2024年3月18日(月)
#347 アイズ・オブ・マーチ「Vehicle」(Warner Bros.)
#347 アイズ・オブ・マーチ「Vehicle」(Warner Bros.)
アイズ・オブ・マーチ、70年リリースのシングル・ヒット曲。バンド・メンバー、ジム・ペトリックの作品。ボブ・デストッキ、フランク・ランドによるプロデュース。
米国のロック・バンド、アイズ・オブ・マーチ(The Ides of March、以下アイズ)は64年イリノイ州バーウィンで4人組のザ・ションデルズとして結成され、66年にこのバンド名に改名している。
The Ides of Marchとは、3月15日という意味で、メンバーのボブ・バーグランド(b)が、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」の一節からとって提案したのだという。
アイズは改名後の66年に、ロンドン傘下のパロット・レーベルよりシングル「You Wouldn’t Listen」でデビュー。地元シカゴでローカル・ヒットし、全米でも42位となった。デビュー当時のサウンドは、ザ・バーズのようなコーラスをフィーチャーしたフォーク・ロックだった。
以降パロットよりシングルを総計5枚リリース。バンドもホーン奏者を増員していく。しかし、「Roller Coaster」がローカル・ヒットしたくらいで、アルバムもリリースされなかった。
成功はデビューの4年後にようやく訪れた。アイズは70年に最大手のワーナー・ブラザーズと契約、本日取り上げたシングル曲「Vehicle(ヴィークル、当初の邦題はビークル)」で再デビューを果たすことになる。
この曲が、ワーナー史上最速と言われるまでの、記録的大ヒットとなった。
瞬く間に全米2位、100万枚を売り上げ、ゴールド・ディスクを受賞し、また本曲をフィーチャーしたアルバム「Vehicle」も全米55位となった。
聴いてみると、本当に「ヒットして当然」と思えるキャッチーな曲作りである。米国では既に60年代末よりBS&T、シカゴといったいわゆるブラス・ロックが人気となっていたが、アイズもそのラインを踏まえて、ホーン・アレンジを前面に押し出している。見事に時代にフィットしたサウンドだ。
また、バンドのフロントマン、リードシンガーにしてギタリストのジム・ペトリックの歌が、またいい。エネルギッシュでソウルフル、でも黒人のようなクセは無く、万人にアピールするタイプ。当時の英国のトム・ジョーンズあたりにも比肩される、ブルーアイド・ソウルの典型的なシンガーと言えるだろう。
このヴァイタリティあふれるキラー・チューンで一躍人気バンドとなったアイズは、同年「Superman」というシングル曲をリリースした。前曲ほどではないが、クリーンヒット。しかし「ヒット曲の焼き直し」感は拭えなかった。
以降、バンドは下降線を辿ることになる。71年のシングル「L.A. Goodbye」は全米73位止まり。その後はまったくヒットが出なくなり、ブラス・ロック路線から離れてみたものの、鳴かず飛ばず。結局、73年に解散している。
90年に再結成し、現在もライブで活動中の模様。いわば「Vehicle」のヒットという過去の遺産でもっぱら食べるタイプの活動をしているわけだ。
そういうわけで、アイズは典型的な一発屋バンドとなってしまったのだが、それでもこの「Vehicle」がポップス史上稀に見る、パーフェクトな出来映えである事実をそこなうものではないと思う。
ある曲がヒットするには、必ず確固たる理由がある。筆者は自信を持ってそう言いたい。
アイズ・オブ・マーチの7人の、メロディ、ビート、アレンジにおける卓越したセンスを、この稀代のビッグ・ヒット・チューンに感じとって欲しい。