プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

星降る夜明け

2010-01-11 23:57:13 | SS



 亜美や美奈子、そしてまことと別れたレイは街を半ば疾走するような速さで歩いていた。荒く吐き出す息がマフラーを湿らせ、寒さも相成って鼻水が出てくる。
 そんなに急いで向かうのは自宅の神社ではない。
 そんなレイには、街中の華やかに彩られたイルミネーションも、どこからか流れてくるクリスマスソングも、すれ違う人たちの囁き声もただ通り過ぎていくだけだ。
 どうかしている、と思う。
 一言囁かれただけなのに。帰り間際耳元でまことにたった一言だけ囁かれた、ただそれだけのことなのに。

 亜美や美奈子の手前、あそこは外に出るしかなかったけれど―外に出る瞬間自分を見つめたまことは穏やかな笑顔だった。あれは自分がまことの言葉を聞き取って、理解して、必ず帰ってくると知っている顔だった。亜美や美奈子にはあんなに優しいのに、自分には、返事さえ聞く必要がないとでも言いたげなあの態度が、酷くレイの癪に障る。
 それなのに。
 あそこで声をかけてくれたのが嬉しくて。必要とされている事が嬉しくて。あの時に触れた指が、耳にかかった息が、こんなに寒いのに未だ頭をのぼせ上がらせていく。

 しかしレイとて、頭を冷やすために闇雲に街を彷徨っているわけではない。ホワイトクリスマスとは縁遠き澄み切った夜空を見上げることも無く、一人街を走った。
 まことのために。









 それからどれくらい経っただろうか―レイがまことの家の前に戻り、息を整えチャイムを鳴らすと、まことはまるでそこで待っていたようにすぐにドアを開けた。その表情は、サンタを待つ子どものように無邪気で、大人びた容姿と相反したアンバランスさが酷く扇情的だった。ドアの向こうは今までいた所に反し明るく温かくて、レイは少し頭が暈けるような感覚に襲われた。

「いらっしゃい。あ、お帰りかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「着替えてるわけでもないし、帰ってたわけじゃなさそうだね。そのわりには遅かったね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 やっぱり、とレイは思った。あの時まことは確かに言ったのだ。『かえらないで』と。
 肯定の返事をしたわけじゃないのに、当然受け入れられることをまことは疑いもしないのだ。

「寒かっただろ、おいで」

 何も言っていないのに、その場で抱きとめられた。服越しに伝わる温もりが、冷えて固まった筋肉をほぐしていき、その感覚が更に頭を暈けさせる。
 そしてまことがレイの背中に回した手でそのまま鍵を閉めた。鍵は中のものを閉じ込め、外からの侵入者を拒絶するものだ。自分を帰さないと言う意思表示なのか、それとも―

「あ、レイちゃん、何持ってるの?」

 そこでまことははたと気づいたようにレイの手に提げられている袋に目をやる。どこかへ行っていたとか、一度家に帰ったとか、そういうことを全く思いもしなかったので意外だったのだろう。
 レイは出来るだけ感情を抑えた声で答えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ケーキ」
「お?」
「・・・さっき、美奈や亜美ちゃんに、お茶請けもないって言ってたから。実際、冷蔵庫の中も明日のためのものばかりで、今日あなたが食べるものなさそうだったし」
「ああ!買いに行ってくれたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから遅くなったんだね。そっかそっか。正直、もっとすぐ戻って来てくれると思ってたから、ちょっと不安でさ」

 まことの言葉はちくちくとレイの心をささくれ立たせる。帰ってくるなんて一言も自分は言っていない。それなのに。
 美奈子や亜美と別れた後、街を走ったのはケーキを買うためだった。実際まことの家に何もないのを知っていたと言うのもあるが、美奈子や亜美が帰ったのを見計らってすぐにとんぼ返りするのはどうにも悔しくて。それなのに体は正直なもので、街では人の間を縫うように、一秒でも早くまことの家に着くように走っていたのだから。
 しかし、正直、この時期のケーキなどほぼ予約で埋まっていて、数軒ケーキ屋を巡ってみて結局はコンビニの売れ残りに落ち着いたというだけのものになってしまって。気の利かない人間が慣れないことをするとろくな結果にならないと思い知らされもしていたのだ。
 すると、ますます普段のまことの態度に尊敬と悔しさが募る。
 
