2023年3月24日(金)
#492 LITTLE WALTER「THE BEST OF LITTLE WALTER」(MCA/Chess CHD-9192)
米国のブルース・ミュージシャン、リトル・ウォルターのデビュー・アルバム。58年リリース。レナード・チェス、フィル・チェス、ウィリー・ディクスンによるプロデュース。
タイトルが示すように、ウォルターのシングル曲を集めたベスト盤でもある。同58年にリリースされた「THE BEST OF MUDDY WATERS」と同様の企画である。
当時のポピュラー・ミュージックのアルバムは、アルバムのためにまるまる一枚分、オリジナル・レコーディングすることは稀で、おおむね過去のシングル曲の寄せ集め的なものだったから、ざっくりと言って「ベスト盤=アルバム」みたいな感じだったのである。
オープニングの「My Babe」はウィリー・ディクスンの作品。55年リリースのシングル曲。R&Bチャートで5週1位を獲得した、ウォルター最大のヒット・ナンバーである。
のち61年に女声コーラスを加えたバージョンも出して再度ヒットしている。
この曲には元ネタがあり、シスター・ロゼッタ・サープの歌唱で知られるゴスペル・ナンバーの「This Train」を改作したものだという。
聴いてみるとたしかに似ているが、いなたい元ネタをディクスンが現代風、都会風にアップグレードしたのが「My Babe」だと言えるな。
レナード・キャストン、ロバート・ロックウッド・ジュニアのギター、ディクスンのベース、フレッド・ビロウのドラムスをバックに、ウォルターはいなせな歌声を聴かせてくれる。
いかにもオンナにモテそうな彼が歌うとぴったりハマる、彼女自慢の歌詞がいい。
「Sad Hours」は52年リリースのシングル。ウォルターの作品(以下同様)。R&Bチャート1位。
ミディアム・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。ギターでのイントロに続いて、ウォルターのハープ・ソロ。そこからはほぼ全編、彼の独演会。
そのハープの力強くディープなトーンを、とことん楽しむべし。
バックではデイヴ・マイヤーズ、ルイス・マイヤーズというエイシズのメンバーがギターを担当している。
ビロウも含めた彼らは52年以降ジュークスというバンド名でウォルターをサポートし、ルイスが54年に抜けるまで何曲ものヒットを生み出す。ウォルターにとって重要な助っ人たちであった。
彼らの手堅いバッキングもまた、聴きどころと言えよう。
「You’re So Fine」は54年リリースのシングル。R&Bチャート2位。
リズミカルなシャッフル・ナンバー。ウォルターの勢いに満ちた歌、そしてハープ・ソロがコンパクトにまとめられている。
そのボーカル・スタイルには、同じシンガー/ハーピストのジュニア・ウェルズに近いものを感じる。ともにマディ・ウォーターズのバンドでハープを担当した者(ウォルターの後任がウェルズ)どうし、刺激し合う存在だったのだろう。
「Last Night」は54年リリースのシングル。R&Bチャート6位のスロー・ナンバー。
ロック・ファンにはエリック・クラプトンが76年のアルバム「no reason to cry」でカバーしたことでよく知られている。
オリジナルのウォルター版は2分46秒とごく短く、あっさりと終わってしまうが、それでも親友を失った悲痛な心境が歌とハープ・ソロで切々と語られて、聴くものの心を揺さぶるのだ。
「Blues with a Feeling」はドラマー、レイボン・タラントの作品。彼がボーカルをつとめるジャック・マグヴィーのバンドにより47年にオリジナル盤がリリースされたジャンプ・ブルース・ナンバー。
この曲をオリジナル以上に世間に知らしめたのが、ウォルターが53年にリリースしたシングル。R&Bチャート2位。ウォルターによりスロー・テンポに変わっている。
