漫画家を目指す人へ

漫画家を目指す人へ参考になれば。

デッサンとクロッキー

2012-04-06 21:39:41 | ■漫画を描いてみる②絵

絵の練習をしていると「デッサンを勉強して」とか「クロッキーをやった方がいい」とかいう言葉を聞くことがあると思います。


●デッサン


デッサンとは美術における「素描」のことで、色を塗らず鉛筆や木炭でモチーフを描くことを言います。

人間に限らず、動植物や静物などのデッサンも多いです。
美大や芸大の入学試験にはほぼ必ずこの「デッサン」が含まれます。美術の基礎となるものです。

が、漫画で使われる「デッサン」という言葉は、美術で言うデッサンと若干違う意味合いで使われることが多いです。
まず、漫画で言う「デッサン」はほぼ100%「人物デッサン」のことを指します
さらに言うと、「人体の構造」「人体のバランス」というような意味合いで使われることが多いです

「デッサンが狂ってるので、もっとデッサンを勉強してください」というようなことを言われた場合には「人体のバランスがおかしいので、もっと人体の構造を勉強して把握し、バランスがとれた状態で描けるように練習してください」という意味なわけです。

 


漫画では人体についても、他の物についても、「構造を正しく理解し、不自然でない程度にバランスよく描ける」ことが重要ですので、そこについての勉強は必要です。

ただ、いきなり「構造を理解し」なんて言われて、分厚い美術書を買ってきて開いても、骨やら筋肉やら、妙にリアルなおばちゃんの木炭デッサンやら載っているだけで、それを見てどうしていいかわからないと思います。
美術書は高いですしね。いきなりとりあえず買うのはすすめません。

私は、漫画の模写などから始まって、楽しく漫画のお絵描きをするところから始めてゆくのがよいと思っています。

そして、ある程度描きなれてゆくと、上述の「人体の構造」について勉強してゆかないと、ちょっと難しいポーズになると描けないことに気がつくと思います。
ここの関節がどうなっているかわからない、ここが不自然な気がするけど、どうしてなのかわからない・・・。そうなったときに、初めて「人体の構造」について調べてみる、という感じでいいと思います。

まずは、自分の身体を調べるところから始めてみましょう。
鏡に映して、わからないところをよく見てみる。動かしてみる。さらには触って骨や筋肉がどうなっているのか感じてみる。
デジカメや携帯で写真をとって、モデルにしてみる。

そして、好きな漫画家やイラストレーターが、身体をどう描いているのか、もう一度じっくり見てみましょう。模写をやってもいいと思います。
難しい肩や腰の動き、腕や足の関節、手や足の指。
なんとなく見ているだけでは気がつかなかった、いろいろなところにこだわりや工夫があるのがわかると思います。微妙なバランス、線の強弱。

漫画やイラストではデフォルメされていますので、必ずしも正しいデッサンで描かれているわけではありませんが、「このように描くことで、それらしく見えるんだ」ということを学ぶことができると思います。

 

それでもやっぱりよくわからない。ちゃんと骨や筋肉がどうなっているのか知りたい。

そう思ったら、学校でも市立図書館でも本屋でもいいので、「デッサン入門」「人体デッサン」みたいな本を探してみましょう。
個人的には、「人体の構造を把握する」が目的ですので、デッサンのやり方を説明している本より、人体の構造についてわかりやすく説明してある本がいいと思います。医学専門書が役に立ったという話も聞いたことがあります。

そうして、自分が「ここがわからない、知りたい」と思うようなことが載っているか調べ、わかりやすく載っている本があれば、お金がない人は借りるところから、お金持ちは買いましょう。

なんでもそうですが「練習」や「勉強」は、それ自体をするためにするものではなく、「目的」を果たすためにするものです。
なので、楽しく絵を描くうえで、自分が「上手になるために、これが必要なんだ」ということに、自分で気づいてから始めるのがよいと思っています。
人に勉強しろ、練習しろ、と言われて、わけもわからずやってみたところで、自分でその必要性が本当にわかっていなければ、続かないし身につきません。

