プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

肩越しに金星

2010-01-11 23:56:07 | SS




「(・・・亜美ちゃんってば、何のつもりかしら・・・)」

 冬至をわずか過ぎただけのクリスマスイヴの昼は短く、空は既に暗がりが包んでいるその日。世界レベルのビッグイベントであるはずながら、全員で何もしないと決めたから、美奈子は敢えて何も考えなかった。
 そのはずが。

「・・・あーみちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 こういう行事を最も苦手としているであろう亜美が、当にわが道を行く、と言うべきか。どこかぎこちない感じで無言で美奈子の手を引いている。デートと言うのはその場の雰囲気に飲まれて出た言葉ではないようだ。恐らくは明確に行く場所は決まっているのだろう。
 ただ、どこに行くかが美奈子にとっては問題であった。

「(ちゃんと送るって言ってたけど・・・どこ連れてく気かしら?)」

 生真面目な亜美が皆で決めたことを自分から無視するとは思えない。だがしかし今自分が置かれた現状はまさにその考えを裏切るもので。
 しかしながらそれでもまだ美奈子には信じられない。

「あみちゃーん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まさか送り狼になるつもり?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「亜美ちゃん!?」

 美奈子は手を握られたまま仰け反るが相変わらず亜美はうつむき加減に歩くだけで。美奈子は最初亜美が言葉の意味を理解していないのではとも思ったが、博識の亜美に限ってそんな筈もない。

「な、何で黙ってるの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょちょちょ亜美ちゃん・・・!」
「・・・・・・・・・・ここ」
「ん~?」

 そこで亜美はようやく足を止めた。亜美の行動の真意ばかりを考えてろくに景色を見ていなかった美奈子はようやくそこで顔をあげると、そこはとても見知った場所であった。

「・・・え、学校?」
「・・・・・・・・・・・・」

 校門はまだ閉じていない。こんな日でも部活動に勤しむ生徒はまだ残っていたからだ。亜美は美奈子の手を離し、無言で美奈子を促し校門をくぐった。そのまま二人でグラウンドを突っ切り、校舎の階段を上がり、普段使う教室や図書室の前を抜けやがて少し錆び付いた扉の前に到着した。

「・・・屋上?」
「・・・そう」
「・・・学校しかも野外プレイですか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「へ、返事してっ!」

 亜美はやはりその言葉には答えず背中を向けると、特に鍵を気にする様子も無く扉を押し開いた。金属が軋む音がして、開いた途端に冬の風が顔を撫でた。相変わらず振り向きもしない亜美の背中を追いながら、美奈子は少しだけ体を震わせた。
 既に空は夜を受け入れている。
 特に何か用意している風でもなく、ただいつも通りの屋上。亜美と二人きりでいることと既に夜であることだけが違う。

「(まさか・・・クリスマスだからってあたしを生贄に変な黒ミサの儀式とかやる気じゃないでしょーね・・・この人なら興味本位で何でもやりそうだし・・・あ、でもちゃんと送るって言ってたから、流石に五体不満足って事にはならないと思うけど・・・)」

 既に美奈子の思考は常識を外れつつあった。

「・・・美奈」
「えっあっい、生贄だけは勘弁して!」
「・・・・・・何の話?」

 そこで亜美はようやく美奈子の方を向いた。吹きさらしの屋外で頬が赤く染まっている。美奈子は美奈子で自分の思考に埋没していたのをいきなり戻され上ずった声を出した。

「・・・いけにえ?」
「・・・・・・・・・・・あ、ああー・・・何でもないです、はい」
「・・・・・・・・・・・・・・その、上」
「上?」
「・・・空がきれい」

 そこでようやく美奈子は夜空を見上げた。意識はしなくとも視界に入る空と見上げる空は随分違って、冬の澄んだ空気にまばらに星明りが散っていた。
 田舎なら満天の星空であっただろうが。それでも雲も無く風もあるので、都会にしては充分すぎる夜空の美しさだった。澄み切った空気が肺腑を冷やしプラネタリウムともまた違った趣がある。
 そして何より、空しかない真上。夜空の闇に吸い込まれそうで足もとがぐらつくような感覚が襲ってきた。

