会社の地下駐車場から、道明寺の車に乗る。
今日の車は、外車のド派手なスポーツカーじゃなかった。
私がよく見かける形で、国産でSUVっていうタイプらしい。
真っ白でピカピカの車。
車の中もすごく綺麗。
そして、車の中も、やっぱり道明寺の香りがする。
道明寺の運転する車は、静かに公道に出た。
いつも、二人で車に乗っている時って、何を話していたのかな?
結構、楽しく話していた記憶があるのに…。
今日は、なにをどう話していいのかわからないー!
沈黙が重い…。
お邸ってどこにあったんだった?
契約が始まる前に、近くまで行ったけど覚えてない。
何分、掛かるんだろ?
なにか話そう、話そうとしても、なにを話していいのかわからない。
この沈黙から抜け出したいって思いから出た言葉が…。
「派手じゃない車にも、乗るんだね。」
だったの。
ぎゃー!
こんなこと聞くんだったら、黙っておくべきだったかな?
どうして大河原さんとの嘘のことを聞けなかったんだろう…。
いつもの調子で聞いたら良かったのに!
私のバカ。
私の脳内のことなんて全く知らない道明寺は、
「西田が、車にもTPOを考えろってうるせーんだ。」
こんな風に、いつもの調子で返事をしてきてくれた。
なんでも、西門さん、花沢さん、美作さんの三人が、自分の車で道明寺ホールディングスに来ると、超高級車が何台も並んでしまって、地下駐車場がモーターショーになるって西田さんが怒るんだって。
それから道明寺は、通勤にはド派手な車は乗らないようになったらしい。
トイチの男たちに、私が連れ去られそうになった時。
あの時、私は派手なスポーツカーを探していた。
もしかすると、あの日、道明寺は、西田さんの言い付けを守っていたのかもしれない。
「西田さんから、いつ言われたの?」
「あ?いつだっけ?夏くらいじゃね。」
道明寺のこの返事で…。
あの日、私が派手なスポーツカーは見つけることができなかったのに、道明寺が助けに来てくれたのがわかった。
きっと、あの日も、道明寺は西田さんの言い付けを守っていたんだ。
あの時の恐怖を思い出したと同時に、私が思い出したこと────。
あの日、病室でっ!!
泣いている私をふわって軽く抱き締めてくれた道明寺は…。
『お前のことは絶対に俺が守る。』
とか、
『二度とこんな目に合わせねー。』
って、震えながら言ってくれたんだ。
ぎゃー!
思い出すと、顔や耳が熱くなってきた。
ダメダメ!
今から会長や社長、お姉さんに会うのに、余計な事を考えていたらダメだ。
頭を切り替えないと。
身なり大丈夫かな?
こう思い、自分の服装をチェックしたら────!!
ありえないっ!!
私の服装は、なんとっ!!制服だった。
「ぎゃー!私、制服のままっ!どうしよう。道明寺、お店に寄って!」
私から出た叫び声。
でも、道明寺は至って冷静で、
「お前の服は、邸に用意してる。」
って、返事をしてきた。
道明寺が用意してくれたんだって、ホッとしたのも束の間。
大切なことを忘れていたっ!!
「ぎゃー!お土産が無いじゃないっ!!お願いっ!どこかお店に寄ってっ!」
また、私は叫んでしまっていた。
「うるせー!俺は運転してんだっ!」
道明寺の怒鳴り声。
はい…。
そうですね。
運転してくれているのに、隣で叫んでしまってごめん。
でも、会長や社長、お姉さんに会うのに、制服とかお土産を持って行かないなんてありえないでしょ。
お土産、どうしよう…。
なんて思っていると────。
「お前なら絶対にそう言うだろうって、西田が手配済みだ。」
こう言いながら、道明寺は後ろの座席を指差した。
振り返って見ると、そこには上等そうなオーラのある紙袋。
紙袋を手に取って見てみると、付箋で《お邸の方》、《ご家族》って付箋まで貼られてあった。
やっぱり西田さんは、超絶スゴイ人です!
大河原さんのことを聞かれたら、どうしたらいいのかな?
道明寺と打ち合わせをしておいた方が、良いんじゃないのかな?
こんなことを思っていると…。
大きな門の間を、道明寺の車は静かに入って行く。
日が暮れている庭は、ライトアップされていて、その光が遠くまで続いている。
個人の家?って、目を見張るほどの広さ。
この大きな庭に圧倒された私は…。
少し前まで気にしていた大河原さんのことが、頭から完全に消えてしまっていた。
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