プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

偶然の産物

2011-01-28 23:59:20 | SS




「なぁレイ」

 話が唐突に変わるのは珍しいことではない。そしてそれに違和感を感じないのは、親しいもの同士の特権。

「何?」
「こないだ亜美ちゃんから聞いたんだけどさ、イギリスとかアメリカのほうでは、年度初めって9月なんだって」

 まことは少し誇らしげな口調で言った。恐らくそれは知識欲が満たされたことによる優越感だろう、とも。
 ここは感心したように聞いてあげるのが正しいのかもしれないが、火野レイは生憎あまり気の利く方ではなかった。

「・・・らしいわね」
「あれ、知ってたんだ」
「まあ、学校で外国の文化とか、そういう話は良く出るから」

 レイのそっけない言葉にむしろまことが感心したように口元を歪める。このようにレイの態度に特に眉を潜めるでもない大らかさにレイはいつも救われているのを、まことが果たして気付いているかはレイには読めないことで。

「あ、そっか。ミッション系だもんね。でもあたしとレイって、イギリスとかアメリカとかで生まれてたら学年違ったんだなーって」
「・・・そうね。確かに」
「レイとうさぎが上で、亜美ちゃんと美奈とあたしは年下か。もし学年別れてたらあたしレイのこと先輩とか言ってたのかな」

 まことの口から出た『先輩』と言う言葉がレイの心にちくりと棘を残す。
 その彼のことを言っているのではないと分かってはいる。だが、いつだって彼女の口からその言葉を聞く時は、未だに多くを語らないまことの過去に、それでも大きく根を下ろしている人物がいると思い知らされるから。
 昔の恋。そんなもの、レイ自身だって乗り越えて今ここにいると言うのに、その言葉はレイの心をどこまでもささくれ立たせるのだ。

「・・・そんなことないんじゃない」
「いや、でもはるかさんやみちるさんだって生まれた年はあたしたちと同じだけど、あたしたちは年上で接してるじゃないか。レイとみちるさんなんて一ヶ月そこいらしか違わないのに、あたしとレイのほうが離れてるはずなのに、あたしたちは同い年なんだもん」
「・・・はるかさんとみちるさんと同い年な自分も想像できないけど・・・あなたが後輩でしかも敬語使われるとか、想像できない」
「人を失礼な奴みたいに言うなよ。あたしだってちゃんと目上の人には一歩引いた態度で接するよ」

 一歩引いた態度なら。
 本当に、例えばこの国が9月に年度が始まる文化を持っていたら。
 ただそれだけの条件で、こういう風に彼女が気軽に鳥居をくぐってきて、自分はそれを無愛想に受け入れて、こうやって軽口を叩き合うような関係は安易に崩壊するのだ。
 まことはいつまでも自分を先輩と呼んで、敬語を使って、一歩引いた態度で。そして自分も彼女を後輩として扱って、こんな風に心安らげる包容力を年下だからと言う理由できっと拒絶してしまう。
 それは自分が望む関係性ではなくて。

「ほんとに学年が違ってたら、もしかしたらこんな風に仲良くなれなかったかもね」
「・・・この関係は前世から、でしょう」
「昔そんな関係であっても、あたしは今はきちんと年上に対してそういう態度で接するような価値観を持ってる。それはジュピターもマーズも関係ないはずだ」

 現世では。
 例えどれだけ前世で色濃く繋がっていようと、それは親であろうと子であろうと友人であろうと恋人であろうと。
 現世ではたかが8ヶ月生まれた日が離れているだけで、そしてそこに一年の区切りがその間に隔たっていると言う偶然さえあれば、既に今の自分たちの関係はありえないのだ。
 あまりにも脆い土台の上に成り立つ恋。

「あたしは、あなたのことが好きです」

 そこで降って来た声にレイは意識を奪われる。眼球が意識しないでもまことの方にぐるりと動いた。いつもみたいにへらへらと笑っているわけでもなく穏やかな雰囲気でもなく、どこか尖った気配と貼り付けたような無表情が。
 嫌でも目に入る。

「昔、あたしはこれしか言えなかった」
「―それは」
「結局言い訳だけど、年上で、尊敬してて、子どもっぽいと思われたくなくて、そう思うだけで引いちゃって、先輩に伝えたいことはいっぱいあったけどこれしか言えなかった」

 一歩引いた態度、と言うまことの言葉は、過去の彼女のこと。先ほどの言葉は、過去まことがレイでない人物に向けた言葉。
 それを聞いてレイの心は軋んでいく。
 何で今、そんな言葉をレイに向けるのか。

「・・・どうして、急に」
「・・・昔のあたしはそうだったってだけだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今は」

 不意に尖った気配が緩やかに溶けて見えた。
 やんわりと抱きしめられるその腕は、どこまでもあたたかい。

「同い年じゃなかったら、もしかしたら、そもそも恋愛対象として見られるようになるほどレイの近くにいることも出来なかったかもしれないけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「同じ年に生まれて、同い年として扱ってくれる国に育って、同い年の意識を持ってレイと会って、レイと一緒にいて、今のあたしは」

 その声はあくまでも、同等の関係に成り立つ優しさ。

「・・・あなたの好きな人になりたいです」

 こうやっていつもさりげなく隣にいるその空気も、緩やかに頬に触れてくる指も、その柔らかい気配も、弱さや過去の吐露も、交わす言葉も。
 それは初めて会ったときに同い年だと知って、そこから始まった関係から積み立ててきた思いが重なって、自分たちはここにいる。

 年が離れても恋愛感情が成立するのは、二人ともよく知っていること。だがそれは最初の関係から組み立てられていくもので。
 同い年でない関係から始まれば、自分たちは恋に落ちなかったかもしれない、ということ。

「・・・図々しいわね」
「そうだよ。同い年だから図々しいことだって言っちゃうんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・返事は?」
「・・・何?」
「告白したんだから、返事」
「告白?」
「告白だろ」
「・・・いるの?」
「・・・いる」

 前世からの関係でもなく、出会う運命だったからでもない、全て偶然の産物。自分たちの関係はたくさんの偶然のもと、まるで蜘蛛の糸のように儚く細く成り立っているに過ぎない。

「趣味悪い」
「なんだよ、それ」
「ジュピターでもう充分こりごりだったのよ」
「ジュピターはあたしじゃない」
「ジュピターだったら好きにならずに済んだはずだった」
「ってことはあたしのことは好きなんだな」
「・・・図々しいわね」

 だからこそ、大切にしたいと素直に思えてしまう。

「・・・勝手に人の心に入ってくるなんて、本当に図々しいにも程があるわ」
「それは・・・申し訳ないね」
「謝ってるくせに嬉しそうなのがむかつく」
「ごめんって」

 抱きしめられたまま、お互いの表情が見えないまま、それでもこの言葉のやり取りは同い年じゃないと始まることさえなかった。
 同じ年に生まれて、同じ国に、この場所に生まれてこなければ。

 それは考えるだけで、恐ろしくて。でも少しだけ楽しくもある。



 運命は自分たちにはあまりに大きくて重い形のはっきりしているものだから。
 せめて恋愛くらいは、頼りない偶然の積み重ねでないときっと頑張る甲斐さえない。


           ****************


 レイちゃんははるみちよりまこちゃんと年離れてるんだよなーと思ったので、同じ国に生まれたのミラクルロマンスなネタ。初対面の人が学年上だったら絶対態度変わるよねって話です。
 ジュピはまこちゃんと違ってあんま年とか気にしなさそうな気がしますが。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« How to 拍手レス? | トップ | 定番行事 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

SS」カテゴリの最新記事