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音曲日誌「一日一曲」#313 柳ジョージ「When Something Is Wrong With My Baby」(Bourbon Records)

2024-02-12 07:38:00 | Weblog
2014年3月30日(日)

#313 柳ジョージ「When Something Is Wrong With My Baby」(Bourbon Records)



(当該曲は7:51から始まり、宇崎竜童さんとの対談はその後になります。)



柳ジョージの70年代のライブ映像より、サム&デイヴのカバー・ナンバーを。アイザック・ヘイズ、デイヴィッド・ポーターの作品。

2011年に亡くなったシンガー/ギタリスト・柳ジョージは、48年横浜の生まれ。人気GSのひとつ、ザ・ゴールデン・カップスの後期にベーシストとして加入、後にギターに転じ、解散を迎えた後はバンド、レイニー・ウッドを75年に結成、78年に再レコードデビュー。

翌年「雨に泣いてる‥」がヒット、R&B/ソウルを主軸としたスタイルの日本のバンドとしては珍しくメジャーとなり、その後もいくつかのヒットで手堅い人気を得ていた。

とくにライブでの評価が高く、コンサートでは男性のみならず、若い女性ファンも多いのが特徴だった。

81年でバンドは解散。柳はソロとして活動していくことになる。レイニー・ウッドは2005年と2008年にはライブのためにだけ、再結成されている。

筆者は柳ジョージに、83年春に仕事の関係で会ったことがあるが、売れっ子になったこともまったく関係なく、とても素朴で飾り気のない人だったという印象がある。「ヒットを飛ばしてもそれがずっと続くかどうかはわからない。それよりは好きな音楽をやり、好きな酒を飲んでいるほうがいい」、そんな考えかただったのだろう。

もじゃじゃのヒゲ面、見た目ではまったくスターっぽい派手なところはないが、そういう飾らない人柄、男気に女性はふしぎと惚れこむもののようで、84年には美人女優の浅野真弓を射止めて結婚している。

さて、きょうの一曲であるが、彼がブレイクする前の映像だろう。知人で、すでに75年にブレイクしていたダウン・タウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童のインタビューを受けている。当時は宇崎同様、いつもグラサンをかけて、コワモテを演出していた柳だが、その後グラスを外して世間に公表した素顔は、みょうに人のいい優しそうな感じだったので、イメージのギャップに驚いたものである。

柳はこのインタビューでも語っているように、無類の酒好きだったようで、「コンサート期間中は控えるが、普段はガンガン」みたいな人であった。「酔って候」で歌われた、山内豊信侯さながらの酒豪であったのだ。

その酒のせいか腎臓を患い、63才で亡くなってしまったのは、ファンとしてはいかにも残念だが、そのへんがいかにもジョーちゃん(親しい人たちはみな彼のことをこう呼ぶ)らしいとも思う。

彼の地声はとても低くて、歌うときもキーは低めだが、気持ちがだんだんと盛り上がってくると、出すのが楽とはいえない高音も、しぼり出すようにして歌いあげる。これが、聴き手のハートにぐっと来るのだ。まさに「ジョーちゃん節」なのだ。

器用に人生をわたることなんて出来ないけど、いつも全力投球、そんな真摯な姿勢が、皆の心を打つのである。そう、歌はハートで歌ってはじめて、人を感動させることが出来る。

この「When Something Is Wrong With My Baby」も、サム・ムーア、あるいは代表的なカバーアーティストであるホール&オーツに比べると抑えめの声で歌っているが、その二者のいずれとも違う、シブーい味わいがある。

ハイトーン・ヴォーカリスト全盛の70年代にあって、あえて前時代的なR&Bスタイルで勝負したジョーちゃん。でもそれが、彼らしさだった。

「歌うこと」に関しては、欧米に大幅に遅れをとっていた日本のポップス/ロック界において、初めてといっていいくらい、鑑賞にたえる歌を聴かせてくれた柳ジョージ。

彼の登場以降は、その影響もあってか桑田佳祐のような実力派シンガーが相次いで出てくるようになり、わが国にもようやくホンモノのロックが根付いてきたのだ。

先駆者柳の早すぎる死は本当に残念だが、彼の指し示したところを後続のわれわれが見失うことがなければ、決して嘆き悲しむことはない、と思う。

ジョーちゃんの歌声は、いまも皆の心の中で鳴り響いているのだから。

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