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音曲日誌「一日一曲」#372 テイスト「Catfish」(Polydor)

2024-04-12 07:43:00 | Weblog
2024年4月12日(金)

#372 テイスト「Catfish」(Polydor)






テイスト、1969年リリースのデビュー・アルバムからの一曲。トラディショナル・ナンバー。トニー・コルトンによるプロデュース。

アイルランドのロック・バンド、テイストは66年に同国コークで結成され、北アイルランドのベルファストを拠点として活動していたが、いったん解散。

68年、ボーカル/ギターのロリー・ギャラガー以外のメンバーを変え、ベースのリチャード・マクラッケン、ドラムスのジョン・ウィルスンのラインナップで英国ロンドンに移住、ボリドールレーベルと契約して再スタートを切った。

デビュー・アルバムは英国のバンド、ヘッド・ハンズ・アンド・フィートのリーダー、トニー・コルトンをプロデューサーとして迎えて制作、69年4月にリリースされている。

収録された曲の大半は、リーダー的存在であるギャラガーの作詞作曲であったが、4曲ほど米国のトラディショナル・ブルースやカントリー、ブルースのシンガーの作品を含んでおり、テイストというバンドが目指した音楽の方向性を伺うことが出来る。

本日取り上げた「Catfish」は、昨日取り上げた「Sugar Mama」とともに、本アルバムに収録されたトラディショナル・ブルース・ナンバーだ。

もともとは「Catfish Blues」というタイトルだったこの曲は、1920年代にミシシッピ州のデルタ地帯で生まれたようだ。

1928年に黒人ブルースマン、ジム・ジャクスンが録音した「Kansas City Blues Part 3 & 4」には、キャットフィッシュ(ナマズ)をモチーフにした歌詞が含まれており、同工異曲のバリエーションがいくつかあったという。

これを黒人ブルースマン、ロバート・ペットウェイ(1903年ミシシッピ州生まれ)が一曲にまとめ、1941年にシングルをRCA傘下のブルーバードレーベルよりリリースしたことで、世間によく知られるようになった。

彼は生涯にわずか16曲しか録音しなかったが、この「Catfish Blues」がのちにブルース・スタンダードとなったことで、ブルース史に名を刻むこととなった。

本欄で以前取り上げたことのあるトミー・マクレナンとは音楽仲間で、一緒にツアーをしており、先にシカゴへ移住したマクレナンの後を折ってペットウェイも移住したという。

ペットウェイ版の「Catfish Blues」を聴いていただこう。アコースティック・ギターをラフにコード弾きしながら、塩辛い声で歌うペットウェイ。いわゆる上手い歌ではないが、独自のシブい味わいがある。

このいかにも素朴な歌声と演奏が、後続のブルースマンたちに大きな影響を与えることになる。その代表が、ブルース史上有数のビッグスター、マディ・ウォーターズである。

マディは1950年に「Rollin’ Stone」というタイトルでこの曲をシングルリリースした(皆様ご存じ、ローリング・ストーンズのバンド名の由来である)。

また、同じメロディを持つ改作「Still a Fool」も翌51年リリース、こちらはR&Bチャートで9位のヒットとなり、マディの代表曲のひとつとなった(後者は「Two Trains Running」の別タイトルでも知られている)。

その後、おもにマディ版をカバーするかたちで、多くのブルース・アーティストがこの「Catfish Blues」発祥のナンバーを歌うようになった。例えば、ジョン・リー・フッカー、ハニーボーイ・エドワーズらである。

いや、ブルースマンに限らず、ロック・ミュージシャンにもこの曲を取り上げるものが60年代には出てくる。ジミ・ヘンドリックスである。

彼が結成したジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスによるトリオ演奏の「Catfish Blues」は、後の年代にCDがリリースされた「BBC Sessions」(67年録音)をはじめとするいくつかのライブ音源で聴くことが出来る。サウンドこそジミヘン流であるものの、それらの進行形式は、基本的にマディ版に準拠したブルースである。

しかし、その1、2年後にレコーディングされたテイスト版「Catfish」は、あえてタイトルからBluesを外している。ここに、過去のブルース・スタイルから脱却して、自分なりのロックへと昇華させようという、ギャラガーの強い意気込みを感じ取れる。ヘンドリックスへの対抗意識も、十分あっただろう。

スタジオ録音にもかかわらず、8分あまりにおよぶ長尺で、その音もライブ感を出したラウドなものであり、のちにリリースした2枚のライブレコーディングと比べても決して引けを取らない迫力がある。

テンポをぐっと落とし、ハードでヘヴィーなビートを強調したサウンド。もちろん、主役はギャラガーの切れ味鋭いギター・プレイと、それに見事シンクロした、唸りにも似た荒っぽい歌声だ。

ブルースを超えたブルース。聴くものが皆、そう感じたであろう衝撃のロック。ほぼ同時期デビューのレッド・ツェッペリンにも対抗しうる、究極のブルース・ロックの誕生である。

セールス的にはZEPのファーストには遠く及ばなかったものの、ライブ演奏の凄さから、口コミで次第に人気が高まり、70年のワイト島フェスティバルでは一番人気のアーティストとなったテイスト。

ギャラガーが70年後半に脱退したことで解散、その活躍は極めて短かったが、彼がソロで再デビューすることで、テイストの革新的なブルースは引き継がれた。

彼らの、長さを微塵も感じさせない、最後まで緊張感にあふれた演奏を、スタジオとライブ、両方のテイクでフルに味わって欲しい。




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