2004年8月25日(水)
#237 加部正義「ムーン ライク ア ムーン」(バップ 30111-28)
加部正義のソロ・アルバム。83年リリース。加部正義・竹中尚人の共同プロデュース。
79年にこのふたりとジョニー吉長により「ジョニー・ルイス&チャー」を結成、82年にはバンド名を「ピンク・クラウド」と改称しているわけだが、このアルバムもその流れの中で作られている。
ふだんはべースを弾くマーちゃんが、このアルバムではもっぱらギターを弾いている。リード・ヴォーカルは一曲(SHINING BRAIN)のみ。チャーやジョニー、KAZこと南沢カズ(このひとはブルース畑のひとらしい)らが、他の曲ではリードをとっている。
チャーはタイトル・チューンの「MOON LIKE A MOON」以外では裏方に徹し、べースやキーボードを担当。
ドラムはもちろん、ジョニーが4曲で叩いているが、他にもBISHOP、SEIBOといったニックネームの若手ミュージシャンも参加している。
その他、ジョニーの奥さん金子マリ、チャー夫人のカンナ、マーちゃんのGF(多分)DEBI、マシュー・ザルスキー、ロミー木下といったおなじみの面子も顔を出しており、ファミリーな雰囲気のセッションという感じだ。
さて、問題はその中身だが、これがまた、まったく「売れ筋」とはほど遠い音楽(苦笑)。
12曲中10曲は歌詞のある「歌もの」なのだが、ヴォーカルを楽器のひとつとして捉えるような音録りをしているので、歌が全く前に出てこない。
曲調はサザン・ロック風あり、ジョニルチャ的ハードロックあり、プログレもどきあり、シャドーズをモダンにしたような、なんちゃってフュージョン・インストありと、いってみればバラバラだし、およそ統一感はない。しかも、曲によっては、ものすごくナイーブというかヘタ一歩手前な演奏もある(どの曲かは、聴いてみるとすぐわかります)。
いってみれば、仲間うちでワーッと集まって、好き勝手にセッションをやって、そのまま録音しちゃいました、って印象。
でも、不思議とそれが悪くないんだなあ。ロックって、もともとそんなもんだろって気がする。ロックって、本来、ゴッタ煮料理なんだと思う。
たとえば、オープニングの「そらみみ」。マーちゃんとマシューの硬質なギターの絡みがカッコいいハード・ブギ。
ハードなギター・プレイがいかしてるのは「SENSUAL HEART」。これを聴くだけで、マーちゃんがギタリストとしても一流であることがよくわかる。
ドアーズを80年代風にしたような、アンニュイな「PSYCHIC IMAGINATION」も面白い。
そして極めつけのサイケデリック・サウンドといえば、「NATIONAL BLUES」かな。筆者は、マーちゃんのプレイに、ヤードバーズ時代のジェフ・ベックを勝手に連想してしまった。とにかく、官能的な音色が素晴らしい。アルバム中のベスト・トラックだと思う。
「MOON LIKE A MOON」では、それに負けじとチャーも熱いプレイを聴かせているので、必聴。個人的には、マーちゃんのセンスの方が好みだけど。
ジョニルチャ=ピンクラとはまた別種の、スペーシーでハードなサウンドが面白いのが「HARD TIMES」。
南部風のひたすら泥臭いサウンド、垢抜けない歌詞がなんとも「気分」なのは「BONE HEAD WOMAN」。
TOTOあたりのプログレ・ハードもちょっと意識したかのようなナンバーは「TIME TELL YOU WHY」。
最後はインスト・カヴァー。ジム・シールズ作、ヴェンチャーズの演奏で知られる「ONLY THE YOUNG」でしめくくり。いかにも「エレキ世代」な彼ららしい選曲に、思わずにんまりしてしまう。
以上、取りとめのない作りでありながら、さすがにトップ・プロ、おさえるべきところはきちんとおさえてますんで、退屈はさせない仕組み。
とはいえ、ジョニルチャの固定ファン以外はたぶん買わないだろうなぁ、筆者の周辺でこんなアルバム持っているヤツ、他にいないし…と思っていたのも事実。
ところがどっこい、意外と根強い人気があるらしく、LP発売の11年後にはCDで復活、さらに10年後の今年7月、再びCDが発売されている。けっこう、隠れファンって多いんだね。
近年、加部、平尾、吉野らにより、ゴールデンカップスも再結成された。カップスのメンバーもいまや五十代だ。
また、一方では自身のバンドでギターも弾いている。シニア・ロッカーの代表として、精力的な活動を続けているマーちゃん。
それを見ていると、オレらもまだまだ現役でやれる、そう思わせてくれる。
未聴という皆さん。死ぬまでロックな男、加部正義のもうひとつの世界、ぜひ再発売されたCDで聴くべし!
<独断評価>★★★☆