たまに、質問サイトなどで、練習方法や量ばかりにこだわる人がいます。方法や量はもちろん大切ですが、そこばかりにこだわると練習すること自体が目的になってしまいます。

また「これだけやってれば間違いない」「これが正しい方法」というものはありません。人によって違うからです。なので、安易に他人に正解を求めるのはやめて、自分で自分のための正解を探すことを忘れないでください。

 

 

さて、ところで、ある程度以上の、本格的なデッサンは、漫画では必要はないと私は思います。

漫画で言う「デッサン力」というのは、主に「『人体の形態』を『不自然なく』『線で描く』力」を指しますが、美術では「『モチーフの形態、質感、量感、立体感、臨場感』を『正確に』『タッチで表現する』力」を指します。
全然違うわけではないのですが、実はそれほどカブってないのです。


個人的には、パースや構図、形態を正確に捉える力、また後述する「物を見ぬく力」は共通して必要なので、そこまでは基礎として学んで良いと思うのですが、それ以上になってくると美術と漫画は離れてゆくと思います。

作風にもよりますが、一般的な少年少女マンガなら、線・ベタ・トーンでの表現が主です。影など多少タッチが入ることがあっても、タッチを主体にして量感や質感を表現するような画風になることはあまりありません。リアルになりすぎて少年少女漫画には向かないからです。

青年漫画のようなリアルな作風ならたまにあります。「バガボンド」「テルマエロマエ」なんかいい例ですね。あれはデッサンで学ぶようなタッチが入ってます。ああいう作風を目指すなら、デッサンの勉強をしっかりしておいていいでしょう。

 

あと、個人的に美術的なデッサンで、漫画に役立つことがあるとしたら、「物を見ぬく」力がつくことだと思います。

デッサンはたかがリンゴ一個を、コーラ瓶一本を、2時間も3時間も、ひたすら見つめて、その物に向き合います。わずかな形のゆがみ、パース、かすかな陰の色の違い、光の当たり方、そういったものを目を凝らして見つめ、何時間もひたすらストイックに鉛筆や木炭の陰影だけで、表現を追い続けるのがデッサンです。

物を「見る」というのは、絵を描く上で、実は相当に重要で基本的な能力です。誰もが当たり前のようにできることで、実はなかなかできていないことです。

デッサンをガッツリやると、「なんとなく見る」だけではなく、「物に隠された、絵を描くための情報を読み取る」というようなことができるようになります。

その物が、どういった空間に、どういった状態で、どういった形態で、どういった陰影をもって、存在するのかを、把握する。そして、それを表現するのに、どのように手を動かし紙に表せばいいのか頭の中で組み立てる、そういったテクニックですね。

デッサンがすべての基礎と言われるのはこのためだと思います。

漫画を描くのに直接的にはどこまで役立つかというのは微妙ではあるのですが、長い目で見たとき、絵を描くのに関連した仕事をするならば、やっておいて絶対に損がない練習です。

 

個人的に、デッサンだけは完全独学ではなく、できればちゃんとした先生にならった方がいいと思います。

美術用予備校なら間違いなく教えてもらえるでしょうが、それが難しい人は、学校の美術の先生や、町のデッサン教室みたいなところでもいいので、最初の基礎だけでも習うといいでしょう。→こちらの記事にそのへん書きました。

 

なお、注意点としては、「正しいデッサン」が必ずしも漫画として良い絵になるわけではありません。
漫画では多少デッサンがおかしくても、「魅力的に見える」方が大事です。
ぶっちゃけ、きっちりデッサンをとると、どうしても躍動感や動きは乏しくなりがちで、堅苦しく面白みのない絵になることがあります。
もちろんどう見てもおかしいのは別ですよ。それはおそらく「魅力的に見えない」と思います・・・。

ですので、デッサンの勉強やクロッキーもやりつつ、漫画の模写をやったり、漫画を描いたりして、「漫画の絵」として魅力的にデフォルメ・表現することも忘れないように練習してゆきましょう。

 

