NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#355 トーマス・ドルビー「Hyperactive!」(EMI)

2024-03-26 08:39:00 | Weblog
2024年3月26日(火)

#355 トーマス・ドルビー「Hyperactive!」(EMI)









トーマス・ドルビー、84年1月リリースのシングル・ヒット曲。ドルビー自身の作品。セルフ・プロデュース。

英国のミュージシャン、トーマス・ドルビーは58年ロンドン生まれ。本名・トーマス・モーガン・ロバートスン。父親マーティンは考古学者で、ロンドン大、オックスフォード大の教授。その影響からか、彼の作品にはオリエンタル、エスニックな音楽への指向が感じられる。

芸名のドルビーは、ノイズ・リダクション・システムで知られる「ドルビー・ラボラトリーズ」から取られている。いかにも録音オタクな彼に相応しい名前だ。また、当時人気のシンガー、トム・ロビンスンとの混同を避ける目的もあったという。

数枚のシングル・リリースを経て、82年5月、デビュー・アルバム「The Golden Age of Wireless」を発表。同10月リリースのシングル「She Blinded Me With Science(邦題・彼女はサイエンス)」が米国・カナダで爆発的な大ヒット(全米5位、カナダ1位)となる。これによりドルビーは、瞬く間に人気アーティストとなった。

ドルビーの場合、80年代ということもあり、デビュー当初よりミュージック・ビデオ(MV)を中心に据えてのヴィジュアル展開、イメージ戦略を積極的に取っており、これが大いに功を奏したと言える。

最初のヒット曲「She Blinded Me With Science」は、まさにその戦略による大勝利。当時は日本でもカフェバー(今や死語)のビデオ・モニターに、マイケル・ジャクスンなどと並んで、よくこの曲のMVが流れていたのを思い出す。

インターネットもまだなく、もちろんYoutubeなどの動画サイトもなかった時代において、MVという映像があるとないとでは、ヒットに雲泥の差がついた時代だったのである。

本日取り上げた「Hyperactive!(邦題では「ハイパー・アクティヴ!!」とビックリマークがふたつ付いていた)」も、凝った演出のMVが制作されて、大いに話題を呼んだものだ。ぜひ、その映像を観ていただこう。

出演している男性は、もちろんドルビー本人。彼がボンゴ、トロンボーン、フルートなどいくつもの楽器を演奏してみたり、腹話術、奇術めいたことをしておどけてみたりと、短い時間にさまざまな演出が凝らされている。ノイローゼか何かにかかっていると思われるドルビーを診察する医者役の爺さん俳優も、なかなかいい味を出しているね。

84年2月にリリースされたセカンド・アルバム「The Flat Earth(地平球)」の先行シングル。アップテンポのダンス・ナンバー。女声ボーカルは、アデル・ベルテイ。

MVだけでなく、そのレコード・ジャケット写真もまた面白い。髪の毛を逆立て、目を剥いてバイオリンを弾くドルビーには、ホント、笑ってしまう。

ドルビー自身の発言によると、この曲、82年に一度会ったことのあるマイケル・ジャクスンが歌うことを想定して作ったのだそうな。まぁ、作り話かもしれんがね。で、デモテープを送ったものの、マイケルからは何の反応もなかったので、自ら歌うことに決めたのだという。

そう言われてみると、バック・ボーカルのアデルの高いキーは、マイケルの歌声にちょうど合っているようにも聴こえてきて、実に興味深い。

自らこの曲をリリースした結果、米国では全米62位(ダンス/ディスコでは37位)といまいち低位だったものの、全英では17位とそこそこヒットし、どちらかといえばセールス的には米国先行型だった彼も、ようやく本国でも人気が出てくるきっかけとなった。

ドルビーの生み出したサウンドは70年代以降、クラフトワークやYMOなどによって台頭してきたいわゆる「テクノ」をさらに進化させて、多様なワールド・ミュージックともシンクロした、まったく新しいタイプのポップ・ミュージックだったと言える。

ファンキーでダンサブルでありながら、従来の予定調和的なコード進行、リズムパターンにとらわれない変幻自在な曲作りは、まさに天才の所業だと思う。

その後のドルビーの活躍ぶりまで書く余裕は今回はないが、この曲は彼の物凄い才能の、ほんの片鱗に過ぎないので、ぜひ後の作品群もチェックしてみて欲しい。

ありとあらゆる音の可能性を追求してやまないマッド・プロフェッサー、トーマス・ドルビー。サイエンスとミュージックの融合を成し遂げた、実に稀有な才能である。

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