ハープ・ソロによるイントロで始まり、ウォルターの思い入れたっぷりの歌が続く。そして、後半のパワフルなブレイクが、この曲の重要なアクセントになっている。
今日でもブルース・ハーピストは、この曲を主要なレパートリーとする人が多い。
ある意味、ハーピストの聖典とも言える一曲。
「Can’t Hold Out Much Longer」は52年リリースのシングル「Juke」のB面の、スロー・ブルース・ナンバー。
この曲でのギターはマディ・ウォーターズとジミー・ロジャーズだ。彼らの抑えめのプレイがシブカッコよろしい。
ロジャーズの「That’s All Right」に似た雰囲気を持つナンバーを、ウォルターは彼流にワイルド、かつラフに歌いあげている。
LPのB面トップは「Juke」。前の曲のA面にあたる。全編ハープ・ソロのインストゥルメンタル・ナンバー。52年、R&Bチャート1位。彼の最初のヒット曲でもある。
ウォルターといえば「Juke」というぐらいの代表曲。多くの後輩ハーピストがカバーしており、ブルース・スタンダードのひとつともなっている。
ブルース・ハープを志す人は、一度はこの曲のコピーに挑戦するという。筆者もかつては試みてみたが、なかなか難しく感じた。
基本的なハープの技、特にベンドがきちんとマスター出来ていないと、この曲のソロの複雑なニュアンスを再現することは難しい。
ハーピストの「必修課題」とでもいうべき一曲だな。
バックはB面同様、マディ&ジミーが冴えたプレイを聴かせてくれます。
「Mean Old World」はT・ボーン・ウォーカー42年の作品。歌詞はウォルターによって変えられている。53年リリースのシングル、R&Bチャート6位。
ウォーカーのオリジナルとは趣きも異なって、ルイジアナ・ブルース風のいなたさがある。
オブリガートのハープ・ブローがのどかな雰囲気を醸し出していて、マル。
「Off the Wall」は53年リリースのシングル。R&Bチャート8位のインストゥルメンタル・ナンバー。
ここでもウォルターの高度のハープ・テクニックは、いかんなく発揮されてるいる。その縮緬のようなビブラートは、すごいのひとことだ。
このレコードに対して同じハーピストのビッグ・ウォルターが「この曲はオレの作った曲だ」と主張し、サン・レコードで自分のバージョンを録音して対抗したというエピソードがある。
そういったレパートリーのパクりあいは、シカゴ・ブルースのミュージシャン界隈では、日常茶飯事だったみたいだ。
両ウォルターの張り合いっぷりが、ちょっと微笑ましい。
「You Better Watch Yourself」は54年リリースのシングル。R&Bチャート8位。
アップ・テンポのシャッフル・ナンバー。快調なボーカルとブロー。メロディもはっきりしていて、歌うウォルターも気持ち良さげだ。
筆者的には、けっこうお気に入りの一曲。ブルース・セッションで、一度はやってみたいものだ。
「Blue Light」は前曲のB面。スロー・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。
夜のムードが濃厚だ。ここでのハープ・ブローの凄みは、ぜひ実際に聴いて味わっていただきたい。鳥肌ものでっせ。
エイシズのバッキングも、この上なくクールだ。
ラストの「Tell Me Mama」は53年リリースのシングル。アップ・テンポのツービート・ナンバー。R&Bチャート10位。
マディ・ウォーターズの十八番「モジョ・ワーキン」風の曲調、ハープ・プレイで、気分もハイになること請け合いだ。
以上12曲、R&Bチャートでトップテンを取ったシングル(とB面)だけあって良曲揃い。
歌ってよし、吹いてよし。ハープだけでなく、歌でもしっかりと楽しめるのが、リトル・ウォルターのレコード。
歌う曲の、やさぐれたイメージそのままの、酒浸りで血の気の多いキャラクター。
リトル・ウォルターこそ、全身ブルースマンの名にふさわしいミュージシャンだと思う。
