NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#80 ザ・フー「SELL OUT」(MCA MCAD-31332)

2022-02-02 05:31:00 | Weblog

2001年12月30日(日)



ザ・フー「SELL OUT」(MCA MCAD-31332)

1.ARMENIA CITY IN THE SKY/HEINZ BAKED BEANS

2.MARY ANNE WITH THE SHAKY HANDS

3.ODORONO

4.TATTOO

5.OUR LOVE WAS, IS

6.I CAN SEE FOR MILES

7.I CAN'T REACH YOU

8.MEDAC

9.RELAX

10.SILAS STINGY

11.SUNRISE

12.RAEL

ザ・フーのサード・アルバム。1967年リリース。

まずはアルバム・ジャケットに注目。

メンバー4人(表ジャケにはピートとロジャーしか見えないが)がそれぞれ「わきが止め」「ベイクド・ビーンズ」「にきび用クリーム」といった実在の商品の宣伝役をかっているという、実に目立つデザインである。

この撮影のため、長時間水風呂に入っていたロジャーが、肺炎を起こしかけたというエピソードもあるくらいだ。

さて、内容はといえば、ザ・フーが「ハード・ロック・バンド」へと変身する直前の、ポップなサウンドに満ちあふれている。

海賊ラジオ局(民営放送の認可の困難なイギリスでは、結構多いそうなのだ)を模したような、さまざまなジングルを曲間に配した構成がおもしろい。

教会のコーラス風あり、マーチング・バンド風あり、ジャズ・ヴォーカル風あり、ビーチ・ボーイズ風あり、カントリー・バンド風ありといった調子。

ボコーダー(?)の「Sunday, Monday, Tuesday...」という特徴的なナレーション・ジングルに続いて始まるのが、(1)。

イギリスのバンド「サンダークラップ・ニューマン」のメンバー、スピーディ・キーンの作品。

テープ逆回転を始めとするさまざまなサウンド・エフェクト、多重録音を駆使した、進歩的なポップ・チューン。

67年当時すでにスタジオ・ワーク中心にシフトしていたビートルズにもヒケをとらない、先端的な音だったといえよう。

これにラジオ局のジングル、そして「ハインツ・ベイクド・ビーンズ」のニセCMが続く。ピートの作品。

古めかしいマーチング・バンドの演奏。このブラスの演奏も、彼らが自らやったとか。

なにせ、ジョンはバンド以前、ブラスバンドでホルンを吹いていたそうだから、こういうのはお手の物らしい。

(2)は、「恋のピンチヒッター(Substitute)」の流れの上にある、アコギの響き、そしてハイ・トーンのコーラスが美しい佳曲。

でも、歌っている内容は、以前のシングル曲「リリーのおもかげ(Pictures Of Lily)」同様、マスターベーションについてだというから、シャレがきつい。

いかにも、作者であるピートがたくらみそうなことである。

(3)はこれまたピートの作品。ニセCMの第二弾。

「わきが止め」をテーマにしたとは到底思えない、美しいメロディとハーモニー、シンフォニックなアレンジ。

ピートのメロディ・メーカーとしてのセンスが光る一曲だ。

(4)もピートの作。ロジャーの高音の歌声が実に美しく、ギターのアルペジオ、アコギのコード・ストロークが大きな効果を上げている。

以前ご紹介した「ライヴ・アット・リーズ~25周年エディション」でも演奏されており、70年代なかばまでステージでの重要なレパートリーだったという。彼らの思い入れも、他のどの曲にもまして強かったのだろう。

ザ・フーの「動」の要素を代表するのが「サマータイム・ブルース」「ヤングマン・ブルース」あたりの曲だとすれば、さしずめこの「タトゥー」は、「静」の要素を代表するナンバーだといえそうだ。

