八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚158

2022-03-18 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

会社の地下駐車場から、道明寺の車に乗る。

今日の車は、外車のド派手なスポーツカーじゃなかった。

 

私がよく見かける形で、国産でSUVっていうタイプらしい。

真っ白でピカピカの車。

車の中もすごく綺麗。

そして、車の中も、やっぱり道明寺の香りがする。

 

道明寺の運転する車は、静かに公道に出た。

いつも、二人で車に乗っている時って、何を話していたのかな?

結構、楽しく話していた記憶があるのに…。

今日は、なにをどう話していいのかわからないー!

 

沈黙が重い…。

お邸ってどこにあったんだった?

契約が始まる前に、近くまで行ったけど覚えてない。

 

何分、掛かるんだろ?

なにか話そう、話そうとしても、なにを話していいのかわからない。

 

この沈黙から抜け出したいって思いから出た言葉が…。

「派手じゃない車にも、乗るんだね。」

だったの。

 

ぎゃー!

こんなこと聞くんだったら、黙っておくべきだったかな?

どうして大河原さんとの嘘のことを聞けなかったんだろう…。

いつもの調子で聞いたら良かったのに!

私のバカ。

 

私の脳内のことなんて全く知らない道明寺は、

「西田が、車にもTPOを考えろってうるせーんだ。」

こんな風に、いつもの調子で返事をしてきてくれた。

 

なんでも、西門さん、花沢さん、美作さんの三人が、自分の車で道明寺ホールディングスに来ると、超高級車が何台も並んでしまって、地下駐車場がモーターショーになるって西田さんが怒るんだって。

それから道明寺は、通勤にはド派手な車は乗らないようになったらしい。

 

トイチの男たちに、私が連れ去られそうになった時。

あの時、私は派手なスポーツカーを探していた。

もしかすると、あの日、道明寺は、西田さんの言い付けを守っていたのかもしれない。

 

「西田さんから、いつ言われたの?」

「あ?いつだっけ?夏くらいじゃね。」

 

道明寺のこの返事で…。

あの日、私が派手なスポーツカーは見つけることができなかったのに、道明寺が助けに来てくれたのがわかった。

きっと、あの日も、道明寺は西田さんの言い付けを守っていたんだ。

 

あの時の恐怖を思い出したと同時に、私が思い出したこと────。

あの日、病室でっ!!

 

泣いている私をふわって軽く抱き締めてくれた道明寺は…。

『お前のことは絶対に俺が守る。』

とか、

『二度とこんな目に合わせねー。』

って、震えながら言ってくれたんだ。

 

ぎゃー!

思い出すと、顔や耳が熱くなってきた。

 

ダメダメ!

今から会長や社長、お姉さんに会うのに、余計な事を考えていたらダメだ。

頭を切り替えないと。

 

身なり大丈夫かな?

こう思い、自分の服装をチェックしたら────!!

ありえないっ!!

私の服装は、なんとっ!!制服だった。

 

「ぎゃー!私、制服のままっ!どうしよう。道明寺、お店に寄って!」

私から出た叫び声。

 

でも、道明寺は至って冷静で、

「お前の服は、邸に用意してる。」

って、返事をしてきた。

 

道明寺が用意してくれたんだって、ホッとしたのも束の間。

大切なことを忘れていたっ!!

 

「ぎゃー!お土産が無いじゃないっ!!お願いっ!どこかお店に寄ってっ!」

また、私は叫んでしまっていた。

 

「うるせー!俺は運転してんだっ!」

道明寺の怒鳴り声。

 

はい…。

そうですね。

運転してくれているのに、隣で叫んでしまってごめん。

でも、会長や社長、お姉さんに会うのに、制服とかお土産を持って行かないなんてありえないでしょ。

 

お土産、どうしよう…。

なんて思っていると────。

「お前なら絶対にそう言うだろうって、西田が手配済みだ。」

こう言いながら、道明寺は後ろの座席を指差した。

 

振り返って見ると、そこには上等そうなオーラのある紙袋。

紙袋を手に取って見てみると、付箋で《お邸の方》、《ご家族》って付箋まで貼られてあった。

やっぱり西田さんは、超絶スゴイ人です!

 

大河原さんのことを聞かれたら、どうしたらいいのかな?

道明寺と打ち合わせをしておいた方が、良いんじゃないのかな?

 

こんなことを思っていると…。

大きな門の間を、道明寺の車は静かに入って行く。

 

日が暮れている庭は、ライトアップされていて、その光が遠くまで続いている。

個人の家?って、目を見張るほどの広さ。

 

この大きな庭に圧倒された私は…。

少し前まで気にしていた大河原さんのことが、頭から完全に消えてしまっていた。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。