●クロッキー

いきなりですが。絵は別に手だけで描くものではありません。

絵というものは、眼と脳と手、すべて使わなければなりません。

眼で見て、脳で捉えて、手で覚えるのですが、この一連の作業の練習に良いのが「クロッキー」というものです。

「クロッキー」とは「速写」というもので、言葉のとおり「速く描く」練習法です。
デッサンが一枚の絵を数時間かけて、じっくり立体感や質感をつけて仕上げるのに対し、クロッキーは数分から数秒で描きます。
当然じっくり描いてなんかいられません。立体感もつけられません。
一瞬で見て、把握して、描く、これをすごいスピードでこなす練習がクロッキーです。

クロッキーはとても簡単です。
まず大きめのクロッキー帳(ぺらぺらの安いやつでOK)と2Bくらいの濃い鉛筆か、マジックを用意します。消しゴムは要りません。
友達でも家族でもいいので、モデルをお願いしましょう。
最初は15分くらいのタイマーをセットし、15分でモデルを描きます。このとき、頭からじっくり描いていくのでは間に合いません。
顔や指などの細部も後回しです。とにかく、全身の構造をぱっと見てとらえて、全体を描くことを重視してください。
消しゴムは使いません。一発勝負です。
それを、10分、7分、5分と短くしてゆきます。最終的には1分~30秒単位でどんどん友達にポーズを変えてもらい、すごいスピードで描き殴ってゆくのです。
ものすごい集中力がいります。これが眼と脳と手を鍛えます。

なお、モデルになってくれる人がいない場合、スポーツ番組の録画を一時停止してスポーツ選手をモデルに描くような人もいるようです。一時停止せずに動く選手をそのまま描く人もいます。私はできませんが・・・。
ネットではポーズマニアックスのようなページもあります。

が、私はできれば実際の人間を描くのが一番いいと思います。
やっぱりいくら立体的でも、画面は画面、二次元なんです。
私もポーズマニアックスを見て練習したことがありますが、どうしても、何か空間が掴みきれない、もどかしさのようなものを感じました。
人間は三次元の世界で生きています。三次元の人間を見て描く方が空間把握の力がつくと思います。

クロッキーは漫画には有効な練習方法だと思います。モデルになってくれた友達にはアイスでも奢っておきましょう。漫画家志望仲間なら交代でやりましょう。

そして、クロッキーをやりながら、うまくかけなかった、なんかごまかしちゃった、どうなってるかわからなかった部分について、人体の本で調べておきましょう。
ここはこういう関節だからこうなったのか、とか、ここにこういう骨があるから、ここがでっぱっていたのか、ということですね。
あとから「おさらい」として、そこだけじっくり納得ゆくまで描いてみてもいいと思います。クロッキーではなくデッサンに立ち返ってもいいでしょう。

※実際にやってみたのが、こちらの記事。

 

追記:目クロッキー

さて、上記のとおりとても素敵な練習方法、クロッキーですが、いくら手軽にできるとはいえ、本当にいつでもどこでもやるわけには行きません。

授業中や仕事中にクロッキー帳を取り出すわけにもいきませんし、電車や街中でいきなり他人を描き出したら、勝手にモデルにされた人とトラブルになることもあるかもしれません。

でも、街中や電車で人を見ていたら、クロッキーしたいと思うことが多いと思います。(たまに本当にやっている人もいますが…)

そんなときにオススメなのが目クロッキーです。

やり方は簡単というかそのままですが、目で見ながら、脳内だけでクロッキーをやるのです。仮想クロッキーです。

これだけでも、上記の「目で視て、脳で捉えて、手で描く」うち、手で描く以外の部分を鍛えることができます。

できれば、あとで絵を描ける状況になったら、記憶を頼りに紙に描いてみるといいでしょう。

記憶は繰り返し思い出すことで定着しますので、目で視て、脳内で捉えて描き、さらにあとで手で紙に描くことによって、より確実に蓄積されると思います。

これで、いつでもどこでも、クロッキーし放題です。

 

ただし、特に男性は、不審者に間違われないようにだけ注意してください。女性や子供を凝視していると、よからぬ誤解を受けることもあるかもしれませんから・・・。

 

 


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