ピートの曲はさらに続く。(5)もまた、ポップでメロディアスなチューン。

ザ・フーの「聖」なる部分を結晶させたかのようなサウンド。

澄んだコーラス、ギター・コードの響きを生かした音作り。のちの「トミー」へとつながっていく要素も多い。

中間部で突然挿入される、ピートのフリーキーなギター・ソロもなかなか面白いが。

(6)は前半のクライマックスとも言える、渾身のハード・ポップ・ナンバー。もちろん、ピートの作品。

全米チャートで9位、彼らのアメリカにおける最大のヒットとなっている。

ファズィーなギター・プレイ、そして暴れまくるドラムス・プレイが印象的な、典型的「動」のナンバー。

ライヴではほとんど演奏されなかったというのも面白い。たしかにワン・ギターでは、この破壊的で重厚なギター・サウンドは出せないかも知れない。

ピアノのイントロから始まる(7)は、作者であるピート自身が歌っている。鼻声ぎみで、ロジャーとはまたちがった、どことなくとぼけた味わいがある。

この曲もコーラスがまた強力。メンバー全員が「歌える」というのは、ほんと、ライヴでは相当な強みである。ストーンズやZEPにはさすがに真似ができまい。

教会音楽のように静謐、でもパワフルという感じの名曲だ。

(8)は「にきび用クリーム」を歌った、ニセCM第三弾。

どことなく途中のメロディが「バナナ・ボート」と似通っていて、トロピカルな雰囲気もある、でも基本的にはマージー・ビート風のナンバー。

ジョンの作品で、彼がヴォーカルもつとめている。

ピートとは曲調もかなり違っていて、彼なりの個性が感じられる。

(9)はふたたび、ピートの作品。オルガンが効果的にフィーチャーされている、初期のピンク・フロイドにも通じるものもある、サイケデリック感覚あふれるロック・ナンバー。

当時、こーゆーのを「アート・ロック」とか呼んでいたよね、ポリドールさん(笑)。

ヘヴィーなギター・ソロを交え、盛り上がっていく構成がカッコいい。

今だって、全然古びて聴こえないのがスゴいところだ。

(10)は、再びジョンの作品。ヴォーカルも彼が担当。

教会音楽風のメロディ、そして掛け合いのコーラスには、他のバンドにはない、斬新なものが感じられる。

とにかく、ひとの声で出来るあらゆるサウンドに実験しておったのだな、当時のザ・フーは。

ふつう「プログレッシヴ」といえば、器楽における進歩的な試みということになっているが、どっこい、彼らにおいてはヴォーカル、コーラスのあらゆる可能性を試していたのだ。

これもまた、真のプログレッシヴ・ロックではなかろうか。

(11)は、ピートの作品。彼の独演でもある。

繊細なアコギの響きにのせて、高めの声でささやくように歌うピート。

コード・プログレスも、いつものポップ・チューンのそれとは違って、ブラジル音楽などに近い「ひねり」が感じられる、意欲的なナンバー。

ラストの(12)は、ミニ・ロック・オペラともいえる、ちょっとこみいった構成を持った、6分にも及ぶ長尺の作品。

全編に、ピートの豊かなアイデアが詰め込まれている。

行進曲のような快調なビートで始まり、ロジャーがポップ・ミュージックの範疇を超えたような複雑なメロディを歌い上げていく。

途中でテンポは変わり、「トミー」や「ライヴ・アット・リーズ~25周年エディション」でおなじみの「スパークス」の原型が展開する。

破壊的なギター音、狂乱するドラムス。ライヴを思わせる激しいサウンドだ。

そして、一転、奇妙な余韻を残して終幕。

ザ・フーの作る曲はおおむねキャッチーで覚えやすいのだが、さすがに、この一曲はメロディにほとんど繰り返しがなく、何度聴いてもうまく覚えられない(笑)。

が、そういう、「簡単にシッポをつかませてくれない」ところも、彼らのスーパーなところではないかと思う。

67年の時点でこれだけさまざまな音楽的実験に取り組み、しかもその大半を成功させていたとは、恐るべき才能集団。

ステージでギターやドラムスを壊しまくるだけの、ただの無法者アンチャンの集団ではないのだよ。

「トミー」や「ライヴ・アット・リーズ」の世界は、いきなり突然変異的に出来たわけではない。

「ポップ・グループ」と呼ばれていた時代にも、その芽はしっかりと育っていたのである。

セールス的にはふるわなかったが、ブレイク前夜の彼らのスゴさを知る上でも、ぜひチェックしてほしい、そんな一枚だ。


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