ヒトリシズカ特論 その2

日本の四季の移り変わりなどを、身近な場所に行って、その場での観察などによって、ご紹介しています。

人気ミステリー作家の東野圭吾さんの最新作「クスノキの番人」を読んだ話の続きです

2020-09-04 12:00:05 | 
 8月の猛暑の中で、人気ミステリー作家の東野圭吾さんの最新作「クスノキの番人」を数回、読み直した話の続きです。

 この単行本「クスノキの番人」は、2020年3月20日に実業之日本社から発行されました。価格は1800円+消費税です。



 この単行本「クスノキの番人」は、東京都郊外の農村部らしい地域(たぶん八王子郊外辺りの模様)にある月郷神社(つきさとじんじゃ)で育つ直径5メートル、高さ10数メートルの大木のクスノキを巡るミステリーです。

 たぶん1回、読んだだけではなかなか全体像の流れが分からない不思議な霊力の話です。以下は、この最新作「クスノキの番人」のネタばらしを含んでいます。もし、これからお読みになる方はこの点にご留意してください。

 この単行本「クスノキの番人」の主人公は、直井玲人(なおいれいと)という青年です。ある犯罪を犯して拘留されている時に、ある日、弁護士が訪ねて来て、「示談に持ち込み、釈放される」という話を持ち掛けます。

 この示談話にのり、その結果として東京都郊外にある月郷神社の“クスノキの番人”になります。

 直井玲人の祖母の異母姉妹である柳澤千舟が管理していた月郷神社の“クスノキの番人”です。昼間は、境内に立つクスノキにはだれでも近づくことができますが、夜は予約した者しか近ヅくことができません。

 このクスノキの中ほどに開いているうろ(空洞)の中で、満月あるいは新月の夜に、特別なロウソクの明かりを灯して、祈念すると、その祈念した者の血筋の者は後で、その祈念した思いを受け取ることができるという不思議な霊力を持っています。

 月郷神社がある地域に住んでいる各家系では、このクスノキの木に祈念を預けて、その子孫が先祖の思いを受け取り、その家系を繁栄させるというしきたりがありました。

 この満月あるいは新月の夜に祈念するには、特別なクスノキの薫りのロウソクを灯すことが必要です。柳澤家の代々の“クスノキの番人”はローソクの作り方を伝承しています。

 現在は、柳澤千舟がローソクの作り方を伝承しています。

 “クスノキの番人”になったばかりの直井玲人は、満月あるいは新月の夜に予約している訪問者を月郷神社の境内にあるクスノキの木まで案内し、例のロウソクを手渡します。このロウソク代は気持ち分です。でも多くの方は1万円を置いていきます。

 ただし、“クスノキの番人”である直井玲人は、祈念している間は、社務所内で待機し、祈念内容を聞いてはいけないと言明されています。

 “クスノキの番人”になりたての直井玲人が案内した佐治寿明(さじとしあき)は、満月の夜に、クスノキのうろの中に入ります。佐治寿明は50歳代後半の年齢のようです。佐治家もこの地域の旧家です。

 柳澤千舟から祈念している方が何をしているかは見ても聴いてもいけないと厳命されているために、直井玲人は社務所内で待機しています。

 すると、怪しい人影がクスノキの木に近づきます。この怪しい人影は佐治寿明の娘の佐治優美(ゆうみ)でした。

 優美は父親が時々、家や経営する会社から姿を消すために、ほかに愛人をつくっているのではないかと疑って後をつけてきました。

 クスノキのうろの中の祈念行為を知ってはいけないと厳命されていますが、クスノキのうろの中から鼻歌が聞こえてきます。よく分からない状況です。

 以下はネタばらしです。佐治寿明は二人兄弟の次男です。3歳上の長男の佐治喜久夫(きくお)は、小さな子供のうちから音楽に才能を見せたために、母親はピアノを習わせ、音楽大学に入学させます。しかし、音楽大学に入ると、音楽の才能がある同級生に出会い、やや自信を失います。

 紆余曲折(うよきょくせう)を経て、さまざまな芸術活動を試みます。母親は過度の期待を与えたことが長男の佐治喜久夫が迷った人生を送ったと感じます。

 結果的に、母親の葬式にも出られず、愛にこたえることができす、悶々とします。亡くなった母親に捧げる曲をつくり、ある日、月郷神社の境内にあるクスノキの木の祈念に行き、この母親に捧げる曲を祈念します。そして長男の佐治喜久夫は病死します。