この一枚を皮切りに、リトル・ウォルターの世界にズブズブにハマってみないか(笑)。
<独断評価>★★★★
米国のブルース・ミュージシャン、リトル・ウォルターのデビュー・アルバム。58年リリース。レナード・チェス、フィル・チェス、ウィリー・ディクスンによるプロデュース。
タイトルが示すように、ウォルターのシングル曲を集めたベスト盤でもある。同58年にリリースされた「THE BEST OF MUDDY WATERS」と同様の企画である。
当時のポピュラー・ミュージックのアルバムは、アルバムのためにまるまる一枚分、オリジナル・レコーディングすることは稀で、おおむね過去のシングル曲の寄せ集め的なものだったから、ざっくりと言って「ベスト盤=アルバム」みたいな感じだったのである。
オープニングの「My Babe」はウィリー・ディクスンの作品。55年リリースのシングル曲。R&Bチャートで5週1位を獲得した、ウォルター最大のヒット・ナンバーである。
のち61年に女声コーラスを加えたバージョンも出して再度ヒットしている。
この曲には元ネタがあり、シスター・ロゼッタ・サープの歌唱で知られるゴスペル・ナンバーの「This Train」を改作したものだという。
聴いてみるとたしかに似ているが、いなたい元ネタをディクスンが現代風、都会風にアップグレードしたのが「My Babe」だと言えるな。
レナード・キャストン、ロバート・ロックウッド・ジュニアのギター、ディクスンのベース、フレッド・ビロウのドラムスをバックに、ウォルターはいなせな歌声を聴かせてくれる。
いかにもオンナにモテそうな彼が歌うとぴったりハマる、彼女自慢の歌詞がいい。
「Sad Hours」は52年リリースのシングル。ウォルターの作品(以下同様)。R&Bチャート1位。
ミディアム・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。ギターでのイントロに続いて、ウォルターのハープ・ソロ。そこからはほぼ全編、彼の独演会。
そのハープの力強くディープなトーンを、とことん楽しむべし。
バックではデイヴ・マイヤーズ、ルイス・マイヤーズというエイシズのメンバーがギターを担当している。
ビロウも含めた彼らは52年以降ジュークスというバンド名でウォルターをサポートし、ルイスが54年に抜けるまで何曲ものヒットを生み出す。ウォルターにとって重要な助っ人たちであった。
彼らの手堅いバッキングもまた、聴きどころと言えよう。
「You’re So Fine」は54年リリースのシングル。R&Bチャート2位。
リズミカルなシャッフル・ナンバー。ウォルターの勢いに満ちた歌、そしてハープ・ソロがコンパクトにまとめられている。
そのボーカル・スタイルには、同じシンガー/ハーピストのジュニア・ウェルズに近いものを感じる。ともにマディ・ウォーターズのバンドでハープを担当した者(ウォルターの後任がウェルズ)どうし、刺激し合う存在だったのだろう。
「Last Night」は54年リリースのシングル。R&Bチャート6位のスロー・ナンバー。
ロック・ファンにはエリック・クラプトンが76年のアルバム「no reason to cry」でカバーしたことでよく知られている。
オリジナルのウォルター版は2分46秒とごく短く、あっさりと終わってしまうが、それでも親友を失った悲痛な心境が歌とハープ・ソロで切々と語られて、聴くものの心を揺さぶるのだ。
「Blues with a Feeling」はドラマー、レイボン・タラントの作品。彼がボーカルをつとめるジャック・マグヴィーのバンドにより47年にオリジナル盤がリリースされたジャンプ・ブルース・ナンバー。
この曲をオリジナル以上に世間に知らしめたのが、ウォルターが53年にリリースしたシングル。R&Bチャート2位。ウォルターによりスロー・テンポに変わっている。