「―あ」
「危ない!」

 実際にふらついた美奈子を慌てて亜美が支えた。そこでようやく、目が合った。

「・・・亜美ちゃん?」
「・・・あ、ご、ごめんなさい。つい・・・」

 亜美は慌てて掴んだ腕を離すが、その引いた腕を逆に美奈子は掴み返した。

「・・・デートって、これ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・お金も時間も取らないものって思ったら・・・こんなことくらいしか浮かばなかったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・金星、よく見える」

 美奈子は亜美の目線の先を追う。そこには始まる夜を飾るように一際の輝きを放つ明星。
 亜美はこれを見せに来たのだろうか。

「・・・あみちゃん・・・もしかして、これ、ずっと、考えてくれてたの?」
「・・・晴れて良かった。こんなに―きれいな、空が見れたから」

 微妙に返事になってはいないものの肯定の言葉を返すと、亜美は空を見上げたまま錆の入ったフェンスにもたれかかる。視線はあくまでも金星に注いだままだ。そのまま亜美は静かに呟いた。一瞬独り言かと思えるほどに抑揚の無い声で、静かに、静かに。

「クリスマスってね、本当にキリストの誕生日かは疑問視されているの。科学的根拠が無いから。教会によっては別の日を採用しているところもあるわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でもね・・・もし、本当にキリストが12月に生まれたのなら、ベツレヘムはその頃は雨季だから、その日は星なんか見えないはずなの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でもね、キリストが生まれたその日は星が光って救世主の誕生を祝福したと言われているのよ。どの星かはまだはっきり分からないけど、金星と言う説もあるわ。金星はいつだって明るいからその日だけ特別に輝くわけじゃないと言われているけど―本当に雨季である12月生まれで、その日だけ晴れていたのなら―昼も暗い日々に見えた金星は、きっと特別に明るく感じることが出来る星だわ」

 亜美は数度フェンスを軋ませ、夜空を見回し、そこでようやく美奈子の方を見た。

「・・・きっと、街を歩いているたくさんの人が、ホワイトクリスマスを期待してたんだと思う。でも、私は、こんな日だからあなたの星が見れたらいいなって思ってた・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 亜美は白い息を吐き出して少し照れくさそうに笑った。

「・・・皆、雪を期待してたのにね」
「・・・え、あ・・・え・・・?」
「結局晴れちゃったけど。皆が雪を期待してるはずなのに、私一人がこんな風に雲ひとつ無い空であるように祈って、しかも叶えちゃったんだから・・・野暮よね」
「あ、亜美ちゃん!」

 そこで美奈子は亜美の元に駆け寄った。空そのものはどこでも見れるのに、お金も時間もかけない制約の元、誰に邪魔されることもなく街の明かりを遠ざけると言う意味でも亜美がこの場所を選んだことは間違いではなかっただろう。
 そんなことが出来る人間が、どうして野暮であろうか。美奈子は思わず唇を尖らせていた。

「・・・いつの間にそんなに格好良くなったのよあなたは」

 そんな美奈子の態度に、亜美が困ったように返す。

「・・・普段私を野暮だの朴念仁だの言ってるのはあなたじゃない」
「そーだけどっ!いつも野暮天だけど今日は格好いい!格好良すぎてあんた誰って感じって言うか!」
「・・・だからあなたは私を一体何だと思ってるのよ・・・」
「愛してるわよ?」
「・・・だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、え?」

 そこでいつものような軽い謗りが返って来る事を予想していた亜美は今度こそ頬を真っ赤に染めた。即座に目を逸らす亜美に目を細めて美奈子は笑むと、何事も無かったかのように亜美に並んでフェンスにもたれ空を見た。

