ハグ

「あ、み、ちゃ～ん！！」
「え…きゃっ」
「偶然ねー今帰り！？まさか居残りさせられてたの！？まっさかあみちゃんに限ってそんなことないかー」
「と、図書室でちょっと調べものをしていて…み、美奈」
「んー？あたしも今部活終わったとこだから一緒に帰りましょー」
「そ、それはいいんだけど……美奈、抱きついたりしないで」
「ええ～？何でよ？」
「なんでって……」
「あたしのこと嫌いなのっ！？ひどいっ！今までは遊びだったの！？」
「そういうことじゃなくて………あの、びっくりするから」
「ははあ、後ろからいきなり抱きついたのがまずかったの？じゃあ今度は正面から抱きつくわ」
「しょ、正面も……できれば遠慮して欲しいわ」
「後ろも前も駄目って…なぜ？ホワイ？」
「なぜって…その、人前だし……何よりも急にだとびっくりしてしまって……」
「………………………………」
「…いきなりだとつい身構えてしまうし、人前だと緊張してしまうし、恥ずかしくて……つい」
「……ふーん」
「ご、誤解しないで。あなたのことが嫌いだとか、嫌だとか思ったことはないの。ただ……」
「ははぁ。まあ、亜美ちゃんの言いたいことは分かったわ。あたしも亜美ちゃんのそういう慎ましいとこ、好きよ」
「ええ…分かってもらえたならうれしい」
「でも、拒否されてばっかじゃあたしも辛いし、前向きで具体的な話をしてもらおうじゃない」
「前向きで具体的って…」
「いつ、どういうときなら抱きついていいの？」
「……えっと」
「あたしだって亜美ちゃんが嫌がるようなこと無理やりしたりしたくないわ。でもいっつもそういう話になると亜美ちゃん逃げちゃうから、ちっとも進展しないんじゃない」
「それは……その、ごめんなさい」
「で、いつなら抱きついていいの」
「えっと……まず、人前はやめてほしいの…恥ずかしいから」
「それは分かったわ。でも二人きりでもいきなり抱きついたら嫌がるでしょう？あとは？」
「あとは…その、私の…準備が出来たら」
「準備？準備って何の？心？」
「………ファブリーズ」
「………ふぁぶ？」
「……エイトフォー」
「……………あの、水野さん、それって」
「……消臭力」
「(゜Д゜)」




















「亜美ちゃんって…………ほんっとデリカシーないんだから！！」
「まあまあ、美奈…抱きつかれるのが嫌って言われたわけじゃないんだしいいじゃないか」
「だからって…！匂い消さなきゃ抱きつかせてくれないって……！」
「まあ、確かにどうしようもないもんな…美奈の気持ちもわかるよ」
「人間なんだからバレーやったら汗くらい出るわよ！むしろ愛の女神の汗ならかぐわしいくらい思ってほしいわ」
「それはそれで気持ち悪いって…」
「……まこちゃん、あたし…そんなに汗臭い？」
「いや…まあ、汗臭いっていうか、そりゃ無臭ってことはないけど、スポーツやってればしょうがないだろ？気にするほどじゃないよ」
「でもぉ……ファブにエイトフォーに消臭力のトリプルパンチは乙女心に堪えたわ」
「でも、あたしが感じるにレイと大して変わんないけどなぁ」
「はへ？レイちゃん？」
「レイも体育会系だろ？いつも涼しげな顔してるけどあれで結構汗かいてるよ。スポーツじゃないけど、巫女服も夏は暑いしな。しかも祈祷のときなんかあの恰好で閉め切った部屋で火焚いて、ひどいときは水かぶったみたいになってるし。そんな時でも汗の匂いは確かにするけど、顔を背けたりするような程じゃないし、美奈の部活後もそんなに変わらないって」
「へー、レイちゃんそんな汗かくイメージなかったけど、でもやっぱりそれくらいかくのねぇ。当然っちゃ当然だけどちょっとびっくりしちゃった」
「実際それくらいかいてるのに、レイに汗臭いどころか汗かいてるイメージすらなかったってことは、美奈は今までレイのこと気にならなかったってことだろ？あたしからすれば美奈も大して変わんないよ」
「でも亜美ちゃんがぁ～…」
「大体、たまたまその時部活帰りだったってだけで、いつも汗だらだらってわけじゃないだろ。亜美ちゃんも案外美奈がファブしてる間時間稼いで心の準備したいってそういうことなんじゃないか？ファブしだしたら抱きついてくるのねって、少なくとも構えはできるだろ」
「はぁ～。ってことはファブ要求は亜美ちゃんのヘタレさゆえですか…」
「恥ずかしがり屋ってことだろ。可愛い可愛い」
「デレるならもーちょっと分かりやすくしてほしいわ…」
「汗なんて誰でもかくものだしそんな神経質になることないって。ただ、そのまましばらく放っておくと匂いきつくなって来るのも確かなんだけどね…こうなると洗うの大変なんだ」
「洗う？」
「汗いっぱいかいたら、制汗剤や消臭グッズ使うより、あんまり時間を空けず念入りに洗わないと」
「あの………まこちゃん」
「何？」
「ちなみにその念入りに洗わなきゃいけないのって、袴の話？それともレイちゃん本体の話？」
「な、何言ってんだよレイ本体とかそんなわけないだろ！は、袴の方に決まってるだろ？弓道用の袴と巫女用の袴両方洗わなきゃいけないときとかなかなか…それでなくてもきれいに洗うの大変だけど汗の匂い残ったらイヤだから、夏場は一苦労なんだ」
「そっちの方が大問題よっ！」
「え？」
「別に同棲してるわけでもないのに何でそんな明らかに洗濯面倒臭そうなものをあなたが引き受けてるのよ！？恋人同士がラブラブお風呂してるのはまだ理解できるけど、そっちの方が高校生のおつきあいとしては明らかに問題でしょう！袴は清潔でもあなたたち不潔よ」
「……そう？」
「あたしたちを見習いなさいよ！ハグひとつでもめごと起こすこのピュアっぷり！まさに健全かつ初々しい高校生らしいおつきあいじゃない(ドヤッ」
「(結果として美奈が亜美ちゃんとの付き合い方に納得してしまった……これはこれでいい結末…なのか？)」








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　ファブ出す→抱きつく合図って、オフィス内不倫の「今晩どう？」の秘密のサインに通ずるものがありますね。めんどくせぇ関係(笑)

　美奈亜美の「ホワイ？」「なぜって…」のくだりは実際にセラミュでのやり取りで(立場入れ替わってるけど)赤嶺亜美ちゃんのあの「ホワイ？」が亜美ちゃんらしくなくて大好きです。