「漫画はとにかくキャラが大事」、というのは聞いたことがあるかもしれません。
自分が漫画を読むときのことを思い返せばわかると思うのですが、確かに深いテーマやメッセージ性、凝ったストーリー、そういったものも大切ですが・・・、まずその漫画を「読もう」「もっと読みたい」と思わせるのはキャラクターです。
読者はキャラクターに感情移入して、彼ら彼女らの物語を読むのですから。
キャラクターに興味が持てなければ、かなりの確率でその漫画を読むのをやめてしまいます。
「この子なんだか面白いな」
「この人がどうなっていくのか、何をするのか、見てみたい」
そう読者に思わせるのが大切なのです。
テーマもメッセージ性もストーリーも、読んでもらわなければ伝わりませんし、読んでもらうためには、まずキャラなのです。
だからこそ「主体」なのです。
なので、「このキャラの物語を読みたい」と読者に思わせるようなキャラクターをつくり、さらには読者に興味を持ってもらう必要があります。
■キャラを「つくる」
さて、キャラを「つくる」ところまでは、けっこう皆さん簡単にやっているのではないでしょうか?
このキャラはこんな外見で、こんな性格で、こんな能力を持ってて、こんな過去があって・・・、と設定を作るのは楽しい作業だと思います。
ノートにけっこうそんな落書きをしているのではないでしょうか。
実は私はキャラづくりが苦手…というか、キャラを中心にした漫画づくりが苦手でした。これが苦手というのは前に述べたように漫画家としてはかなり致命傷です・・(多数ある漫画家を諦めた理由のひとつがこれです・・)。なので、ここであまり参考になることは言えませんが・・・。
魅力的なキャラをつくる!という方法があれば苦労はしないのです!
ですが、今流行している漫画や、自分が好きなキャラのことを考えてみると、なんとなくどういうキャラが人気が出やすいのかはわかると思います。
私がざっと考え付くのは以下のようなものでしょうか。
1.見た目や名前、口調などが面白い。
ギャグマンガだとよくありますよね。
一見しただけで忘れられないようなすごい髪型、すごい顔、すごい服装などなど、けっこうあると思います。
名前も、駄洒落になっているものや、誰もがつっこまずにいられないようはヘンな名前。
また、昔からある手法で語尾をヘンなものにするというのもありますね。
方言をしゃべらせるというのもいい方法です。
「わかりやすい・覚えやすい」というのは、かなり大切です。
読者はとにかく忘れやすいし、いろんなことを覚えないんです。よっぽど面白い、興味あることしか覚えないんです。
なので、見た目・名前・口調などのぱっと見てすぐにわかる部分が面白い、というのはそれだけで覚えてもらいやすくなります。
2.見た目がかわいい・かっこいい。
少年・少女マンガではけっこう重要なことです。
人間、なんだかんだで「かっこいい・きれいなものがすき」です。
何も全員を美形設定にしなくていいですが(それはそれでキャラの個性がなくなりますし、リアリティがなくなりすぎてしまうかも)こういうキャラが数名いると漫画が華やかになります。
絵が苦手でかわいく見えない・かっこよく描けない場合も、他のキャラとかにかわいいとかかっこいいとか言わせれば、その作品内ではそういうことになるので問題ありません!
3.性格が明るい・善良・素直・がんばりや
前の2.にも通じるのですが、人間はやっぱり「よい」ものが好きです。
ダークな登場人物も人気が出やすいですが、やっぱり人は基本的に「明るい善良な人間」に惹かれます。
2.と3.は人間が、普遍的に普通に好感を抱きやすくなる性質です。
やっぱり、無条件に好かれるスペックというのは大事です。
4.ギャップがある
これは最近はかなり重要ですね。
やっぱり「予想外」というのは、かなり人を惹きつけます。
ルックスと中身がまったく違っていたり、普段とある特定のときの性格が全然違っていたり・・・というようなもの。
自分の周囲でも実際にそういう人がいるのではないでしょうか?
そこを広げてゆくと面白いキャラができるかもしれません。
極端でなくても、多少でもギャップをつけることによって、キャラをたてている漫画はとても多いので、ちょっと読むとあちこちで見つけられると思います。
自分でうまく思いつかない場合は、紙に適当に「美人」「イケメン」などの外見情報、「おばか」「超天才」などの性質・性格の情報、さらに「格闘家」「宇宙飛行士」など職業などの情報をバラバラに書いて、目をつぶって何枚か取り出してみると、思いもよらない組み合わせが出て面白いかもしれません。
5.何らかのポリシーがある
たとえば「どんなときも仲間は裏切らない!」というすばらしいポリシーでもいいですし、「どんなときもカツラは斜め45度!」という他人には理解しづらいポリシーでもいいと思います。
その漫画の決め台詞になっていることも多いですね。「真実はいつも一つ!」とか「海賊王に、俺はなる!」とか(これ、「いつも真実は一つ」とか「俺は海賊王になる」ではないところもミソですねえ)
もちろんそれがある程度ストーリーの中で活きてこないといけませんが。
ポリシーというのはその人の生き方の中で、重要な基準になるものです。
これがきちんとある人物は、読者にとって理解しやすい人物となります。
また、作品のテーマを支えるものになることも多いです。
なお、投稿作くらいの読みきりですと、たいてい主人公の「相手役」とも言うべきキャラがいると思います。
恋愛物なら恋愛の相手、バトル物やスポーツ物ならライバル、友情物なら親友など。
そういう重要な準主役というべき相手役と、主人公のキャラは正反対なくらいにまったく違うキャラに設定するといいでしょう。
やっぱり漫画というのは「キャラ同士がおりなすドラマ」が一番重要なのです。
同じような人間が二人いて、同じようなことをしていても、ドラマをつくるのは難しいです。
全然違う人間同士が、自分と違う人間と、あるいは反発し、あるいは同調し、切磋琢磨したりして、成長してゆくから面白いのです。
あと基本的なこととして、似たようなキャラだと、読者が見分けられないという可能性があります。
これは、作者としては信じられないことかもしれませんが、読者は本当に漫画というものを最初は適当にしか読みませんので、よっぽど違ったキャラでないと、別キャラとしてあまり認識しないのです。
私はある読みきりで、少年二人のキャラを1人は「黒髪短髪でおとなしい性格で名前を漢字」もう1人を「金髪長めで活発な性格で名前をカタカナ」にしたのですが、この性格の違いがほとんど表現できてなかったため、担当さんに「なんかキャラが似ていて区別しづらい」と言われました。
黒髪と金髪でも、区別してもらえないのです・・・!