ハープ・ソロによるイントロで始まり、ウォルターの思い入れたっぷりの歌が続く。そして、後半のパワフルなブレイクが、この曲の重要なアクセントになっている。
今日でもブルース・ハーピストは、この曲を主要なレパートリーとする人が多い。
ある意味、ハーピストの聖典とも言える一曲。
「Can’t Hold Out Much Longer」は52年リリースのシングル「Juke」のB面の、スロー・ブルース・ナンバー。
この曲でのギターはマディ・ウォーターズとジミー・ロジャーズだ。彼らの抑えめのプレイがシブカッコよろしい。
ロジャーズの「That’s All Right」に似た雰囲気を持つナンバーを、ウォルターは彼流にワイルド、かつラフに歌いあげている。
LPのB面トップは「Juke」。前の曲のA面にあたる。全編ハープ・ソロのインストゥルメンタル・ナンバー。52年、R&Bチャート1位。彼の最初のヒット曲でもある。
ウォルターといえば「Juke」というぐらいの代表曲。多くの後輩ハーピストがカバーしており、ブルース・スタンダードのひとつともなっている。
ブルース・ハープを志す人は、一度はこの曲のコピーに挑戦するという。筆者もかつては試みてみたが、なかなか難しく感じた。
基本的なハープの技、特にベンドがきちんとマスター出来ていないと、この曲のソロの複雑なニュアンスを再現することは難しい。
ハーピストの「必修課題」とでもいうべき一曲だな。
バックはB面同様、マディ&ジミーが冴えたプレイを聴かせてくれます。
「Mean Old World」はT・ボーン・ウォーカー42年の作品。歌詞はウォルターによって変えられている。53年リリースのシングル、R&Bチャート6位。
ウォーカーのオリジナルとは趣きも異なって、ルイジアナ・ブルース風のいなたさがある。
オブリガートのハープ・ブローがのどかな雰囲気を醸し出していて、マル。
「Off the Wall」は53年リリースのシングル。R&Bチャート8位のインストゥルメンタル・ナンバー。
ここでもウォルターの高度のハープ・テクニックは、いかんなく発揮されてるいる。その縮緬のようなビブラートは、すごいのひとことだ。
このレコードに対して同じハーピストのビッグ・ウォルターが「この曲はオレの作った曲だ」と主張し、サン・レコードで自分のバージョンを録音して対抗したというエピソードがある。
そういったレパートリーのパクりあいは、シカゴ・ブルースのミュージシャン界隈では、日常茶飯事だったみたいだ。
両ウォルターの張り合いっぷりが、ちょっと微笑ましい。
「You Better Watch Yourself」は54年リリースのシングル。R&Bチャート8位。
アップ・テンポのシャッフル・ナンバー。快調なボーカルとブロー。メロディもはっきりしていて、歌うウォルターも気持ち良さげだ。
筆者的には、けっこうお気に入りの一曲。ブルース・セッションで、一度はやってみたいものだ。
「Blue Light」は前曲のB面。スロー・テンポのインストゥルメンタル・ナンバー。
夜のムードが濃厚だ。ここでのハープ・ブローの凄みは、ぜひ実際に聴いて味わっていただきたい。鳥肌ものでっせ。
エイシズのバッキングも、この上なくクールだ。
ラストの「Tell Me Mama」は53年リリースのシングル。アップ・テンポのツービート・ナンバー。R&Bチャート10位。
マディ・ウォーターズの十八番「モジョ・ワーキン」風の曲調、ハープ・プレイで、気分もハイになること請け合いだ。
以上12曲、R&Bチャートでトップテンを取ったシングル(とB面)だけあって良曲揃い。
歌ってよし、吹いてよし。ハープだけでなく、歌でもしっかりと楽しめるのが、リトル・ウォルターのレコード。
歌う曲の、やさぐれたイメージそのままの、酒浸りで血の気の多いキャラクター。
リトル・ウォルターこそ、全身ブルースマンの名にふさわしいミュージシャンだと思う。
この一枚を皮切りに、リトル・ウォルターの世界にズブズブにハマってみないか(笑)。
<独断評価>★★★★