最初に・・・ちょっと注意してほしいのですが、「コマ割がうまくできない」と言っている人の中には、コマ割の問題ではなく、そもそもストーリーの細部が固まっていない、という場合があります。
ネームの段階で最初にコマを割ることになることが多いと思いますが、その段階で詳細なストーリー展開が決まっていないので、何をどう描いていいのかわからず、当然どうコマを割っていいかもわからないという場合です。
これをコマ割の問題と思っていると解決しませんので、自分のネームが進まないのが本当にコマ割の問題なのか、ストーリーの問題なのか、ちゃんと特定するようにしてください。
漫画に関わらずですが、表面上の問題だけを見るのではなく、表面の底に潜む、本当の原因をきちんと特定してゆくというのは大切なことです。
でないと、本当に必要な解決方法ではない方法を模索することになってしまい、時間と労力の無駄なだけなく、間違った方向にいってしまうこともあります。
■確認方法
自分がどちらなのか確認する方法としては、もしもざっくりしたプロットしかない場合、そのプロットをもっと細かく詰めて、「脚本」を作ってください。
例:
ごく普通の平和な住宅街の朝の光景。男子高校生(主人公)が学校に遅刻しそうになって走っている。
主人公:「やばい、遅刻する~」
同時に、女子高校生(ヒロイン)が主人公の走る道路に向かって走っている。
ヒロイン:「もう~、また寝坊しちゃった~」
角でぶつかる二人。ぶつかる瞬間、二人の眼が合う。
二人:「やばい、ぶつか…」
二人がぶつかった瞬間、そこからすさまじい爆発が起きる。爆発は住宅街から日本全体、さらには地球全体を包みこむ。
荒廃した日本の光景
モノローグ:この闇の時代はこうして始まったのだった・・・
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このように、「どこで、誰が、何をして、何をしゃべって、誰とどうなって」ということをことこまかに書いてゆきます。これがちゃんとできるなら、コマ割りが苦手、これができないなら、そもそもエピソードがちゃんと作れていない、ということだと思います。
■コマ割自体が苦手な場合の練習方法
さて、ストーリーはきちんと固まっているけど、純粋にコマ割という作業が苦手だという場合についてですが。
まずは、漫画をたくさん読み、「ストーリーをコマで表現する」という感覚をつかむのが第一でしょう。
作家によって、コマ割をいろいろ工夫し、中には面白い表現をしている人もいます。
あと、映画も参考になるでしょう。
そもそも、何十年も昔に手塚治虫先生が、それまで単調な四コマ漫画でしかなかった日本漫画に、映画の「カット割」の考え方を導入してできたのが、日本のストーリー漫画です。
そうすると、漫画のコマ割の基礎は映画のカット割にあるのかもしれません。
私はあまり映画みないのでえらそうなことは言えないのですが、映画のカット割は参考になると思います。
あと、具体的な練習方法としては、まず既存の漫画(なんでもいいから好きな漫画)を、漫画の状態から、脚本にしてみてください。上記のように、登場人物のセリフや動作を文章で書き出します。
そして、その書き出した脚本を、元の漫画を見ずに、漫画の形にしてください。そして後から、自分のやったコマ割りと見比べてみてください。
別に、元にした漫画と同じでなくてもいいのです。ひょっとしたらあなたがやったコマ割りの方がより魅力的かもしれませんから。でも、自分がやった方が読みづらい、盛り上がらないなと思ったら、元の漫画がどういう工夫をしているのか、よく分析してみてください。
その練習をしていけば、じきに「コマでストーリーを表現するコツ」がつかめると思います。
■そのほか、小手先のアレコレ
もう少し小手先的なことも記載します。
私が漫画を描くにあたって注意していることなどです。
1.1Pには5~7コマ。多くても9コマまで。
これは人によりますので、作風作品にあっていれば別に1P1コマだろうと10コマだろうといいのですが、一般的な普通の作風の読みきりだと、これくらいが一番読みやすいと思います。
9コマというのはかなり見づらいので、できれば7コマくらいまでがいいですね。
