著 者 小野 美由紀/著
出版者 東京:早川書房
2020年04月
女性が男性を食べないと妊娠できない。
そんな変わり果てた世界で、普通の女の子として生きるユミは…。
表題作をはじめ、「バースデー」「幻胎」など全5編を収録。『SFマガジン』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。
「男を食べたい」と思ったのは、一体いつからだろう。
はぁ、と荒い息を吐きながら、目の前でヒトミちゃんが男を犯している。
ぎっこんばったん、ボートを漕ぐみたいに大きく上体を揺らし、ほおを紅潮させ、恍惚に身を震わせながら、ヒトミちゃんは跨った男に夢中で腰を打ち付ける。
大きく開いた脚の間の、艶やかな朱が露わになる。
ぱっくりと割れたざくろみたいに、果汁を滴らせ、赤く色づき、ペニスを深々と飲み込んでる、ヒトミちゃんの中心。
それを見た途端、快楽を生むはずの私の膣はまるで鋼鉄のように硬く冷えてゆく
ヒトミちゃんの動きがひときわ激しくなった。
普段は見られない、ヒトミちゃんの快楽に歪む顔が見たくて、私は首をさらに伸ばす。
男がすっかり射精しきったのを確認した途端、ヒトミちゃんはその鋭い二本の牙で、ためらうことなく男の喉を食いちぎった。
「私たちが戦争に行って子供産まなきゃ、この国滅びちゃう」
鱗に覆われた体、
岩をも噛み砕く強い牙、
一撃で敵を撃ち殺す長い爪、
平均身長2mの、地上にいるどんな生物より生存に適した強いボディを女たちは手に入れた
「狩りって?・・・もちろん、セックスのことだ。」
セックスは普通、捕食の形で行われる。
遺伝子をいじくりまわした結果、
私たち女の身体はセックスしたら男を食べないと受精しない仕組みになっちゃったみたいなんだ。
「昔はさ、男が女を食うって言ったらしいよ」
「ほら、昔はさ、女が男を選べなかったから、ひたすら選ばれ待ちの人生だったらしい。あまりに待ちすぎて、ちんこ切り取っちゃった女もいたんだって」
「えーすっごぉい。そんなに妊娠したかったのかなぁ」
「ヒトミの子なら、絶対かわいいよね!」
「絶対に女の子産んでね!
ね?食べられちゃうなんて、もったいなーい」
「無理無理、あのね、うちらが男、食べるのは、本能だからに決まってんじゃん!そういう風にプログラムされてんの!だから当たり前!」
「食べられる瞬間、男はつらい、って言うけどさ・・・
私はほんとかな、って思う。
射精した本当に直後の男ってさ、
なんか、全てを悟りきったみたいな顔してるよ。
私、男とセックスしているときって、
祭壇の上にいるような気がするんだよね」
「ばぁっかだよねぇ、男って!
死ぬ瞬間までセックスのことだけ考えて生きてんじゃない。狂ってるよねぇ」
「だって、いくら女が男より弱かったって言ってもさ、身体の構造的には、女が男を”食ってる”のは、ずーっとずーっと、太古の昔から変わんないじゃん、ねぇ?」
男の腹をまっぷたつにかっさばくと、内臓が、でろ、とこぼれ出る。
男の体のどこが好きかって言われたらまずモツ。
次に筋肉。次に脳。
別に美味しくなんかない。
ただの本能だから。
美味しいかどうかなんて考えない。
「私たちの膣とか子宮ってさ、身体の内側にあるって思ってるじゃない?あれってさ、本当は外側なんだよ」
「そう、ただのへっこみ。私たちが普段、ペニスを出し入れしてるのもさ、子供を宿して生み落とすのだってさ、実は全部、身体の外側で起きてる出来事なんだよね。」
その場にいない人間の噂話をするときの女の声って、
8Hのシャーペンの芯みたく鋭く尖る。
もし相手が聞いていたら、心臓の奥深くまでぶすーって突き刺さるような声
・・・本当にめんどいのはさ、やけに同情的な人たちなんだよ。そーゆーのはさ、こっちが相手の思った通りのかわいそうな人じゃないと途端に怒り出したりするんだよね。それまでは「大変だったね、いままで辛かったね、協力するよ」とか言っておいてさ。
「ねぇ、ちえさ、聞いていい?」
「うん」
「ちんこがあるって、どんな感じ?」
「・・・うーん、なんか、持っている、って感じ。
でもちょっと怖くもあるよ。
自分の意志通りにならないものがぶら下がってるというのは」
「うん。なんかさ、男と女って、もしかしたら全然別の原理で動いてんじゃないかなーって思うようになったかも。違う力で引っ張られてるってゆーか、社会的にも生物的にも」
ふたりとも「顔面偏差値」高すぎて・・・
男って相手に100パー関係ない話でも、すげー楽しそうに話せる生き物なのかな。
相手がそれでどう思うかなんて、全然考えてないの。