 あることから、次男の佐治寿明は兄の思いを知り、クスノキのうろに入って、祈念を受け取ります。しかし、音楽にうといために、兄の作曲した曲をうまく受け取れません。

 これが下手な鼻歌の正体でした。その後に、娘の佐治優美はこの曲の受け取り法を工夫します。

 地元の名家の一族の思いを伝える祈念を、子孫などがどのように受け取るかというファンタジーになっています。以上のように物語を明らかにすると、陳腐なあらすじに感じますが、これを巧みな流れのファンタジーとして、東野圭吾さんは書き上げていて、とても面白い展開です。






人気ミステリー作家の東野圭吾さんの最新作「クスノキの番人」を何回か読みました

2020-08-27 12:00:05 | 
 8月の猛暑の中で、人気ミステリー作家の東野圭吾さんの最新作「クスノキの番人」を数回、読み直しました。

 この単行本「クスノキの番人」は、2020年3月20日に実業之日本社から発行されました。価格は1800円+消費税です。



 この単行本「クスノキの番人」は、東京都郊外の農村部らしい地域にある月郷神社(つきさとじんじゃ)で育つ直径5メートル、高さ10数メートルの大木のクスノキを巡るミステリーです。

 たぶん1回、読んだだけではなかなか全体像が分からない不思議な霊力の話です。

 今回、3月下旬から東京都内の大型書店では、この単行本「クスノキの番人」が平積みされ、書店は売れる本と期待していることが分かる様子でした。

 この単行本「クスノキの番人」の主人公は、直井玲人(なおいれいと)という青年です。

 彼は、母親の美千恵が、銀座のホステスとして勤めている時に親しくなった妻子ある男性と結ばれて生まれた子供です。この父親・男性は家庭があるために、母親の美千恵には「産まないでくれ」と頼みますが、母親の美千恵は好きな男性の子供として産んでしまいます。

 当初は、生活費を入れる予定でしたが、父親・男性は不幸にして没落し、母親の美千恵は銀座のホステスとして働いて生活費を稼ぎます。

 母親は夜中に帰ってきて、午前まで寝ています。食事はレトルトかインスタント系です。朝食・昼ごはんを兼ねたインスタント焼きそばなどが記憶に残る程度の日々を送っていました。そして、不幸にも母親の美千恵は途中で乳がんで亡くなります。

 この結果、母親の美千恵の母親の富美(ふみ)に育てられます。直井玲人は紆余曲折の人生の中で育ちます。

 こうした生活環境から、直井玲人は工業高校を出た後に、いくつかの職を重ねます。

 中古の機械を販売するトヨダ工機(トヨタ自動車に関連あるように見せかけた社名)という小企業に勤めていましたが、社長とのいざかいで会社を辞めます。

 この会社のことを恨んだ直井玲人は、元の勤務先に泥棒に入り、警報が鳴って簡単に捕まります。

 警察の取調室では、素直に答えますが、当然、起訴されます。窃盗未遂や器物破損などの罪で起訴されます。

 ところが、ある日、見知らぬ弁護士が訪ねて来て、「示談に持ち込み、釈放される」という話を持ち掛けます。

 当然、この示談話を受け入れます。その数100万円の対価は、東京都郊外にある月郷神社の“クスノキの番人”になることでした。これが交換条件でした。

 この月郷神社は、地元の名家の柳澤家が伝統的に管理して来ました。その名家の柳澤家の当主は柳澤千舟(ちふね)でした。

 驚いたことに、柳澤千舟は祖母の富美と異母姉妹だと伝えます。

 柳澤千舟の父親は宗一です。父親の宗一は柳澤家の婿養子でした。柳澤千舟が産まれた後で、千舟の母親は病死します。

 千舟の父親の宗一は高校の国語の教師として勤務している内に、22歳年下の富美と再婚し、この結果、柳澤家から出て、元の姓の直井に戻ります。

 柳澤千舟は祖母の富美と異母姉妹であり、血縁がつながっている直井玲人に月郷神社の“クスノキの番人”を託します。

 この月郷神社の“クスノキの番人”は、柳澤家の血縁でないと、できない番人という話なのでした。伝説のようです。

 こうした柳澤家の血縁関係を、読んでいくうちに背景として理解していきます。

 人気ミステリー作家の東野圭吾さんはやはり筆力が高く、ここまででも面白く読ませます。

人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返した話の続きです その3

2020-08-17 12:00:05 | 
 人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返した話の続きです。

 この原田マハさんの短編集「あの絵の前で」は2020年3月20日に幻冬舎から発行されました。



 有名な画家などの生き方などを展開する長編が得意な原田マハさんの短編集は、原田マハさんの人生観・考え方が垣間見えています。

 この短編集「あの絵の前で」の共通項は、日本の各地の美術館に飾られている“この1枚”に関係する話です。

 四番目の短編「豊穣」では、愛知県豊田市の豊田市美術館に展示されている「豊穣」(グスタフ・クリムト作)が登場します。オイゲニア・プリマフェージという女性を描いたものです。

