっぱり核や軍隊はいけないんだ~♪」と思わせたかったのかな、全然納得いかないなと思った次第です。

余談ですが、
最近はほとんど見ていませんが、亀山さんの相棒役が一番好きでした。
それから「裏相棒」というショートムービー?があり、これは傑作でした。
長々と失礼しました。
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