出版者 東京:早川書房
2020年04月
女性が男性を食べないと妊娠できない。
そんな変わり果てた世界で、普通の女の子として生きるユミは…。
表題作をはじめ、「バースデー」「幻胎」など全5編を収録。『SFマガジン』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。
「男を食べたい」と思ったのは、一体いつからだろう。
はぁ、と荒い息を吐きながら、目の前でヒトミちゃんが男を犯している。
ぎっこんばったん、ボートを漕ぐみたいに大きく上体を揺らし、ほおを紅潮させ、恍惚に身を震わせながら、ヒトミちゃんは跨った男に夢中で腰を打ち付ける。
大きく開いた脚の間の、艶やかな朱が露わになる。
ぱっくりと割れたざくろみたいに、果汁を滴らせ、赤く色づき、ペニスを深々と飲み込んでる、ヒトミちゃんの中心。
それを見た途端、快楽を生むはずの私の膣はまるで鋼鉄のように硬く冷えてゆく
ヒトミちゃんの動きがひときわ激しくなった。
普段は見られない、ヒトミちゃんの快楽に歪む顔が見たくて、私は首をさらに伸ばす。
男がすっかり射精しきったのを確認した途端、ヒトミちゃんはその鋭い二本の牙で、ためらうことなく男の喉を食いちぎった。
「私たちが戦争に行って子供産まなきゃ、この国滅びちゃう」
鱗に覆われた体、
岩をも噛み砕く強い牙、
一撃で敵を撃ち殺す長い爪、
平均身長2mの、地上にいるどんな生物より生存に適した強いボディを女たちは手に入れた
「狩りって?・・・もちろん、セックスのことだ。」
セックスは普通、捕食の形で行われる。
遺伝子をいじくりまわした結果、
私たち女の身体はセックスしたら男を食べないと受精しない仕組みになっちゃったみたいなんだ。
「昔はさ、男が女を食うって言ったらしいよ」
「ほら、昔はさ、女が男を選べなかったから、ひたすら選ばれ待ちの人生だったらしい。あまりに待ちすぎて、ちんこ切り取っちゃった女もいたんだって」
「えーすっごぉい。そんなに妊娠したかったのかなぁ」
「ヒトミの子なら、絶対かわいいよね!」
「絶対に女の子産んでね!
ね?食べられちゃうなんて、もったいなーい」
「無理無理、あのね、うちらが男、食べるのは、本能だからに決まってんじゃん!そういう風にプログラムされてんの!だから当たり前!」
「食べられる瞬間、男はつらい、って言うけどさ・・・
私はほんとかな、って思う。
射精した本当に直後の男ってさ、
なんか、全てを悟りきったみたいな顔してるよ。
私、男とセックスしているときって、
祭壇の上にいるような気がするんだよね」
「ばぁっかだよねぇ、男って!
死ぬ瞬間までセックスのことだけ考えて生きてんじゃない。狂ってるよねぇ」
「だって、いくら女が男より弱かったって言ってもさ、身体の構造的には、女が男を”食ってる”のは、ずーっとずーっと、太古の昔から変わんないじゃん、ねぇ?」
男の腹をまっぷたつにかっさばくと、内臓が、でろ、とこぼれ出る。
男の体のどこが好きかって言われたらまずモツ。
次に筋肉。次に脳。
別に美味しくなんかない。
ただの本能だから。
美味しいかどうかなんて考えない。
「私たちの膣とか子宮ってさ、身体の内側にあるって思ってるじゃない?あれってさ、本当は外側なんだよ」
「そう、ただのへっこみ。私たちが普段、ペニスを出し入れしてるのもさ、子供を宿して生み落とすのだってさ、実は全部、身体の外側で起きてる出来事なんだよね。」
その場にいない人間の噂話をするときの女の声って、
8Hのシャーペンの芯みたく鋭く尖る。
もし相手が聞いていたら、心臓の奥深くまでぶすーって突き刺さるような声
・・・本当にめんどいのはさ、やけに同情的な人たちなんだよ。そーゆーのはさ、こっちが相手の思った通りのかわいそうな人じゃないと途端に怒り出したりするんだよね。それまでは「大変だったね、いままで辛かったね、協力するよ」とか言っておいてさ。
「ねぇ、ちえさ、聞いていい?」
「うん」
「ちんこがあるって、どんな感じ?」
「・・・うーん、なんか、持っている、って感じ。
でもちょっと怖くもあるよ。
自分の意志通りにならないものがぶら下がってるというのは」
「うん。なんかさ、男と女って、もしかしたら全然別の原理で動いてんじゃないかなーって思うようになったかも。違う力で引っ張られてるってゆーか、社会的にも生物的にも」
ふたりとも「顔面偏差値」高すぎて・・・
男って相手に100パー関係ない話でも、すげー楽しそうに話せる生き物なのかな。
相手がそれでどう思うかなんて、全然考えてないの。