NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#132 ヴァニラ・ファッジ「THE BEST OF VANILLA FUDGE」(ATCO 7 90006-2)

2022-03-26 06:08:00 | Weblog

2002年12月22日(日)



ヴァニラ・ファッジ「THE BEST OF VANILLA FUDGE」(ATCO 7 90006-2)

(1)ILLUSIONS OF MY CHILDHOOD(PART ONE) (2)YOU KEEP ME HANGING ON (3)ILLUSIONS OF MY CHILDHOOD(PART TWO) (4)SHOTGUN (5)SOME VELVET MORNING (6)TICKET TO RIDE (7)TAKE ME FOR A LITTLE WHILE (8)ILLUSIONS OF MY CHILDHOOD(PART THREE) (9)WHERE IS MY MIND (10)SEASON OF THE WITCH

米国のロックバンド、ヴァニラ・ファッジのベスト・アルバム。82年リリース。

67年デビュー、70年までの短い期間にフルに活躍、70年代のハードロックに多大な影響を残したのが彼らだ。

日本ではレコード会社によりいわゆる「アート・ロック」の旗手として扱われていた。

メンバーはマーク・スタイン(kb)を核とした、ヴィンス・マ-テル(g)、ティム・ボガート(b)、カーマイン・アピス(ds)の四人。

そう、当「一日一枚」にもすでに登場したBB&A、カクタスの母体ともなった、伝説的なグループなのである。

まずは(1)から。デビュー・アルバム「VANILLA FUDGE」に収録されたナンバーだが、スタジオ・セッションの中から偶発的に生まれたような、「音のスケッチ」的小編。

続く(2)は、彼らのデビュー・ヒット。いうまでもなく、ダイアナ・ロス&シュープリームスのカヴァーだが、原曲を見事に換骨奪胎、大仰なサイケデリック・アレンジで世間をアッと言わせたナンバーだ。アルバム「VANILLA FUDGE」所収。

彼らのサウンドは、「トゥーマッチ」なのが売りというか、とにかく派手でうるさい。

ロック史上最強と賞賛されてきたリズム隊、ボガート&アピスのヘヴィーな演奏に、スタインの華麗なるオルガン、マーテルのトリップしちゃったかのようなフリーフォーム・ギターが絡み合い、さらには白人バンドらしからぬソウルフルで力強いコーラスで総仕上げ。

「コテコテ」「オーヴァー・デコレーション」とは彼らのためにあるような表現だ。前世は関西人か!?

(1)の続編、(3)をはさんで、これもまたシングル・ヒットしたナンバー、(4)へ。元ネタはR&Bサックス奏者、ジュニア・ウォーカーのモータウン時代のヒット。

このように、ヴァニラ・ファッジはどちらかといえばオリジナルよりも、他人のヒット曲をいかに大胆にアレンジし直すかで勝負していたバンドといえそうだ。

この(4)も、その「リ・アレンジ」が見事に成功した例といえそう。ロックだけでなく、ソウルをも得意とした彼ららしく、実にキレのいい演奏、そしてコーラスを聴かせてくれる。後半のアピスのドラム・ソロもなかなか。

個人的には、当アルバムのベスト・トラックじゃないかと思っている。ちなみに4枚目のアルバム、「NEAR THE BEGINNING」所収。

(5)は、「太陽の彼方」のヒットで日本でもおなじみのリー・ヘイズルウッド作、ナンシー・シナトラのヒットのカヴァー。これも「NEAR THE BEGINNING」所収。

元歌は、ソフトでスウィートなバラードだが、彼らにかかると、主旋律こそ繊細に歌いあげるものの、サビは一転、ウルトラ・へヴィー・サウンド。

ソウルだろうが白人のポップスだろうが、彼らが料理すればことごとくヴァニラ・ファッジ節になってしまう。いやー、スゴい破壊力じゃのう。

それは次の(6)も同様だ。「VANILLA FUDGE」所収。おなじみビートルズの初期のヒットが、大げさなソウル・ミュージックに変身。

乱調気味のヴォーカルといい、キレてるギター・フレーズといい、ビートルズ・ファンが聴いたら目を剥きそうだが、迫力は満点。

彼らはこの曲のほかに「エリナー・リグビー」のカヴァーもやっていて、名演の評価も高い。興味をもたれたかたは、デビュー・アルバムでぜひ聴かれたし。

(7)もモータウン・ソウル風のヴォーカル&コーラスが実にカッコいいナンバー。元歌はソニー&シェールのヒット。デビュー・アルバム所収。

ハードな演奏だけでなく、ディープなヴォーカルにもなかなか見るべきものがある。

BB&Aもこういうソウルっぽい曲を好んでやっていたが、その源流はすでにヴァニラ・ファッジにあったということか。

再び(1)、(3)の続編、アヴァンギャルドな風味の(8)を経て、(9)へ。これはスタインのオリジナルで、サード・アルバム「RENAISSANCE」所収。

そのコーラス部分に、コテコテな「ソウル」を感じる一曲。

カーティス・メイフィールド率いる、インプレッションズあたりにも一脈通じるものがありそう。

そのぶっ飛んだ「大作指向(彼らの曲は6、7分のものがザラであった)」ゆえに、俗にアート・ロックとよばれてはいたが、いたずらにアヴァンギャルドな「芸術」を目指していたわけではなく、シンプルでわかりやすい「ソウル・ミュージック」が彼らのベースであったということだな。

そういう視点も加味して聴いていくと、この30年以上前の時代がかった音も、なかなか面白く聴ける。

ラストは約9分にも及ぶ「超大作」、(10)。英国のシンガー、ドノヴァンの作品。これまた、「RENAISSANCE」所収。

タイトル通りのおどろおどろしい曲調で、これでもかと執拗に同じフレーズを繰り返す。

これがなんとも、ハマってしまうんだよなあ。聴き終わった後も、頭の中で、ずっとオルガンのリフが鳴っている(笑)。

もちろん、それも確かな演奏力、アレンジに裏打ちされた音だからこそのことだろう。

今ではこんなコテコテ、ドンシャリ系の音楽がとてもウケるとは思わないが、たまに聴くと実に新鮮だ。

ギターよりもキーボード、コーラス中心のアレンジなので、ハードロック・ファンよりもソウル・ファン向きかも知れない。

個人的にはこういう音、けっこう嫌いじゃないです、ハイ。というわけで、評価はこうなりました。

<独断評価>★★★★


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