 この短編の主人公の亜衣は、祖母に育てられた小説家志望の若い女性です。亜衣の母親は未婚で亜衣を出産し、「子供がいたら仕事ができない」といって、自分の母親(亜衣の祖母)に亜衣を預けて、東京に行きます。その後は裕福な男性と結婚したようですが、亜衣を迎えにはきません。

 最初はこれほどひどい母親がいるかなと思いましたが、最近の自分の子供の虐待をする母親の事件内容を知ると、こうしたことも現実にはあるのだと変に納得しています。

 祖母は、この時は60歳です。祖父は既に病死しています。この祖母は岡崎市内の会社で定年後も働き続け、孫の亜衣を健気に育てます。

 この祖母は読書好きで、孫の亜衣にも本を読み聞かせます。この結果、亜衣は小学生の時から国語の中でも作文が得意でした。このため、高校を卒業後にこの作文が得意ということから、「小説家になりたい」と思い始めます。

 卒業後はコンビニでパートをしながら、祖母と生活を続けますが、フリーのライターになるために、豊田市で一人暮らしを始めます。

 実際に得たフリーライターの仕事は、Webサイトの通販サイトのサクラ記事の執筆・投稿することでした。見たことも試したこともないモノを、「使ってみてとても良かった」などとの偽レビューを書く仕事でした。

 いつの日か作家になる、その日のための文章の練習だといい聞かせて、この仕事を続けます。文章修行はあまり進んでいない様子です。

 ある日に、住んでいるコーポの隣の部屋に、スガワラさんというおばあさんが引っ越してきます。

 スガワラさんは豊田市美術館に勤務しています。その豊田市美術館の入場券を1枚、亜衣に手渡します。

 ある日、祖母から1枚のポストカードが届きます。そのポストカードには、グスタフ・クリムトが描いた満開の花畑にたたずむ綺麗な女性の絵の写真が載っていました。豊田市美術館が所蔵する「豊穣」の絵でした。

 祖母は亜衣が一人前の小説家になる日を夢見ていましたが、ある日、病死します。

 そして、ある日から祖母に約束した小説を書き始めます。隣のスガワラさんというおばあさんとも時々、夕飯を一緒に食べるなど少し親しくなります。

 その内に、隣のスガワラさんというおばあさんも実の息子一家から「孫の世話をしてほしい」といわれて、息子一家と同居するために引っ越しすることになります。

 隣のスガワラさんが引っ越す直前に、以前もらった豊田市美術館の入場券を持って、この館を訪れます。そして「豊穣」(グスタフ・クリムト作)を鑑賞します。

 たぶん、祖母が送ってくれたポストカードを思い出し、小説家になることの意思を固めます。

 ここで話は終わります。正直、亜衣が小説家になる希望の話と、「豊穣」(グスタフ・クリムト作)のかかわりがよく分かりませんでした。

 ただし、世の中には小説家希望の男女は多数います。何とか希望をつないで、文章書きに精進している方はたくさいると思います。

 比較的、恵まれない境遇で育った亜衣の将来がとても気になります。苦労して小説家になった原田マハさんを少し感じる部分もありますが、この主人公の亜衣の方が苦労しています。

 なお、人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」については、弊ブログの2020年8月11日編も併せてご覧いただけると幸いです。

人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返しました その2

2020-08-11 12:00:05 | 
 人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返した話の続きです。