おおげさにやりましょう!
まだまだあると思いますが、まあこのへんで・・・。
■キャラを「たてる」
・エピソードでキャラを魅せる
しかし、漫画家の大変で大切なところはキャラをただ作るだけではなく、、「キャラの魅力を読者に伝える」そして、「キャラに興味をもってもらう」ことです。
どんなに自分で「すばらしいキャラ」だと思っても、それが読者に伝わっていなければ意味がありません。
その「伝える」ために、重要になってくるのが「エピソード」です。
ただキャラの設定を作っただけでは、キャラの魅力は読者に伝わりません。
かといって当然、「このキャラはこういうキャラなんです」と文字だけで説明しても伝わるわけがありません。
キャラをたたせようと思うなら、そのキャラの魅力が充分伝わるようなエピソードをつくらなければなりません。
たとえば「このキャラはドジですよ」と言うなら、いかにそのキャラがドジなのか、具体的なエピソードをつくらないといけませんし、「でも、とても優しい子なんですよ」というなら、どう優しいのか、その子が優しいことがわかるエピソードを入れなければならないわけです。
このときに魅力的なエピソードを考えられること、それがとても大事です。
なお、エピソードについてはまた別に説明しますので、そちらもあわせて読んでください。
ある人気作家さんは「すべてのエピソードはキャラをたたせるためにある」と断言したそうです。
もちろんエピソードの役割は他にもありますが、メインはその意識で考えることが大事だと思います。
自分の中でそのキャラが確立されてくると、いちいち頭で考えなくても、そのキャラクターならどういうときにどういう行動をとり、何を言うのか、感覚でわかってくるようになります。そうなると、いわゆる「キャラが勝手に動く」状態になってきます。
作者側がコントロールするのではなく、キャラが自分の意志を持ったかのように、自分で物語を動かし始めます。
こうなってくるのが、漫画としては望ましい状態です。
・キャラの中で矛盾する設定・エピソードを入れない
人間にはいろんな面があります。優しいところもあれば冷たい部分もあるでしょう。
でもここもバランスをよく考えて入れないと、「基本は優しいけど、冷たいところもあって、ちょっと残酷で、冷静だけど優柔不断で、でも本当は寂しがりやなんです」みたいになってくると、読者にとっては「曖昧でよくわからないキャラ」ということで落ち着いてしまいます。
リアリティは大事ですが、漫画ですので「読者にわかりやすい、アピールしやすい」ということを忘れてはいけません。せめて「普段は冷たいけど、実は優しい」くらいにしておきましょう。
また、友情を大事にするキャラのように描いておきながら、途中で当たり前のように友達を見殺しにすれば、やっぱり「え?さっき友情が大事みたいに言ってたのは何だったの?」と、読者も混乱して、「何考えているかわからない人」となり、感情移入できなくなってしまいます。
作者にとってはストーリー上必要なことだったり、あるいは作者の中だけでは「そういうことをするキャラ」ということになっていても、読者にはついてゆけなくなってしまいます。
キャラの性格に合わないエピソードは入れないように、入れるならなぜそうなったのか読者に充分わかるような準備をしましょう。
意外性や多面性を持たせるのも大切かと思いますが、キャラの一貫性を壊さない程度に。
・キャラの考え方や性質が変わるなら、読者に納得のいくような説明をエピソードで行うこと
少年少女漫画では、主人公の成長を扱った話が多いと思います。それもキャラの性質の変更です。
たとえばヘタレの主人公が強くなるなら、彼に何があって、何を感じて、何をやって、何を学んで、彼が強くなってゆくのか、説得力のあるエピソードを積み重ねてゆかなければならないということです。
ここがちゃんと伝わっていないと、「展開についていけない」「ご都合主義」と読者に思われてしまいます。
たとえば、イジワルだったキャラがやさしくなるには、「自分がイジワルしていた相手に助けられた」など、読者に「こういう出来事があれば、確かにキャラの性格も少しは変わるんだろう」と思わせるようなエピソードが必要なのです。
「キャラに感情移入できない」「キャラがたってない」と言われる場合には、キャラ自体に魅力がないという場合もあるでしょうが、それ以上に、キャラを魅力的にみせるような説得力のあるエピソードが足りない、あるいはエピソードが矛盾したり、設定に無理があるなど、設定や表現方法の問題であることも多いと思います。
これはけっこう自分ではわからないので、人の意見をきくといいでしょう。
「なんでこの人が、ここでこう思ったのかわからない」「なんで、突然こんなことを言い出したのか(やったのか)わからない」というような感想があった場合は、きちんとわかるように、もう一度詰めて考えましょう。