井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

これぞ小説

2020年03月07日 | 日記

 人に勧められて読み始めた髙田郁さんの「みをつくし料理帖」だが、文庫描き下ろしで厚手の本ではないとはいえ、時代物は敬遠気味の私が一気に10巻超を読み終え、しかしどっぷり浸かった髙田郁ワールドに別れを告げ難く、髙田さんの、次のシリーズである「あきない世傳 金と銀」をまとめて取り寄せたのだが、これもページをめくる手ももどかしく8巻まで短時日で読み通した。

 

8巻の末尾が次のとんでもない波乱を暗示していることもあり9巻目はいつ出るのか、と編集部に電話してみたら8月だとのこと。物語が急展開をする直前で放り出さされたまま8月まで待たされるのは殺生な・・・・

というわけで髙田さんの、これは今のところシリーズではないらしい「銀二貫」を手に入れ、なんとそっけないタイトルかと、読んでみたらこれが息つく間もない面白さ、ほとほと物語を綴るのが巧みな作家さんで、きびきびと歯切れよく、それでいて情緒を帯びた文章も心地よい。ストーリーテリングの妙に加え、文章そのものに酩酊感を覚える小説にはここ何十年お目にかかっていず、髙田さんの作品に巡り逢えたことを、喜ばしく思う。

「銀二貫」というタイトルも、作品を読み終えればこのタイトルしかないのだ、と納得する。

 巻末に収められた同作品の解説によると、髙田さんは小説中に登場させる料理を時間を延々と費やし納得行くまで自分で作ってみるそうで、だからこそ作品の中の料理の描写が際立って説得力があるのだろう。文章表現で最も難しいのが味の表現だが、髙田さんの描写は見事である。

 構成が緻密で、伏線の張り方が精緻を極めているので、おそらく執筆前に最初から最後まで構成を細かく立てていらっしゃると睨んだのだが、ご本人のエッセーを読んだら、やはりそうだった。 

 作家には、髙田さんタイプの人と、書きながら勢いで末尾にたどり着くタイプの人とがいる。

  ある結婚式で席が隣り合った夢枕獏さんにお尋ねしたら後者だということだった。

 髙田さんは取材と資料読みも緻密な方で 地元の図書館はむろん、関空からわざわざ飛行機を飛ばし、国会図書館を訪れ入り浸るそうで、物書きとしてはずぼらな私はうなだれるのである。

 付記すれば 髙田作品にはお人柄の良さがにじみ出る。 本来作家の人柄だの言いはしないが、髙田作品が人の心を捉えるのは文章で忍ばれる人柄も大きな要因なのだろうと思われる。

読みながら映像が浮かぶのは、髙田さんにコミックという「絵」に原作者として関わっていらしたからかもしれない。

 友人に何か面白い本はないかと問われ私が挙げたのが髙田さんの「あきない正傳 金と銀」だ。 早速本屋に向かったのが、いしだあゆみさんである。