2004年5月16日(日)
#217 ボズ・スキャッグズ「シルク・ディグリーズ」(CBS/SONY CSCS 6021)
シンガー/ソングライター、ボズ・スキャッグズ、76年発表のソロ・アルバム。
76年といえば、筆者は予備校生としての生活を送っていたころだが、このアルバムが本国アメリカはもとより、この日本でも驚異的な売れ行きを見せていたことを、いまだに鮮烈に覚えている。
ボズは本名、ウィリアム・ロイス・スキャッグズ。44年生まれだから、今年なんと還暦である。
60年代、スティーヴ・ミラー・バンドのメンバーだった彼は、69年独立。
74年のアルバム「スロウ・ダンサー」をリリースしたあたりから注目され始め、この「シルク・ディグリーズ」で一気にブレイクした、というわけだ。
このアルバムからは、都合4枚ものスマッシュ・ヒットを出したのではなかったかな。
さて、本当にひさしぶりに聴いてみての感想は、「(28年も前の音だけど)全然聴けるじゃん」であった。
このアルバムを出したころ、音楽評論家の渋谷陽一氏がボズのことを「アメリカの五木ひろし」という、わけワカメなたとえをして、激しく違和感を覚えたものだが、今考えてみれば、それはそれで言い得て妙な気もしてきた。
ともに「歌唱力」というよりは実はワン・アンド・オンリーな「個性」で勝負しているという点において、意外と近いものがあるような。あと、その特徴ある「泣き節」とかね。
ま、ともに「当時の」というカッコつきではあるが「国民的男性歌手」だったのは間違いないでしょう。
当アルバムは、ジョー・ウィザートによるプロデュース。アレンジはその後、TOTOを結成するデイヴィッド・ペイチ。彼のほかにも、べースのデイヴィッド・ハンゲイト、ドラムスのジェフ・ポーカロらTOTO組が参加している。曲は2曲を除き、すべてボズのオリジナル。
筆者的に一番好きなのは「港の灯(HARBOR LIGHTS)」「二人だけ(WE'RE ALL ALONE)」のバラード路線。
キーボード、ストリングスを基調とした、ペイチの正統派アレンジはさすが。音楽一家出身で、子供のころからジャズに親しんだだけのことはあるね。
こういう曲には、ボズの繊細なファルセット、泣き節が実にピタッとはまっている。これぞ、大人の音楽。
でもその一方、ファンクなナンバーもいい。「何て言えばいいんだろう(WHAT CAN I SAY)」、「リド・シャッフル(LIDO SHUFFLE)」、そして代表的ヒット「ロウダウン(LOW DOWN)」。このへんのガツンガツンなノリも最高。
一方、サザン・ロックな「ジャンプ・ストリート(JUMP STREET)」も捨てがたい。当時「デュエイン・オールマンの再来」と呼ばれたレス・デューデックのスライド・ギターが聴きもの。
アレン・トゥーサンの作品「あの娘に何をさせたいんだ(WHAT DO YOU WANT THE GIRL TO DO」もいい。N.O.スタイルのR&Bの、リラックスした雰囲気がマル。
あと、ペイチの作品、レゲエなノリの「明日に愛して(LOVE ME TOMORROW)」なんてのも、耳に心地よい。
まとめていえば、アメリカン・ミュージックの成熟した魅力が、全編詰まっている、そういうことかな。
70年代はフル稼働だったボズも、80年代以降はぐっと寡作となり、表舞台に立つことは激減したが、現在でもマイペースで作品をリリースしている。
近年ではことに、スタンダード・ジャズを好んで歌っているようだ。やはり、これも「国民的歌手」であることのあらわれかな(笑)。
ひとことで「ロック」といっても、いろんな方向性、表現方法があるが、「大の大人だって聴けるロックがある」ことを、また「シャウトとはまた別の、ロック・ヴォーカルの可能性がある」ことを、その高い音楽性で示したボズ・スキャッグスは、まことにエポック・メイキングな存在であったと思う。
発表当時、このアルバムがバカ売れしたのは「流行りもの」だったからという感じではあったが、歳月を経て聴いても色あせていない、ということはやはり「ホンモノ」だったということではないかな。
ボズのメロディ・メーカーとしてのセンス、そしてその個性的なヴォーカルの魅力を、この一枚でもう一度知ってほしい。
<独断評価>★★★★★