「なんで天草のパートナーになったんだ?」
「頼まれたから。」
俺の質問に、牧野は愛想もクソもねー返事をしてきた。
「頼まれたら、お前は何でも引き受けるのか?」
「そんなんじゃない。天草主任には、すごく辛くて苦しかった時に助けてもらったんだ。だから、その恩返し。」
「恩返し?なんだよ、それ。」
俺の質問に牧野が返事してきたことが、去年の秋の話。
牧野の親父さんがトイチに手を出して落ち込んでいた時に、天草が差し入れをしたらしい。
「かぼちゃタルトは甘くて、抹茶ラテはほろ苦いの。それが合うんだよねー。きっと、あの時以上の美味しい抹茶ラテとかぼちゃタルトは無いよ!」
嬉しそうな牧野の声。
天草の差し入れ以上のモノが無いだと…?
俺が世界中を探して、その抹茶ラテやかぼちゃタルト以上に美味いのを食わしてやる!
「その時にね、パパのことで緊張していた心が、ぱぁーってほぐれていくのがわかったんだぁ。それで、私はママと進にも同じような気持ちにさせてあげたいなって思ったの。」
天草の差し入れで心がほぐれただぁ?
ふざけんなっ!
「そう思ったその日の夕方に、西田さんに呼ばれてあんたに初めて会ったの。」
あ?こいつ、今、なんつった?
そのこれ以上ねーってくらい上手い差し入れをしてもらった日に、俺と初めて会ったってことか?
それを食って、母親と弟に同じ気持ちにさせてあげたいって思ったってことなんだな。
ってことはだな…。
こいつの考えることは、何となくわかる。
スゲー嫌な予感を抱きながら、俺はなんとか喉の奥から声を出した。
「お前、もしかして…。俺との結婚したのって…。」
俺は敢えて《契約結婚》の言葉は使わなかった。
そんな俺の言葉に、牧野のあっけらかんとした返事。
「あ、わかった?そうなの。天草主任の差し入れがなかったら、あんたとの契約結婚は引き受けなかったかもしれない。」
俺の嫌な予感的中。
しかも、俺が契約結婚っつー言葉を使わなかったっつーのに…。
牧野は平然と契約結婚と言ってきた。
直前までのこいつの言葉である程度は予想していたが…。
俺たちの結婚に、天草のヤローが深く係わっていただと…。
俺が牧野と結婚できたのには天草がいたってことか!?
ふざけんなっ!
それでも、どんな理由があろうとも!
俺の嫁のお前が、天草の親父のパーティーで、天草のパートナーになることねーだろっ!
俺は、今夜ずっと抱えていた焦りやムカつき、苛立ちっつー色んな感情を抑えながら、こいつに話し出した。
「今夜みてーなパーティーでパートナーになるってことは、正式に付き合っている…。いや、俺たちの年ならある程度、結婚前提って思われても仕方ねーんだぞ。」
…そっか。
だから、あんたは堂々と大河原さんをエスコートしていたんだね。
正式に付き合っている大河原さんだから、結婚前提って思われても何の支障も無い。
わかっていたことだけど、こう言われてしまうと…。
やっぱり凹んでしまう。
それは、仕方ないよね。
ほんの数時間前に、手離したばかりの想いだもん。
わざわざ私にそんなこと言わなくってもいいのに…。
何を言われれても普通にしよう。
「お前は俺と結婚してんだ!これからは、二度と俺以外の男とパーティーになんか行くんじゃねーぞ。わかったな!」
俺の超重大事項満載のこの言葉にも…。
「わかった。私が次にパーティーになんか行くことなんて無いとは思うけどさ。確かにあんたとの契約がまだ残っているもんね。期限の切れる来年の一月末までは気を付けるね。ごめん。」
こんないつも通りの牧野の返事。
おい…。
なんでお前は、俺の言葉を理解できねーんだよ?
しかも、契約結婚に関する言葉なんて俺は一切使ってねーだろっ!
それなのに、なんでお前は連発するんだよっ!
滋のことを誤解されたままなのは、嫌っつー程わかってる。
だとしても、ここまで男として一切見てもらえてねーのか?
お前にとって俺は、ただの契約結婚の相手だけなのか?
マジで来月の俺の誕生日以降は他人になるつもりなのか?
お前は天草にプロポーズされた時、目をデカくして頬を染めていたのは誰だよ?
どうして、俺への態度とそんなに違うんだよっ!!
少しは意識しろっつーんだ!
どれだけ俺が焦ってると思ってんだっ!!
俺は、パーティー会場からずっと気になっていたことを口にした。
「あいつ…天草のことどうするんだ?結婚前提で付き合うのか?」
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