 いらいら、させられる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありがとうレイちゃん。いや、クリスマスイヴはあたしのために何もしないって皆で決めたから、当のあたしが何かするのはどうかなと思ってケーキは明日の分しか用意してなかったからさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こんな日にケーキ持って来てくれるって、レイちゃんサンタさんみたいだね」

 まことはへらりと笑うと、ケーキの袋を引き受けた。まことの熱烈なハグから開放されたレイは一瞬戸惑ったが、いつまでも玄関にいるわけにもいかないのであがることにし、靴を脱ぎ廊下に足を踏み入れた。
 サンタクロースなんて柄でもないと口を歪めたところで、世界が揺れた。

「でもあたし、サンタさん好きじゃないんだよね」

 レイが膝の下に手を入れられたのは一瞬で。まことが動く気配は自分が抱きとめられた後に分かった。

「―誰も分かってない」

 それまでの無邪気な声と一転して冷ややかな口調でまことはレイの耳元で囁くと、そのままレイを組み敷くかと思いきや背後に倒れこんだ。思わず手をついたレイに廊下の冷たい感覚がひやりと伝わる。すぐ後ろに玄関と扉があって、すぐ下にまことがいる。

「―ま、こと」
「あんたが悪い。すぐに帰ってきてくれたらお茶くらい入れる余裕あったかも知れないけど・・・」
「―嫌よ。こんな場所・・・」
「だめ」

 まことは下からレイの耳たぶに噛み付く。ピアスと歯がぶつかって硬い音を耳に届かせた。生温い刺激にレイは突っ張った肘をぴんと伸ばすのに必死だったが、まことの腕に阻まれまことの体に縫いとめられた。
 自分の体の方が上にあるのに、動けない。

「―離して」
「やだね」
「・・・帰らないわよ」
「ほんとかよ」
「帰らない―から。ここは・・・ここは、嫌」
「―ここのほうがいいんだけどな」

 まことは唇を尖らせると、特に苦労する風でもなく体を起こす。そして再びレイの膝の裏に腕を回し立ち上がると、その体勢のままレイに口付ける。

「・・・んっ・・・」

 口を結ぶ暇も無く舌で口内を弄られる。立っている状態でなくてよかったとレイは朧に思う。立っていれば、足の力が抜けていくこの感覚がばれてしまうから。
 頭がとろとろと働かなくなっていく中、噛み付かれた舌の痛みで、レイは無意識のうちに自分からもまことの中に舌を差し入れ、絡みつかせていることに気付いた。そこでようやく我に返ってまことを押し返すように体を離そうとすると、その勢いで振り落ちてしまった。
 しかし痛みは無い。そこでようやくいつの間にか寝室に辿り着いていて、自分はベッドに下ろされたのだと悟った。
 そのまままことは冷たくレイを一瞥すると、興味を失った猫のように出て行く。

「・・・え」

 そのまま襲い掛かられることを予想したレイは肩透かしを食らったように声を出した。別に期待をしていたわけではない筈だが、あまりの態度の急変振りに戸惑うしかなかった。腰が立たないため追いかけることも出来ず、それでも溶けるようなあの舌の感覚は更に熱をもたらす。

「な・・・んなのよ・・・」

 それでもスカートの裾を気にしつつ、マフラーを外し上着を脱ぐ。どこに置いておこうかとベッドから視線を部屋に彷徨わせたところで、カーテンの開いた窓が見えた。先ほどまで走っていた屋外はもう真っ暗で、街明かりと星明りがそれぞれ華やいでいるのが見える。サンタもこれなら道を見失うことは無いだろう。
 外にいる時は逆に気付かなかったが、星は落ちてきそうなほどに眩い。これほどまでに晴れているのも珍しいな、と思いながら外を見続けていると、まことが戻って来た。何をされるのかは分からないが、レイは動揺を悟られないようにまことを目を細めて見つめると、意外にもその表情はいつも通りでフォークを二つ咥えていた。右手は器用にポットとカップを二脚、そして左手には先ほどレイが買ったコンビニのケーキの袋。