 この原田マハさんの短編集「あの絵の前で」は2020年3月20日に幻冬舎から発行されました。



 有名な画家などの生き方などを展開する長編が得意な原田マハさんの短編集からは、原田マハさんの人生観・考え方が垣間見えます。

 この短編集「あの絵の前で」の共通項は、日本の各地の美術館に飾られている“この1枚”に関係する話です。

 二番目の短編「窓辺の小鳥たち」では、岡山県倉敷市の大原美術館に展示されている「鳥籠」(パブロ・ピカソ作)の絵が主人公の背中を押します。

 この短編の主人公の詩帆は、岡山市の高校から東京都内の難関の国立大学に入学して都内で暮らしています。父親は県議会議員です。

 詩帆が高校生の時に、小鳥遊音叉(たかなしおんさ)という身長が190センチメートルの男の子と親しくなります。彼のあだ名は“なっしー”です。

 “なっしー”は、小さいころに母親を亡くし、お父さんに男子ひとつで育てられました。小学生一年生から食事の手伝いをしたので、料理上手です。

 父親からギターを教えてもらい、中学生になるとかなりギターが弾けるようになります。ただし、家が貧しくギター教室には通えませんでした。

 詩帆の17歳の誕生日に倉敷市の大原美術館に一緒に出かけて、「鳥籠」(パブロ・ピカソ作)を見ます。

 “なっしー”は小学生の時に、この「鳥籠」の絵を見て、ひっかかったままの印象をもっていました。

 “なっしー”は高校を卒業後に地元のIT専門校を出て、Web制作プロダクションに就職し、お金をためて、主人公の詩帆が大学を卒業すると上京します。

 そして一緒に暮らし始めます。東京都内ではファミレスのパートタイムで頑張り、正社員に推薦される一歩手前まで頑張ります。

 しかし、詩帆は“なっしー”には本当に好きなギター演奏家になってほしいと願います。この結果、“なっしー”もアルゼンチンにギターを習いに行くために、ます語学学校に行く計画を立てます。

 そのために、二人で成田空港まで行き、詩帆は、“なっしー”が乗っている米国サンフランシスコ行きの飛行機を見送ります。自分で言い出した結果の一時の別れです。

 二人は30歳代の同棲生活から、“なっしー”が一人前のギタリストになって戻って来る道を選びます。“ごく普通の絵にかいたような幸せな二人から”試練の道に踏み出します。

 “なっしー”は大原美術館で見た「鳥籠」(パブロ・ピカソ作)の絵には小さな窓が開いていて、籠の中の小鳥が飛び出すことが描かれていると解釈します。

 籠の中から大空に飛び出した二人の未来はどうなるのか、幸せが待っているのかどうかは分かりません。それでも、挑戦する二人です。

 平凡な人生を歩まない二人の人生に、原田マハさんの人生が垣間見えます。

 なお、人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」については、弊ブログの2020年8月10日編も併せてご覧いただけると幸いです。

人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返しました

2020-08-10 12:00:05 | 
 人気作家の原田マハさんの短編集「あの絵の前で」を何回か読み返しました。新型コロナウイルスの外出自粛などの影響です(一応、晴耕雨読風を装っています)。

 この原田マハさんの短編集「あの絵の前で」は2020年3月20日に幻冬舎から発行されました。価格は1400円プラス消費税です。



 有名な画家などの生き方などを展開する長編が得意な原田マハさんの短編集は、原田マハさんの人生観・考え方が垣間見えます。

 この短編集「あの絵の前で」の共通項は、日本の各地の美術館に飾られている“この1枚”です。

 最初の短編「パッピー・バースデー」では、広島市の県庁近くにあるひろしま美術館に展示されている「ドービニーの庭」(フィンセント・フォン・ゴッホ作)です。

 この短編の主人公の夏花は、広島カープの熱烈なファンです。夏花の母親は奈津江は、市内のお好み焼きの老舗「広さん」で働く、お好み焼きづくりの名人です。

 そして、この母系家族3人は、父親は子供をつくる役目を果たすと、去って行く存在感のない男です。強く生きる女系家族です。

 主人公の夏花にも、娘の夏里16歳がいます。父親はもういません。

 この母系家族3人は、広島市で精いっぱい生きています。広島市なので、8月6日には毎年欠かさず、平和記念公園に鎮魂に出かけます。

 実は、8月6日は主人公の誕生日なのです。

 主人公は大学4年生の時は、文学部生で東京都内で一人暮らしし、就職活動に励みます。友人の同級生の亜季は東京都内の大手出版社に就職を決めています。

 この亜季と都内の美術館などに出かけ、学芸員の仕事を知ります(この辺が、原田マハさんの人生を匂わせます)。

 就職活動に苦労しながら、8月の盛夏にひろしま美術館を訪れ、「ドービニーの庭」から何かを感じています。

 そして、時間が流れ、ある日、自動車部品メーカーの総務事務として勤めていた会社を辞め、このひろしま美術館の受付業務などの嘱託として働き始めます。

 自分の誕生日の8月6日の午後4時30分過ぎの最終入場時間に、黒いつば広の帽子を被った女性がやって来ます。

 「入館はあと30分です」と受付けとして伝えます。

 この女性は、あの同級生の亜紀でした。主人公の夏花の誕生日に「ハッピーバースデー」というために訪ねてきたのでした。

 この短編には、大学生の時に学芸員の仕事に憧れるなどの原田マハさんを彷彿とさせるシーンがあります。

 強い女性として生き抜く姿も、原田マハさんを彷彿とさせます。

 この短編集「あの絵の前で」は、原田さんの分身らしい主人公が出てきます。