2.ただし、最初・クライマックス・最後は1ページ3コマくらいなど余裕をもつ。
最初からコマが詰まってたら読む気がしません。
クライマックスでコマが詰まってたら盛り上がりません。見開き使っていいくらいです。
最後までコマが詰まってたら余韻が残りません。
多少、他を詰める結果になったとしても、この3箇所は余裕をもって、読者の印象に残るようなシーンを描きましょう。
漫画は緩急も大事なんです。
3.ページ内でのコマの大きさにメリハリをつける。
まずはそのページで一番大きく見せたいコマを決めて、そこを大きく見せられるように他のコマの大きさを決めてゆくといいと思います。
同じような大きさのコマがただ並ぶと変化に乏しく退屈ですし、全体的に窮屈に見えます。
また、読者もどこに重点をおいて見ればいいのかわからなくて困ります。
自分が漫画を読むときをよく思い出してみたらわかると思いますが、読者もすべてのコマに重点をおいて読むのはとても大変なので、無意識のうちに、「なんとなく読み飛ばしていいコマ」「ちゃんと見るコマ」をわけながら読んでいます。
「ないと困るけど、なんとなく流すだけでいいコマ」は極力小さく、「ここはちゃんと見てほしいコマ」は極力大きく見せるといいでしょう。
4.必ずページの最後に「ヒキ」のコマをつくる。
読みきり作品の場合、作中で「きりがいい」ところを作らないようにしましょう。
きりがいいと、そこで読者が読むのをやめてしまうかもしれません。
全ページとまではいいませんが、できれば奇数ページだけでも、最後に「次のページに続くようなコマ」を入れて、読者にページをめくらせるようにしましょう。
5.読む順番をわかりやすくする。
変則的なコマ割はうまくつかえば効果的なのですが、読む順番がわからないと台無しです。
読者がたてに読み進むのか、横に読み進むのかわからないようなコマ割りになっていないか等注意しましょう。
また、これはフキダシやモノローグも同じです。読者の目の動きにそった順番になっているか注意しましょう。
また、作画にこだわりのある人だと、よくフキダシのシッポを省略しているのを見るのですが、あれは読者からすると誰のせりふかわからないです。
多少不恰好になってもいいから、必ずシッポをつけて誰のセリフかわかるようにしましょう。
読者は作者が思うほど作品のことを理解してくれません。わかってくれると思うこともけっこうわかってくれません。
読者を無駄なところで悩ませたり迷わせたりすると、物語に入り込めなくなったり、気分がしらけたり、読むのがめんどくさくなったりするので、漫画への好感度が落ちます。損ですよ。
演出上わざとわからなくしているなど特殊な場合を除き、必ず読者が迷わず読める配置にしましょう。
6.コマ割でスピード感や緊張感を演出する。
このへんは本当に漫画や映画などから感覚を磨くのが一番だと思いますが。
映画がカット割りでスピード感や緊張感を演出するのと同じく、漫画はコマ割でこういったものを演出します。
スピード感を出したいところは細かいコマを重ねることが多いです。形も鋭角的に変則にすると雰囲気が出ます。
まったり感を出したいところは、正方形や横長の長方形で大きめのコマを並べる感じですね。
一般に、横長のコマは安定感、縦長のコマは緊張感を出しやすいです。
このへんは感覚的なことが大きいですので、いろいろな漫画を読んで研究してみてください。
補足
こんなすてきな企画?を見つけました。
漫画家(ほったゆみさん)の方がお題を出して、素人の方が実際にコマを割ってみるというものです。
とても勉強になりますので、ぜひ一緒にやってみてはいかがかと思います。
また、こちらの各作品を読みますと、同じセリフなのに人によってキャラクターや、話の展開まで変わってきてしまっていることに気がつくと思います。
登場人物の服装、表情、動作、セリフ以外のいろいろなもので、物語が変わるのです。登場する作品の多くは、ほとんど絵も描いたことがないレベルの人です。それでも、絵での表現で、それだけのものが変わってきています。
絵がヘタだから~~と言って漫画をかかない人がいますが、絵はもちろん漫画では大切な要素ではあるのですが、他にも大切なことが多いことが、こちらを読むとよくわかると思います。