「ケーキ食べようよ。折角買って来てくれたんだし」
「・・・はぁ?」

 レイは耳を疑った。確かに食べる為に買ってきたものには違いないが、先ほどは寝室に行くのも渋っていたまことの言動とは思えなくて。
 レイが返事に困っているのを知ってか知らずか、まことは暢気にベッドサイドの棚にポットを置き袋を漁っていた。

「おお、ホールケーキだー。あ、切り分けなくてもいいよな?こう、フォークで直接っていうのやってみたかったし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ買ってきてくれたレイちゃんから。はい、あーんして」

 ベッドの上、膝の上に乗せたケーキを掬って、まことがレイにフォークを差し出す。レイとしてはベッドの上で食べるのにも気が引けたが、当然のように差し出されるフォークから目が離せなかった。美奈子辺りならふざけてやりそうなこんな行為を、まことは真面目にしてくる。
 本気でされてるから、だから邪険に出来ない。

「じ、自分で食べるわよ!」
「あ、そう?」

 でも素直に応えることはできなくて、まことからフォークを奪うようにして口に入れた。少し落ち着こうと冷静にケーキを咀嚼してみると、成程コンビニの売れ残りだけあって油臭い甘ったるい味だ。普段ケーキなんて興味ない上に、食べるとしたらまことの手作りばかりであったレイは知らず知らずに口が肥えていたのもあるのだが。

「・・・まずい」
「えー、マジかよ?」

 レイの言葉にまことは乱暴な口調で困ったように笑い少し首を傾げたかと思うと、再び、さも当然のようにレイに口付けた。
 口付けと言うよりは、口の中を舐めとられたような感じだったが。まことは顔を離し自分の唇をひと舐めすると、困ったように笑んだ。

「・・・・・・・・・・んー、確かに・・・まずかないけどあたしの方がうまいな」
「・・・なっ・・・」
「まあ、折角だし、もうちょっと食べなよ」

 今度はまことは自分のフォークでざくざくとケーキを突き始めた。大して美味しくないと言ったばかりなのに、何が嬉しいのかにこにこと口に運んでいる。その様子を見てレイは更に混乱した。まことが何を考えているのか全く分からなくて、つかめない。行動や態度はまるで子どものようなのに、玄関での行為や表情は、強引なキスは酷く悩ましいほどだった。
 もさもさとケーキを食べるまことの横顔を見ながら、レイは無意識に切り出していた。

「まこと」
「・・・ん?」
「さっきサンタ好きじゃないって言ってたけど・・・何で?」

 レイの言葉にまことは一瞬きょとんとした表情を浮かべると、そこでためらうようにフォークを置いた。そしてベッドサイドの棚にケーキを置くと、そのままレイをゆっくりベッドに押し倒した。
 そこでようやく琴線に触れた、とレイは思った。真上にあるまことの顔は、少し困ったように笑っている。

「んー・・・何て言うのかなぁ・・・サンタってさ、来てもすぐ帰っちゃうし。姿も見せてくれないし、そして何より・・・空飛んでくじゃんか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あたしさ、イヴの夜に誰かと過ごすのがずっと夢だったんだよ。なのにさ、あたしに時間とお金負担かかるからって皆帰っちゃうし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「皆気を遣ってくれるのはわかったけど、誰も分かってないんだよね、あたしのこと―あんたも、そう」

 逆光で暗いまことの表情は少し痛々しくて、レイは切なさを覚えた。慣れないことをすると本当にろくな結果にならないのだ―自分も、彼女も。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・美奈と亜美ちゃんの手前でも、出て行って欲しくなかった」

