「ちょっと、触らないでよっ!」
「触らせろっ!」
「ダメ!」
「いいだろ。ケチケチすんなっ!」
「なに言ってんのよっ!私からケチを取ってどうするの?」
「お前、マジに返答するな。」
こんな色気のねー会話をしているのは、やっと気持ちが通じ合った俺と牧野。
今、俺たちは同じベッドにいる。
同じベッドでいるだけで、俺は愛妻の体にすら十分に触らせてもらえてねー。
気持ちを確認し合った後、
「一緒にシャワーするか?」
っつー俺の提案を、
「イヤ!絶対、無理。」
っつー、たった3つの言葉で、牧野は却下してきた。
その上、シャワーの後の
「一緒のベッドで寝る。」
っつー俺の提案を、
こいつは、
「却下。」
それこそ、言葉通り一言で却下してきた。
それこそ俺が却下するっつーんだ!!
湯上りのスゲー良い香りの牧野なんだぞ!
なんで別々に寝る必要があるんだっ!
こう思った俺は、牧野を抱きかかえベッドに放り込んだ。
ソッコーで逃げようとするこいつを羽交い絞めにし、なんとか同じベッドで寝ることに成功した。
そして、この話の冒頭のような会話を繰り返している。
「もう!触らないで!」
何回目かわかんねーくらいのこの言葉の後、牧野は俺に背を向けた。
それでも、好きな女が────。
愛してやまねー妻が、同じベッドの隣で寝ているんだ。
しかも、前みたいに熟睡してもねー。
触らないっつー方が無理だろ?
俺は、こいつの細腰を引き寄せた。
すぐさまジタバタと動きだし、俺の手から逃れようとしたこいつに俺は言ってやった。
「この一年。俺が!!どれだけ我慢に我慢を重ね、辛抱したのがわかんねーの?」
「わからない。」
俺の我慢と辛抱の一年は、こいつにとってはわかんねーらしい。
じゃ、お前にわからせてやる。
「好きな女と一緒に住んで、なにも出来ねーって辛いんだぞ!その上、お前が俺の部屋を掃除すっから、俺はゴミ箱に自由にティッシュすら捨てられなかったんだぞ!」
俺の言葉に、
牧野は、しばらく黙った。
そして─────。
「自由にティッシュ…?へっ?ぎゃー!!」
なんて言い出し、ベッドから逃げ出そうとした。
が、こいつが逃げ出すだろうと予測していた俺は、こいつを捕まえ────。
思わず、俺の下に組み敷いた。
咄嗟だったとはいえ、この体勢はヤベー。
止まらなくなるかもしんねー。
「お前から受けた痛恨の一撃にも耐えたっつー、証明していいか?」
半分冗談で言ったこの言葉。
いや、半分以上は本気だったかもしんねー。
そんな俺の言葉に、牧野が返してきた言葉────。
「ダメ。絶対にダメ。」
だった。
この体勢で止めるっつーのは正直辛い。
想いが通じた今なら、尚更だ。
こんなことを思っている俺に、スゲー恥ずかしそうにしながら牧野が言ってきたことが…。
「旦那さんの実家で…、こんなこと出来ない。」
だった。
!!!
こいつの旦那さんっつー言葉に、俺は固まった。
こいつが今まで何度も言ってた『未来の本当の旦那様』
俺がその未来の本当の旦那になったんだ。
焦ることねー。
今夜が無理でも明日がある。
それこそ、ずっと焦っていた来月までの契約期間。
それに、シーツに牧野の血でもついてみろ────。
タマが、何を言ってくるのかわかったもんじゃねー。
「わかった。なにもしねー。抱き締めて寝るくらいは良いだろ?」
っつーて、こいつの頬に軽くキスした俺は、こいつを胸に抱きしめたまま横になった。
「あったかーい。」
俺の胸に頬を預けながら、嬉しそうに話してくるこいつ。
さっきまで、警戒して俺に近づくことすらしなかったっつーのに。
俺が『なにもしねー。』って言った途端、近づいて来るってどうなんだ?
なんとなく、腑に落ちねー。
そんな俺に、こいつは話しかけてきた。
「ねぇ…。西田さんに怒られないかなぁ?」
「なんで西田に怒られるんだよ?」
「うーん…。契約違反?」
契約違反も何も────。
西田がワザとそうしたのかどうかはわかんねーが…。
あの契約書には、不測の事態の記入が一切無かった。
あの西田が、記入漏れなんてことは絶対にしねー。
だからと言って、俺が幸せになるのを願っているとも思えねー。
どっちかと言うと、俺に不幸が舞い込んでくるのを隣で笑いながら待ち構えているような奴だ。
一年前の西田は何を考えていたんだ?
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