「ね、亜美ちゃん、水星はどれ?」
「・・・水星?」
「そう、あなたの星」
「・・・水星・・・は、ここでは見えないわ。時間的にはぎりぎりかもしれないけど、水星は低い星だから」
「そうなの?」
「ええ、最も太陽の近くを回る星だから、内部惑星の中では最も観測しにくいのよ・・・金星は明星だし、火星や木星も比較的見つけやすいのだけど」
「ふーん・・・じゃあ、どうやったら水星を見れるの?」
「そうね・・・次に見ようと思ったら明日の日の出あたりね。場所を少し選ぶけれど、水星と金星は観測できる時間が似通ってるから、水星が見つかれば二つとも見られる場合が多いわ」
「じゃあ・・・見に行きましょうよ。明日のパーティーの前だから間に合うでしょう?あなたの星・・・一緒に見たいから」
「・・・じゃあ」

 亜美は背後のフェンスを軋ませ離れると、今度はドアを背に美奈子と向き合った。

「今日はタイムアップね」
「・・・ん?」
「今日は時間もお金もかけちゃいけないもの。それに明け方に星を観測しようってなったら朝早いし、校門も閉まっちゃうわ」
「・・・・・・・・・・」
「帰りましょう」
「あ、亜美ちゃん!」

 美奈子は亜美の言葉を遮るように問うた。どうしてもここで聞きたいことがあったのだ。
 亜美は少し逡巡したが、美奈子の表情は今まで以上に真剣なもので。それを見て亜美は黙って美奈子の次の言葉を待った。

「・・・亜美ちゃん・・・もし」
「?」
「―もし、雨が降ったり、曇ってたり、雪だったりしたら・・・あたしを誘ったりしなかったの?」
「え?」
「こんな風に星がきれいだから―あたしを誘った?」

 こんなクリスマスイヴの日に澄み渡るほどに空が晴れていなければ。ここから帰る前、レイかまことが家に泊めてくれると言っていれば。まことの家に皆で手伝いに行っていなければ。12月がイエスの誕生日で無いと証明されていたら。
 こんな晴れた夜、二人きりではいなかった?

 正直どういう意図であれ、亜美がどういう返答を返すかは美奈子には全く予想できなかった。そんな美奈子を見、亜美は困ったように首をかしげ、目を細めた。

「・・・分からないわ」
「・・・うわ、亜美ちゃんらしからぬ答え」
「私に気象を操る力はないから、晴れたのは本当に偶然だし・・・ほんの少し雪を見せるくらいなら出来るけれど・・・でも」
「・・・でも?」
「曇ってても何か違う理由を付けてあなたを誘ったんじゃないかと思う―イヴだから」
「―え」
「イヴだから―少しだけ、二人でいたかっただけなのかもしれないわ」

 そこで亜美は一瞬だけ伏目がちに笑んだ。その表情はどこか妖艶で、美奈子にとって初めて見るものだった。心臓が不規則に跳ねる。
 一体亜美はいつこんな表情を覚えたのか。
 初めて出会ってから、今まで、数百年の時を生きていたマーキュリーでさえ、こんな表情はしたことが無かったはずだ。風に揺れる前髪のせいでちらちらと見え隠れする青い瞳、揺れる睫毛、微かに上がる口の端。その全てが、初めて見るものだった。
 次の瞬間いつも通りの表情に戻った亜美は、ドアに手をかけ美奈子に背を向けた。

「美奈、冷えるからもう帰りましょう―送るから」
「待って!」

 美奈子は衝動的に亜美の腕を後ろから掴んでいた。それは先ほど星空を見てぐらついたときの対比のように。亜美の行動が一瞬止まって、それを見た美奈子は少し戸惑いながらも後ろから抱きしめた。身長が殆ど変わらないので後ろから強引に亜美の顔を覗きこむ体勢にはできなかったが、それでも耳元で囁くことはできた。