実は私、ものごころついたときには、絵本という形ではありますが、物語を描いていまして、7歳くらいのときは漫画を描いていました。
なので、実はコマ割ができないという状況がわからないのです。もちろん、「ここで大ゴマとりたいのに、これじゃ入りきらない」とか、「ここにヒキをもってきたら、この構図で絵を描けるコマを入れられない」とか、そういうところで悩むことはありましたが、コマ割がわからないとか、できない、という気持ちは正直わかりません。
でも、この企画を見る限り、多くの人はやっぱり、ストーリーの細部さえちゃんと決まっていたら、コマ割はできるのだと思います。今中高年までの日本人の多くは漫画を必ず子供の頃に読んでいます。多少でも漫画を読むのがすきな人なら、上手ヘタの差はあっても、コマ割は感覚的にできると思います。
なので、漫画家志望だって人が、コマ割をできない、というのは私はやっぱりコマ割じゃなくて、エピソードが定まってないだけではないのかなあ?と思ってしまうんですけどねえ。
ちなみに、私が全部読ませていただいた中では、以下の二つが特に印象的でした。ネタバレを含みますので、読了されてから読んでいただくと良いかと思います。上から目線っぽくなってしまっているのは、こういうブログなのですみませんです。
第3回 雪だるまの話:17歳のポンコツさん
セリフどおりの進行なのですが、よく見ると女の子の持ち物がボロいのです。それが一番よくわかるのは最終ページで女の子がカサを広げるところ。(それ以前にもカバンもボロかったりと、ちゃんと伏線があります)
そして、雪だるまに失望して、一人でボロボロの傘をさして帰っていく女の子のランドセルには、ひどい落書きがあります。
そう、彼女は学校でひどいイジメにあっていたのです。きっと人間の友達は一人もいないのでしょう。だからこそ、雪だるまであっても、友達の存在が嬉しかったのです。
それに気づいてから、最初から見直すと、友達ができたんだと思ったときの、女の子の表情がとても活きてきます。心から嬉しそうですよね。
そして、それだけに、最後の一人寂しそうに帰っていく女の子の後ろ姿が、より寂しく効果的に見えます。もうこれを打ってるだけで泣きそうです。
私が上記に書いたようなことは、作中にセリフなどでは出てきませんし、エピソードとしてすらありません。表情や持ち物、女の子の後ろ姿など、純粋に「絵」の力です。
「絵で伝える」ということをよくわからせてくれる作品だと思います。
第7回 犬と猿とキジの話:14歳のねこみやわかねさん
やっぱりあの2Pが秀逸かと・・・。すごく印象に残りました。猿が後ろを向いていて犬が正面を向いているのも効果的ですよね。
なかなか、あのお題からああいうコマ割(?)にたどり着かないと思うのですが、こういうのをセンスというのかもしれないですね。
あのお題のなかで、多くの人に一番メッセージとして伝わるのは、あの2Pの犬のセリフだと思います。「伝えたい部分を効果的に伝える」という意味で、非常に大胆で、大成功だと思います。
しかし、こういう作品をみると、私のこのブログも含めてですが、学校などで「漫画を教える」というのは難しいことだと思います。
14歳という、まだ感性の若いこの作者が、私が上記に描いているように「1ページ、5~7コマくらいを目安にしましょう」とか、そういうレクチャーを真面目に素直に受け取ってしまったら、この作品のようなコマ割りは生まれないかもしれません。
よく知らないからこそ自由で斬新な発想が生まれるということはあると思います。
優秀な編集さんなどは、特にデビュー前後のド新人には、敢えて具体的な指導をしないという方も多いです。(私の担当さんもそういう人でした。ダメなものはダメと言いましたが、具体的な指導はナシ・・・)
その編集さんはその理由を「デビューくらいは、人の指導ナシでもできるレベルじゃないと、どうせプロになってやっていけないから」とおっしゃっていましたが、それだけでもなく、漫画慣れした人間の指導によって、自由な発想や可能性を摘んでしまうリスクもあってのことなのかもしれないですね。