 そこでまことは一瞬だけ目を細めると、そのままレイの隣にごろりと寝そべった。シングルベッドなので、体がはみ出るほどではないけれど密着度は高い。しかし―まことが触れてくる気配は無かった。
 焦らされているわけではないのに焦らされてるような心地がして、レイは自分の意思に反し少し意地悪な言葉を告げていた。

「・・・そもそも帰ってくるとは言ってなかったはずよ」
「でも帰ってきたし、帰る気も無いんだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ごめん」

 そしてこの論争に折れたのは意外にもまことの方で。狭いベッドで体を起こして遣る瀬無さそうに前髪を撫で付けると、困ったように笑う。

「・・・本当は」
「・・・?」
「・・・こうやって、あんたに我侭言いたかっただけなのかもしれない」
「え・・・」
「本当はあの時声が届いてたか、ちゃんと帰って来てくれるのか不安で仕方なかったのに・・・帰ってきてくれて嬉しかったはずなのに・・・ケーキ買ってきてくれて嬉しかったのに・・・何か、それでも・・・うまく言えないんだけど・・・我侭、したかったんだ」
「・・・」
「・・・でも、ガラじゃなかったよ。何か調子狂っちゃうし」

 ぐしゃぐしゃと自分の頭を撫でるまことを見、本当に慣れないことはするものではないとレイは改めて思う。ケーキを買うなんて中途半端なことをして、すぐに帰らなかった自分も。我侭をしたくて訳も無く筋の通らない言動を連発した彼女も。
 耳元で囁かれたことも、玄関で引き倒されたことも、ベッドまで強引に運ばれたことも、そんな状況でケーキを食べる羽目になったことも。それはレイにとっては我侭とは呼べないものだ。だって、そんな欲求、誰だって当たり前だから。それなのにまことはこれを無理矢理ひねり出したわがままだと言う。
 そんな無理矢理ひねり出した我侭に今まで振り回されて。胸が苦しくなって混乱して、切なくなったり不安になったりして。

 こんなものをまことは我侭と言うのならば―

「・・・レイ?」
「・・・わるいこ」

 もっと、ほしい。

「誰かと過ごすのが夢って言ってたけど―誰でもいいなんて思われたくないわ」

 気がつけば先ほどと体勢は逆転していた。レイはまことを押し倒し、ポニーテールを、不覚にもすっかり慣れてしまっている手つきでほどいて―

「まことの我侭も寂しい気持ちも、どんなあなたの感情も―全部あたしの、あたしだけのものにするから」

 そこでレイは一瞬だけ窓の星明りを見やる。そしてまことの玄関での行動を思い出す。鍵を閉めたのは自分を帰さないためでなく侵入者を拒絶するためだったのだろう―サンタクロースでさえ入って来れないように。世界中の子どもたちにプレゼントを配るなんて、偽善もいいところだ。ただ一人の孤独にさえ気づかないのだから。そんな者に、僅かであっても二人の時間を邪魔されたくない。
 サンタクロースなんて、レイの柄ではないのだ。

「・・・じゃあ、一晩中抱っこしてって言っても・・・聞いてくれるか?」
「・・・頼まれなくても」
「それじゃレイの我侭になっちゃうじゃん」
「・・・偶然よ」
「えー?あたしは、さっきの、レイのあたしが我侭言ったときにいちいちびっくりしてた顔が可愛いなーと思ってたのにさ」
「・・・ばかじゃないの?」



 星降る夜空さえ背を向けて、二人の世界は熱を帯び始める。それは星明りが夜明けの明かりに変わっても消えることはなく―









        ***********************


 このあとは勿論残ったケーキでメッシープレ(ry)
 みなあみもですが、タイトルを実写曲から。レイちゃんと言えば「桜・吹雪」ですが、今回の表題曲もいいですよ!レイちゃんの曲はまこちゃんに向けたものにしか聞こえない(笑)

 次の日のパーティーでは内部3人どっかよそよそしくて、まこちゃん一人へらへらしてたらいい。
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