「・・・あなた・・・帰る・・・つもり、なの?」
「・・・・・・・・・・・・・え」
「・・・イヴなのよ・・・?」

 亜美が言葉の意味をきちんと捉えたのは亜美の耳が赤く染まったことで分かった。密着した体で心臓が同じくらいの速さで動いているのを感じる。背後から耳たぶに唇で触れると、トレードマークの三連ピアスが氷のように冷たくなっているのを感じた。そこで亜美は肩を震わせると、我に返ったように振り向いて美奈子の肩を掴んだ。顔は伏せているが、これまでにないほど真っ赤に染まっているのは分かった。

「・・・だ、め」
「―どうして」
「・・・ちゃんと今日はあなたをご両親の家に帰す・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・わたしを・・・送り狼にさせないで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 少しばかりの沈黙、沈黙。その後、美奈子が突然体を震わせた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふ、ふ」
「・・・美奈?」

 亜美の不審がる声にも反応せず、暫くはこらえるように体を丸めていたが、ついに弾けるように声を上げて笑った。

「・・・あはははははっ!」
「・・・!?」
「やっぱり亜美ちゃんは抜かりなく亜美ちゃんだった!あははは・・・はー・・・あなたといるとほんと腹筋鍛えられるわ~」
「・・・え・・・な、んで・・・何で笑うの・・・?」
「危機感ないとことか~。送り狼って・・・ふふっ・・・あ、また笑いの波が・・・」
「美奈!」
「そっか、亜美ちゃん、狼さんだったのね。真面目ちゃんなだけで」
「・・・?」
「我慢できるだけで、そういう欲求そのものは、ちゃんとあるんだ?」
「なっ・・・」

 美奈子は一通り笑うと、動揺しきっている亜美を今度は壁際に押し付けた。

「・・・美奈?」
「『オオカミさんは、クリスマスイヴの日、愛の女神を食べようとしたけど』」
「・・・え?」
「『結局は自分が食べられてしまいました』」
「美奈!」
 
 子どもに御伽噺を読むような口調で美奈子は囁くと亜美の顎を掴んで固定させた。背中は冷たく硬い壁しかない。そんなおちょくられているような状況は、いつもの亜美なら回避する方法を無意識に考えていただろう、そう、無意識に―でも。
 今度は何故か抵抗する気が起こらなかった。それは果たしてクリスマスにそんな魔法があるからだろうか、もう目線もそらせないままに亜美はある覚悟を決める。
 それは精一杯の虚勢でしかなかったのだけれど。

「―わたしは」
「ん~?」
「わたしは―朝、苦手だから」
「・・・んん?」
「隣で誰かが起こしてくれないと―とても、水星・・・なんて見られないんだから・・・」

 美奈子はその言葉の意味を悟りへらりと笑む。

「―分かった。努力するわ」
「・・・努力じゃ嫌よ」
「はいはい、きちんと夜明け前に起こさせていただきます」

 美奈子は嬉々として亜美の額に額をぶつけると、そのままこれ以上亜美が何か言わないように唇を塞いだ。亜美はぼんやりしていく頭で、水星を見るのは無理だろうな、とどこか冷静に思う。そもそも、水星が見たいと言ったのは美奈子だけで、亜美は今輝く金星の光だけで充分だったのだから。



 目を閉じる直前、亜美の目に、美奈子の肩越しに金星の光が映った。





        *******************


 屋外かよ!(わー)
 水野ってばヘタレのくせにそういう状況に陥るまでは自分が受けと思ってない(笑)原作はそれほど弱気で受身でもないので、一応亜美ちゃんも美奈を大切にしてるってことで。


 ※キリストの誕生日とかそういう云々の話はさまざまな説がある上、管理人はそういうことを専門に研究している人間ではないので誤った知識である可能性があることをご了承下さい。
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